INTERVIEW
等身大の「私」を、まだ出会っていない人たちへ届けませんか?
サイト登場者(エルジービーター)募集

FTM・ゲイのあるべき姿なんてない。髪型も服装も内面もぜんぶ自由でいい。【後編】

FTM・ゲイのあるべき姿なんてない。髪型も服装も内面もぜんぶ自由でいい。【前編】はこちら

2018/06/27/Wed
Photo : Taku Katayama Text : Shinichi Hoshino
荒井 美帆 / Miho Arai

1990年、神奈川県生まれ。セクシュアリティはトランスジェンダー(FTM)のゲイ。大学時代に自身のセクシュアリティを自認し、GID診断を受ける。大学卒業後は、子どもの頃からの夢だった技術職に就き、現在もエンジニアとして研鑽の日々を送る。夢は、多くの人に喜ばれる技術を生み出すこと。2018年4月にパートナーと結婚し、新しい一歩を歩みはじめた。

USERS LOVED LOVE IT! 8
INDEX
01 服は選べるのに体は選べない
02 友だちと呼べるような友だちはできなかった
03 どうして、スカートかズボンかを選べないの?
04 容姿でなく中身を見てほしい
05 私の恋愛は普通じゃない
==================(後編)========================
06 恋愛の仕方が分からなかった
07 LGBTという、知らなかった選択肢
08 性別を持たない「技術」への憧れ
09 私が結婚する理由
10 「いろんなことがあるんだ」と思えれば

