INTERVIEW

みんな迷いながら生きている。LGBTだけが、特別なわけじゃない。【前編】

まだインターネットで情報を得ることができない、1980年代に思春期を送りながら「自分がゲイであることに悩まなかった」と答える池田さん。「LGBTだけが特別ではない」という考えが根底にあるからだ。「異性愛者もマイノリティも、人間は誰しも悩みを抱えて生きているから」。広い視点で自らのセクシュアリティを俯瞰できる池田さんの半生とはどんなものなのか。

2017/01/13/Fri
Photo : Taku Katayama Text : Koji Okano
池田 元邦 / Motokuni Ikeda

1972年、東京都生まれ。高校卒業後、カラーコーディネーターとインテリアコーディネーターの専門学校を修了するも、店舗設計の勉強にと始めた飲食店のアルバイトで接客業の楽しさに目覚める。現在も飲食業界で働きながら、学校で習得したカウンセラーの資格を生かし、セッション等も行なっている。

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INDEX
01 お母さんに甘えちゃいけない?
02 理想は「キャプテン翼」の岬くん
03 女の子と付き合ってみたい
04 まだ恋だとは気づかずに
05 あっ、自分はゲイだったんだ
==================(後編)========================
06 本気の恋愛の悲しい結末
07 ヘテロセクシュアルに恋して
08 人生で最も濃密な4年間
09 家族へのカミングアウト
10 たくさんの人と関わっていきたい

01お母さんに甘えちゃいけない?

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嫌われないように

父親はサラリーマン、母親は自宅で美容院を経営していた。4つ下には妹がいる。

「とにかく両親ともに忙しくて、家にいる時はいつも一人でした。妹が生まれて物心がつくまでは、自宅にいても、ずっと一人ぶつぶつ呟いているような子供でした」

寂しい時は、隣の家に遊びに行くこともあった。

子供ながらに「申し訳ないなぁ」と思いながら、そのまま夕飯をご馳走になり、お風呂まで入れてもらった。

自分より年上のお兄さんやお姉さんと遊んでもらえることが嬉しかったのだ。

「とくに母が忙しい時には、祖父や親戚の家に預けられることもありました」

仕事に追われる両親、面倒を見てくれる大人たちに囲まれて育ったことで、常に他者の目を気にしながら、遠慮して過ごすようになった。

「忙しい母を困らせちゃいけない、甘えちゃいけないと思って育ちました。あと親切に自分の面倒を見てくれる近所の人や親戚、おじいちゃんの前では、いい子にしないといけないとも感じていました」

とにかく周囲の大人に嫌われないように、という考えが染みついた。

そんな母親との思い出といえば、幼稚園のときに買ってくれた「バーバーパパ」の絵本だ。

書店に行けば、いつもその本を気に留めている自分を察して、プレゼントしてくれた。

「カラフルな絵本で、子供ながらに開いてワクワクしていました。将来、カラーコーディネーターの勉強を志すのも、小さな頃から絵本が好きだった、ということが大きい気がします」

2つの顔

人に嫌われちゃいけない、他人の目を気にする性格も、幼稚園、小学校と進んで同学年の友達と接するうちに、少しずつ変わっていった。

「友達といるときは、素の自分でいられました。なにも気を遣うことなく、男女も問わず一緒に、外を駆け回っていました」

しかし外遊び気分の高揚のまま、家に帰って働いている母親に甘えると、やはり叱られることもあった。

「仕事中は静かにしなさい、と怒られました。まだまだ近所の人や親戚に面倒を見てもらうことも多かったので、大人の前では常にいい子でいるように心がけは、進級しても変わらなかったですね」

