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たった1人との出会いで、Xジェンダーやアセクシュアルってカテゴリーを気にしなくていいかなって思えた。【後編】

たった1人との出会いで、Xジェンダーやアセクシュアルってカテゴリーを気にしなくていいかなって思えた。【前編】はこちら

2017/10/14/Sat
Photo : Taku Katayama Text : Ryosuke Aritake
和泉 直 / Nao Izumi

1988年、北海道生まれ。女性として生まれたが、幼い頃から自らを女性と思ったことがなく、大学4年の時に「Xジェンダー」「アセクシュアル」という言葉と出会う。大学卒業後は声優を目指し、専門学校に進学。後に東京の声優事務所に所属するが、2年弱で退所。現在はショッピングセンターのインフォメーションを務める一方で、ライター活動も行う。

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INDEX
01 ありのままの自分と隠していた過去
02 馴染めなかった女の子の遊び
03 “普通” でいたかった学生時代
04 性別を気にしないでいられた家庭
05 男として接してほしかった
==================(後編)========================
06 “Xジェンダー” と “アセクシュアル”
07 真意が伝わらない理由と伝える術
08 社会に出て強く感じた “性別違和”
09 性別を気にしなくなった理由
10 性別を超えた関係を築ける相手

06“Xジェンダー” と “アセクシュアル”

