INTERVIEW
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LGBTQツーリズムは特別なものじゃない。誰もが大阪に来て、楽しく過ごしてほしい。

「大阪駅からすぐの中之島に、私の大好きな美術館があるんです。海外のお客様をお連れしたら、ものすごく興味をもってくださって。もう、ほんとうれしかったです」。大阪観光局が推進しているLGBTQツーリズムの、ファムトリップでのエピソードを語ってくれた木村絵里さん。大好きな大阪を、もっとたくさんの人に好きになってほしい。そんな思いが、さまざまなプロジェクトについて語る言葉から滲み出ていた。

2021/07/05/Mon
Photo : osaka convention&tourism bureau Text : Kei Yoshida
大阪観光局 木村 絵里 / Eri Kimura

徳島県生まれ、大阪市在住。大阪大学文学部卒業後、空港という場所の活気に満ちた雰囲気に惹かれて関西エアポートに就職。総務や広報などを経験したのち、2016年より大阪観光局に出向、マーケティング戦略室マーケティング担当部長を務める。現在は、同局が掲げるLGBTQツーリズム関連プロジェクトを牽引。

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01放課後はクラスみんなで校庭で

── 現在、大阪観光局でLGBTQツーリズム関連のプロジェクトを進めていらっしゃいますが、子どもの頃からリーダーシップを発揮されていたのでしょうか?

いえいえ、どこにでもいるような子でしたよ(笑)。

でも、真面目で勉強もできるほうだったので、学級委員をやるようなタイプではありました。先生からも親からも叱られるようなことをめったにしない安心な子・・・・・・ごめんなさい、つまらないですね(笑)。

小学生の頃は、とにかく友だちと遊ぶことに夢中だったように思います。授業が終わったら、あの頃はいまとは違って、みんなで校庭に残ってご飯の時間までずっと遊んでました。

クラスの仲もよかったんです。いまも正月とお盆には、5〜6年生のときのクラス会をやったりもしてるんですよ。担任の先生も参加してくださって。最近はコロナのせいで集まれてないですけど。

── ご出身はどちらですか?

徳島です。高校まで徳島で過ごして、大学からは大阪です。

徳島市民は全員、たぶん阿波踊りを踊れるはずなんですが、私も例にもれず、中学生の頃から阿波踊りに熱中してました。みんなで春くらいから練習して夏の本番に備える、っていう(笑)。

いまも、もちろん踊れますよ。飛び入りして一緒に踊ったりもします。

── 阿波踊りって、そんなにオープンな雰囲気なんですね。

そうなんですよ。飛び入りさせてくれる連(チーム)があったら、飛び入りさせてもらうのが徳島市民の “普通”。

海外で開催される観光業界のコンベンションに参加したときも、懇親会で皆さんに誘われて一緒にダンスしたりしてしまうのは、もしかしたら阿波踊りで鍛えられたからなのかもしれませんね(笑)。

02人との出会いでつながる旅

── 高校生まで徳島でのびのびと過ごしたのち、大阪大学に進学されたんですよね。新生活はいかがでした?

ひとり暮らしが楽しくて(笑)。
もう毎日、友だちと一緒にいましたね。

あと、もともと旅行が好きだったので、大学のユースホステルサークルに入って。それがまた楽しかったんです。

サークルのみんなとユースホステルへ泊まりに行ったり、夏は地元の教育委員会に提案して、子どもを集めてキャンプを開催したり。

── ユースホステル! またどうして、そのサークルに?

日本全国のユースホステルへ、みんなで車で出かけていって泊まるんです。お寺に泊まれたりとか、いろんなユースホステルがあるんですよ。

でも、メインの活動は月イチの飲み会(笑)。とにかく、みんなでわいわいするのが楽しかった時期でした。

旅行は、個人的にもよく行きましたよ。

初めての海外旅行は中国。友だちとふたりで、神戸から天津に船で入国して、そこから南下していって、香港から飛行機で帰るコース。

その頃の中国は、お手洗いに扉がなかったり、財布を持っているだけで金持ち扱いされたり、カルチャーショックがいっぱいありましたね(笑)。

あ、船の中でたまたま知り合いに出会って、そのままついていって、その人のお友だちにお世話になったりってこともありました。

── すごい偶然ですね!

