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恋愛はいつも何かを教えてくれる 楽しさだけでなく辛いことにも感謝を【後編】

恋愛はいつも何かを教えてくれる 楽しさだけでなく辛いことにも感謝を【前編】はこちら

2015/09/29/Tue
Photo : Mayumi Suzuki Text : Kei Yoshida
小林 未央 / Mio Kobayashi

1972年、埼玉県生まれ。1990年に高校を卒業したのちにデザインの専門学校へと進み、その後、ピアノ調律技能士になるため、静岡県浜松市にある技術者養成学校へ。卒業後、調律技能士として働きながら、2001年から二丁目のレズビアンバー「MAR'S BAR」で働き始め、2007年に「絆−kizuna−」をオープン。現在も、昼は調律技能士の仕事を続け、夜はレズビアンバーのオーナーという2つの顔をもつ。

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INDEX
01 奥手なチビッコ、最初の恋を知る
02 女子が好きなのに女子校で女子に幻滅
03 初めての告白、初めての恋人
04 強要されたカミングアウト
05 レズビアンであると親に伝えない理由
==================(後編)========================
06 たとえ怒られても女子トイレへ
07 ノンケとの大恋愛と大失恋
08 二丁目歴はかれこれ15年
09 私のために泣いてくれた人
10 重ねた時間が、ふたりのすべて

06たとえ怒られても女子トイレへ

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男性に間違われると複雑な気持ちに

現在、小林さんの実家は、父、母、兄、兄嫁、兄の娘ふたり、姉、姉の息子と小林さんの9人が暮らしている。まだ小さい甥っ子は、「なんで女なのに、いつも黒い服着てんの?」と聞いてくる。調律に伺った先にいた子どもに「男の人? 女の人?」と聞かれることもある。子どもは、感じたままをストレートに投げかけてくるのだ。

「痩せて見えるから黒を着ているんだよ、女の人だよ、と、そのまんまを答えます。いつもより、ちょっと高めの声を出して(笑)。この前も、ピアノを調律してから、お客様であるおばあちゃんと、ゆっくりお話をしたあと、『じゃ、帰りますね』と立ち上がったら、『トイレは大丈夫? 帰る前に済ませたら? 男性はトイレ近いんでしょ?』とお気遣いをいただきました。ずっと話してたのに、男性だと思ってたんかい、と。複雑ですね」

恋愛対象が女性であるレズビアンだけれど、男性に見られたいわけではない。でも、女性を付き合うのであれば、男っぽくなったほうがいいのかもしれないという心理が働く。そこに、わずかなジレンマが生じるようだ。

女の子と恋愛をするために

「公衆トイレを利用しようとすると、『こっちは女子トイレよ!』とおばちゃんに怒鳴られたりすることもあります。昨年、病院に健康診断を受けにいったら、更衣室で私を見た方が荷物をもったまま、着替えることもできず固まっていました。でも、意地でも女子トイレに行きますし、女子更衣室で着替えますよ」

しかし、不思議なことに男性から男だと間違えられることはないという。男っぽい格好をしていても、女性であると認識されるのだ。女性のほうが、女性はこういうものというイメージが強いらしく、そのイメージに合わないと男だ、と思ってしまうのかもしれない。

「女の子を好きになった中学生のころから、女の子に好きになってもらうには男にならなきゃいけないと思って、スカートではなくパンツばかりはいて、化粧だって一度もしたことがありません。恋愛をするために装いが変わって、これが私のスタイルになったんです」

女っぽい格好とか男っぽい格好といった枠を超えた、ほかの誰でもない自分のスタイル。女性として女性を好きだと自覚したときから徐々に、小林さんのスタイルは確立されていったのだ。

07ノンケとの大恋愛と大失恋

告白の末に、同棲がスタート

Cさんと別れたあと、友だちに誘われたことがきっかけで、二丁目に通うようになった小林さん。飲み仲間が集うなかで、また新たな出会いがあった。

「いつも一緒に飲むメンバーは、みんな漫画を描いていたんです。ボーイズラブを描いている人もいれば、女の子同士の恋愛を描いている人がいたりして。Dさんはボーイズラブを描いていました。ノンケなんだけど、ちょっと変わった人で。結婚は面倒だから、将来は尼寺に行くんだって言ってたり。仲良くなるにつれて、もしかして付き合える可能性があるのかもと思ったんです」

相手はノンケ。いくら変わった人だとはいえ、女性である自分を好きになってくれるかどうかは未知数だ。それでも、小林さんはDさんからの好意を感じ取った。しかも確信をもって。そしてやっと、思い切って「好きです」と告白したのだ。

