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愛する “男性” が性同一性障害だと知っても

それは不意の出来事だった。恋心を募らせていた相手から、突然、性同一性障害の告白。未だ気持ちを言えない自分を牽制するかのように、その人は真実を口にした。女でありながら女を好きになってしまった、しかしその関係に思い悩んだのも束の間。「彼のことが好きなら、性別なんて関係ない」。新しく大きな一歩を踏み出した皆川さん。その勇気の理由を、知ってみたいと思った。

2016/08/05/Fri
Photo : Mayumi Suzuki  Text : Koji Okano
皆川 野の花 / Nonoka Minagawa

1989年、埼玉県生まれ。高校卒業後、東京アナウンス学院ダンスパフォーマンス科を卒業。現在はダンスインストラクターの仕事の傍ら、バックダンサー、ダンスイベントの企画もこなすなど、精力的に活動中。

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01カミングアウトは突然に

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人として素敵

振り返れば、あれは4年前のことだった。

専門学校卒業後、フリーでダンスインストラクターとして働きながら、生活のため、並行して飲食店でもアルバイトをしていた。

そんななかで自然と仲良くなった、男の先輩。

仕事が終わればいつも飲みに行き、自分の将来の夢や抱えている悩みなど、とにかくよく話を聞いてもらった。

どんな話をしても、彼は頷きながら自分のことを受け入れてくれ、しかもアドバイスにはいつも説得力があった。

「とにかく聞き上手で。お酒を飲みながら、いつも相談にのってもらっていました」

「二人っきりではなく、バイト先のみんなと大勢で飲みに行くことも多かったので、初めのうちは単なる仲間意識に過ぎないのかな、と思っていたんですけど」

「聞き上手、彼の包容力の大きさみたいなものに、だんだん惹かれるようになりました」

加えて彼が旅先で見てきた景色、カルフォルニアやグランドキャニオンへの旅で出会った人たちとの交流について話を聞いていたりすると、考え方や生き方もとても魅力的に思えた。

そんな彼の人生経験が、自分の相談への説得力ある解答にもつながっていると感じた。

「気づいたら、もう彼のことばかり考えて、毎日を過ごしていました」

「そんな気持ちを抱えながらバイト先で彼と会い、仕事が終わったら、またごはんに行く。彼も私に対して、気のある素振りを見せていたので、いっそのこと向こうから告白してくれないかな、といつも思っていました」

「でもなかなか、そんな雰囲気にもならないから。もう私から行くしかない。そう心に決めました」

そう誓ったある日、彼からの告白に、衝撃を受けることになる。

彼なりの思いやり

その日もいつものように、アルバイトのあと、彼と二人で食事に行った。店を出て歩きながら、多少のお酒が入っていたこともあって、酔った勢いでこのまま告白してもいいかな、とも思っていた。

その日の雰囲気、二人のあいだの距離感は、なんとなくいつもより ”甘い関係” であるようにも感じられたのだ。

そう考えていた矢先のことだった。彼の口から突いて出た言葉に、目の前が真っ白になった。

「俺もそろそろ、注射に行かなきゃなぁ」

言われていることの意味がわからなかった。

初めは何かの病気を患っているのかと心配になった。

「どうしたの? 何かの病気なの?」彼に問う。

「あれっ、言っていなかったっけ? 俺、実は性同一性障害なんだよ。外見は男に見えるけど、戸籍上は女なんだ。治療、定期的に男性ホルモンの注射を受けないといけないんだよね」

照れるような笑みさえ浮かべながら、彼はそう言った。

「いま振り返れば、この告白は彼なりの思いやりだったと思うんです。本当は男じゃないから、俺を好きになるのはやめときなよ、っていう」

「もう私の気持ちにはすっかり気づいていて、だからこそ、あえていばらの道を進む必要はない、そう警告してくれたんだと思います」

思わぬ告白に、その日は何も言葉を返せぬまま彼と別れた。

家路につきながら、様々な思いが脳裏を交錯する。

「彼のことを本当に好きになり始めていたから、すごくショックでした。今まで男だと思っていた人が女だったなんて。好きな気持ちは日に日に増していたのに。そんなこと言われても、すぐに納得できなくて」

