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“恋人” はバストロンボーン。オブジェクトセクシュアリティの存在を知ってほしい【後編】

“恋人” はバストロンボーン。オブジェクトセクシュアリティの存在を知ってほしい【前編】はこちら

2022/09/21/Wed
Photo : Taku Katayama Text : Kei Yoshida
山中 雅姫 / Miyabi Yamanaka

2003年、神奈川県生まれ。小学生の頃にゲームのキャラクターにハマり、中学生から好きなキャラクターを擬人化したイラストや漫画、小説を創作。人に対して恋愛感情をもったことがないアセクシュアルであると同時に、物に対して恋心を抱くオブジェクトセクシュアリティ(対物性愛者)である。現在、京都芸術大学通信教育部の1年生。

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INDEX
01 趣味を理解し合える仲良し親子
02 テレサとパックンフラワーはカップル
03 一番の仲良しはリビングのテレビ台
04 バストロンボーンとの出会い
05 Xジェンダーでパンセクシュアルでアセクシュアル
==================(後編)========================
06 私は対人アセクシュアル。できることなら無性でありたい
07 オブジェクトセクシュアリティの存在
08 人ではないパートナーと
09 “おもしろ人間” ではなく “ふつう”
10 趣味と仕事と・・・夢に向かって

06わたしは対人アセクシュアル。できることなら無性でありたい

生まれて初めてのスカート

小学生から毛嫌いしていたスカート。最近は、「いいかも」と思えるようになってきた。

「高校生のときに、初めてピアスを開けて、最高で19個くらい開いてました。耳に18個で、鼻に1個(笑)」

「いまは、耳の2個だけ残してます」

「・・・・・・でも実は、中学生まではピアスなんて絶対開けないって思ってたんです。耳飾りは女性がするものって思い込んでて」

「でも、ユーチューブでピアスの話をしている男性がいて、かっこいいな、開けたな、と思って・・・・・・開けました(笑)」

すると徐々に、ファッションについては、男性っぽいか女性っぽいか、気にならなくなってきた。

「昨年、急に『いまゴスロリの服を買って、スカートをはかなかったら、一生はかない』と思った日があって。急いで原宿行って、ゴスロリの店でワンピースを試着してみたんです」

「ゴスロリといっても、フリル系じゃなくて、軍服っぽいワンピースです」

「それが生まれて初めてのスカート。めっちゃ、良かった。すごい似合ってるなって思ったし(笑)」

思いのほか気に入ったスカート姿を、記念に何枚も撮影した。

対人アセクシュアル

「そこで、せっかくXジェンダーで、男と女の間なんだったら、男女どっちの服も着られて、2倍楽しめるし、着なきゃもったいないじゃんってなって、最近はスカートも買い始めました(笑)」

「自分のなかでは、男と女の真ん中ってことは、つまり無。周りの人は、中性と無性は違うって言うんですけど、真ん中は、どっちもあるか、どっちもないかってことだと思っていて、自分は、どっちもないと思ってます」

「どっちもないほうがいい。なにもないほうが。マネキンみたいに」

無性。もっといえば、家具や楽器と同じ、無生物と近い存在でありたい。
そんな気持ちもあるかもしれない。

恋愛感情も、性的欲求も、人に対しては湧かない。
しかし、無生物・・・・・・つまり物に対しては湧く。

「対人アセクシュアルって、自分のことを表現してます」

そして、やがて、オブジェクトセクシュアリティという言葉を知る。

07オブジェクトセクシュアリティの存在

対物性愛、オブジェクトセクシュアリティを知る

バストロンボーンと出会い、初めて恋という感情が芽生えた。
そういう感情があることを、母に伝えると、冗談だと笑われた。

この感情は、なんなのか。

「ネットで、“物” “恋” で検索したら、それっぽいオープンチャットを見つけたので、さらに調べたら、対物性愛、オブジェクトセクシュアリティって言葉が出てきて、そうか、ちゃんと存在するんだ、って」

それまでは、人と恋愛して結婚しなければならない、という考えがプレッシャーになっていた。

「母にも、いつも『結婚したくない』って言ってるんですが、母は『別にいいよ』『自由にすれば』って言ってくれていて」

結婚したくない理由を、事細かく聞かれるようなこともなかった。

「人と結婚したくないのは、人と恋愛できないから。結婚したら、出産とか子育てとかも、やっぱりついてくるので・・・・・・それはイヤだな、と」

「出産・・・・・・子育て・・・・・・。絶対したくない。その前段階の行為が、人が相手ではイヤなんです」

「誰かと一緒に住むとかは・・・・・・なくはない。でも、いままで考えたことないです。実家にいたいんです。家族、大好きなんで」

親友のひとりにカミングアウト

とはいえ、家族以外の人が嫌いということではない。

「友だちと話をするのは好きです」

「小学校からの親友もいるし、小学校と中学校が近いので、ほぼメンツが同じだから、性別問わず、みんな仲がよかったですし」

「まだ10代だから子どもがほしいと思えないのかな、とかも思ったんですが、周りの友だちは、ほしいって言っている人もいるし、自分は、ほしくないんだろうなって思いました」

