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ポリアモリーという目印を持って、一当事者としてただ立ち続けたい【後編】

ポリアモリーという目印を持って、一当事者としてただ立ち続けたい【前編】はこちら

2018/08/13/Mon
Photo : Mayumi Suzuki Text : Shoko Minamoto
上村 沙紀子 / Sakiko Uemura

1983年、福岡県生まれ。2人姉妹の長女として誕生する。九州大学大学院卒。セクシュアリティはジェンダークィアでパンセクシュアル、そしてポリアモリー。ポリーラウンジ主宰者でもあり、メディアでポリアモリーについての発信も行っている。2018
年5月に『わたし、恋人が2人います。』(WAVE出版)を出版した。

USERS LOVED LOVE IT! 30
INDEX
01 さっちゃんは変わった子
02 母は超えられない高い壁
03 いじめられても気がつかない小学生だった
04 中高の6年間は私の中の黒歴史
05 私はLGBTのLなの?
==================(後編)========================
06 大学ってなんて自由で楽しいの!
07 友だちと彼氏、どっちも同じぐらい好き
08 ポリアモリーという言葉と出会う
09 大学院進学、そして就職・結婚
10 ポリアモリーであることを受け入れて

06大学ってなんて自由で楽しいの!

変わり者同士だから、話がはずむ

大学は九州大学に進学。

学部は文系でも理系でもない、その当時できてまだ2年目の新しい学部だった。

「文学部も理学部も両方好きな講義が受けられるんですよ」

「文系か理系かをなかなか決められなかった私には、ちょうどよかったんです」

暗黒の中高生活から一転、大学はとにかく毎日が楽しくて仕方がなかった。

同じ学部の同期はたった20人。

「ひとことで言うと、変わりものの集団(笑)。全員変わってるから、『人と違っていること』を冷やかしたり気持ち悪がったりしないんです」

変わっていることを温かく放っておく、という雰囲気だった。

「変な奴同士だからこそ話が合って。大学に入った途端、ものすごく精神的に楽になりました」

みんなで同じことをしなくてもいい。

一匹狼が20匹、たまたまひとつところに集ったような。

そんな集団だった。

大学のパソコンでラブホテルを検索

「中高の頃はキャラが濃いことで陰口叩かれたり、仲間外れにされたりしていたけど、大学に入るとみんなキャラが濃かった(笑)」

「だから、私の個性も面白がってもらえたんです」

「まず最初に与えた印象は『下ネタばっかり言うやつ』だったかも」

「普通に『セックスに興味がある』『早くラブホというやつに行ってみたい』って、入学当初からガンガン話していたので」

セックスについては、大学に入って突然興味がわき出たわけではない。

小学5年生の頃に母親に渡された本でセックスについて知って以来、ずっと興味津々だったのだ。

「でも中学、高校の頃は、そんな話を気軽にできる友だちがいなかったんですね。それが大学に入って一気に開放されて(笑)」

どこのラブホが良さそうか。
大学のパソコンで検索して、友だちに大笑いされたこともある。

「『さっちゃん、大学のパソコンでラブホ検索するんは、いくらなんでもないやろ~』って言われて、私も『あ、そっか~』って笑ったり」

同期のみんなは、ありのままの自分を受け入れてくれていた。

毎日が文化祭前夜みたいなワクワク感

大学内に、学部専用の部屋が用意されていた。

「部室みたいな感じでしょうか。パソコンもあったので、いつもみんなでその部屋にたまってました」

調べものをしたり、レポートもそこで書いた。

「大学がほんとに楽しすぎて、家に帰りたくなかったぐらいなんです。実際、そこで泊まり込んで勉強している子もいましたし」

毎日が文化祭前日みたいな感じ。

楽しくてワクワクで、ずっと終わらないで欲しい。

心からそう思えた場所と時間だった。

07友だちと彼氏、どっちも同じぐらい好き

初めてのセックスとラブホデビュー

「恋人が欲しいな、という気持ちは高校生の頃からずっと持ってました」

「セックスも『すごく楽しそう、早くやってみたい』と思ってましたから(笑)」

「でも初めて同士だとなかなかスムーズにできそうにないので、最初は経験豊富な年上の人としたいな、とか(笑)。いろんな妄想をしていたものの、高校生では体験できずで」

大学に入学してから3カ月後、初めての恋人ができる。

相手は大学の同期。

料理が趣味で頭が良く、話していて楽しい男性。