「どうして?なんで?」と、誰にぶつけて良いのかも分からない言葉を、ずっと自問自答しながら、その日は朝を迎えた。

02性同一性障害は身近な存在

学校にもいた

しかし迷いの日々は、そう長くは続かなかった。

「彼にカミングアウトされて、初めて自覚できたんです。そういえば、今まで周りに性同一性障害だったのかも、と思い当たる人が何人かいたことを」

自分がダンサーを志すようになったのは、小学生のときモーニング娘。が「ラブマシーン」を歌っているのを観て、見よう見まねで踊りを始めたのがきっかけだ。

小さい頃から、どちらかというと恥ずかしがり屋で引っ込み思案だったが、ダンスと出会ったことで、徐々に前向きな性格に生まれ変わっていく自分がいた。

高校はスポーツが盛んな女子校に進学した。

自らはラクロス部に所属したが、サッカー部やバスケットボール部にも、こざっぱりとボーイッシュな女の子がたくさんいて、そんな彼女たちを観て、キャーキャー黄色い声援を投げかける同級生もいた。

「10代の頃、性同一性障害やFTMという言葉すら使っていなかったけれど、発言、振る舞いや服装、全てにおいて女性らしさを全く感じさせない人。同級生の中には、まるで自分が男性であるかのように学生生活を送っている子もいましたね」

「よく考えたら、女性同士で付き合っていた子も存在していたことに気づきました。高校生の頃から、セクシャルマイノリティは意外と身近にいたんだなぁと、彼の告白を通して、思い返せたんです」

高校卒業後は専門学校でダンスを専攻したが、その同級生にもLGBTがいたことを思い出した。

「『芸術家には、セクシャルマイノリティの人も多い』という話を聞いたことがあるんですが、ダンサーを志す人にもそれが当てはまるのかもしれない、と思ったんです。女子の多い専門学校だったんで、今、振り返れば、性同一性障害かもしれないという子は、何人かいましたね」

「ダンスをしているときの彼女たちは本当に輝いていたので、男とか女とかいう性別を超えて、ただかっこいいなぁ、と思っていました」

バイト先にもいた

それに。バイト先にも性同一性障害の女の子がいたことに、今更ながら思い当たった。

いつもあんなに話をしていたのに、彼女が男か女かなんて、気にしたこともなかったからだ。

「とにかく話の面白い子で。いつも私たちのことを笑わせてくれるから、バイト先ではすごい人気者でした。どうしてでしょうね、彼女が性同一性障害でFTMということは、職場全員が知っていたんですけど、私はあまり性別を気にしたことがなくて」

「本当に面白くていい人だな、という認識しか、私にはなかったんです」

03自分らしさで彼を射止める

愛する“男性”が性同一性障害だと知っても,03自分らしさで彼を射止める,皆川野の花,ALLY

迷いは一瞬

特に気にはしていなかっただけで、思い返せば身近だった性同一性障害の存在。

だから意中の彼にFTMだと告白されても、そのことで生じた迷いは、それほど時間がかからずに解けた。

「男の彼が好きなんじゃない、そのままの彼が好きなんだ、と考え直しました。そうであるなら、彼の戸籍は関係ないと思ったんです」

「今までの人生を振り返って、たとえば友達でも、その人が男である女であるという前に、尊敬できる人であるか、そこを大切にしながら私は人間関係を積み重ねてきたんだ、と気づけたから」

