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固定観念から解放され、好きな人たちとの世界があれば幸せでいられる【後編】

固定観念から解放され、好きな人たちとの世界があれば幸せでいられる【前編】はこちら

2023/05/21/Sun
Photo : Tomoki Suzuki Text : Hikari Katano
藤川 美帆 / Miho Fujikawa

1976年、神奈川県生まれ。「神経過敏」な特性と付き合いながら、その時々で好きなことに集中する日々を送る。25歳のときに男性と結婚、二児を出産。15年連れ添ったのちに離婚し、現在は京都在住。2023年7月に、400年以上の歴史を持つとされる劇場・南座で「同性婚フェス」を開催予定。

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INDEX
01 なんでも気づいて、口に出る
02 天才か?
03 闇の中1
04 「将来、大物になるから」
05 JUDY AND MARY中心の生活
==================(後編)========================
06 子どもが欲しい!
07 好きになった人はたまたま同性
08 カミングアウトとも思っていない
09 クエスチョニングのままでいい
10 突然降りかかってきた、南座での結婚式

06子どもが欲しい!

子どもを産んで人生を一変させたい

JUDY AND MARYの追っかけをしていたかたわら、21歳のころからずっと好きだった相手に振られた。

「私のほうが好きすぎて、ストーカーみたく追いかけて付き合うことになったんですけど、2年付き合ったのちに振られちゃって」

「激しく落ち込んでたときに、子どもが欲しいって、なぜか強く思ったんです。子どもは好きどころかむしろ苦手なのに、自分でも不思議でした」

そのとき、ちょうど自分のことを好いてくれている男性が現れた。相手は、ほとんど話したことのないバイト先の同僚。

付き合ってからわずか3カ月で結婚した。

子どもがしたいようにさせる

結婚した翌年に、念願の第一子となる女の子が誕生。

「子どもは今も苦手なんですけど、自分の子どもはかわいいですね(笑)」

我が子には好きなようにさせていたため、イヤイヤ期がなかった。話せるようになる3歳までは、子どもにイライラすることもなかった。

「私も小食で好き嫌いもあるから、食べたいときに食べればいいし、食べたくなければ食べなければいいよって」

24時間を子育てに割く一方、早いうちに仕事をしたいとも思っていた。

「妊娠2カ月でつわりがひどくてアルバイトを辞めてたんですけど、産んだらまた働こうと、妊娠中から求人雑誌を読んでました」

「そのときは仕事のために横須賀を離れてたんです。周りに知り合いがいないなかで子育てだけをやっていると、社会とのつながりがまったくなくて・・・・・・」

JUDY AND MARYの追っかけをしていたときには、全国を飛び回ってたくさんの人とつながっていた。仕事を通して社会とつながりを持ちたいと思ったのだ。

家で働ける方法を探した結果、自宅で子ども英語教室を開業することに決める。

「子どもは苦手だし、パーソナルスペースも広いほうですけど、決して人が嫌いなわけではないんです」

「特に年少さんは、こちらが気を抜くと膝の上に乗ってこようとするので体育座りでガードしたり、対策してました(笑)」

泣いている子をみだりに抱っこしてあやさない方針は、学習環境にとっても大切なことがあり、保護者へ伝えていた。

英語子ども教室の仕事は12年間続けたが、子どもたちの成長をサポートしつつも、我が子以外の子どもを慈しむ気持ちは最後まで芽生えなかった。

義理の両親との関係

義理の両親との関係は、正直あまりよいほうではなかったと思う。

「結婚式場も私たちで決めたら『なんで相談しないんだ』って怒られて参加拒否されましたし、子どもを保育園に預けることにも反対されました」

パートナーが間を取り持って自分の意見に賛成してくれたこともあり、なんとか結婚生活を続けることができた。

「『藤川家の嫁に入ったんだから~』って言われたときも『私はこの人と結婚しただけで、藤川家に入った覚えはありません』って答えましたし」

決して波風を立てたいわけではない。ただ、思ったことが口に出る癖は変えられない。

自分を曲げて無理して相手に合わせても、どうしてもどこかでひずみが出るはず。

「『オールマイティにバランスよくこなす』とか『義理の両親とも仲良く』とか、こうしなければならないっていう固定観念がないというか、欠落してるんですよね(苦笑)」

固定観念がないことで、団体のなかで活動するときはうまく馴染めず、つらい思いをしたこともあった。

でも、セクシュアリティのことも含めて、今はプラスの方向に働いていることもあると思っている。

07好きになった人はたまたま同性

この人が好きだと思ったら、まっしぐら

現在の同性パートナーとは、仕事を通しておよそ8年前に出会った。

「SNSで起業する方法を教えます、っていうセミナーを全国各地で開いてたときに、パートナーがセミナーに参加したことがきっかけです」

京都で社労士として活動していたパートナーは、得意なことに突き抜けて仕事をする自分の姿や、固定観念のなさに衝撃を受け、悩みを抱える社長たちに話してほしいと打診してきた。

