02 好きな子は眺めているだけ
03 吹奏楽で努力を認められて
04 裏と表、自分のバランス
05 将棋が楽しい!
==================(後編)========================
06 バイセクシュアルを公言
07 男の体を見るのもイヤ
08 本気で好きになった女の子
09 思いがけないセカンドレイプ
10 男性恐怖症をこじらせただけ?
01美人でモテる自慢の妹
コンプレックスの塊
2人姉妹の姉として生まれた。
2つ年下の妹は、自分とはまるでキャラクターが違った。
「仲が良いといえば良いんですが、私はコンプレックスの塊で」
「妹は私より身長が高くて、顔もかわいくて、すごくモテるんですよ。なんかもう、姉妹だけど隣に並びたくないっていうか」
「でも、まあ・・・・・・自慢の妹なんです(笑)」
幼い頃からいつも一緒に遊び、お揃いの服を着ていた。
いつでも隣にいたが、妹のほうが「かわいい」と褒められた。
七五三も、自分は1度だけだったのに、妹は2度も祝ってもらった。しかも、自分は着ていない母の着物を着て。
「幼いながらも、少しずつグサグサ傷ついてましたね(笑)」
「でも、両親はあまり『お姉ちゃんなんだから』と言うこともなく、私たち両方にちゃんと愛情を注いでくれてたって感じです」
「特に父はデレデレですね。テレビで国会中継が始まると、私と議論したりして。父は、それがうれしいみたい(笑)」
それでも、叱るときはしっかりと叱る親だった。
両親にキツく叱られたときは、田んぼの向こう側にある祖母の家に逃げ込んだ。
ほとぼりが冷めた頃に祖母に一緒に謝ってもらうこともある。
先に手を出したほうが負け
しかし、母の教えはちょっと変わっていた。
「タバコを吸っても、酒を飲んでも、校則を破ってもいいって言うんです」
「昔、母自身が何かしたときに、おばあちゃんが呼び出されたらしく、『私も、学校でも警察でも、呼び出されたら行ってやるよ』って感じで」
「そう言われると、逆にグレる気がなくなりましたね(笑)」
そんな母に叱られた記憶で、鮮明に覚えていることがある。
妹を馬鹿にした友だちを殴ってしまったのだ。
「妹を守るためだから私は悪くないって思ったんですけど、『絶対に自分から手を出すな』って叱られました」
「向こうから手を出されたら、いくらでもやり返してもいいよ、とも言ってましたけど(笑)」
先に手を出したほうが負け。それが母の教えのひとつだった。
02好きな子は眺めているだけ
告白なんて、とんでもない
小学校に入って好きになったのは、サッカーが上手で、クラスでも人気者だった男の子。
「1年生のとき、算数セットの九九のカードみたいなのを綴じているリングが外れなくて困ってたら、ヒョイって外してくれて・・・・・・惚れました」
そのあとも、好きな人は何人かできた。
みんなスポーツが得意な、かっこいいタイプの男の子。
しかし、ラブレターを送ることも、バレンタインデーにチョコを渡すこともできなかった。
告白なんて、とんでもない。ただ、彼の姿を目で追うばかりだった。
「交換日記をしていた女友だちには、好きな子がいるんだって話はしてましたけど。本人にはとても言えなかったです」
好きな人は、あくまでも憧れの存在。
目で追うばかりだったが、逆に言えば、見ているだけで満足だった。
読書とゲームに夢中
そのとき、恋愛よりも夢中になっていたのは、ゲームと読書。
特に、動物がテーマのものが好きだった。
「ゲームでは、ニンテンドーDSの『ニンテンドッグス』にハマってました。子犬を育てるのが楽しくて」
「妹よりも先にゲーム機を買ってもらったのもうれしかったし」
「誕生日のプレゼントや、スイミングスクールでがんばって進級したら、ソフトを1本買ってもらったりしてました」
読書も、かなりのハマりっぷりだった。