そうなんです。旅先では、そんな出会いが結構あるかも。

ホステルに泊まったら、他の宿泊客と仲良くなって、今度はその人を訪ねて旅に出たりとか。いつもラフな感じで旅をしてました。

運がよかったのか、怖い思いもすることもなかったんです。

03ビアガーデンで浮かんだ将来の夢

── 大学卒業後は、関西国際空港と大阪国際空港、神戸空港を運営する関西エアポート株式会社に就職されたそうですが、やはり旅が好きだったから、という理由からですか?

それもありますが、実は、「空港で働きたい」って思ったのは、ビアガーデンにいるときなんですよ(笑)。

大学生のとき、大阪国際空港の近くに住んでたんですが、屋上にあるビアガーデンがすごく好きで、しょっちゅう行ってたんです。

当時はフェンスとか、視界を遮るものもなくて、飛行機の離発着を間近に見ながら、ビールを飲むのが最高だったんですよ。

あと、空港の空気が好きで。

出張に行く人も、旅行に出かける人も、みんな「やるぞーっ!」って前向きじゃないですか。すごく活気のある、いい場所だなって。

こんなところで働けたらいいな・・・・・・って、ビアガーデンでビールを飲みながら思ってました(笑)。

── なるほど、ビアガーデンで(笑)。そして実際に就職されたんですね。ではその活気ある環境で働き始めてからは、いかがですか?

総務や広報、財務など、ひと通りの仕事を経験しました。

お休みのときには海外へ行くことを推奨しているような会社だったので、ヨーロッパとかビーチリゾートとか、OLさんが行きそうな海外の観光地にはだいたい行きましたよ。

広報を担当しているときに、ニューカレドニアのテレビ局が関西国際空港の取材に来てくださったんですが、そのプロデューサーの女性、ナタリーと仲良くなって、毎年ニューカレドニアに遊びに行くようになりました。

ニューカレドニアはダイビングのライセンスを取った場所でもあるので、もともと好きだったんですが、ナタリーの家へ遊びに行くようになってからは、すっかりハマってしまいました。

04海外のレズビアンカップル宅へ

── 海外旅行の魅力って、どんなところだと思いますか?

私が旅に求めるものは “非日常感” です。

ニューカレドニアは地球の反対側の国ってこともあるので、空気からして日本とはまったく違いました。

なのに安全。すっごく治安がいいんです。物価は高いですけどね(笑)。

── 確かに、海外にいると気分が変わって、とてもリラックスできますよね。それに、滞在先としては安全に過ごせることも、とても大切だと思います。そういえば、いままで旅先でいろんな出会いがあったとのことですが、ニューカレドニアでも、やはり新しい出会いはありましたか?

そうですね。それが現在のLGBTQツーリズム関連の仕事に直接つながるわけではないんですが、ナタリーには同性のパートナーがいたんです。

ニューカレドニアの彼女の家に遊びに行く際に、日本からのお土産として、「家族と一緒に使ってください」と夫婦箸を渡したら、パートナーに「どっちがいい?」ってきいていて、あ、カップルだったんだ、と。

── 驚きましたか?

いえ、驚くとかではなく。あ、そうだったんだ、っていう感じでした。

特に、向こうから「実はね」って話もなかったですし。でも、こちらが気づいていることも、向こうは気づいていたと思いますよ。

私が帰国するときとかに、ナタリーがほっぺにキスして、「これは変な意味じゃないからね」って言ってて、そんなん言わんでいいのにな、とは思いましたけど(笑)

もちろん、その頃すでにLGBTの存在は知っていましたし、ヨーロッパではゲイのカップルが手をつないで歩いているのを見かけることもありました。

実際に友だちが、というのは初めてでしたが。

ナタリーのパートナーは、ものすごく料理上手で。ふたりを見ていて、こういうのいいなぁって思いました。

ただ、それだけですね。とても自然だったので。

05大阪発のLGBTQツーリズムに向けて

── 大阪観光局に移られたのは、いつですか?

