INTERVIEW
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FTM・ゲイのあるべき姿なんてない。髪型も服装も内面もぜんぶ自由でいい。【前編】

荒井さんは聡明で、揺るぎない芯を持つ人。話しを聞いていて印象的だったのは、羨ましいほどの成長意欲だ。「吸収」「勉強」というポジティブな言葉が多く、人間性を高めることに誰よりも貪欲だと感じた。取材は、入籍の直前。パートナーとの結婚を控え、取材後は「指輪を作りに行く」と目を輝かせた。

2018/06/25/Mon
Photo : Taku Katayama Text : Shinichi Hoshino
荒井 美帆 / Miho Arai

1990年、神奈川県生まれ。セクシュアリティはトランスジェンダー(FTM)のゲイ。大学時代に自身のセクシュアリティを自認し、GID診断を受ける。大学卒業後は、子どもの頃からの夢だった技術職に就き、現在もエンジニアとして研鑽の日々を送る。夢は、多くの人に喜ばれる技術を生み出すこと。2018年4月にパートナーと結婚し、新しい一歩を歩みはじめた。

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INDEX
01 服は選べるのに体は選べない
02 友だちと呼べるような友だちはできなかった
03 どうして、スカートかズボンかを選べないの?
04 容姿でなく中身を見てほしい
05 私の恋愛は普通じゃない
==================(後編)========================
06 恋愛の仕方が分からなかった
07 LGBTという、知らなかった選択肢
08 性別を持たない「技術」への憧れ
09 私が結婚する理由
10 「いろんなことがあるんだ」と思えれば