小学校に上がってからは、母親に勧められたそろばんと、絵画教室に通い始めた。

「自分が絵本好きなのを知っていた、仲のいい友達に誘われたのがきっかけです。絵も描けば、凧も作るような絵画教室」

「自由な雰囲気で楽しかったです」

大人の前では遠慮しながら、しかし友達の前では気兼ねなく。

2つの顔を持ちながら過ごした幼少期だった。

02理想は「キャプテン翼」の岬くん

他者の目

小学校のクラブ活動ではサッカー部に所属。短距離走が得意だったこともあって、顧問の先生に誘われ、陸上部も掛け持ちしていた。

音楽と図工が好きだったが、他の強化も成績は一通り良かったため、学級委員に選ばれるような目立つタイプの生徒だった。

「恥ずかしがりやで、人前に立つと赤くなる性格なので。目立つことも、学級委員に選ばれることも、嫌で仕方がありませんでした」

「なんとなく同級生にも合わせてしまう癖があったので、空気を読めたぶん、嫌われることもなかった。だから学級委員にも選ばれたのかもしれません」

「けれど自分に自信がなかった。だから目立つことで、陰で悪口を言われてるんじゃないかって、いつも気にしていました」

「とにかく輪に溶け込みたい、調和を大事にしたいと思う子供でしたから」

幼少期の経験から、どこか周りの顔色を伺いながらの小学校生活だった。

話せない

小学生のときに夢中になった漫画。

週刊少年ジャンプに連載されていたサッカー漫画「キャプテン翼」だ。大きな社会的反響を呼んだ作品で、テレビアニメ化もされた。

「当時は周りの男子、全員がハマっていましたね。みんなサッカーボールを蹴りながら、学校に通っちゃうくらい」

「僕の場合、部活でもサッカーをしていたから夢中になったけど、実はある登場人物にときめいていました」

主人公・大空翼ではない。その親友、岬太郎の方だ。

「サッカーもうまいのに、スマートな感じで好きでした。しかも優しそうだし。色白で整った顔立ちも好みで。昔から、スマートで洗練されていて、品がある人を好きになる傾向があります」

「このころから、漫画やドラマを観ていても『登場人物の中で、誰が好きかな?』と考えていた気がします」

なんとなくではあったけど、男でありながら男に興味を持ち始めている、それを自覚し始めたころだった。

「恋愛感情というより、同性の身体に興味を持ち始めたのがきっかけでした。体育の着替えで、かっこいい子の裸が気になったり」

しかし気になりだすと、逆にその子を意識しすぎて、話せなかった。

「今から思えば、好きになる男の子は勉強も運動もできて、女子にも人気のあるタイプばかりだったから、気後れして話しかけることができなかったんです」

「逆に話していて楽しい同級生は、単なる友達。気安いクラスメイトとの方が、仲良くなれたんですよね」

実は小学5年生のときに、男性への初恋が訪れた。

しかし意識するあまり、友達になることすらできなかった。

6年生を前に彼が転校することになったが「元気でね!」と声をかけて送り出すのが、精一杯だった。

03女の子と付き合ってみたい

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初めての彼女

中学校に上がった。

同級生の顔ぶれが少し変わったこと、小学校までとは違ってバドミントン部に入ったことなど、小さな変化がいくつかあった。

より大きな節目といえるのは、彼女ができたことだ。

「小学校高学年のときから、毎年、バレンタインデーにチョコレートをくれる同級生がいたんです。いつも人前で、堂々と渡されるので、恥ずかしかった。冷やかされることもあったし」

「気持ちは有難いけど、まだ小学生だったので、ホワイトデーにお返しするくらいで精一杯でした」

しかし中学生になっても毎年、その子はチョコレートをくれた。

中学2年生のとき「それならば」と思い立ち、気持ちに応えて交際することになった。

「確かに自分のセクシュアリティに疑問はあったけど、世の中的には、男の子は女の子と付き合わないといけないのかな、とも感じていました」

「周りの同級生は女の子を好きだと話しているし、テレビで男女間の恋愛ドラマがたくさん放映されていたので」

加えて彼女に対して、「ああ、いい子だな」という思いはあった。

好きか嫌いかと言われれば、好きは好きという感情。

外見もかわいいというより綺麗、美人といえる人だった。

「結局、中3の受験前までは付き合いました。といっても、中学生の交際なので、一緒に出かけたりするくらい。深い仲にはなりませんでした。二人とも受験のことで慌ただしくなって、疎遠になってしまったけど、とくに失恋で落ち込まなかった」

