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Writer/チカゼ

胸オペ体験記 inタイ~ノンバイナリーのぼくの記録①

突然だけど今ぼくは、タイ・バンコクにいる。胸オペのために2022年の6月20日から渡航し、22日に念願叶って手術を受けることに成功したのだ。現在はバンコク市内のホテルに滞在し、ホテルで療養もとい、食っちゃ寝生活を送っている。というわけで、今回からノンバイナリーの胸オペ体験記inタイの連載をしていこうと思うんだけど。その序章として、なぜぼくがタイで手術を受けることに決めたのか語ってみたい。

胸オペについて調べまくった高校時代

具体的に何歳のときに胸オペを決意したか、というところまでは覚えていない。ただ高校生のときにはもう、胸オペについて調べたりはしていた気がする。

パソコンで情報収集しまくる日々

ぼくが高校生だったころは、まだまだガラケーが一般的だった。ぼくも例にもれず、当時流行っていたスライド式のガラケーを使用していた。

どっちが本体だかわからないくらいでっかいぬいぐるみ(ヴィレッジヴァンガードかどっかで買ったやつ)のストラップをぶら下げ、バッテリー挿入部の蓋の裏側に当時の恋人とのプリクラをはっつけたりなどなどしていた記憶がある。

ガラケーというのはスマホとはまったく違って、インターネットにはアクセスできるものの、込み入った調べ物はパソコンにはかなわない。画面がちっちゃいし、そもそもガラケー用に作成されているHPなどもあまり多くなかった。

だから高校入学時に貯めたお年玉をはたいて購入した中古のノートパソコンや、学校のパソコン(Excelの操作方法とかを習う授業がぼくの母校では必修だった)を使い、「胸 取る 手術」「性同一性障害 乳房 切除」とかそういうワードでググりまくっていた。

「おなべ」や「性同一性障害(性別不合・性別違和)」の人は胸オペをしているらしいと知って

そのころはまだ、トランスジェンダーだとかFTMだとかノンバイナリーだとか、そういう言葉は知らなかった。ぼくがその単語にたどり着いたのは、卒業前後くらいの時期だった気がする。でも「おなべ」とか「性同一性障害(性別不合・性別違和)」という単語は、TVかなんかで知っていた。

自分がそれに当てはまるかどうかは、正直よくわからない。クラスの男子みたいなでっかい体や低い声がほしいとは思えないし、第一そのころはまだ「男性」としか交際経験がなかったために性的指向は「男性」に限られると思い込んでいたから(性自認と性的指向が切り離された概念だとはわかっていなかった)。

けれども検索を重ねるうちに、「おなべ」や「性同一性障害(性別不合・性別違和)」と呼ばれる人々の中には、どうやら胸を切除する手術(胸オペ)を受けている人もいるのだという情報をつかんだ。

先生に訊かれた「体についてコンプレックスがあるの?」

深く調べていくうちに、「どうやら乳房切除術だけではなく “乳房縮小術”」というものがあるらしいぞ」という知識を得た。

それは大きなバストを持つ人のための手術であり、太って見えたり下垂していることをコンプレックスに感じている人が受けるもののようだ。“もし将来胸オペを受けるのなら、乳腺切除(乳房切除)術じゃなくて乳房縮小術がいいな” 直感で、そう思った。

ところで授業中にそんなことを検索してたもんだから、当然ぼくの検索履歴は学校側に筒抜けとなった。そして当時、ぼくはふくらんでいく胸と同時に伸び悩む身長についても非常に気に病んでいて、胸オペとともに骨延長術っていう背を伸ばす手術についても調べていた。するとある日、不穏な検索ワードを心配した副担任に生徒指導室へと呼び出され、「体についてコンプレックスがあるの?」とおそるおそるたずねられてしまった。

そのときは先生のすこぶる真剣な顔つきがなんだか妙におかしくて笑っちゃったんだけど、今考えるとこの言葉選びはありがたかったなあと思う。だってこのとき、もし「男の人になりたいの?」なんて聞かれてたら、きっと死にたくなってた。