06恋愛の仕方が分からなかった

恋愛するしかない

高校のときも、男性に魅力を感じていた。

好きな男性と、信頼できる人間関係を築きたい。

その気持ちは、やはり恋愛の「LOVE」ではなく、バディになりたいという気持ちだった。

「この人と話していたい、この人から吸収したい、だから一緒にいたいっていう気持ちです」

「男同士でよく言う『気の置けない仲』みたいな関係が理想でした」

しかし、男女が友だちのままでいられるかどうかは、永遠のテーマだ。

「内面は男でも、やっぱり自分の容姿でいる限り、男女の仲っていうのは拭えないんです」

「私がどんなに『そうじゃないよ』って言っても、相手は私を女性として見ます」

「そうなると、私が好きな人と一緒にいるためには、その人と恋愛するしかないんですよね」

報酬をもらうための恋愛

恋愛関係になれば、その人と一緒にいる理由ができるし、明日も会う理由ができる。

そうするために、「どうすれば相手に気に入られるか?」を気にするようになった。

「その結果、相手が思うように動くようになるんです」

相手が気に入ることをして、相手に気に入られるように振る舞うのが日常茶飯事。

「それで、自分がどんどん無くなっていっちゃったんです・・・・・・」

「当時は、LGBTっていう言葉も知らなかったし、恋愛の仕方が分かりませんでした」

「相手が私に期待していることを叶える代わりに、私も ”報酬” をもらうみたいな」

「ギブ・アンド・テイクの関係ですよね」

報酬がどんなものだったのか、未だにうまく言い表せない。

「私にとっての報酬って、自分自身を認めてもらうこととか、性別を超えた何か・・・・・・」

「たぶん、誰もが持っている『生まれた意味』みたいなことなのかな」

男性のことは同性だからよく分かる

高校時代は、同じ時期に複数の人と付き合った。

「恋愛って普通、相手は一人じゃないですか」

「でも、気の置けない親友って、何人いてもおかしくないですよね」

「だから、私はタブーを犯すんです」

男性には、すこぶるモテた。

男性がどう思っているかは、簡単に分かった。

「だって、同性ですからね(笑)」

「自分だったらこうしてほしいというのが、相手がそのまま思ってることだったりするんです」

「だから、めちゃくちゃモテました(笑)」

「こいつ、女なのによく分かってんじゃねーか、みたいな(笑)」

同性のテレパシー感があるから、男が何をしたいかは分かる。

逆に、女のことは異性だから分からない。

「でも、それって当たり前のことですよね」

07 LGBTという、知らなかった選択肢

カミングアウトしたら、カミングアウトできなくなった

大学は、中央大学の理工学部へ進学した。

学部の特色もあり、当時まわりにいたのは男性ばかり。

「やんちゃな男の子たちに混ざって、バカばっかりやってました(笑)」

同じグループの仲間に、異性として意識されたこともあった。

「悩み相談をされたりして、その流れで付き合っちゃったり」

はじめてのカミングアウトも大学時代だ。

「当時、やっぱり女性っていうカテゴリーはちょっと違うなって思ったんです」

大学2年のときに付き合っていた人の家に転がり込んで共同生活をしていた。

「そのとき、けんかをした流れで『私、男かもしれないんだよね』って言ったんです」

「そしたら、『気持ち悪い』って言われたんですよね・・・・・・」

「気持ち悪い」のひと言で、それ以来カミングアウトができなくなった。

「その人と半年前に久しぶりに会ったんですけど、気持ち悪いって言ったことは忘れてました」

「私はずっと根に持っていたんですけどね(笑)」

FTMのゲイなんだ

大学時代、知識や教養が増えるにつれて、生きる理由が見えてきた。

「こういう人間でありたい、っていうのができてきたのが大学時代でした」

「そのなかで、自分が自分を理解しないと先には進めないと思ったんです」

ずっと感じていた違和感の正体を突き止めるため、セクシュアリティのことを調べはじめた。

ネットでLGBTの情報にもたくさん触れた。

「ナチュラルにそういう生き方をしている人っているんだなって」

「『そういうふうに考えていいんだ』って、知らなかった選択肢が一つ増えた感じでした」

そこからさらに深めていったとき、「自分は自分が生まれた性じゃない」と確信した。

「私はFTMで、男が好きなゲイなんだって」

その結論にたどり着いたのは、自分を知らないと人に何もできない、ということに気付いたから。

そこから、昔の記憶をたどっていった。

思い返していったら、幼少期からのの違和感も、不快感も、モヤモヤした気持ちも全部、自分のセクシュアリティにつながっていた。

08性別を持たない「技術」への憧れ

私が技術の道を志す理由

子どもの頃から、「技術」や「機械」に興味があった。

「技術は、あくまでもひとつの手段であって、性別を持たないんです」

「技術を生み出すのも、使うのも人ですが、技術だけ離れればそこに性別は存在しません」

発明者が男性だから、女性だから、信頼できる、信頼できないとか、性別で評価が変わるものでもない。

優れた技術であれば、喜んでもらえるのは平等だ。

性別も国も背景も関係ない。

「それが、すごく魅力的だなって」

性別を持たないということ以外にも、技術が好きな理由はある。

「自分の両手両足だけだったら、せいぜい一人にしか与えられないじゃないですか」

「たとえば、介護でも、人を一人起こしてあげることしかできません」

一人の人間の力には限界がある。

でも、技術に限界はない。

一つの技術が、何百人、何千人もの人を助けることができる。

「たくさんの人が喜んでくれることって何だろうって考えると、やっぱり機械とか技術がベースにあるんです」

一貫して、機械・技術が好きだったため、進路選択でも迷いはなかった。

「将来、技術系の仕事に就きたい」という目標があり、そこから逆算して、高校も大学も選んだ。

「女性なのに」という偏見

大学を卒業して、憧れていた技術職に就いた。

職場は男性が多く、女性の数はまだまだ少ない。

エンジニアとなると、なおさらだ。

旧態依然とした職場に、突然入ってきた女性エンジニア。

周囲からは「女性なのに」という奇異の目を向けられた。