「男性として生きている彼の性別が、実際には私と同じ女性でも、ずっと彼のことを好きでいればいいんだ、と思えるようになりました」

今までの人生で、女性同士で付き合ったことはなかった。

それでも先に待ち受けているかもしれない問題におののいて、今の自分の気持ちを殺すことはできなかった。

バイト先で一緒に働いていた、彼以外の性同一性障害(FTM)の友人にも、相談に乗ってもらった。

「彼に私から告白すべきかな」。そう投げかけても、その友人はイエスともノーとも言わず、ただニコニコと話を聞いてくれるだけ。

けれどそれで十分、助けられた。

彼とは相変わらず、バイト先でシフトが一緒になれば、仕事のあと食事に行ったり飲みに行ったりしていた。

面と向かって「付き合ってほしい」とは言わなかったけれど、心にはある作戦を秘めていた。

相思相愛の仲に

「彼と出会ったバイト先は、京王井の頭線の神泉駅近くにある飲食店だったのですが、ちょうどその近く、渋谷で私がダンスイベントに出演することになって。私がいちばん私らしくいられる時間、ダンスをしている瞬間を見てもらえれば、彼は私のことを好きになってくれるんじゃないか。漠然と、しかし確信をもって、そう感じたんです」

「彼に見に来てほしいと頼んだら、首を縦に振ってくれたので、よし、いちばん魅力的な私を見せようと思いました」

WAACK(ワック)と呼ばれるダンスがある。1970年代初期にゲイクラブで生まれた踊りの型といわれる。

腕を鞭のように振り回したり、巻きつけるように動かしたり、また胸の前後でしならせたり、ツイストさせたりするのも、その特徴であるとされる。

「初めてWAACKを見たときに、ものすごくかっこいいなと思って。ダンサーとしてこの型を突きつめてみようと思ったんです。で、練習していくうちに、このダンスの発祥はゲイの人たちにあったと知って。ゲイのダンサーが、自分を女性らしく見せるために編み出したものらしいんです」

そうして訪れたダンスイベント当日。

WAACKを披露する自分を見て、彼の気持ちが動いた。すっかり惚れ込んでしまったというのだ。

「しめしめと思いました(笑)。彼も私の気持ちに気づいていたからこそ『ホルモン注射を打たないと』なんて牽制球を投げてきた。裏を返せば、彼も私のことが気になっていて、私のために、あえて気持ちを押さえ込もうとしていたんだと思います」
「それがWAACKの効果もあってか、私の女性としての魅力に骨抜きにされてしまったと言うんです」

「もともとがゲイのダンサーが自分を女性らしく見せるためのものですから、女が踊るとさらにセクシーに見えたのかもしれません(笑)」

こうして晴れて、正式に交際することになった。

バイト先のみんなに報告すると、心から祝福された。

「なぜか私以外の人は、皆、彼が性同一性障害でFTMだと知っていたんですよね(笑)。おまけに彼は誰にでも公平に優しかったから、慕われてもいたし尊敬もされていた」

「彼と付き合えるなんていいな、ってみんなから羨ましがられました」

04 両親へのカミングアウト

同棲を始める前に

実際に交際が始まると、今までの男性との付き合いとは全然違う、安らぎがあった。

「日々の交際の中で、たいていの女性は、相手に自分の気持ちに共感してほしいと考えていると思うんです。決して、愛を押し付けられるのではなく。彼は女性の気持ちもあるからか、そのあたりをきちんと理解してくれて」

「ずっと一緒にいたいな、という思いが募っていきました」

気づいたら自分が彼の部屋に通いつめる、半同棲状態になっていた。自分も一人暮らしをしていたが、契約更新を間近に控え、本格的に一緒に住むことを考え始めていた。

「そうなるとどうしても、私の親の承諾が必要になってきます。どう伝えるべきか、彼と相談をし始めました」

親からの友達申請

「両親に彼との同棲の話をしたら、父が反対しました。一人で頑張ると言ったから、家から出してやったのに、と。彼に会わせろ、とまでは言わなかったけれど、どんな人なのか、結婚の意志はあるのか、と問い詰められました」