たぶん先生たちの間でいっぱい相談して、いっぱい考えて、その末の精一杯配慮した問いかけだったんだろう。卒業後その先生と飲みにいくことがあってカムアウトしたのだけど、「なんとなく気づいてたよ」と優しく微笑んでくれて胸が熱くなった。

ノンバイナリーのぼくの理想の「胸」とは

ところでなぜぼくが胸オペにおける一般的な乳腺切除(乳房切除)術ではなく、あえて乳房縮小術を希望したのか、そこについて今一度まとめてみようと思う。

性別がわからない身体がほしい

再三NOISEでも書いてきた通り、ぼくは「女性」に見られることへ強い抵抗感を覚える。でも、「男性」に見られることもまた、同じく気持ち悪いのだ。だから、胸を完全に根本から切り落とすんじゃなくて、うっすらふくらみを残したいと考えるようになっていった。

ぱっと見で性別がわからないような、そういうニュートラルな身体がほしい。裸を見た人が「男性? 女性? どっちだろう?」と首を傾げるくらいの性別不詳な容れ物こそが、自分の性自認と一致する。

「乳房」はないけど、「胸板」もない。自身のセクシュアリティへの理解を深めるとともに、自分の中の「なりたい体」のイメージが固まっていった。

でも結局ぼくの身長は150センチくらいで止まってしまったから、残念ながら「ぼくの思うニュートラルな身体」にしたとして、おそらく見知らぬ他人はぼくを「女性」と分類するだろう。みんな胸だけ見て性別を判断するわけじゃないだろうから。

でもまあ、もうそれはしょうがない。30歳になった現在は、この低い身長もそこそこ気に入っているし。

ノンバイナリーは性別不合(性別違和、性同一性障害)の診断が降りないと勘違いしていた

「乳腺切除(乳房切除)術ではなく乳房縮小術を受けたい」という希望が確固たるものになったときにはもう、ジェンダー外来での施術ではなく美容整形外科での施術でしか自分の望みは叶えられないと思い込んでいた。

だから、そこからはもうジェンダークリニックはすっ飛ばして、あらゆる美容整形外科のHPを漁りまくっていた。それにそもそもノンバイナリーにはてっきり性別不合の診断はつかないとばかり思っていたので、FTMのようにジェンダークリニックでは引き受けてもらえないと勘違いしていたのだ。

乳房縮小術を行なっている美容整形外科を調べると、手術費はどこもだいたい100万近くしている。高いなあ〜と嘆息していたけど、しょうがないので大学生になったくらいからコツコツとアルバイト代などを貯め込み、いつか来るその日に備えていた。

担当医の「ノンバイナリー」の知識に対する不信感

胸オペ代がおおむね貯まったのは、27歳くらいのとき。そこから本格的に、いくつかの美容整形外科に目星を付け始めた。

クィアへの施術実績があるいくつかの美容整形外科へ

そのころ美容整形外科でも、FTMやFTXを対象に胸オペを施術しているところが増えていた。せっかくならセクシュアルマイノリティに理解のある病院で胸オペを受けたいと思い、クィアへの施術実績のある美容整形外科をリストアップして、実際に問診の予約を取ったのだけど。いざ足を運んでみると、なんていうか、もやもやの残る説明しか得られなかった。

まず、どこの病院も押し並べて診察時間が短かった。「FTMではなく、いわゆるFTXである(まだノンバイナリーという言葉が広まっていなかったため、あえてXジェンダーという表現で代用した)。

それゆえに男性的なフラットな胸ではなく、うっすらふくらみを残した仕上がりを希望している」と伝えても、理解しているのかしていないのか「ふんふん、はいはい」とろくにこちらの顔を身もせず見積もりを出されて終わることがほとんどだった。