小学校4年生から6年生までの3年間で300冊を読破し、県知事賞を受けたほどだ。
「ファンタジー系も好きだったけど、よく読んでいたのはドキュメンタリー系。動物が主人公のやつとかですかね」
「盲導犬の一生に焦点を当てた話を、すごく覚えています」
「わんこたちが産まれてから、病気で死んじゃったり、海外で盲導犬として活躍したり、兄弟たちがどんな道を歩んだかを伝えるドキュメンタリーです」
「心があったかくなる内容のものが好きでしたね」
ゲームと読書にハマった小学生時代。
積極的に外で遊ぶタイプではなく、どちらかというと家にこもって静かに過ごしていたいタイプ。
「真面目で大人しい感じでしたね」
6年間は静かに穏やかに過ぎた。
03吹奏楽で努力を認められて
初心者でいろんな楽器を
中学校に入ってからは、一転してアクティブな生活になった。
運動部の花形、テニス部に所属したのだ。
未経験ではあるが、基礎練習にも球拾いにも力を入れ、いつか選手として試合に出られることを夢見ていた。
しかし、いくらがんばっても自分だけ試合に出られない。
顧問の先生に出場できない理由を問うても、答えはなかった。
納得できない気持ちが募り、2年生の春にはテニス部を辞めた。
「辞めるときは、まず母に、悔しい気持ちを泣きながら伝えたんです。母は『つらかったね』と抱きしめてくれました」
そして、7月。吹奏楽部に入り直した。
「パーカッションを担当することになったんですが、もともと在籍していた子がドラムをやっていたので、他の打楽器全部をやることになったんです」
「コンガとか木琴とか、いろんな楽器をやらなくちゃいけないので、とにかく覚えるのが大変で(笑)」
認めてもらえてうれしい
小学3年生からピアノを習っていて、中学校では学祭の合唱でピアノの伴奏を務めた。
しかし、ピアノと、パーカッションの多種多様な楽器では勝手が違う。
四苦八苦しているなか、入部して3ヶ月後にアンサンブルコンテストに出場することになった。
「そこで先生から木琴のソロをやれって言われて」
「いや、私、無理ですって言っても『お前ながらできる』って押し切られて・・・・・・。本番はやり切りました」
「今思うと、きっと先生は、私のこと信用してくれてたんだなって」
その後、学校でも演奏を披露する機会があった。
「そしたら演奏後、校長先生から『3ヶ月で、よくここまでがんばったね』って言われたんです」
「え、私がテニス部から吹奏楽部に転向して3ヶ月しか経ってないって、なんで校長先生まで知ってるんだろう? ってびっくりしました」
「でも、私のことを見ててくれて、認めてもらえたってことが、すごくうれしかったですね」
04表と裏、自分のバランス
恋愛は手を繋いでハグして終わり
中学校でも、好きな人はいた。
しかし、その年頃は、男の子が下ネタで盛り上がる時期でもあった。
「授業中に隣の子からメモが回ってきて、『不純異性交遊って知ってる?』って書いてあったんですが、本当に意味が分からなくて」
「そのあとも、男子が休憩時間に『お前が好きなやつに告白するときは、学校のトイレはやめとけ』とか言ってくるんです」
「それも、そのときは意味が分からなかったんですが、どうやら押し倒されても抵抗できない場所だって言いたかったみたいで」
「その頃の私は、恋愛は手を繋いでハグして終わりって思っていたんです」
そんな男の子たちが意味不明で煩わしかった。
だからこそ、好きな人はいたが告白することはなかった。
「中学では、恋愛ではなく、ひたすら吹奏楽を頑張ってた、って感じでした」
吹奏楽以外に没頭していたのがSNS。
特に、ラインで “なりきりチャット” をするのが楽しかった。
「キャラクターになりきって演じて、チャットでやり取りするんです」
「自分たちでオリジナルのキャラクターをつくって、この人とこの人をカップルにして、恋愛関係を発展させていく・・・・・・みたいな」