「そしたら、『それは、どういう意味の好きなの?』と切り返してきたんです。一瞬、怯みましたが、『付き合いたいっていう意味の好きです』と答えました。そしたら『付き合うって、どういうこと?』と、また切り返しが。もう、ちょっとキレかけて『普通にキスとかしたいです』と答えました(笑)。そしたら、『じゃあ、すればいいじゃん』と。でも、そう言われたら余計できないんですよ。その日は、それで終わってしまったんですが、結局1週間後に付き合うことになったんです。彼女自身、私と付き合うことに興味はあったんだけど、イエスと言えなくて、けしかけてきたんでしょうね。そんなこんなで、生まれて初めて同棲して、毎日が幸せでした」

ふたりの関係に亀裂を生んだ二股男

家事はふたりで分担して、一緒にフェレットを飼いだした。Dさんと一緒にいると、ありのままの自分で、ゆったりと過ごすことができる。初めての同棲生活は順調なはずだった。しかし、そんな日々にピリオドが打たれる日がやってきた。

「Dさんが出向先で出会った二股男に引っかかってしまったんです。『彼は、私と彼女、どっちも選べないからしょうがないの』って、完全に悲劇のヒロインになってしまって。でも、私とも別れたくないって言うんですよ。もう意味が分からないですよね。そんな男は止めたほうがいいと何度も言い続けたある日、大げんかになってしまって、『じゃあ止める。でも、あなたとも二度と会わない』と言われ、フェレットをおいて、私は家を出ることになってしまったんです」

彼女のことを想って言った言葉が、絶縁状となって返ってきてしまったという、大恋愛の末の大失恋。それでも、小林さんはDさんを愛していたと言う。

「本当に失いたくないと思ったのは、彼女が初めてだったんです。悲しかったけれど、私のなかで、とても意味のある恋愛だったと思います。相手の男性から人間の狡さを知ることができたし、本気の憎しみも知った。痛みと引き換えに、人は恋愛からいろんなことを学ぶんですね」

小林さんと別れたあと、Dさんはその男と結婚したのだという。愛した女性が結局は男性を選んだと知ったときの絶望でさえ、長い時間をかけて、小林さんは前向きなパワーに変換していったのだ。

08二丁目歴はかれこれ15年

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はじめはレズビアンバーのアルバイトから

2001年から、二丁目のレズビアンバーの代表格である「MARSBAR」で、アルバイトを始めたという小林さん。そして、2007年に自身の店「絆−kizuna−」をオープンして7年が経つ。“絆”という名前には、人と人のつながりが希薄な現代において、もっとリアルに人が出会って、確かな絆を築いてほしいという思いが込められている。

「MARSBAR」のアルバイトを辞めてあとは、別のお店で店長をしていたんですが、その店の店長を辞めたとき、本当は引退しようと思ってたんです。でも、周りからやってほしいと言っていただいたのをきっかけに物件を探してみたら、ちょうどいいのが見つかって。こんなタイミングがいいのは、やったほうがいいってことなのかな、と思って『絆−kizuna−』を始めました。そうですね、二丁目には29歳からずっといる感じです」

特別な場所、二丁目を守りたい

性的マイノリティの一大コミュニティとして知られる二丁目だが、この15年でも、少しずつ様変わりしていると小林さんは言う。

「今の若い人にとっては、手っ取り早く今日の相手を探せる場所になっている気がします。二丁目に来る理由は恋愛だけ。もちろん、性的マイノリティにとって二丁目は、そもそも人目を気にせず恋愛ができる場所なのだけど、それが露骨になっているように思うんです。二丁目に行かなければ会えない仲間と自分をつなげてくれる場所、そんな貴重な存在だという意識が薄れてきているのかな。二丁目は、やっぱり特別な場所なんです。名前も、仕事も、バックグラウンドは一切関係ない。人柄だけで、人とつながれるんですから」

最近の二丁目では、ターゲットを性的マイノリティに限らない店も増えている。多種多様な人が訪れて、二丁目が盛り上がっていくことは好ましいことだといえるだろう。しかし、二丁目を愛し、二丁目を守ってきた人々にとっては、当たり前として受け継がれてきた意識やルールが損なわれることは憂慮する点だ。

とはいえ、小林さんいわく、二丁目の店はみんな仲が良い。ゲイバーもレズビアンバーも垣根なく、風通しがいいのが二丁目のいいところでもある。だからこそ、いろんな噂が飛び交う。いいことも悪いことも。

二丁目に初めて訪れた人は、その店のイメージが二丁目のイメージとなるだろうし、そこで嫌な思いをしてしまったら、二度と足を踏み入れないかもしれない。しかし、それではもったいない。そこに運命を変える出会いが待っているかもしれないのに。きっと店側はそれぞれが二丁目の代表であると自覚して、きっと客側は二丁目が守っていくべき貴重なコミュニティであると認識していくといいのだろう。