2016年です。まずは局全体のプロジェクトを企画する仕事に就いたんですが、当時は、LGBT関連のプロジェクトというものは何もなくて。

2017年に、今後の計画を立てるにあたって、LGBTQツーリズムのニーズが伸びていくだろうと考え、施策を練り始めたんです。

私たちとしても、横の結びつきが強く、情報拡散が早いツーリストに向けては、是非ともアプローチしたいところでした。

とはいえ、どこから始めたらいいのかも検討がつかなかったので、LGBT研修などを行っているアウト・ジャパンさんにお力添えいただいて、まずは2018年に、海外のインフルエンサーや旅行代理店、メディアに向けてファムトリップ(現地視察ツアー)を実施しました。

── LGBTQツーリズムのプロモーションとして、2018年に実施された初めてのファムトリップは、どんな内容だったんですか?

大阪を知らない人にゼロから知っていただく、という内容だったので、大阪城に行ってもらって、道頓堀を歩いてもらって、お好み焼きを食べてもらって・・・・・・という定番のコースをご案内しました。

あとは、陶磁器の美術館にお連れしたり、堺市で包丁研ぎ体験に参加していただいたり。アメリカやイギリスのほか、ブラジルやイスラエル、台湾などさまざまな国の方がいらしたんですが、とても喜んでいただけて。

浴衣を着て、ゲイバーに行っていただいたり、ナイトクルーズを楽しんでいただいたりもしました。

私は、ゲイバーにはご一緒しなかったんですが、「お店のスタッフや地元のお客さんたちが、すごくフレンドリーだった」と皆さんおっしゃっていて、大成功だったと確信しました

── 参加者の方々からは、他にどんなコメントがありましたか?

クルーズに参加された方が、「大阪市内に、こんな水がきれいな川があって、クルーズができるなんて」と驚かれていました。

お好み焼きやたこ焼きといった、大阪ならではの食べ物もおいしいと評判でしたね。

個人的には、東洋陶磁美術館という、私の大好きな美術館に皆さんをお連れしたら、ものすごく興味をもってくださり、館長さんにたくさん質問をされていたりして、もう、ほんとうれしかったです。

06旅の魅力にセクシュアリティは関係ない

── ファムトリップのほかは、LGBTQツーリズム関連ではどのようなことを実施されたんでしょうか?

同じく2018年に、IGLTA(国際LGBTQ+旅行協会)に加盟しました。世界各地の観光局や大学などが参加していて、LGBT事業の普及に向けてビジネスのサポートを行なっている団体です。

2019年には「VISIT GAY OSAKA」という、大阪を訪れるLGBT旅行者のための総合情報英語サイトを開設し、LGBT関連のイベントやホテル、飲食店、旅行会社情報を掲載しています。

大阪に住んでいるLGBT外国人おすすめスポットを紹介したりとかも。

SNSでも毎週1回は、インタビュー映像やLGBTフレンドリーレストランのメニューなどを投稿してるんです。

こうした情報を発信しているのは、日本の観光局やDMOでは唯一、大阪観光局だけなので、今後、日本のDMOのベンチマークになっていけたら、と思い、施策にも力を入れています。

── 2021年2月には、日本初となる観光関連産業向けのLGBTQツーリズムカンファレンス・イベントを開催され、LGBTQツーリズムの概論説明からトークセッション、ドラァグクイーンショーなど盛りだくさんの内容だったそうですね。

はい。大阪観光局の事業や活動に参画してくださる賛助会員の企業様向けに、LGBTQツーリズムに関するセミナーを定期的に開催しているんですが、このカンファレンス・イベントもセミナーを兼ねたものでした。

いつも、LGBTQツーリズムとは何か、というところからお話をさせていただくんですが、実は、結論から言うと、特別なことは何もないんです。

街が魅力的であれば、ちゃんとツーリストは来てくれます。

大切なのは、来てくれたときに不快な気持ちにさせないように気をつけて、楽しんでいただくだけ。それも知識があれば、特別なことではありません。

例えば、異性だけでなく同性のカップルもいると知っていたら、チェックインのときに「ツインでなく、ダブルで予約されていますが・・・・・・」と確認しないですよね。「ダブルでご予約ですね」とリピートするだけでOKです。

── 特別扱いをするわけじゃなく、いままで見えていなかった人たちがいるのだと、知ることが大切だと。

そうです。あとは、レインボーのステッカーやフラッグを目につくところに置いて、「歓迎しています」とメッセージを送ることもできますね。

特にいまは、コロナの影響で、観光関連産業全体が大変な状況に陥っていて、「できる手は尽くしたい」「可能性を広げたい」とLGBTQツーリズムに目を向ける事業者さんも増えています。

これを機に、大阪全体としてLGBTフレンドリーな環境を整えて、すべての旅行者を自然体で心から歓迎する街を目指したいと思っています。

07見えなかった人たちを見えるように

── LGBTQツーリズム関連のお仕事に携わるようになって、何かご自身のなかで変化などはありましたか?