仕事で月1回会い、そのあとにはお茶をする仲になった。

「私は興味のある人にガンガン声をかけるほうなので、お茶したいと思ったから『お茶しましょう』ってパートナーを誘ってました。そのときに、パートナーの性格が穏やかで温厚で、顔もタイプだったので『あなたが男性だったら告白してた』って、特に意図もなく口にしていて」

一方、パートナーは女性同士のパートナーシップは許されないものと思い込んでいた。

「パートナーは私と正反対で、女性が好きだとばれたらまずい、この思いは墓場まで持っていこうと、当時は本気で思ってたんです」

ある日、パートナーが自分に対して好意を表す文章をSNSに投稿。それが1カ月も続いた。

「ビジネスのアドバイスで、私への思いを1カ月間SNSにアップするよう言われたんだそうで。それを見て私も『この人、私のことめっちゃ好きじゃん』って」

自分がパートナーに抱いている好意が恋愛感情のようだということに、このころ気づく。

そして二人のお付き合いが始まった。

びっくりしたけど、迷いはない

自分が女性に恋愛感情を抱いているとはっきり自覚したのは、このときが初めて。

「女性も好きになるんだって自分に驚きはしましたけど、それを否定する気持ちはまったく生まれませんでした」

今まで女性と付き合ったことがなかったため、どうやってお付き合いするんだろう? という疑問はあった。

でも、女性同士で付き合うことそのものに対して不安は、まったくなかった。

08カミングアウトとも思っていない

「ばれたらどうしよう」

私は好きになった人への感情を内におさえられない。
好きになった人のことを誰彼かまわず話したい衝動がある。

一方、パートナーは付き合い始めてからも、周囲には私たちの関係を隠したがっていた。

「付き合いだしたころ、パートナーは『ばれる』って言葉をよく使ってたんです」

付き合い始めすぐに共通のごく近しい知人には関係を伝えていたが、1年経ったころ、好きな人のことを想うままに話せない状況に、とうとう耐えられなくなった。

「パートナーを説得して、属しているコミュニティに伝えることにしたんです。そうしたら、『私も当事者だよ』っていう人たちが実はたくさんいたんです」

セクシュアリティを打ち明けたら否定されるものだと思っていたパートナーは、この成功体験を経て考えが徐々に変わっていった。

こちらの「重さ」が相手にも伝わる

現在は、ごくフラットに自分たちの関係性をオープンにしている。

「私は、同性カップルはおかしいって思ってないから『同性のパートナーがいます』って、さらっと伝えてます」

「こちらの ”重さ” が相手にも伝わると思うんですよね」

こちらがなんの気なしに気軽に伝えれば、相手も「そうなんだね!」と軽く受け止められる。

「実は、伝えたいことがあって・・・・・・」と重々しく切り出せば、相手も身構える。

「みんなで集まったときにも、仲間が『藤川さん、同性のパートナーがいるんですよ』って平気でアウティングするんですよ。でも、私はそれで全然気にならないんです」

たしかに、周りと比べたら同性のパートナーがいる人は少数派かもしれない。

でも、それがどうした?
好きな人たちの世界にいれば、外野の声は単なる声だ。

09クエスチョニングのままでいい

悩みがなさそうだからと叩かれる

私の固定観念のなさが気に入らないのか、今でもSNSで叩かれることがある。それは、LGBTQコミュニティに参加していたころにも起こった。

「パートナーがカミングアウトし始めたころ、LGBTQ当事者の仲間と知り合いになれたらと思って、大阪や京都のLGBTQ当事者の交流会に参加したんです」

「そうしたら、『男性ともお付き合いできるんだから、こっち(同性愛者)の気持ちは分からないでしょう』って言われることがあって・・・・・・」

LGBTQ当事者の間でも共感してもらえない、否定されることがあることに驚き、そのあとはLGBTQ当事者のコミュニティに参加することはなくなった。

「悩んでる人から見ると、私があっけらかんとしている姿が、私が悩んでいる人を見下しているように見えるのかもしれません」

「どうしても攻撃してる、馬鹿にしてるってとらえられることがあります」

固定観念にとらわれて抑圧されていると感じている人からすれば、固定観念から解放されている私を見ると腹立たくなるのかもしれない。

「互いにいがみ合うことなく、みんながそれぞれ好きなことに全集中していればハッピーだし、世界は平和になると思うんですけどね」

あえてラベリングするならクエスチョニング

現在、自分のセクシュアリティは、クエスチョニングが当てはまると感じている。