09私のために泣いてくれた人

泣きたいのは、こっちのほうなのに

そんな二丁目で、小林さんは現在のパートナーと出会った。「MARSBAR」でアルバイトしていたときに、お客さんとしてやってきたのだ。

「出会ったとき、実は私、江ノ島に住んでいる他の子が気になっていて、よく相談にのってもらっていたんです。ある日、『そんなに好きなら告白してきなよ』と彼女に背中を押されるままに、渋滞のなか6時間かけて江ノ島まで行ったんです。で、その子の家に泊めてもらったんですが、結局なにもできなくて。情けなくて、悲しくて、意気消沈して報告すると、彼女が泣き出したんです。泣きたいのは、こっちのほうなのに(笑)。自分のために泣いてくれた人は初めてだったので、驚いたのと同時に、興味の方向が一気に彼女に向いたんです」

彼女だからこそ、やってこられた

そして彼女の誕生日を祝うサプライズパーティで、小林さんが告白。晴れてふたりは恋人となった。そして13年。現在は、プライベートでも、仕事でも、かけがえのない大切なパートナーだ。

「私をいつも、奮い立たせてくれるんです。あなたならできる、と自信を与えてくれるんです。私が何か失敗をしたときも、次はできると許してくれて、チャンスをくれる。5歳年上だし、長女だし、お姉さん肌なのかな。そんな彼女だからこそ、一緒に店をやってこられたんだと思う。それくらい、本当に信用しているんです。ふたりとも昼間は別の仕事をしているから、商売にガツガツしないのもいいのかも。稼がないといけない、と肩に力を入れすぎるよりも、私たちは、もっとお客さんに近い店にしたいから」

10重ねた時間が、ふたりのすべて

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気づいたら13年

13年も付き合っているパートナーとの将来について問うと、小林さんは「まったくなにも考えてないですよ」と笑って答える。

「だって、先のことは分からないから。気付いたら13年一緒にいたね、でいいと思っているんです。これまでの恋愛で学んだんです。最初にいいことばっかり言うのは止めようと。たとえ同性婚が認められたとしても、結婚するかは分かりません。ふたりで一緒に生きてきた証拠として、婚姻届を出すかもしれないけれど。将来のことは、分からない。老後のことは老後に考えてもいいじゃないですか」

「こうしてほしい、ああしてほしいと相手に対して求めすぎることを止めると、恋愛関係も続きやすいと思うんです。彼女も、付き合いはじめのころは、私と人生のパートナーとして生きていきたいと熱く語っていましたが、私がこうなので、期待しても仕方ないと思ったのか、今はもう、ラクみたいですよ。でも、これもきっと“彼女だから”なんでしょうね。私に対して期待できないことを苦しいと思う人なら、うまくいってなかったと思う。すべてにおいて、私とのバランスがとれている彼女だからこその関係なんでしょうね」

みんなに“ありがとうございます”

だからといって、小林さんは決して無鉄砲に生きているわけではない。その日その日を確実に、大切に生きているのだ。

「見えない未来を思い描くのではなく、1年ごとに楽しい目標を掲げて、1年後に達成できたか振り返るくらいがちょうどいい。不確かな未来を約束するよりも、私たちにとっては、重ねた時間がすべてだと思うんです。一緒にいようと約束しなくても、一緒にいてくれる人は、きっと自分にとって大切な人。好きになったり、付き合ったり、私と深く関わった人は、私の人生にとって重要な人たち。辛いこともあったけど、みんなに“ありがとうございます”でいいと思っています」

今いる“場所”はタイミングを見誤らず一歩一歩進んで来たからこそ辿り着いた“場所”。今一緒にいてくれる人は、真っすぐに相手に向き合い、丁寧に付き合ってきたからこそ出会えた人。辛いことも悲しいことも、考え方ひとつで前に進む力になる。

見えない未来への約束は必要ない。なぜならば、きっと小林さんの目には見えているだろうから、人生にとって本当に大切なものが。

あとがき
「私、何にも考えていないから」と何度も笑顔で口にする未央さん。お話しの中には、つど思いを巡らせてきた未央さんが、確かにいた。「考える」を繰り返してきた今はもう、心に備えた言葉が、自然に表れるのかもしれない■取材の帰り道、引受けて下さった理由を尋ねた。「話しをきいて、応えたいと思った」と。きっと、未央さんはずっとそうなのだろう。出会って来た方たちも、私と同じ「ありがとう」を伝えていたに違いない(編集部より)

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