口に出して「女性なのに」と言われたこともある。

ここでもまた、「女性」という記号が邪魔になった。

「同じ世界にいて、水と水の関係のはずなのに、なんで水と油で跳ね返されるんだろうって」

ただ、技術を突き詰めたいという気持ちが萎えることはない。

今年はさらに技術を極める予定だ。

「やっぱり、一貫して人の助けをしたいっていう気持ちはあります」

「だから、人に喜ばれる技術を生み出したい」

「自分がどれだけ『これ、いいでしょ!』って思っていてもダメなんです」

受け取った相手の「ありがとう』がたくさんもらえる技術を追求していきたい。

09私が結婚する理由

籍を入れるのは、クーポンを使うのと同じ

2年前から付き合っているパートナーと今年4月に結婚した。

「パートナーは、本当に自由で自然な人です」

「物事の捉え方が大らかで、純粋な受け入れ方ができる人です」

「私に対して『こうしてほしい』とか『こうあってほしい』とかがないんです」

正反対な性格なので、お互いに得るものも多い。

「お互いがお互いに勉強させてもらっているっていうか、本当にバディみたいな存在です」

入籍して夫婦になることに、抵抗はなかった。

「制度上、結婚は男女じゃないとダメですが、そこはもう妻として割り切って入籍しました」

「今の状況で、得られるメリットは享受しておいたほうがいいと思うんです」

「戸籍の制度も扶養の制度もそう。そういう制度があるんだったら、得られるものは全部得ちゃおうって」

「割引券があったら使うじゃないですか? それと同じ感覚です(笑)」

籍を入れるのは、世の中的に夫婦という「記号」があったほうが受け入れられやすいからだ。

「たとえば、街で同じ職場の独身の男女が腕を組んで歩いているのを見たら、『えっ?』『付き合ってるの?』って思う人もいますよね」

「でも、その2人が夫婦であることを知っていれば、『えっ?』ていう感情は生まれません」

「世の中は、夫婦ですって言ったほうが、都合がいいことが多いんです」

社会ともWIN-WINの関係でありたい

まわりからどう見られようと気にしない人もいる。

「私自身、学生時代も社会人になってからも、噂とか偏見で苦しんだ経験があります」

「もちろん、私も気にしたくないけど、気にせずに振る舞うことで仕事を奪われたり、人間関係を破壊されたり、最終的に自分に返ってきちゃうことが多いと思うんです」

「まわりを変えることはできないけど、それなら、自分で 周囲にわかりやすい示し方をするのも一つの手かなと」

「相手が理解しやすい表現をすることで、相手が腑に落ちたり、それによって気分が良くなったりするなら、全然ありだなって思います」

社会との関係性においても、歩み寄れるところは歩み寄る、突き抜けるところは突き抜けるというスタンスだ。

「わざわざ社会と対立しなくても、バランスを保っていけばいいと思ってます」

「そういう意味では、お互いがWIN-WINになるようなことを、いつも考えてるかもしれません」

10「いろんなことがあるんだ」と思えれば

性の多様性が受け入れられるには

多様性を受容する時代と言われるようになった。

しかし、セクシュアリティの多様性はすんなりとは受け入れられていない。

「働き方一つをとっても、多様性ってなかなか受け入れられないじゃないですか」

「それだけ簡単のことでもぶつかるんだから、性の多様性なんてなおさら受け入れられにくいと思います」

「だから、変にLGBT、LGBTっていうよりは、どんな違いもみんなが発信していくべきだと思います」

難しいところから、取り組まなくてもいい。

小さな違いでも、それが知られて、認められていけばいい。

「そうすれば、どんどん深いところまで多様性が受け入れられるようになるのかなって」

「みんながいろんなことに対して『自分とは違うやり方もあるんだ』『そういう人もいるんだ』って思えることが大切だと思います」

「一人ひとりが『いろんなことがあるんだ』って思えるようになるだけで、たぶん変わっていくのかな」

言葉を持たない幸せもある

髪は、大学時代からずっと伸ばしている。

そろそろ切ろうと思っていたが、取材には切らずに来た。

「これだけ長くなることって、なかなかないですよね」

「せっかくなら何か記録に残して、切るのはその後でもいいかなと」

性別は、服装とか髪の長さで決まるものじゃない。

「髪の長さが女性の ”記号” だとは思ってません」

FTMだが、長い髪でメディアに出ることに不快感はない。

「『こうでないと、この枠にはまっちゃいけない』みたいな考えは、すごく嫌です」

人を特定するために「彼女」や「彼」と言う。

街を歩いていると、「そこの彼女」「そこのお姉さん」と声をかけられることがある。

そんなとき、心では「私は男なのに・・・・・・」と思う。

誰かがつくったカテゴリーに違和感を覚える自分がいる。

「でも、そう思っちゃう自分にも違和感があります」

そういうふうに言わないと、コミュニケーションが円滑に進まないのは分かっているからだ。

最近は、言葉を持たない良さを考えることがある。

「アメリカ人って、肩こりを知らないみたいなんです」

「肩こりって日本人が作った言葉らしくて」

「だから、アメリカ人は「今日は肩のあたりが痛い」とは思うけど、日本人みたいに「肩こりでつらい」っていう認識は薄いようなんですよ」

「ある意味、言葉を持たない幸せもあるのかなって思います」

「だから、いつかLGBTっていう言葉がなくなる日が来たらいいなって」

今は夢物語かもしれない。

でもいつか、そんな社会になることを本気で願っている。

あとがき
美しい髪や愛らしい笑顔のことを口にするのは、無神経かな? そんな気がかりに美帆さんは「ぜんぜんですよ^_^ 」と。性自認、性指向、見た目・・・人へのわかりやすさを追求すると、自分のホントと違ってしまうことはないか? 自分の説明書は常時携帯しなくてもいいかな??■骨太な考え、華奢な感性。美帆さんは対照的な魅力をたくさん持ち合わせている。この春、入籍した。強さの秘密は、一人じゃないって言えること。今日も愛する人がそばにいてくれる。(編集部)

関連記事

array(2) { [0]=> int(25) [1]=> int(26) }