「と言っても、クエスチョニングかどうかすらもちょっとよく分からないんですけど」

「自分のジェンダーは女性だと思ってるし、疑ったこともない。恋愛対象は、性別より顔が大事かな」

でも、セクシュアリティをはっきりさせたいとは特に考えていない。

「また女性も好きになることがあるのかな? とか、ラベリングはどれが一番いいんだろう? って悩む必要はないですよね」

決め切らないという姿勢は、パートナーシップにおいても同じ。

「現在、パートナーとは住んでいる自治体の同性パートナーシップ制度を利用してます。でも、将来同性婚が認められたとしても、パートナーとすぐに同性婚するかどうかは分かりません。なににしてもこだわりはないんです」

自分たちが心地よければ、それで問題ないはずだ。

10突然降りかかってきた、南座での結婚式

10年、20年先のことだと思っていたのに

2023年7月1日、国の登録有形文化財である京都の劇場・南座で「同性婚フェス」を開催すべく、現在、鋭意準備中。

だが実は、念願だった南座での挙式をついに実現! というわけではない。

そもそも、同性パートナーとの結婚式もすでに行っている。

「中村獅童さんと初音ミクがコラボしたスーパー歌舞伎を、南座に観に行ったことがあって。ゴンドラが劇場内を移動して、桜吹雪が舞う光景と、身内で結婚式を開いたときのことが重なって『南座で結婚式できたらおもしろいよね~』ってパートナーが言ったのが、2022年の12月のことでした」

いつか同性婚が実現したら、10年後、20年後にやれたらいいね――と、あくまで遠い理想のようにぼんやりと描いていた、由緒ある南座での結婚式。

その理想を2023年2月、なんの気なしにSNSに投稿したところ、関係者から「本当にやりませんか」と声がかかった。

にわかに慌ただしくなった。

なにが起こったのか分からない、ありがたい状況に

急に具体化してしまった、南座での同性婚フェス。もちろん貯金も用意していないため、急遽SNSなどで応援を呼びかけた。

「会場費が振込み期限までに集まらない、どうしようってなってたときに、急にお金が集まって支払うことができたんです(笑)」

知人、友人など多くの方の協力と応援のお気持ちだった。

「お客さんが商品を買ってくれたり、早めにお金を振り込んでくれたり、最終手段として両親にもお金を借りて・・・・・・って、色々金策を尽くしてはいたんですけど、それにしてもいきなりお金が集まったんで、辻褄が合わないというか」

もはや、挙式が独り歩きしている状態。個人レベルの「結婚式」の範囲を大幅に超え、とても自分たちの手に負えるほどではない一大イベントになりつつある。

「予算は多分、全体で1000万円くらいは必要だと思いますので、まだ足りてはいません。でも、あまりに多くの大人が関わっている以上『お金が足りないので中止します』とは言えません・・・・・・」

「当日まであと1ヶ月ちょとくらいしかないのに、まだウェディングプランナーとも準備について話せてないんです(苦笑)」

5月15日からクラウドファンディングもスタートしているが、この先どうなるか分からない。でも、その不確実性も含めて今は楽しんでいる。

好きな人に好きって言えるって最高じゃん?

同性婚フェスのスローガンは、「好きな人に好きって言えるって最高じゃん?」。

「ただの結婚式じゃなくて大きなイベントになるから、テーマを決めようと思って考えてたときに、このキャッチフレーズが降りてきました」

性別に関係なく、自分の好きな相手に “集中” して、自分の好きな人たちに囲まれた世界にいれば幸せになれるはず。

周りがとやかく言ってきても関係ない。

「今でもSNSで攻撃してくる人はいます。そのコメントを見た瞬間は落ち込むけど、引きずることはありません」

「幸せそうだから叩きたくなるんだろうね。でもあなたたちに構ってる暇はないから先に行くね、って」

これからも、好きなことに全集中して、幸せな世界を創っていく。

あとがき
「できないんです」「苦手です」をためらいなく口にする藤川さん。聞くほどにそれらは、単なる状態や感じかたでしかなく、論点でもなければ、良し悪しでもないと気づいた。執着心もネガティブな思考もとっくに手放している姿は、軽快だった■人が期待する自分を演じはしない。自分の “好き” に忠実に生きる。素直に生きる。いまに全集中だ■新緑の公園に鮮やかなピンクの花が咲いたよう。カメラを前にはずかしそうに笑った。ワンピースが緑によく映えた。(編集部)

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