彼は戸籍変更はしていなかったけれど、改名も済ませ社会では男性として仕事をしていたので、名前と年齢、飲食の現場で働いているうちに出会ったと、その馴れ初めも告げた。

「結局、母が説得してくれて、無事に彼との同棲生活が始まりました。彼がFTMであることをカミングアウトしていないことは心苦しかったけれど、バレたら彼と一緒にいられなくなる、と思って言えなかったんです」

「それと、やっぱり両親にも、必要以上に心配をかけたくなかったし」

しかし事件が起こった。彼の名前でネット検索した父親が、Facebookで直接彼へ友達申請をしてきたのだ。

親へのカミングアウトについて、ちょうど彼と真剣に話し合っていたときだった。

「私にも父からLINEで『お前の彼氏は女なのか?』と、メッセージが届きました」

どう返信しようかと悩んでいたら、彼が「事実を隠していたお詫びも込めて、俺が返信するよ」と言ってくれた。

「数日後、父からメッセージがありました。野の花の選んだ人だから、応援するよ、と。彼の誠実さが、父にも伝わったんだと思います」

「この人の子に生まれてきてよかった、心からそう思いました」

05 最愛の彼と思い描く未来

愛する“男性”が性同一性障害だと知っても,05最愛の彼と思い描く未来,皆川野の花,ALLY

一緒にいられれば

一方、今に至っても、母親から彼に関しての言及はない。

父親から聞いて全てを知ったのだろう、会えばたまに「結局、結婚はどうするの?」と聞かれることがある。

「たぶん、今の彼とは子供が作れないことが、母には気がかりなんでしょうね。気持ちは十分わかるので、なんと答えていいか、悩むことがあります」

「彼は今、飲食業に従事しながら、LGBT関連の団体を株式会社化しようと懸命に頑張っています。その仕事が軌道に乗ったら、私の両親に正式に挨拶するとも言っていて。今は機が熟するのを待つしかない、とも思っています」

彼は乳腺の手術を終え、定期的な男性ホルモン注射の治療を受けてはいる。

とはいえ、日本ではそれだけでは、女性から男性への戸籍変更はできない。

「戸籍変更するための性別適合手術は、命の危険も伴います。彼が元気でいてくれれば、それでいい。いちばん怖いのは、彼を失ってしまうことなんです」

個人を見て

FTMの彼と付き合うようになって、LGBTに対する考えも大きく変わった。

「彼は自分の性自認に悩んで、自殺をしようと思ったことがあるらしいんです。その話を聞いてから、例えばテレビでオネエタレントを観ても、素直に笑えなくなりました。この人たちも一度は自殺を考えたことがあるかもしれないし、いろいろな心の葛藤を抱えているんだろうな、と思うからです」

また性別ではなく、個人を愛することの大切さを、より強く認識した。

「結局は、その人が好きかどうかだと思うんです。性別は、単にその人にくっ付いているだけに過ぎません」

「女性同士で付き合っていると言うと、よくエッチはどうしているのか、と訊かれることもありますが、それは愛情表現のひとつに過ぎないし、お互いを思えば、乗り越えることのできる問題です」

「そういう性の障壁を乗り越えて、愛する人と出会えた。それが何よりの喜びだし、私はもっともっと彼個人の人柄を見つめながら、ともに歩んでいきたいと思っています」

皆川さんのジェンダーレスな考え方は、LGBTを受け入れる側の社会にとって、非常に有益なものに映る。より多くの理解者=ALLY(アライ)の出現こそが、セクシャルマイノリティの問題を解決する手立てとされる今、性別ではなく、目の前の大切な人、その個性をもっと見つめたい。

あとがき
美しい立ち姿、ハツラツとした話しぶりの野の花さん。打ち明けられた戸惑いを経て、過ごしてきた時間を肯定していた。世の中で言われる性別について、ぼんやりとたまに、今も考える時がある。そんな野の花さんの横顔は澄んでいた■直感力が、努力して得た経験が土壌になるものだとすれば―― そう、野の花さんの直感力は磨かれているように感じた。偶然ではない彼との出会い、表現する愛情は大きな笑顔とダンスと同じ、リズムのように自由だった。(編集部)

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