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FTXを自認する、トライアスロンに挑むアスリート。【前編】

どうしても男子に興味を持てなかった中・高時代。男にならなあかん!と、手術を考えた時期もあった。そんなセクシュアリティの悩みが、ある日、すっきりと解消した。そのとき出会った魔法の言葉は、FTX。「私は中性」とSNSでカミングアウトすると、自分のことが大好きになれた。今は、トライアスロンと新しいパートナーとの生活に夢を広げる。

2019/05/28/Tue
Photo : Taku Katayama Text : Shintaro Makino
三島 雅世 / Masayo Mishima

1995年、大阪府生まれ。武庫川女子大学体育科卒業。体育教師の父親の影響で、子どもの頃からスポーツに親しむ。中・高とバトミントンに打ち込み、大学では陸上のトラック競技で頭角を現す。女性とのつき合いを経験するうちに、FTXを自認。トライアスロンでは、2度目の国体出場を目指す。

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INDEX
01 信頼できる先生に出会って
02 土管の中で、初めてのキス
03 中学時代に出会った3人の素敵な女性
04 女同士やから結婚、できへんのや・・・・・・(悲)
05 思春期の男子が気持ち悪い
==================(後編)========================
06 入学式の翌日に告白された、初めての恋人
07 自分もFTMかもしれない
08 つらい入院生活を支えてくれた、ふたりめのカノジョ
09 FTXと自認することで視界が開けた
10 自分にしか選べないテーマ「トライアスロンとLGBT」

01信頼できる先生に出会って

体育会系の怖いお父さん

生まれも育ちも大阪。生粋の大阪っ子だ。

「お父さんは中学の体育教師です。生活指導も担当している、怖い先生のイメージ(笑)。怖すぎて、未だに打ち解けられません」

子どもの頃から、よく怒られた。

「どこかに連れていってもらったときに『楽しかったか?』 って聞かれたんですよ。そうでもなかったから 『楽しくなかった』と答えたら、ごっつう怒られました(笑)」

お父さんは、若い頃は器械体操でオリンピック代表候補にもなった、正真正銘のアスリートだ。

「私がスポーツ好きでガツガツいくタイプに育ったのは、お父さんの影響でしょうね」

薬剤師のお母さんは対照的に穏やかな人。弟はどちらかというと、お母さんに似たソフトなタイプだ。

「私も小さいころは大人しくて、内向的な性格でした」

「幼稚園が嫌で嫌で仕方なくて。行きたくないといって、よく泣いてましたね」

最初に覚えたスポーツは水泳。

「3歳のときにスイミングスクールに入れられて、わけも分からず、ただ泳いでました」

あとで考えれば、お父さんが連れていったのだろう。

「弟も一緒に通って、週に1、2回、小学校6年生まで続けました」

小5で出会った大好きな先生

小学校4年生のときにいじめにあった。

「クラスの女子5、6人に教室の隅に連れていかれて『お前、キモいぞ』とかいわれて・・・・・・。靴がなくなったこともありました」

いじめられる理由は特にない。

クラスでいじめが流行っていて、順番が回ってきただけのことだった。

「このままじゃ、あかん、と思って、すぐにいじめる側に回ったんです(笑)」

すると、いじめた相手の一人が不登校になってしまった。両親と3人で先生に呼ばれて注意を受ける。

「弱いものいじめはするな! 親が教師やのに、その子が人をいじめるなんて、絶対に許さん!」

父親の言葉は厳しかった。

しかし、学校での素行はすぐには変わらなかった。

「そんな私を正しい道に戻してくれたのが、5年生のときに担任になった先生だったんです」

その先生は、「いじめをやめなさい」「そんなことをしてはダメだ」などと、否定する指導はしなかった。

「お前には人をまとめる力がある。その優れたパワーをいじめ以外のところに使え」
「お前はいい子だから、そんなことをしなくても生きていける。お前には優しさがある」
「自分に自信がないから人をいじめるんだ。もっと自信を持て」