女の子とも馴染みやすく、決して「オス」っぽいタイプではなかった。

自分から彼に告白し、交際がスタート。

もちろん憧れていたラブホデビューも果たした。

「私の中には『女の子らしくしなきゃ』という概念はなかったので、ラブホも自分から提案しました」

「最初に行ったときは、まるでテーマパークに行ったみたいに大はしゃぎ!」

友だちと彼氏。どっちも好きで、どっちとも一緒にいたい

初めての彼氏とは約3ヵ月で別れることになる。

その理由は・・・・・・。

「私が同じ大学にいる友だちを好きになったんです。肉体関係もありました」

「彼も友だちも。どっちも大好きで一緒にいたかったんですけど・・・・・・」

「どちらのほうが好きの割合が多いとかはなく。ホントにどっちも好きで、どっちの人とも一緒にいて楽しかったんです」

これは、良くないことなのかもことなのかもしれない。

そう思って人に相談すると「浮気はダメだから、とりあえず彼氏とは別れたほうがいい」と、アドバイスを受けることに。

「これが世間でいう浮気なのか! と、びっくりするというか、戸惑ったというか・・・・・・」

「自分の中では、浮気というのは文字通り心が浮つくことで。本命と遊び相手とははっきり区別できるものだと思っていたんです」

2人の人を、同じ気持ちで好きになってしまう自分。

この頃から「自分はいったいなんなんだ!?」と思い悩むようになる。

「なにかがおかしい。私の心の働き、普通じゃないよねって」

そう考え始めるようになった。

08ポリアモリーという言葉と出会う

自分は頭がおかしいんじゃないか

知人のアドバイスに従って彼氏とは別れたものの、どこか釈然としない思いが常につきまとうようになる。

「二人を好きになって取捨選択しなきゃいけない。それが理解できなかったんです」

「小学校の頃は1組の◯◯君、2組の◯◯君が好き、と言っても変だと思われなかったのに・・・・・・」

「なぜいまはどちらかひとりに絞らないとダメなんだろうと」

彼氏と別れた後も、相変わらず友だちとの関係は続いていた。

「好きと言ったり、好きだと言われたり。でもきちんとしたおつきあいをしているわけではなかったし、周りには伏せていました」

好きだし肉体関係も持つけど、誰かときちんと交際するのはやめておこうと考えていた。

「自分は頭がおかしいんじゃないかな、心の病気なのかなと。色情狂、浮気性、多情と言われるもので、これは治さなければならない病気だと悩むようになりました」

大学の講義でポリガミーという言葉を知る

大学1年生の頃。
文化人類学の講義に出席していたときのことだった。

「一夫多妻制というのが世界にはあって、ポリガミーと呼ばれています」という教授の話を聞いた瞬間、ポリガミーという言葉が強く心に引っかかる。

すぐに家に帰り、その言葉を頼りにパソコンで検索をすると、ポリアモリーという言葉に行き当たった。

「まさに雷に打たれたような衝撃を受けました。私はポリアモリーなのかもしれない! って」

「でもそう思いつつも、もうひとりの自分が言うわけですよ。『いやいや、こんな言葉を使って開き直っちゃいけないだろ!』と」

パソコンを閉じ、「やはり自分はよくない病気にかかっているんだ」と、また自分を納得させた。

バイセクシュアルの彼女との関係

友だちとの関係のほかに、大学3年生のときにはバイセクシュアルを公言する友だちのことも好きになった。

女性だった。

その彼女とも関係を持つ。

「もうこの頃はLGBTについてさらに詳しく学んでもいたので、自分が女の子を好きになることに、戸惑いはありませんでした」

2年生の終わりにはインターネットで知り合った男性とも性的な関係を持つ。

しかし、彼女を好きになる気持ちも依然抑えられなかった。

「やっちゃダメなことなんだとは思ってはいるんですけど・・・・・・。結局関係を持ってしまって。自分を抑えきれない感じです」

勉強と大学生活は楽しいけど、プライベートのパートナーシップの作り方がわからない。

考え、悩み、自己否定する。

恋愛面で迷走する日々だった。

09大学院進学、そして就職・結婚

自分を責める日々

「世の中のほかの皆さんはひとりの人を好きになって、その人とセックスしているはずなのに、私だけが複数を好きになってセックスもしてしまう」

「こんな生き方をしてしまう私って、最低だな」

誰に相談したらいいのかもわからなかった。
病院に行く? カウンセリングに行く?

でも「複数の人を好きになっちゃったんです」「いろんな人とセックスしちゃうんです」なんて悩みを聞いてくれるカウンセリングや病院は、果たしてあるのだろうか・・・・・・。