「もう受験のことで頭がいっぱいで」

初めての恋は、心の痛みを伴わないまま、終わりを告げた。

バイトに明け暮れる

高校はズバリ、私服で通える学校を選んだ。

「いろいろ調べてて、自由な校風でいいなぁと思ったんです。中学くらいから、ファッションにも興味を持ち始めて。好きな服で通えるのは、魅力的に映りました」

高校もバドミントン部に入った。

授業での私服に比べて、やや地味なウェアが気になったが「部活に華を求めない」と決めていたし、何より楽しかったから気にならなかった。

「けれど、アルバイトをし始めると、自分で稼いだお金でモノが買える魅力を知ってしまって。1年で部活はやめてしまいました(笑)」

ファーストフード店、スーパーのレジ打ち、清掃会社のアルバイトなどを体験。稼いだお金で服やCDを買った。

04まだ恋だとは気づかずに

友情の先

学校外でアルバイトに明け暮れる日々だったが、高校2年生のとき、ある男性のことが気になり始める。

相手は同じ学校の同級生だ。

「初めて見たとき、ちょっと衝撃でした。顔が外国人っぽい、ヨーロッパ系の彫りの深い感じなんです。本当にイケメンでした」

スポーツも勉強もできて、すごく目立っていた男の子だったのに、なぜか1年生の頃には、自分の目には止まらなかった。

気になりだしてからは、テニス部の練習風景を見ながら、ああかっこいいなぁ、と気持ちを募らせていた。

「おまけに背もすらっと高くて。うちの高校では、文化祭で『ミス』『ミスター』を選ぶんですが、見事、ミスターに選ばれるような人でした」

昔は周りの目や好きな男子を意識するあまり、意中の人と全く話せなかった。

しかし精神的にも成長して、好きな人と話すくらいならできるようになった。

「でも友達になることはできませんでした。仲良くなると、おそらく求めすぎてしまう、と思ったからです。それより先、恋愛関係になることは不可能と分かっていたから」

「彼のことは好きでした。でも当時は、この想いが恋愛だとは思わなかった。『男性と付き合う』という選択肢が自分の中にはなかったんです」

彼のことは好きだけど、まだ「ゲイ」という言葉を知らなかった。当時はインターネットもなく、いろいろ調べられなかった。

だからこそ、葛藤する術すらもなかった。

たとえ付き合えなくても好きな人と仲良くなりたいと思うのは、もう少し先、男性が好きだと言う気持ちに自覚的になってからだ。

年上の彼女

彼に思いを寄せながらも、アルバイト先には彼女がいた。相手は3つ年上の女性で、専門学校生だった。

「素敵な人だな、と思って自分から彼女に告白しました。学校では彼に思いを寄せながらも、世の中的には、やっぱり男は女と付き合わないといけないんだろうな、とこのときもまだ、感じていました」

彼女とは身体の関係もあった。

「純粋にセックスというものに興味もあったんです。おーっというほどの驚きはありませんでした。こういうもんなんだろうなぁ、って。初めての体験なので、比べるものもありませんでしたから」

しかし、そこに至るまで、たとえばラブホテルを探したり、ということに面倒くささを感じたのは事実だった。

結局、それ以降は、ほとんど身体を重ねることはなかった。

しかし彼女のことは好きだった。数ヶ月の交際を経て別れるが、またバイト先で新しい彼女ができる。

「校内ではなく、バイト先で彼女を作っていたのは、きっと学校だと周りの目が気になるからだと思うんです。意中の彼の知るところにもなるし、冒険できない」

「逆に学校の外だからこそ『そういうもんだ』と割り切って、女の子とも付き合えたんです」

不必要にちやほやされたくないという気持ちも、どこかにあった。

05あっ、自分はゲイだったんだ

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意外な出会い

大学に進学した。

楽しい大学生活を送るはずが、なんとなく同級生と自分の差異に気づき、距離をとってしまう。

「大学生の “ノリ” が嫌だったんです。サークルにも入らず、いつも一人でいました」

そんなとき、不意に男性と関係を持つ機会が訪れた。きっかけはNTTの伝言ダイヤルだ。

「昔はインターネットも出会い系アプリもLINEもないから、誰かと会いたければまずは自分のメッセージを録音して、それを聞き興味を持った異性からの連絡を待つというシステムがあったんです」

「そういうシステムを使えば、女性と知り合える、と聞いたので、興味本位でやってみたんです」

「高校生になってバイトをするようになったくらいから、自分が関心を持ったことは、とにかくやってみようという貪欲さが身についてきたんです」

しかし女性との出会いを求める中で、男性が男性と知り合う伝言ダイヤルも存在することを知った。

「あっ、そういえば僕は、男性にも興味があったなと思って、メッセージを入れてみたんです」

「きっかけは、なんか面白そう、と思っただけなんですが」

新たな扉

伝言ダイヤルを介して、自分より一回り上の30代の男性と知り合った。

数回メッセージをやりとりして、実際に会うことに。

「駅で待ち合わせて、相手の車の中で少し話しました。そうしたらあとはもう、ベッドに直行って感じで(笑)。怖くはなかったです。興味があったから。それに相手もあまり男性経験がないと言っていたから、逆に安心できました」

全てが終わって「あっ自分は、こっちなんだな」と思った。

「間近で他の男性の身体に触れて、あっ僕はゲイなんだな、って気づきました。それに、こっちの方が自分的にはしっくりきたんです」

実は相手は妻帯者だった。かっこいい人だなと思ったが、2回会って関係は終わった。

「奥さんがいて子供がいると聞いて、あまりいろいろ詮索しない方がいいのかな、と思いました」

とにもかくにも、自分の人生の新たな扉が開いた瞬間だった。


<<<後編 2017/01/15/Sun>>>
INDEX

06 本気の恋愛の悲しい結末
07 ヘテロセクシュアルに恋して
08 人生で最も濃密な4年間
09 家族へのカミングアウト
10 たくさんの人と関わっていきたい