前向きの言葉が、心に深く突き刺さった。

「この先生なら信頼できる、と確信しました。それからは、クラス代表にもなって、みんなを引っ張ることもできるようになりました」

いじめられているときは、自分が嫌いだった。

「自信を持ったら、自分が好きになったんです。それが一番、大きかったですね」

タイムカプセルに入れられた手紙

6年生になり、担任の先生が変わってしまった。

「それがあまりに悲しくて・・・・・・。新しい先生に、あの先生と代わってください、って頼んで叱られたこともありました(笑)」

小学校卒業のとき、みんなでタイムカプセルに手紙を入れて地面に埋めた。

「そのとき、恩人の先生に私宛の手紙を書いてもらったんです」

20歳になり、あのタイムカプセルを開ける日が来た。

先生からの手紙には・・・・・・。

「小学生の時、毎日、君がぼくに会いにきてくれたから、ぼくも頑張れたよ。20歳の君は元気かな。このタイムカプセルを開けたら、先生に手紙を書いてくれないか」

家に帰って、すぐに先生に手紙を出した。しかし、返事は返ってこなかった。

「私が高校生のときに、病気をして仕事を続けられなくなった、という話を聞いていたんです」

今、どうしているだろう。

「このインタビューで、大切な人のことを思い出しました。すぐに連絡を取らないといけませんね」

02土管の中で、初めてのキス

スカートが嫌いで履かなくなった

小学校でスカートを履いていたのは、2年生まで。それ以降は中学の入学式まで、一切、スカートは履かなかった。

「でも、自分がおかしいとか、ほかの女の子と違うとは思わなかったですね」

髪は長く伸ばし、ポニーテイルに結んでいた。

「男も女も区別なく、ただ一緒に遊んでいました」

「お母さんがかわいい服を買ってくると、一応、着ていましたね」

踊ることが好きだったので、学校の部活はエアロビクスを選んだ。

「家の近くに書道教室があったので、これも中学に入るまで続けました」

「字がきれいに書けて無駄なことはない」という、お母さんの計らいだったが、「静かに正座しているのが苦手で、あまり好きではありませんでした」

ボーイフレンドは10人!

スイミングスクールの仲間たちと行ったキャンプ実習が思い出に残っている。

「火をおこしてキャンプファイアーをしたり、星を眺めたり、森でかくれんぼをしたり・・・・・・。初めての体験ばかり。ものすごく楽しい思い出です」

高学年になり、同じクラスに好きな男の子ができた。

「それも10人!(笑)」

バレンタインデーには、お母さんに手伝ってもらってたくさんのチョコレートを作った。

そのうちの一人、クラスで隣に座った子とは、デートをしたり手紙を交換する仲になった。

「デートの行き先は、近くのスーパーでした(笑)」

小5にしてはマセた子で、手を繋ぎたいと “口説かれた”。

「ファーストキスの相手もその子でした」

近所の土手にあった土管の中。そこに隠れて、初めてのチューを交わした。

「でも、つき合いはそれまででした。中学になったら自然に消滅してしまいました」

03中学時代に出会った3人の素敵な女性

バトミントンをがむしゃらに頑張った理由

中学に上がると、バトミントン部に入部した。

「本当はテニス部に入りたかったんですけど、先輩が怖いという噂を聞いて、バトミントン部に変更しました」

急きょ選んだバトミントンだったが、このスポーツが肌に合った。
以来、高校を卒業するまで、みっちりと打ち込むことになる。

女子だけで40人も在籍する人気の部活だった。

「楽しくて、楽しくて、毎日がむしゃらに練習してました」

学校の先生が顧問をしていたので、日曜日は休みたいといったが、無理に頼んで練習をみてもらった。

バトミントンに夢中になったのには、もうひとつ理由があった。

「1年上の先輩に、大好きになった人がいたんです。それも二人!(笑)」

一人は常にマイペースで、穏やかな性格の人だった。

「きっとあの先輩はO型ですね。性格に惹かれたんでしょうね、いつも一緒にいたい、と憧れる人でした」

もう一人は、対照的にセクシーな人だった。

「体操着からバーンと乳ハミ出して、色気がモロに出てましたね(笑)」

その先輩の体操着や私服からは、アメリカの柔軟剤、ダウニーの香りが漂っていた。

「その匂いが大好きで、センパイ〜、って後ろから抱きついて、いつもひっついていましたね(笑)」

「お母さんに頼んで、ウチでもダウニーを使うようになりました」

とにかく、ふたりの先輩と練習をするのが楽しかったのだ。

二人の先輩も、「マサヨ〜!」と呼んで、かわいがってくれた。

「卒業していかれるときは、悲しくて・・・・・・」

「本当に大好きでした」

先輩たちが卒業する時には、気持ちを込めた手紙をハートマークでいっぱいに飾って手渡した。

体育の先生との強烈な出会い

中学のときに、もうひとつ大切な出会いがあった。

2年生のときに体育を担当してくれた、当時30歳代後半の女の先生だった。

「体育が得意だったので、私がいつもみんなの前でお手本を見せる役だったんです」

その日は平均台の上で側転をする授業だった。

「三島、お前やれ、といつものように指名されたんですが、それがうまくできなかったんです」

すると、「なんで、お前はこんなこともできへんのや。こうするんや、よう見とけ」と。

先生は、きれいな側転をバシッと決めてみせた。

かっこいい! この先生、ヤバイ!

「一発で惚れてしまいました(笑)」

それからは、ストーカーのように先生の後をついて歩くように。

「先生みたいな体育の先生になりたいです。どうしたら先生みたいになれますか?」

先生の答えは、「武庫女に行きなさい」。
武庫川女子大学は先生の母校だった。

「その瞬間に、私の進路は決まりました」

04女同士やから結婚、できへんのや・・・・・・(悲)

やっぱり、これは恋?