しかし、オブジェクトセクシュアリティの存在を知り、必ずしも、人は人と恋愛して結婚するわけではない、と知って、ホッとした。

「人の相手を探さなくてはと、そこまで深く悩んだりはしなかったけれど、世間体を考えて、人と付き合ったこともあります」

「でも、それからは、人と恋愛しなくてもいいんだって思えて、肩の荷が下りた感じはありました」

自分を表現する言葉が見つかったことで、親友のひとりに、セクシュアリティについてカミングアウトすることができた。

「同じオタク趣味をもってる友だちがいて、よくしゃべるんですが、ファミレスにいるときに、実は・・・・・・って話してみたんです」

「そしたら、その子は特になにか質問してくることもなく、『あ、そうなんだ』って感じで、それだけでした(笑)」

08人ではないパートナーと

「性的な気持ちは・・・・・・あります」

現在はSNS上では、セクシュアリティについてもオープンにしていて、Twitterのフォロワーには、オブジェクトセクシュアリティに理解を示す人も少なくない。

そこでは、バストロンボーンのことを “パートナー” もしくは “好きぴ” と呼んでいる。

「“好きぴ” じゃなくて “ぴ” だけで呼ぶこともあります(笑)」

「恋人のような関係だけど、“人” ではないから、関係を表現するなら“恋人” ではなく “パートナー” かなって」

「このコのこと、“彼” って言ってるんですが、実は性別のことはあんまり考えてなくて。彼女ではない気がするから、彼かなと」

「彼イコール男性ってことではなく、“彼” って言葉がしっくりきただけ」

「性的な気持ちは・・・・・・彼に対してはあります。人ではなく楽器なので、具体的な行動はできないんですけど」

「なんかその、音が一番・・・・・・ですね」

「フォルムとかも好きですけど、そっちの気持ちをもつ対象としては、音。だから、その、録音した演奏を聴くと、たまらなく愛しくなります」

音を奏でるために生まれてきた楽器。
そのアイデンティティである音こそが、“彼” の一番の魅力なのだ。

「音がセクシーに聴こえる」

「車好きの人には、わかってもらえることが多いかも」

「知り合いにも『恋愛対象は人だけど、オブジェクトセクシュアリティの気持ちはわかるよ』って言われたことあります」

「車のエンジン音がセクシーに聴こえるって言う人もいるし」

だからこそ、囁くような音や叫ぶような音・・・・・・さまざまな音を表現するジャズを、“彼” と奏でたくなるのかもしれない。

「一緒にプリクラとか、めっちゃ写真も撮りますよ」

片時も離れたくないほど愛おしい。

しかし、それなりに大きさのある楽器なので、いつでもどこでも持ち運んで、一緒に過ごすわけにはいかない。

「近場だったらいいんですけど、旅行のときとかは無理で。もちろん、繊細なので、無駄に持ち運んだりもしたくないし」

「最近は、彫刻家の方がつくった、バストロンボーンの小さな模型を持ち歩いてるんです。ちゃんと楽器と同じ真鍮でできてるんですよ」

「なんだか、『これをオレだと思って持って行きな』って渡されたものっぽいですよね(笑)」

その、まるで “彼の片割れ” のような模型は、初詣で購入したお守りとともに、キングテレサのミニポーチに入れ、スマホに付けて、毎日持ち歩いている。

09 “おもしろ人間” ではなく “ふつう”

オブジェクトセクシュアリティの認知度を高めたい

モノに恋することも、ヒトに恋することとなんら変わりのない純粋な心。
そのことを伝えたくて、LGBTERのインタビューを受けた。

しかし一般的に、オブジェクトセクシュアリティの存在を知る人は少なく、いまも無知からの偏見は残っている。

「たとえば、オブジェクトセクシュアリティになったのは、人に対してトラウマがあるからだとか、子どもの頃に虐待を受けたからだとか、そんなふうに思う人もいるみたいで」

「エッフェル塔と結婚した女性を “おもしろ人間” みたいなタイトルで、笑いものにする動画がYouTubeに上がっていたり、たまごっちが好きな女性を面白半分でテレビ番組が取り上げていたり・・・・・・」

