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LGBTとアライを繋ぐ “架け橋” になりたい【後編】

LGBTとアライを繋ぐ “架け橋” になりたい【前編】はこちら

2016/12/11/Sun
Photo : Mayumi Suzuki  Text : Mana Kono
甲斐 佐恵子 / Saeko Kai

1979年、東京都生まれ。専門学校を卒業後、就職を経て26歳でピースボートに乗船。性自認はストレートだが、FTXのパートナーと3年半ほど交際中。現在は、日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラーとして、LGBT向けのワークショップやセミナーなどを開催している。

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INDEX
01 男の人がこわい
02 幸せだった家族の崩壊
03 学校にも居場所がない
04 職場が合わず引きこもりに
==================(後編)========================
05 コミュニケーションが苦手
06 はじめてできた女性の恋人
07 家族からの反対を乗り越えて
08 “気づき” の架け橋に

05コミュニケーションが苦手

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ピースボートに乗りたい!

「25歳手前で、ピースボートの存在を知って、一気に外に出られるようになったんです」

ピースボートに乗りたい。

「200万円を集めて、絶対ピースボートに乗るんだ!」という夢ができた。

「そこからは一気にアルバイト人生。バイトを3つかけ持ちして、週7、360日以上働きました」

ようやく生きる目的を見つけたことで、ハイのような状態になっていた部分もあると思う。

それでも、たった1年で目標の200万円を貯めることができた。

「それで、26歳の時に晴れてピースボートに乗ったんです」

ところが・・・・・・。

「船の中で引きこもりました(笑)。私、ここでも人と話せなくて引きこもるんだ! って思いましたね」

ピースボートでは、基本的には自分から能動的に外に出て、きっかけを作っていく必要がある。

何も働きかけなければ、ただ船に乗っているだけになってしまう。

「私、人と信頼関係を結ぶスキルがゼロだったんです。だから、みんなが楽しそうにしている中で、回遊魚みたいにただウロウロしていたんですよ」

「みんなといると、苦しくなるの。あれ、わかんない? 楽しくない? みたいな」

人と波長が合わせられない。誰かと一緒にいても、いつも自分の話ばかりしてしまう。

「人の話を聞いても理解ができなかったり、うまいこと返せなくて苦しくなっちゃうの。だから自分の話ばかりして、それで相手が引くと『やっぱり引いた』って。嫌われて当然ですよね」

船に乗っているメンバーと、ギクシャクしてしまうことが続いた。

憧れの人の真似をしよう

せっかく乗ったピースボートでも、1ヶ月くらいは自分の部屋に引きこもる生活だった。

しかし、そうやって引きこもっていた時期に、毎日「出ておいで」とメッセージカードを送ってくれるリーダー格の女の子がいた。

「私、その人になりたくて、船を降りた後には彼女がやっていたことを全部真似しようと思ったんです」

3ヶ月のピースボートでの生活を終えてからは、とにかく彼女の行動を模倣してみた。

SNSでピースボートメンバーと繋がってメッセージを送りあったり、友達に会うときにはプレゼントを渡してみたり。

「そういうことを27、8歳でやったから、すごい変わった。はじめて自分を変えようと努力し始めたのがその時期だと思います」

コミュニケーションが苦手でも、知識さえあれば変われるかもしれない。自己啓発本なども、どんどん読むようになった。

06はじめてできた女性の恋人

出会いはネットの掲示板

現在のパートナーと出会ったのは、3年ほど前。

ネットの掲示板に書きこみをしたことがきっかけだった。

「当時、男性との恋愛でものすごい悩んでいたんですけど、友達に言っても全然理解してもらえなかったんです。それで、女の子になら話せるかもしれないと思って、たまたま知っていたレズビアン向けの掲示板に書きこみをしたんです」