バトミントン部の二人の先輩が卒業した後は、先生の追っかけに拍車がかかる。

「今、思い返すと、あれが初恋だったんですね」

先生から、「水泳部の人数が足らんから、出えへんか?」と誘われると、一緒にいたい一心で「出ます!」と即答した。

「家に帰っても先生の話ばっかりするので、お母さんから、そんなに好きならその先生の子どもになればいいやん、とうるさがられました」

そして、ついに「こんなに好きやのに、女同士やから結婚できへんのや」と思いつめて、悲しくなってしまった。

「こういったら悪いけど、そんな美人じゃないんですよ(苦笑)」

先生は結婚して子どももいた。

「何にそこまで私を惹きつけられたのか分からないですけど・・・・・・。やっぱり恋ですかね?」

先輩に対する気持ちとは、明らかに違っていた。

念願のデート。行った先はイオン

クラスの仲のいい友だちには先生に対する気持ちを打ち明け、職員室でも知られる関係になっていた。

「いつか、学校以外のところで、プライベートで会えないかな、と思うようになりました」

でも、ふたりは先生と生徒。

在学中に許される行為ではない。願いが叶ったのは、中学を卒業した直後の春休みだった。

「クルマでどっかに連れていってあげるわ、と誘ってもらったんです」

「メチャメチャうれしくて、ガチガチ緊張しました」

ふたりで行った先はイオン。

「ご飯を食べて、プリクラを撮って帰ってきました」

念願のデートは、一度だけ。期待した割には、あっけなく終わってしまった。

05思春期の男子が気持ち悪い

高校に入っても追っかけは続いた

高校に進学してからも先生の追っかけは続いた。

まず、朝一番で母校の中学に行き、駐車場で先生を迎えて挨拶をしてから高校に登校する。

「本当にストーカーですよね(笑)」

ときには「今日はしんどいから、寄ってこんといて」と疎ましがられることもあった。

先生への気持ちは、そのまま体育教師になる夢を強固にする。

「普通科しかない高校に入ったんですけど、ラッキーなことに3年生の時に体育コースができたんです。迷わずそのコースを選びました」

男子10人、女子1人のクラスだったが、将来の進路が明確なだけ、居心地は悪くなかった。

高校でも部活は引き続き、バトミントン部。練習は楽しく、チームメイトたちと技術を磨いた。

先生の追っかけとバトミントンで充実した高校生活を送っていたが、ある日、つらいことが起こった。

「あの体育の先生が別の中学に転勤になってしまったんです。さすがにまったく知らない中学に会いに行くのは気が引けました」

中2から4年間続いた追っかけを断念。
それからは手紙や年賀状でのつき合いとなった。

スカートがイヤで仕方がない

「中学生になっても、スカートは嫌でしたね。私服でスカートを履くことはありませんでした」

家に帰ると制服を脱ぎ捨て、すぐにボーイッシュな服に着替えた。

中学のころは、特に自分がヘンだ、とは思わなかったが、高校に入ると次第に違和感を覚え始める。

「みんな、化粧を始めるし、周囲にカップルができるじゃないですか。それなのに自分は、まったく化粧にも男子にも興味を持てないんですよ」

それどころか、思春期の男子を見て、気持ち悪い、と感じていた。

「少なくとも、つき合うのは無理、でしたね」

振り返ってみれば、中学の3年間、好きになったのはバトミントン部の先輩二人と、体育の女先生だけ。

男子を好きになったことは一度もないし、告白されたこともなかった。

「なんやろ、コレ。・・・・・・不思議な “生きづらさ” でしたね」

なんでスカートを履かないけんのや、という気持ちはエスカレートし、スカートの下にズボンを履くようになった。

「チャンスがあれば、すぐにスカートを脱いでいました(笑)」

ときには、男子の学ランを借りて着ていたこともあった。

乳が小さく見えるブラ、ありませんか?

お母さんに連れられて、ブラジャーを買いにいったことがあった。

「店頭にあるブラジャーって、フリフリがついてかわいくて、乳を大きく見せるのばかりなんですよ」

「売り場の人に、乳が小さく見えるの、ありませんかって聞いたら、パットを取るしかありませんね、といわれて・・・・・・」

一番、地味なデザインを選び、パットを抜いてもらい、なんとかその場を切り抜けた。

「それでも、高2のときに頑張ってかわいい女の子の服やスカートを試したことはあったんですよ」

しかし、そのチャレンジもあえなく失敗した。

「なんでなんやろ?」

疑問は事あるごとに、ちらりと脳裏をかすめる。

しかし、悩みが深刻になることなく、自然にやり過ごされた。

「LGBTという言葉すら知らないし、スマホで調べようという気にもなりませんでしたね」

 

<<<後編 2019/05/30/Thu>>>
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06 入学式の翌日に告白された、初めての恋人
07 自分もFTMかもしれない
08 つらい入院生活を支えてくれた、ふたりめのカノジョ
09 FTXと自認することで視界が開けた
10 自分にしか選べないテーマ「トライアスロンとLGBT」

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