ノンバイナリーへの理解度の不安と、リスクについての説明の少なさ

30分も満たない診察、ノンバイナリーへの理解度の深さの不明瞭さ、そしてなによりリスクについての説明の少なさ。これらがぼくの不安を煽り、結局どこの病院にもピンと来なくて、いったん美容整形外科めぐりを中断した。

なんだかなあ、HPには「FTMの方だけでなく、Xジェンダーの方も受け入れてます」って書いてあったのになあ。あの先生は、ほんとにちゃんとXジェンダーについて知ってるのかなあ。そういう悶々とした気持ちを抱えたまま、毎回帰路についていた。

もちろんすべてのクィア対象の胸オペを実施している美容整形外科が、この程度の理解であるとは思っていない。たまたまぼくが当たった医師らのセクシュアルマイノリティに対する知識が、ちょっぴり不審だっただけの話だ。

「日帰り・一泊のみ」への恐怖

日本で胸オペを受ける場合、そのほとんどが日帰りかもしくは一泊のみという事実にも個人的には恐れを抱いていた。というのもぼくは昨年末に虫垂炎で緊急搬送されたんだけど、その術後に嫌というほどの地獄を味わったのだ。

まず麻酔の副作用による吐き気で夜通し吐きっぱなしだったし、尿道カテーテルが不快で不快で仕方なかった。数日間は介護用ベッドのリクライニングを使用しないと自力で起き上がることもできなかったし、1週間くらいは普通に歩くこともできなかった(背筋を伸ばすと傷口が引きつれて痛むため、オランウータンのような姿勢でしばらく生活していた)。

いや、日帰りとか一泊とか、絶対むりじゃない? どうやって自力で歩いて自宅に帰るの? 病院付近のホテルに滞在しても、そのホテルにたどり着く自分さえ想像できないんだが?

そんな恐怖がぐるぐる渦巻いていたのも、日本の病院めぐりを中断した一因である。

タイでの胸オペを決意!

胸オペをしたい。でも、なかなかピンとくる病院にめぐり会えない。そんな葛藤を抱えていたある日、それまでは選択肢にすら入れていなかった「ある方法」が浮上する。

タイ=SRS(性別適合手術)のイメージだったけど

あるとき何気なくNOISEの担当さんにそのことを愚痴ると、「胸オペならタイも選択肢に入れてみては?」と教えてもらった。よくよく話を聞いてみると、NOISEの運営会社ランドホーは、タイでのSRS(性別適合手術)のアテンドサポートも行っているらしい。

担当さんの好意でざっくりとした見積もりを出してもらうと、なんと日本の美容整形外科のざっと半額以下ではないか。航空券・ホテル代・その他もろもろの費用を含めても、断然タイの方が安上がりだ。

しかも数日間しっかりと入院させてもらえるし、なにより実績も日本より豊富で技術も高いと聞く。タイといえばSRS(性別適合手術)のイメージしかなかったので、ハナから選択肢から外していた。FTMないしMTFの人たちだけがタイへ渡航するのだとばかり思っていたのから、これは盲点だった。

次回から本格的な胸オペ体験レポ inタイを書いていくよ!

学生時代いろんな国へ貧乏旅行をしまくっていたおかげで、「海外」への抵抗感もそれほどない。デタラメなカタコト英語しかしゃべれなくても、案外なんとか生きていけることも知っている。じゃあもういっそ、タイでやっちまおう。

そんな経緯で、ぼくはタイ・バンコクのヤンヒー病院で胸オペを受けることに決めた。ちょうどこれを書いている今日再診を受け、問題なしと言われたために、予定通り数日後に帰国する。ちなみに仕上がりは最高で、固定用のバストバンドを付け直すたびにぺたんこになった胸を見てはニヤついている。

次回から本格的な胸オペ体験レポを書いていくので、胸オペを考えているすべての人、特にぼくみたいな「乳腺切除(乳房切除)」ではなく「乳房縮小」を望む人は、ぜひ読んでくれると嬉しい。

 

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