LGBTについてはほとんど知らなかったし、女性と恋愛をしたいと考えたわけでもなかった。

ただ、「女の子になら話せる、わかってもらえる」と思っての行動だった。

数人から返信があったが、その中に1人だけ、なぜかピンとくる相手がいた。

たまたま近くに住んでいたこともあって、彼女とすぐに「会いましょう」という話になった。

「女子の名前で連絡を取り合っていたし、当時はこの世界のこともよくわからなかったので、かっこいい女性なのかなーぐらいにワクワクしていたんです」

「でも、女性同士といっても出会い系のようなものなので、変な人がきたらすぐに逃げよう! と思っていました」

それが、待ち合わせに来たのは、予想よりもはるかにボーイッシュな女性。

一瞬、男性なのか女性なのかわからなかった。

「確認で『すみません、胸触っていいですか?』って言って、触らせてもらいました(笑)」

相手に胸があったことを確認し、掲示板に書いていた悩みを相談した。

「相手を女性だとは思えななかったから、『かっこいいお兄ちゃんと。でも男性への恐怖心もなく、不思議な感じでした。』」

初対面の自分の相談に、とても誠実に接してくれる相手の女性。

いつの間にか、そんな彼女に対して不思議な感情を抱いていることに気づく。

「はじめて会った瞬間に、私、『なんだか知らないけど、この人だ!』って思ったんです。これまでも、恋愛だけじゃなくて友達でも、人生ですごく大切になる人って、必ず最初にピンときてるんです」

ただ、それが恋愛に発展する予感だということにはまだ気づいていなかった。

「歩いてる時、なんで私はこの人と手を繋いでないんだろう?なんでこの人とはこんなに距離があるんだろう?って思ってました」

正式な恋人関係に

掲示板に書いた悩みは、一度会って相談してしまった。

だけど、彼女とはこれからも友達として会うことはできるのだろうか? それとも、私とは一回限りの相談相手だったんだろうか?

自分でも迷っている折に、彼女から「よかったらまた会おうよ」とメールがきた。

「それから毎週会うようになりました。でも、その時は相手が恋人の女性と同棲していたので、付き合うとかそういうことは考えていませんでした」

自分の中に芽生えた恋心には気づきはじめていたが、女性に恋愛感情を抱くことに、大きな違和感はなかった。

「逆に、相手が男性だと、たとえ好きでも自分から壁を作ってしまうんです。でも、今回は相手の性別が女性だから壁を作りようがないんですよ」

最初の出会いから2ヶ月ほどは、毎週のように顔を合わせた。

でも、相手には同棲している恋人がいる。

「決意して、好きな男性ができたからもう会うのをやめようって、嘘を伝えたんです」

ところが、そんな矢先に、相手から「彼女と別れた。同棲も解消する」と報告を受ける。

「え、じゃあもういいよね! みたいな感じになったんですけど、そこからちゃんと付き合うとかはなくて。2ヶ月くらいうやむやな関係が続いた時に、思ったんです」

「このまま関係を続けていくと、私はこの人を利用するなって」

この状態のままだと、もしかしたら自分はほかの男性のところに行ってしまうかもしれない。

言葉で約束をしていないから、「彼ができたからもう会うのやめよう」と、いつでも言って切り捨てることができてしまう。

「パートナーは誠実に接してくれるから、自分も誠実になるために、きちんと話をしようと思ったんです」

男性になびいてしまうかもしれない・・・・・・。そんな自分のずるさも含めて、ちゃんと話そう。

「それで、私から呼び出して、ちゃんとお付き合いしようと話しました」

「そしたら、『もう付き合ってるつもりだった』って言われて、すごくびっくりしたんです(笑)」

07家族からの反対を乗り越えて

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母へのカミングアウト

正式に交際をしはじめてから1ヶ月後。

「女性と付き合っている」ということを、母に電話でカミングアウトした。

「私は100パーセント受け入れてもらえると思ったし、家族に言うことに対してはためらいがなかったんです。だから、『お母さんに話せてハッピー!』って思ってたんですけど、母からはその後『昨日は眠れませんでした』というメッセージがきました」

兄弟には、「いい男と結婚して子供を産むべきだ」と言われて反対された。

「あれ? 思ってたのと違う・・・・・・みたいな。友達にはカミングアウトして祝福してもらえたから、祝福してもらえて当然って思ってたんです。だから、あまりにも衝撃的な反応にビビりました」

「でも、今は認めてもらって、『好きにしなさい』って言われてます」

トントン拍子にとはいかなかったが、今ではお互いの両親にも挨拶をすませた上で、将来を見据えた付き合いをしている。

別れを突きつけ続ける1年

パートナーとの3年半ほどの交際期間は、順風満帆といえるものではなかった。

「私、ずっと『男性にごちそうしてもらったら、相応のお返しをしないといけない』って思ってたんです」

「だから、これまでも恋人におごってもらったことってほとんどないんですよ。今のパートナーともがんばってワリカンにしていたんです。でも、金銭面でキツかった時に、『もうワリカンできないんで別れましょう!』って言ったことがあって。ほんと極端ですよね(笑)」