そうですね・・・・・・。正直なことを言うと、いままではLGBTについて、改めて考えるようなことってなかったんですけど、セミナーを受けたり、いろんな方のお話を聞いたりして、知識を深めていくなかで、もっと知らなければならないと思うようになりました。

あとはとにかく、やりがいがあるので、仕事が楽しいです。関わる皆さんにも、私の話の中で、そんな雰囲気を伝えていければと思っています。

── プライベートでは、LGBTについて誰かと話したりしますか?

子どもが学童に行ってるんですが、そのつながりで、お父さん、お母さんたちと、コロナ前はよく飲み会をしてたんです(笑)。

そこでは、LGBTのことをもっと知らなければいけないとか、子どもたちにもいまから教えておかなきゃとか伝えてます。

「あ、また言ってる」って顔をされるんですけどね(笑)。

レインボーフェスタに誘ったり、私が読んで感動したLGBT関連の本を勧めたり・・・・・・。プライベートでも広報活動してます。

2019年の大阪レインボーフェスタには、子どもと一緒に参加して、パレードにも加わりました。子どもは「レインボーの旗を振って歩くのが楽しい」くらいで、なんのパレードなのか、わかってなかったと思いますけど。

── お子さんにも、LGBTの話をされるんですか?

座らせて、きっちり教える、みたいなことはしませんが、例えばテレビのニュースで「同性婚を認めないことは違憲と札幌地裁が判断」って流れていたら、「結婚する権利って、誰にでもあるんやで」って話したり。

そのとき子どもには「あっ、そう」って反応されますけど(笑)。

とはいえ、子どもの環境への順応力にはいつも驚かされます。

現在のようにLGBT関連のニュースや話題と、自然に接する環境に育った子どもたちがつくる未来は、偏見が完全になくなることは難しくても、確実に理解度の高い世の中になっていると思います。

08 OPEN ARMS PROJECTの先へ

── 現在は、アフターコロナを見据えて、新たなプロジェクトを進めていると伺いました。どのような内容なんですか?

Visit Gay Osaka presents OPEN ARMS PROJECT」というプロジェクトなんですが、地域の観光関連事業者さんに対して、LGBT研修やワークショップ、商品開発コンサルティング、マーケティングプロモーションを行う、というものです。

プロジェクトを通じて開発した宿泊プランや体験プログラムは、7月上旬より、プロジェクトWEBサイトで販売を予定しています。

これに先駆けて、6月はプライド月間を祝うべく、大関株式会社の「ワンカップレインボー」付きのプランを販売し、売り上げの一部は大阪レインボーフェスタに寄付させていただく予定です。

── なるほど、これから魅力的な旅行商品がサイトに続々とアップされていくということですね。それは楽しみです。

あとは、Visit Gay Osakaの情報量も増やしていきたいと思っています。

ゲイバーだけでなく、レズビアンバーの掲載を増やしたり、“誰でもトイレ” を設置している事業者さんの情報を掲載して、トランスジェンダーの方にも安心して観光していただけるようにもしたいです。

── では最後に、旅行先としての大阪の魅力を教えてください。

やはり、大阪の最大の魅力は “人” だと思っています。

良い意味で他人にからんでいくのが好きなのが大阪人なので。日本人同士ではもちろんですし、たとえ言葉が通じない外国人でも、なんとなくコミュニケーションがとれてしまうという才能が、大阪人にはあるんです(笑)。

だから、来てみたら絶対楽しいよ、っていうことはお伝えしたいですね。

私としては、これからもLGBTフレンドリーな地域を目指して、事業者さんに働きかけを続けていきます。それがいま、私にできること。

日本からも海外からも、たくさんのLGBT旅行者が大阪をはじめとした日本で楽しく過ごしてくださるのを見たいです。

 

>>大阪観光局の「Visit Gay Osaka presents OPEN ARMS PROJECT」について、もっと知る

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