救いとなったXジェンダー

本当の自分を知りたかったため、精神医学を学べる大学に進んだ。

『3年B組金八先生』で知った性同一性障害に、ずっと関心があった。

大学4年で論文のテーマを検討している時、ふと調べた性同一性障害から、Xジェンダーというワードと出会った。

「周りの人からずっと男として接してほしかったから、自分は男性だと考えていたんです」

「でも、体を変えたいとは思っていなかったから、男性とも言えないな、 という思いもありました」

「趣味も好みも女性的だから、みんなに認めてもらえないだろうなって」

男と言い切れない部分がある自分にとって、Xジェンダーというカテゴリーは救いになった。

「そんな言葉があるということは、私みたいな存在を認めている人がいるんだと思って、安心しました」

「論文では、性別二元論について書こうって決めました」

障がい学の教授が「障がい者の方も、保険や病名の問題でカテゴリーからあぶれちゃう人がいるから、同じ感覚かもね」とサポートしてくれた。

「性別違和を否定せず、別の悩みに置き換えて理解してくれたことが、うれしかったです」

「悩みの種は違っても、悩んでいることはみんな一緒ということに気づけたんです」

「セクシュアルマイノリティでも、人間であることに変わりはないって感覚になれました」

性別という曖昧なもの

新しい言葉を知って安心したものの、「自分は精神的に安定していないから、Xジェンダーだと思い込んでいるだけかも」という気持ちも湧いた。

女性として生きてみようと、女性らしいとされる服装を意識した。

ファッションの楽しさには、気づくことができた。

しかし、ストレスで体調を崩し、倒れてしまった。

「やっぱり具合が悪くなっちゃったので、自分は女性としては生きていけない、って実感しました」

自分は女性ではなく、男性とも言い切れない。

やはり、Xジェンダーが一番しっくりきた。

卒論では “男女という2つに括れない性別って、なんて曖昧なんだろう” と結論づけた。

恋愛感情を抱かないアセクシュアル

卒論の研究を進めていく中で、アセクシュアルという言葉も知った。

“他者に恒常的に恋愛感情や性的欲求を抱かない” セクシュアリティだ。

20歳の時、アルバイト先で出会った面倒見のいい男性に対して、友だち以上で家族みたいだ、と思った。

そのままの気持ちを告げたが、彼は自分のことを「彼女」として見るようになった。

「私はつき合ったつもりもないし、彼女という響きにも違和感がありました」

女じゃない!という気持ちもあった。

相手の男性も、家族みたいに思ってくれていると勘違いしていた。

「別の男性の先輩からもつき合っていると勘違いされ、『ナオちゃんは俺のことが好きなんだと思ってたのに』って、冷たくされました」

「親しい人と近い距離で接しちゃいけないの?・・・・・・って、大きな衝撃でした」

バイト先の男性に恋愛感情が湧かなかっただけで、いつかは恋をすると思い、仲のいい男性から告白されたらつき合うようにした。

「たまたま “その人” だから恋愛の気持ちが湧かないだけで、他の人となら恋人になれるのかな? と、何度か男性とおつき合いしたんです」

しかし、相手に親愛感情は湧いても、恋愛感情や性愛感情が湧くことはなかった。

「自分は強い絆がある人にだけ、恋愛や性愛感情を抱くデミセクシュアルかも、って希望を抱いていました」

「今のパートナーと出会ってからは、やっぱりアセクシュアルなんだろうなって感じていますね」

07真意が伝わらない理由と伝える術

伝わらないカミングアウト

昔から「私は女じゃない」と言ってきたが、Xジェンダーというワードを用いて少しずつ伝えられるようになった。

しかし、伝わりづらさはあまり変わらなかった。

「Xジェンダーという言葉を初めて使ったのは、アルバイト先でしたね」

「私はXジェンダーで、女性じゃないんです」と伝えた。

先輩や同僚から返ってきた言葉は「じゃあ、男ってこと?」。

「説明してもうまく伝わらなくて、『私自身と接してくれば・・・・・・』としか言えなかったですね」

当時はメンズの服を着て過ごしていたが、それでも信じてもらえなかった。

「雰囲気が女子じゃん」「宝塚っぽいね」で、話は終わってしまう。

「私が言っていることを本気にして、ってずっと思っていました」

説得力を増す方法

周りから女性としか見えないなら、「変だ」と言われるような発言は控えようと思った。

「声優を目指すタイミングで、私は背が高いから、武器になるようにしようって磨き始めたんです。秘書検定などの資格も取ったんです」

「そうしたら、周りがとてつもない勢いで変わっていきました」

「かわいい」と言われるようになった。

言葉そのものよりも、努力が認められたことに対する喜びがあった。

我慢できず「自分は女だと思っていない」と言ってしまう時もあったが、周囲の反応は明らかに変わった。

「キレイにした途端に、話を聞いてもらえるようになったんです」

周りから「そんなにキレイでそう思っているなら、本当なんだね」と言われるようになった。

ファッションやメイクを好きになったため、キレイに整えることは決して苦ではなかった。

「女性としての自覚はないけど、素材を生かして、自分自身を着せ替え人形にして楽しむことはできました」

周りから認められることで、精神的にも次第に安定していった。

「ただ、女性のように生きて1年経っても、自分の中で違うって気持ちは残っていました」

社会に出てから、セクシュアリティを隠さなければ生きられない現実を突きつけられた。

08社会に出て強く感じた “性別違和”