しかし、返された言葉は「君の価値観でどこかに行ってしまわないで!」。

「『僕ができる限りごちそうしたいだけだから、別にいいんだよ』って言われて、やっと『あ、おごられてもいいんだ!』って思えるようになりました」

家族から「別れたほうがいい」と言われて、それを真に受けてしまった時期もあった。

「仕事のこととか、いろいろあって未来に絶望している時期が、ちょうど付き合っている時期にかぶってたんですよ。それで、1年くらいずっと毎日別れを突きつけてました」

「私もものすごく苦しくって、何が何だかわからなくて」

「多分、今まで付き合った男性にも同じように別れを強要してたんです。それで、このぐらいやれば大体別れるよね? っていうのがあったんだけど、彼はいつまでたっても別れるって言わなくて。あれ?ってなりました(笑)」

自分でも、最低なことをしていたと思う。だけど、パートナーは忍耐強く受け止めてくれた。

感謝の想いは計り知れない。

08“気づき” の架け橋に

心理学との出会い

長年苦しみ続けて家族との確執。

そして、他人とのコミュニケーションがうまくいかない自分に対する苛立ち。

「前向きに考えられるようになったのは、超最近ですよ。今も、その過程にいるのかもしれません」

パートナーの存在はもちろん、心理学を本格的に勉強しはじめたことで、考え方を大きくシフトチェンジできるようになった。

「勉強を始めたのは最近なんですけど、心理学をいろんな角度から学ぶと、なんでうちの家族がああだったんだろうとか、いろんな疑問が解けてきたんです。その時に、本当に過去のすべてが許せたというか、許せつつある」

コーチングやシータヒーリング、イメージングなどにも触れてみたが、自分の中で一番腑に落ちたのは心理学だった。

「自分がどれだけ甘えてたのか、どれだけ人の立場に立ててなかったのか、未熟だったのかというのがものすごい明確にわかったんです」

これまでまわりに八つ当たりしていたことを我慢したり、人にはできるだけ一緒に喜んでもらえるようなものの言い方をしたり。

学んだことを実践にうつすとで、世界が大きく変わりはじめたのだ。

「人の感情がどうあるかとか、全部腑に落ちてきたんです。やっと人と信頼関係を結んで生きていけるなあって。笑えるなあとか、うれしいなあとか、安定感が出てきたのは最近です」

「私の信念があって、それは “どんなネガティブもひっくり返せばポジティブ”
なんです。ひっくり返せば光になる、輝きになる。それが自分の中で本当に明確になったので、過去に恨みだったものが、今は感謝に変わってます」

幼い頃からの家庭不和があったからこそ、今の自分がある。

前向きに、そう考えられるようになった。

LGBTとアライを繋ぐ

身の回りで接しているLGBTの人たちは、とても豊かで、カラフルだ。

「彼らと話をしていると、『なんて多彩で素敵な人たちなんだろう!』って、すごく感じるんですよね。愛おしさがこみ上げてくるんです」

もちろん、根本的な部分はストレートの人間と変わらない。

だが、そこにプラスして、それぞれがユニークなセクシュアリティを持っていることに意味があるのだ。

「そのユニークさを持っていることは、その人たち自身も思っていないような輝きがある状態だと思うんです」

でも、彼らは社会に出ると「こうあるべき」と全部を隠してしまう。すると、もちろん輝きも失せてしまう。

「それは、社会的な損失なんじゃないかなって思うんです」

もっと、ユニークな個性たちが輝きを増せる社会になったらいいんじゃないか。そう考えている。

「ほかにも、LGBTの方は話がわかりやすいと思うんです。なので、ストレートの人間にとって、彼らとの会話を通じて “気づき” を得ることが多いなと思います」

自分が、そうした “気づき” の架け橋になれないだろうか。どう形にしていくかは、まだわからない。けれど、これからはポジティブさを忘れずに、LGBTとアライを繋げる活動を広げていきたい。

あとがき
表情ゆたかに話す佐恵子さんとの初対面。あっという間に4時間が過ぎた。なんて可憐な笑顔なんだろう、それが第一印象だ■「あの時、気持ちを受け止めてくれる大人がいたら・・・・・・」。途中、自家発電できないまま暗闇に佇み、それでも親の気持ちを救おうとしていた少女時代を案内してくれた■佐恵子さんが言葉にする『アライ』は、具体的な活動の有無ではなく、LGBTの存在を知ることから始まる。それは、誰もが「叶えたい自分」を考えるきっかけになるように思えた。(編集部)

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