「でも自分は、そういった偏見が怖いとか、オープンにすることで、ネガティブな方向に悩むことはないですね」

「むしろ、声を上げられずに悩んでいる人の力になれればいいかなって思っています」

ビラを配ったり、イベントを開催したり、大規模な活動を目指すわけではない。

話題が出たときにセクシュアリティについて適切に説明したり、当事者としてメディアに登場したりすることで、自分ひとりの力でも、少しずつ認知度を高めていけるのではと考えている。

“ふつう” に暮らしている人間だ

「自分は恵まれた環境にいるせいか、偏見をぶつけられたことはないし、泣くほど悩んだり、人間不信になったりしたことはないです」

「でも、腹立つことは結構あります(笑)。悲しくなったり、つらくなったりするよりは、偏見だらけの発言をする相手に対して『なに言ってるんだ、こいつは』って腹が立ちますね」

「特に、“おもしろ人間” とか “びっくり人間” とか、世界にはこんな変な人がいるって笑いものにしようとするのが、一番腹が立つ」

「母に、自分のセクシュアリティについて少しだけ話したときに、冗談だと思われて、笑われたのも腹立ちましたけど、母は、オブジェクトセクシュアリティをバカにしているわけじゃなく、単純に知識がなかったせいだと思って気にしないようにしています」

「あと、母としては、『そんなこと気のせいじゃない?』って言って、不安になっている子を落ち着かせようっていう親心もあったと思います」

オブジェクトセクシュアリティの認知度が高まれば、“おもしろ人間” ではなく、“ふつう” に暮らしている人間だと、理解が深まるはずだ。

10趣味と仕事と・・・夢に向かって

楽器の修理に集中できない

高校卒業後は、愛する楽器の修理技術について学ぼうと、音楽関係の専門学校に入学。しかし、1年で辞めてしまった。

「結局、自分は、このコだけ修理できたらいいんだって気づいちゃって・・・・・・。他人の楽器を修理するってことに集中できなくなってしまったんです」

「バンドで演奏する授業とかもあって、楽しかったんですけど」

そして2022年春、京都芸術大学通信教育部に入学。
専攻は建築だ。

「やはり建物が好きなので」

「でも、ずっと “本当にやりたいこと” を探していて・・・・・・最近、やっと見つけたんです!」

「親には『飽き性』って言われたんですが、これは本当にやりたくて。こんなに就きたいと思った仕事は、いままでなかったんで」

そのため、通信制とはいえ通学の機会が多い建築学科ではなく、完全オンラインの学科に変更しようと考えている。

好きなものに命懸け

そこまでして、やりたいと思った仕事は・・・・・・、
テレサやパックンフラワーを生み出したゲーム会社の公式ストアの店員だ。

「いつかは社員として働きたいんですが、まずはアルバイトとして働き始めたいと思っているんです」

「大学のほうは、そのアルバイトの仕事を優先できる環境に変えていけたらいいな、と」

「ゲーム会社本体に就職するとか、そういうふうに、内部には関わらないと決めているんです。あくまで、いちファンとして、ゲームのキャラクターたちと会社を支えたいので」

「だから、ストアで働くのがいまの夢です」

音楽活動はこれからも続けていくつもりだ。

「完全に趣味で。トロンボーンは自由に吹きたいから・・・・・・。仕事にしたら、個性を削がなきゃいけないこともあるかもしれないですし」

「仕事にはしない、と中学生の頃から決めてました(笑)」

創作活動も、趣味として今後も続けていく。
グッズやジンなどを販売することはあっても、決して仕事にはしない。

「いま、次のイベントに向けて、原稿を描いてるところなんです。キーホルダーとかもつくろうと思ってて」

「そんなふうに、いつも好きなものに命懸けです」

「好きなものに集中しすぎて、友だちに『私と趣味、どっちが大事なの?』ってきかれて、『趣味かな』って答えるくらい(笑)」

いま、いくつもの好きなことを大切に抱えた腕で、さらに “やりたい仕事” に向かって手を伸ばしかけている。

 

あとがき
好きなこと、楽しいことを語る屈託のない雅姫さんの笑顔に、取材場が和んだ。恥ずかしそうな微笑みもまた心を魅かれる。大きなバストロンボーンさんはずっと一緒だった。温かなご家族の顔も見える気がした■誰しも、人にはいいづらいことをもってはいないかな? それがその人の大切なことであれば、そのまま大切なんだと知る。それだけでうれしいけれど・・・難しいかなぁ? 雅姫さんなら、「そっか、難しいって思うんだね」と、小さく笑うかな。(編集部)

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