声優という仕事の現実

中学生の頃から、低い声でしゃべる練習をした。

その結果、声の幅が広がり、声優という道を選ぶことができた。

声の仕事に性別は関係ないと考えており、男子のキャラクターを演じられると思っていた。

しかし、声優事務所では女性であることを求められた。

「事務所から、私の声は『色っぽい女性キャラクターに向いてる』って言われたんです」

「『イメージが大切だから、普段からタイトスカートをはきなさい』って、服装にまで言及されました」

「黙っていれば美人なんだから、『女じゃない』とか変わってるアピールはやめろ」と強く言われた。

事務所に入ってすぐ「思っていたものと違う」と思った。

求めたのは男として生きられる場所

声優の専門学校に通っていた頃、生徒は女性が多かったため、授業の一環の舞台公演で、男子役を任される機会があった。

配役が決まってからは、舞台以外で男子っぽく振る舞っても、周りは役作りと捉えてくれた。

「男の子の役も男として生活できることも、すべてに対してうれしさしかなかったです」

「芝居って楽しいなって思いました」

しかし、いざ声優になってから、その思いは勘違いだと気づいた。

「単に自分が男として生きられる場所が欲しかっただけで、芝居が好きなわけじゃなかったんです」

「その後、女性の役をやるたびに苦しくて仕方なかったから」

「本当に芝居が好きだったら、どんな役でも楽しめるはずですよね」

声優としての能力は評価されていたため、事務所に入ることができた。

素質もあると言われていたが、「本当の私」は認めてもらえなかった。

「『黙っていれば美人で売れるんだから』って、強く釘を刺されましたね」

「声優になったことで縛られてしまって、その頃が一番性別違和を感じていた時期かもしれないです」

事務所に入ってから1年11カ月後、声優を辞める決断をする。

男子高校生として生きた瞬間

声優を辞めてから、友だちが主宰する演劇団体の舞台に参加した。

学園祭をテーマにした作品で、男子高校生の役に立候補した。

ずっと男子として学生生活を送ってみたかった。

「この願いは声優で実現しようと思っていたけど、できなかったんです」

「だから、この舞台に出ることで、自分の思いを昇華させられたらって考えました」

男として舞台に立てたことはうれしかった。

同時に、自分はどうしたって男には見えないということも思い知った。

「『男装』『イケメン』って言われて終わってしまうことがわかったから、芝居の感情までは届けるのは難しいんだな、って思いました」

「これから『男役をやりたい』って主張するのは、無理なんだろうなって思いました」

声優、舞台で経験できた男性役。

その経験によって、気持ちに区切りをつけることができたのかもしれない。

09性別を気にしなくなった理由

性別はあくまで戸籍上のもの

今、学生の頃のような「男として接してほしい」という気持ちは、ほとんど抱いていない。

「制服とか授業とか、学生時代は性別による記号がたくさんあるから、こだわっていましたね」

「社会に出てから服は好きなものが着られるし、仕事も選べるから、気持ちはラクです」

今の職場は男性が少ないため、自分自身と比較しないですんでいる。

書類やアンケートを書く時、性別欄の「女」に丸をつけることにも昔ほど抵抗がなくなった。

「できるなら男性に変更したいけど、戸籍は所詮戸籍に過ぎないから、気にしなくていいって思えるようになりました」

「周りから『変だ』って言われていた頃は、男女で区別されることが嫌でした」

「でも、今は区別されない環境を自分で選べるから、あくまで戸籍の性別を書くだけって割り切れています」

「たまに『男』に丸をつけますけど(笑)」

運命的な仲間との出会い

性別の呪縛から解き放たれたのは、人との出会いがきっかけだった。

「声優を辞めてから、私をありのまま受け止めてくれる2人の仲間に出会ったんです」

「2人は絶対的に私を信用してくれて、ずっと一緒にいられるって信頼もあります」

「だから、今の私は自由でいられています」

1人は、性同一性障害をテーマにしている演劇集団「トランス☆プロジェクト」の舞台に参加した時に出会った男友だち。

彼は、「誰だってみんな人間でしょ」と大らかに受け止めてくれた。

その友だちと再び舞台に参加した時に、知り合った男性がもう1人の仲間。

現在のパートナーだ。

10性別を超えた関係を築ける相手

「この人と食卓を囲みたい」

舞台出演を通じて知り合った男性は、当たり前のようにありのままを受け入れてくれた。

何も言わなくても、自分が女性として扱われることを嫌がっていることを、理解してくれる人だった。

そして、何よりも一緒に食べるごはんがおいしかった。

同じタイミングで「うまい!」と言うことが多かった。

さまざまな場面で、言動がシンクロすることに驚いた。

「この人とずっと一緒に、ごはんを食べていたいって思ったんです」

「やっぱり恋愛や性愛的な感情は抱かなかったけど、この人と食卓を囲みたいなって」

「家族になりませんか?」と告白した。

彼は自分のことを女性と見ていなければ、恋愛対象としても見ていなかった。

居心地のいい友だちという関係性だったが、「一緒にいたいから」と受け入れてくれた。

2人で過ごすようになってから、今年で4年目。

相手を尊重し合える関係性

彼に対しても恋愛感情や性愛感情は抱かない。

ハグや軽いスキンシップはするが、性行為には至らない。

しかし、相手はストレートの男性。

「性的な感情は芽生えないの?」と聞いてみたことがあった。

彼は「自分でどうにかできる」と言ってくれた。

「一緒にいるようになった1年目は頑張ってトライしたんですけど、何も思えなくて(苦笑)」

「・・・・・・申し訳ないなと思いましたね」

「ただ、彼も『嫌なことを無理やりするのは違うから』って言うので、甘えています」

2人の関係は、彼が相手を尊重してくれる人だからこそ、成り立つものだと思っている。

いままでは彼女扱いされることに嫌悪感を抱いたが、彼だったら「彼女」と言われても平気だ。

「彼と一緒にいられるなら、周りから彼女とか妻とか、女性の呼称を使われることも受け入れようって思えるんです」

「彼がもし『男っぽい格好をするな』って言うなら、言われた通りにしますね」

しかし、彼は「ナオはナオのままでいいよ」と言ってくれる。

そんな人だから、「あなたのためなら」と思えるのだと感じている。

「互いに尊重できている感覚があります。居心地がすごくいいんです」

女性として生まれてきた意味

戸籍上、彼は男性で自分は女性。

現在の日本の婚姻制度で結婚できる間柄に、どこか安心感を抱いている。

「今でも、心のどこかで『普通でいなきゃ』って思っているのかもしれませんね」

「だから、はたから見たら普通だと思われる関係に、安心しているところがあります」

「ただ、彼と出会えたから、自分自身を認められた部分もありました」

自分が女性の体で、女性の戸籍で生まれてきた意味を、ようやく得ることができた。

彼が男性だったから、自分は女性として生まれてきたのだと思えている。

「生まれて初めて、お母さんに『産んでくれてありがとう』って言えました」

「私のセクシュアリティに関することを置いておけば、彼との子どもを授かれる可能性があるから、それも意味があるんだろうなって」

「・・・・・・でも、自分が生むという覚悟ができるかはわかりません。とてもむずかしいです」

彼と出会ったことで、ずっと引っかかっていた性別というものを意識しないようになった。

「本当の自分はどこにいるんだろう」という感情は、いつの間にかなくなっていた。

「彼がいてくれるだけで何でもいいやって、もやが晴れたような気分です」

「認めてくれる人がいるから、セクシュアリティってカテゴリーを気にしなくていいかな、って思えるようになりました」

女でも男でもない自分自身を、そのまま受け止めてくれる人に出会えた。

それだけで、いつもの景色がまったく違って見えた。

あとがき
直さんは、どの話も過去のこととして明るく話した。「・・・辛かったんだと思います」「お母さんが生きていて優しくしてくれたから、私も生きていられた」。重なった結びに、思い出す心が少し心配になった■チャンレジするほど、毎日は目まぐるしく変わる。取材から公開までの間にも、きっと新しく思い知る場面があったに違いない。でも、そのたびに気づき、変わっていく直さんを知っている。辛さもしあわせも教えてくれるのは、人だと知っている。(編集部)

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