01服は選べるのに体は選べない

男の子のものを好んだ幼少期

家族は父、母の3人。

独りっ子だったため、幼少期は家で一人遊ぶことが多かった。

お気に入りだったのは、ミニカー「トミカ」だ。

「トミカをずっと並べて遊んでるのが、すごく好きでした」

自分から「これがいい」と選んだおもちゃは、男の子が好むものが多かった。

一方、近所には同世代の女の子が多かったため、外では女の子と一緒に遊んだ。

「セーラームーン世代だったから、いつも、セーラームーンごっこをしてました」

ピアノの発表会のときは、ドレスを着て、髪の毛をくるくるに巻いた。

写真を撮るときは、ほっぺに人差し指を当てて、可愛らしいポーズをとってみせた。

「当時は、女の子の遊びをしているっていう認識はありませんでした」

「好きとか嫌いとか考えることもなく、普通に楽しいことをやっていたんだと思います」

しかし、小学校に入ると徐々に「男の子のものが好き」だと自覚するようになる。

服装も男の子が好む服を着て、髪型もマッシュルームカット。

「誰から見ても、男の子に見えていたと思います」

まわりの女の子たちは、違った。

ピンクのフリフリのスカートや白いタイツを履いている。

そんな様子を見ても、「女の子だから」とは思わなかった。

「女の子も男の子も、みんなそれぞれ、好きなものを着てるんだろうって思ってました」

言葉づかいや行動も、まるで男の子。

「○○じゃねーよ!」とか「バーカ!」とか、男言葉を使っていた。

掃除をサボった男の子を、一本背負いで投げ飛ばして怒られたこともあった。

そんな子どもだったため、女の子との付き合いにはズレが生まれる。

まわりの女の子たちからは、「女の子っぽくしてほしい」という雰囲気を感じた。

「なんで美帆ってそうなの?」と言われることもあった。

女の子であることへの違和感

小学校の5・6年生になると、「女の子はこうしなきゃいけない」と感じるようになる。

きっかけは、女性特有の変化を迎えたことだ。

月に1回の変化は、「そういうものだから仕方ない」と割り切って過ごしていた。

でも、胸が出てきたり、容姿に変化が現れてくるとそうはいかない。

「服は選べるのに体は選べないんだ、という現実にぶつかったのがその頃です」

自分が女の子であることに違和感を覚えていた。

しかし、そんな違和感とは裏腹に、まわりにからは外見で判断されるようなる。

少しずつ、モヤモヤした気持ちが膨らんでいった。

02友だちと呼べるような友だちはできなかった

「みんな」は「男」と「女」に分けられた

小学校の高学年になると、まわりは恋愛への興味が高まる。

学校でも、「○○くんが好き」「○○ちゃんがかわいい」といった会話が多くなった。

女の子は男の子が好きで、男の子は女の子に好意を寄せる。

「でも私は、そんなみんなの当たり前に付いていけませんでした」

周囲の女の子たちの盛り上がりを、他人事にように眺めているだけだった。

ボーイッシュで中性的な存在だったため、男の子とはウマが合った。

「男子からは『こいつ、おもしろいやつだな』って見られていたと思います」

しかし、徐々に自分も男の子にとっての恋愛対象になっていった。

仲の良かった2人の男の子がいた。

「Aくんは、Bくんのことも私のことも好きだったんです。もちろん、それは友だちとして」

3人で楽しい時間を過ごせればよかったんですが、そこに変化が生まれた。

「Aくんが、私に対して恋愛感情を抱くようになるんです。でも、Bくんに対しては恋愛感情は抱かないじゃないですか」

今思えば、Aくんが私のことを好きになる気持ちは、男の子として自然なことだ。

「でも、その頃は『女だから私を選ぶんだ』って思っちゃって、それがすごく嫌だったんです・・・・・・」

「それまでは ”みんな” でよかったのに、急に男と女の間に壁ができたんです」

「みんな、2つの部屋に通されるけど、私はどっちの部屋にも入れずに立ちすくんでいた感じです」

みんなとの間にフィルターができて、距離がどんどん遠くなっていくように感じた。

自分のなかのモヤモヤした気持ちから、まわりの同級生に対しても一歩引くようになった。

「だから、友だちと呼べるような友だちはできませんでした」

転校に慣れすぎた小学生

父親は、転勤族。
小学校だけでも3つの学校に通った。

転校慣れした子どもだったため、その都度「寂しい」とか「嫌だ」とか感じることはなかった。

「別れの挨拶と転校先でのよろしくお願いしますの挨拶は、テンプレート化してました(笑)」

出会ったら別れるのが普通になっていた。

「学校の子たちとも、2~3年したら、また別れるんだろうなって」

「今年はお父さんが転勤になりそうだと思ったら、友だち関係も清算に入っちゃうんです」

「先生が『次の学年のために』っていう話をしても、私どうせいないし、って思ったり」

「性の違和感のこともありますけど、転校が多かったのも、友だち形成に影響したのかもしれません」

新しい環境に馴染むのは苦ではなかったが、友だちとはそこまで深い関係にはならなかった。

03どうして、スカートかズボンかを選べないの?