言ってみれば、自分たちで脚本をつくり、リアルタイムで展開していく、ロールプレイングゲームだ。
まるで別の世界で生きているような感覚が面白かった。
ネットとリアルの格差
「ネット上でのつながりは、どんどん広がっていって、一気に500人くらいに増えました。学校では、真面目で大人しいキャラだったのに」
クラスでは、目立つほうではなかった。
大勢の友だちとツルむようなことも、あまりしなかった。
「なぜだか、リアルでは真面目なキャラでいなくちゃいけないって、思い込んでたんです」
「もしかしたら、周りから『良い子だね』って言われて、認められたかったのかもしれないです」
「ネットでは自由に好きな自分を出していたけど、リアルではできなくて」
その頃に読んでいた本に出てくるプリンセスたちに憧れた。
華やかな服を着て、誰からも愛されるプリンセスに。
「こういう風になりたいって思ってましたね」
「でも、キラキラした格好がしたいわけじゃなかったんです」
「みんなから期待されて、それに応えることができて・・・・・・。認められる人間になりたかったんだと思います」
ネットでは、そういうキャラクターになりきることもできた。
ネットでの自分とリアルでの自分。その2つに格差を感じていた。
「表裏があるっていうか・・・・・・。でも、その2つで自分というバランスをとっていたようにも思います」
05将棋が楽しい!
先を読むのが面白い
高校は、共学の普通科に進学。
中学時代の先輩が将棋部に所属しており、入学してすぐ見学に訪れた。
「もともとは囲碁に興味があったんですが、見学に行ったら顧問の先生に『女の子がひとりで見学に来るなんて!』と喜ばれて」
「駒の動かし方しか分からないって伝えたら、『とりあえずやってみようと』と誘われて」
「やってみたら案外うまくできたんです(笑)」
「それで、友だちを誘って3人で入部して、団体戦に出るようになりました」
同じ夢に向かって切磋琢磨する3人。
やがて茨城県代表になるまで力をつけ、全国大会に出場した。
一緒にいればいるほど、3人の絆は強くなる。
特に大将を務めていた子とは、なんでも話せる仲になっていた。
「誰にも言っていないような秘密をお互いにカミングアウトしたりしてました。その子も、玲奈にだけは言っておきたいって言ってくれて」
そのぶん、ネットでのつながりは希薄になっていった。
以前は学校から帰ってきて夜中まで熱中していたチャットも見なくなった。
「とにかく、将棋が楽しかったんです」
「自分がこう打ったら、相手はこう返してくるだろう、じゃあ次はこう打ったら、どう打ってくるだろう・・・・・・って、先を読むのが面白くて」
全国大会出場で母も大喜び
全国大会に出場したときには、将棋講座のテレビ番組にも茨城県代表として出演し、雑誌にも写真と名前が紹介された。
「母がすごい喜んでくれましたね。書店で雑誌を買い占めて、親戚みんなに配ってました(笑)」
「そんな母を見ていて、私もうれしかったです」
仲間と力を合わせて、実力で結果を出し、周囲に認められた。
今まで体験したことのないくらいの達成感だった。
「小中ときて、高校でようやく学校が楽しくなった感じです(笑)」
「好きな人もいました。同じ将棋部の同い年の男子です」
でも、やっぱり告白はしなかった。いや、できなかった。
「彼は将棋が上手くて、3年では部長も務めたくらいで」
「私は、彼に勝ったら告白しようって決めてたんです。でも、いつももうちょっとところで負けちゃって」
告白することも、付き合うこともなく、彼の存在は、やがて恋の相手ではなく尊敬すべき将棋仲間となっていった。
<<<後編 2019/05/07/Tue>>>
INDEX
06 バイセクシュアルを公言
07 男の体を見るのもイヤ
08 本気で好きになった女の子
09 思いがけないセカンドレイプ
10 男性恐怖症をこじらせただけ?