自分を責める日々が続いた。

哲学を学び続けるために大学院へ

哲学や倫理学を学ぶことが好きで、将来は職業哲学者になれればいいなと思っていた。

そのため、大学卒業後はそのまま同じ大学の大学院へと進学する。

私って、どうもみんなと違うような気がするけれど、なんで私は違ってしまうのかな。

みんなと違う私も、みんなも、一緒に幸せになるためにはどうしたらいいのかな。

「その考えが、哲学を考える上で常に私の中心にあるんです」

しかし、大学院進学後早々に、職業哲学者の道はいかに険しいものかを知ることになる。

「大学の哲学科というものが、どんどんなくなる傾向にあるんです。なので、ひとつ教授のポストがあくと何百人もが殺到するという実態を知って・・・・・・」

「その道は諦めました」

東京の民間企業で働こう。
哲学は自分で勉強すればいい。

そして一生「みんなが幸せになるためにはどうしたらいいか」を追求していこう。

そう考えを変え、就職先を決めて東京へと向かった。

大学の同級生と結婚

大学院に進学してから、最初に交際した彼氏との縁が復活。

彼も就職で上京していたため、東京でもつきあいが続いていた。

「でもずっと『ポリアモリーかもしれない』という悩みを抱えていました」

「いよいよ治したいと思い、社会人3年生のときに当時の彼氏と結婚したんです」

「結婚は人生の大きな節目ですから。結婚したら治るんじゃないかなと、考えました。きっと旦那様に一途になれるだろうって」

法的な枠組みに自分をはめてしまえば、自分のこの病も治るはず。
そう考えての選択だった。

「でも、結局一年半後に離婚しました。私がほかの人を好きになってしまったんです」

「結婚したのに、変われないじゃん」と絶望的な想いに襲われる。

その辛さから離婚を選択した。

10ポリアモリーであることを受け入れて

ポリアモリーであることを受け入れたら楽になれた

離婚をきっかけに、「これはもう、ポリアモリーである自分を受け入れるしかない」と思い始めるようになった。

「18歳でその言葉を知ってから、自分自身がそうだと受け入れるまでに10年間かかりました」

その10年は自己否定をし続けた10年でもある。

人と違ってしまっている自分を好きになれなかった、長い長い月日だった。

元夫には、離婚してからポリアモリーであることを話す機会があった。

「妻という形にハマれなかったのが本当に申し訳なくて。ポリアモリーであることを話したので、今は理解してくれて、友だちに戻ることができました」

ポリーラウンジを主宰

自分はポリアモリー。

そう認めたら、急に同じ立場の人と話をしたくなった。

検索をしてポリーラウンジの存在を知る。

「ポリーラウンジに参加して、ほかのポリアモリーの方々と話ができたことで、気持ちが格段に楽になりました」

「初めて出会えた! と救われるおもいでしたね」

複数の人を同時に好きになってしまう。

でも、浮気とか不倫とか二股とか言われてしまうのはいや。
みんなと公平につきあっていきたい。

ずっと抱えてきたその気持ちを人に打ち明けることができた瞬間は、なにものに代えがたい喜びがあった。

現在は幹事会に入り、自らポリーラウンジを主宰する立場だ。

「会は、自分はポリアモリーかもしれないと悩んでいる人が半数。あとの半数は、愛する人や家族からポリアモリーかもしれないと打ち明けられたけど、どうしたらいいんだろう、と悩む人たちがいらっしゃいます」

そういう人たちが悩みや不安、戸惑いをわかちあえる場。

決してポリアモリーを推奨したり、普及するために集っているわけではない。

活動内容を積極的に外部に発信するためでもない。

ポリーラウンジは悩みをシェアできる、自助グループのような役割を担っている。

「私自身は、ポリアモリーという言葉を知って救われました」

「だからこの言葉を掲げることで、悩んでいる人が仲間に出会うための目印になればいいなと思っています」

いまはふたりの彼と交際中

「いまは2人の彼とおつきあいをしています」

「もちろん、二人ともに『私、ポリアモリーだから、もしかしたらほかに好きな人ができるかもだけど、そのときはちゃんと話し合おうね』と伝えたうえで、おつきあいをスタートしました」

2人の彼はもちろん、互いにその存在を知っている。
3人で出かけることも度々ある。

「恋人たちの仲が悪いと、私もつらいし心が引き裂かれるような気持ちになるので。いまの状態は嬉しいです」

淫乱、浮気者、ビッチ・・・・・・。
多くの批判があり、ポリアモリーがバッシングされやすい対象であることも知っている。

「理解されにくいし誤解されやすいものだとは思いますが、最終的にはLGBTやポリアモリーの言葉や枠組みのいらない世の中になってほしいと思っています」

「複数の人を好きになる=絶対に人を傷つけること、ではない。それが、少しずつでも伝わっていけばいいな」

複数の人を好きになってしまう。なぜ自分はこうなのかがわからない。
自分はおかしい。なにかの病気だ。

そんな風に自分を責めてしまう人が少しでも減ってほしい。

その願いがあるから、今後も一当事者として機会があれば前に出ていこうと考えている。

「勇気を出さなきゃ、と思えるようになってきました」

導くわけでも教えるわけでもなく。

ただ、『ポリアモリー』という目印を持ってこの世界に立ち続けるつもりだ。

あとがき
きのコさんこと、上村沙紀子さん。伝わる相手の心地や理解を大切に話してくれる人だった。好きになる人、きのコさんの恋愛観を知る人の気持ちを、想像しようと努めてきた時間が透けて見えた■(A)複数の人を同時期に好きになった経験のある人はどれ位いるだろう? (B)自分以外に好意を寄せる相手を受け入れる人はどれ位いるだろう? (B)の回答に混じる欲。人間のその中味に興味がある。深そうだ。(編集部)

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