女の子らしさを押し付けられるのが嫌だった

子どもの頃の母親との関係は、自分の性に対する違和感をさらに増幅させる要因になった。

母親からは、ことあるごとに「女の子なんだから」と言われた。

「足を広げないとか、汚い言葉を使わないとか」

「バラエティ番組で女芸人が体を張ってるのを見て、『女性としてあり得ない』とか(笑)」

「女の子らしくしなさい!ってすごく言われました」

「母は、『女性はこうあるべき』という小さな枠組みを持っていました」

「それを押し付けられるのが嫌でしたね」

子どもの頃から、母親とはウマが合わなかった。

「母は私のことは見ていない」と感じることもあった。

「私が変に達観してたというか、早く大人になりすぎたというか・・・・・・」

母が自分に愛情を注いでいることは分かっていた。

「でも、『あー、注いでるなぁー』って感じだったんです(苦笑)」

「お母さんは、私じゃなくて子育てに一生懸命なんだろうなって」

子どもながらに、母は「子育てというものを育てている」ように見えた。

「お母さんは一人娘の私を、箱入りに育てたかったんだと思います」

「子どもはネグレクト希望なのに、親は過干渉っていう真反対な状態でした(笑)」

親子げんかも少なくなかった。

「けんかはいつもお母さんが、一方的に振っかけてきました」

「お母さんは感情タイプの人だから、ヒステリックにぎゃーって言ってくるんです」

「1つ言い返したら、3つ戻ってくるような」

「だったら、言い返さないほうがいい。謝って終わるならそれがいいって思ってました」

波風を立てないよう、家ではいい子を演じていた。

スカートをあてがわれることへの拒否感

小学校は私服だったが、中学では制服になる。

制服のスカートを履くのは嫌ではなかった。

「小学校の高学年くらいから、自分の腰の丸みが嫌で・・・・・・」

「腰の丸みが目立ちやすいズボンより、スカートとかワンピースのほうが好きだったんです」

「そのほうが、自分のスタイルに合っていると思ってました」

つまり、性別によって決められていたからスカートを履いていたのではない。
自分のファッションの好みでスカートを履いていたということだ。

「だから、スカート問題は、表向きは解消されました」

「根本的なところでは、解消されてないんですけどね(笑)」

それよりも、選ばせてもらえないことに疑問を感じた。

「男子も含めて、すべて学生が、どうしてスカートにするかズボンにするかを選べないんだろう、って」

「女っていう ”記号” としてスカートをあてがわれていることに対する拒否感はすごくありました」

04容姿でなく中身を見てほしい

人の闇を見た生徒会選挙

本来的な性格は、どちらかと言えば前に出ていくタイプ。

「学級委員もやったし、生徒会もやりました」

中学2年のとき、生徒会長に立候補した。

「最初は、会長じゃなくて副会長でいいと思ってました」

「生徒会にさえ所属していれば、いろんなことができますからね」

周囲からは「みんな応援してるから、美帆ちゃん、生徒会長やりなよ!」と言われた。

しぶしぶ生徒会長に立候補。

対立候補の女の子との一騎打ちだったが、惨敗した。

「裏側の事情としては、みんながその子と私をぶつけたかっただけなんです」

「その子と私は、授業の討論会でもぶつけられたりしていて、『2人の言い合いはおもしろい』みたいな雰囲気がありました」

「その子もガツガツ来るタイプだったし、単に『女同士のバトル』が見たかっただけなんです」

生徒会選挙で、人間の闇を見たような感じがした。

この件以来、前に出ていく気持ちはなくなった。

自分の肉体を消したくなった

生徒会選挙では、「美帆ちゃんのほうがかわいいから」といった容姿の話にもなった。

「私は、『かわいいから』って言われるのが嫌でした」

「自分の中身というか、魂を見てほしいんです」

「それで、気に入ってくれてたり、選んでくれたり、評価してもらえるならいいんですけどね」

学生時代から、「内面を見てほしい」という気持ちは強い。

だが、当時は内面にまで踏み込んでくれる人はいなかった。

中身を見てもらえず、容姿だけで判断されて、勝手な人物像を作られた。

「媚を売ってるとか、女性なのにとか、いろんなタグ付けをされました」

「自分としては、どれも当てはまってないなってことばかり言われて・・・・・・」

そのとき、はじめて「死にたい」と思った。

「自分の肉体を消したくなったんです」

「こんな ”着ぐるみ” はもう要らないって、毎日、チャックを探していました」

しかし、肉体を捨てて魂だけで生きていくことはできない。

「肉体があって、容姿があって、コミュニケーションができるわけじゃないですか」

「だから、この着ぐるみは一生脱げないんだって」

着ぐるみを脱ぎたいと思ったのは、生徒会選挙でのつらい思いだけではない。

「自分の肉体と、自分の気持ちが合わないっていうか・・・・・・」

「やっぱり、セクシュアリティのことは、ずっと引っかかってたんですよね」

05魅力を感じるのはいつも男性

「付き合う」という言葉への違和感

はじめて交際をしたのは中学2年のときだった。

同じ中学、同じ部活の男の先輩だった。

「付き合ったというか、半ば強引に付き合わされた感じです」

当時は誰しも、付き合ったらこうするものだという「べき論」があった。

「一緒にご飯を食べるとか、手をつなぐとか、キスをするとか、色々あるじゃないですか」

「そのときは、一緒に帰るべきだ! みたいなのもありました」

「でも、私は走って逃げたりしていて(笑)」

「その先輩が追いかけてくる、みたいな(笑)」

まわりからは「付き合ってるの?」と聞かれた。

「私は、“付き合う” っていう言葉にすごく違和感がありました」

「みんな普通に使う言葉だけど、それこそ、男女を明確にするような印象があって・・・・・・」

「どっちかが男性ならもう片方は女性、みたいな数式感が嫌だったんです」

学校の女の子たちは、「好きな人に告白した」とか「○○くんと付き合ってる」と話している。

自分も「みんなと同じ感情なのかな?」と揺れ動いた。

「でも、みんなのそれが普通の恋愛だとするなら、私のはちょっと違うんだろうなって思いました」

彼氏とか彼女でなくバディとして

「好き」だという気持ちを抱くことはあった。

「でも、パートナーとして、バディとしていいなーっていう感じなんですよね」

「一緒に仕事するならこの人がいい、っていう感じに似てます」

「一般的な恋愛で言うところの、彼氏とか彼女とか、そういう感じとは違ったんです」

中学・高校のときから、恋愛にはいつも冷静さを持ち合わせている。

もちろん、付き合う人には好意を持っていたが、戦略的な感覚もあった。

「相手が求める女の子でいたら、何か有益な情報が入ってくるかな、みたいな(笑)」

「自分だったら付き合いたくないですね(笑)」

恋愛は自分を高めるための手段

自分をどれだけ高められるかということに、生きる魅力を感じていた。

だから、自分にないものを相手から吸収したかった。

恋愛はそのためのひとつの手段に過ぎなかった。

女性より男性のほうが、人としての親和性が高いと感じていた。

「相性がいいと言うか、魅力を感じるのはいつも男性でした」

中高生の頃はまだ、自分がFTMだとかゲイだとか、そういう知識はない。

「だから、男とか女とかじゃなく、単純に “自分が好きになった人” です」

「それが、いつも男性だったっていうだけの話です」

 

<<<後編 2018/06/27/Wed>>>
INDEX

06 恋愛の仕方が分からなかった
07 LGBTという、知らなかった選択肢
08 性別を持たない「技術」への憧れ
09 私が結婚する理由
10 「いろんなことがあるんだ」と思えれば

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