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「MTFだからこうあるべき」って決まりは、ないんだよね。【後編】

「MTFだからこうあるべき」って決まりは、ないんだよね。【前編】はこちら

2023/03/25/Sat
Photo : Yoshihisa Miyazawa Text : Ryosuke Aritake
瓜生 勝 / Masaru Uryu

1987年、東京都生まれ。幼い頃から男性に興味を抱き、ゲイと自認するも、18歳の時にトランスジェンダーというセクシュアリティを知り、自身がMTFだと認識。不登校などを経験しつつ高校を卒業した後は、男性パートナーと同棲しながら働く日々を送る。現在はインターネット関連の仕事をしながら、占いやアクセサリーの製作を行っている。

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INDEX
01 幼い頃に知った「人と人をつなぐ方法」
02 “生きづらさ” を感じ始めた時期
03 ゲイ? 恋愛対象は男性という自覚
04 カミングアウトする必要のない家族
05 華やかな成功に隠された影
==================(後編)========================
06 「ゲイではなくMTF」という気づき
07 “人生のリミット” が消えた理由
08 30歳を超えても生きられた私
09 なくしていきたい固定観念
10 私の「生き様」が未来につながる

06 「ゲイではなくMTF」という気づき

MTFというジャンル?

高校卒業後の生き方に迷っていた18歳の頃、1人の女性と知り合う。

「占いを通じて出会った人で、大学でジェンダーやセクシュアリティについて勉強していました」

「その子と息が合って、話をしてた時に、『瓜生ちゃんは多分ゲイじゃないよ、MTFってジャンルだと思う』って、言われたんです」

その女性の周りにはLGBTQ当事者がいたため、その経験をもって、そう言ってくれた。

「ただ、私は手術をしたいわけでも、戸籍を変えたいわけでもなかったから、半信半疑だったんです」

「その様子を見て、その子が『LGBTQって枠はあるけど、こうじゃなきゃいけない、ってわけじゃないよ』って、言ってくれました」

「その言葉でラクになったし、自分はMTFなんだ、って腑に落ちたんですよね」

「体や戸籍を変えたいわけじゃないけど、男性から男性として見られるのは違うな、って思いがあったから、私はきっとMTFなんだって」

その女性とは、それから15年以上の親友関係が続いている。

「それからは何かあったらその子に相談したし、ずっとそばにいてくれたんです」

「その子がいたから、私はここまで生きてこられたんだと思います」

性別適合手術をしないという選択

現在もSRS(性別適合手術)は受けず、ホルモン注射も打っていない。

「ありがたいことに、私は声が高いし、喉仏も出てなくて、いわゆる『パス度が高い』といわれる状態なんですよね」

「街に出ても女性と思っていただけるし、脱がなければわからないので、このままでもいいのかなって」

手術を恐れているわけではない。今の自分には必要がない、と感じているだけ。

「一番大きいのは、体を変えても赤ちゃんができるわけじゃない、ってことかもしれません」

「術後のケアも大変と聞きますし、今は困ってないから、焦って変えなくてもいいかなって」

今の日本では、SRSを受けて戸籍を変えなければ、MTFが男性と結婚することは難しい。

「結婚は憧れたりもするけど、戸籍変更は最終手段に取っておこう、と思ってます」

07 “人生のリミット” が消えた理由

パートナーとの関係

高校を卒業してからは、何度か男性との出会いに恵まれた。

「短い期間でしたけど、2人おつき合いしました。どちらの方の時も、私は専業主婦の状態で」

「パートナーのために何かすれば生きていけると思っていたし、相手の希望とも合致してたんです」

「私自身はお金に執着がないから、仕事してなくても、相手に頼っていけばどうにかなるかなって」

1人目のパートナーは相手の留学、2人目のパートナーは相手の浮気が理由で別れることになる。

「そうこうしてるうちに20歳を超えてしまって、そろそろ店じまいかなって・・・・・・」

「この人だ」と思えた出会い

歌手の夢も叶わず、パートナーもいない。人生の終わらせ方を考えていた時、1人の男性と出会う。

「相手はバイセクシュアルで、太ってる人が好きな方だったんです」

「当時の私は体重が100キロくらいあって、彼が興味を抱いてくれたんですよね」

自然な流れで交際がスタートし、早い段階で同棲生活が始まる。

「彼は男性とつき合うのが初めてだったそうで、私を女性として扱ってくれたんです。だから、すごく生活しやすくて」

その頃から男性的なファッションをやめ、髪を伸ばし、スカートをはくようになった。

「20歳は超えちゃったけど、この人がいれば生きていられるし、この人のために生きていきたい、って思いましたね」

20歳のリミットは、自分の中から消えていた。

10年後の別れ

20歳を超えてからつき合い始め、同棲生活は10年以上続いた。

「恋人として家族に紹介してたし、彼のご両親にも受け入れてもらっていて、家族ぐるみで仲良くしてたんです」

「でも、急にお別れすることになって・・・・・・」

彼から突然「このまま一緒にいたら、君をもっとダメにしちゃうと思うから別れたい」と、切り出される。

「話し合う余地もなく、一緒に住んでた家を追い出されて、実家に戻るしかありませんでした」

「気づけば30歳まで生きてて、心にぽっかり穴が開いちゃって」

「でも、何かしなきゃダメだ、まずは太ってる自分を変えてみよう、って思い立ちました」

糖質制限ダイエットに取り組み、半年で90キロから65キロに体重を落とした。

「それでちょっと自信を取り戻して、なんとかなるかもしれないって」

「彼と別れる前から仕事を始めてたんで、自分でお金を稼げる自信も、1人になってより強くなりました」

08 30歳を超えても生きられた私

現在の仕事

現在は、高齢の両親に代わって家事をしながら、メールオペレーターの仕事をしている。

「お客様相談センターに届くメールやチャットを見て、返信や対応をする仕事です」

「在宅でできるので、実家から動かないですむのはありがたいですね」

メールオペレーターの業務は機械的ではあるが、送ってきた人の属性を見抜く力が必要になる。

「文面や内容から、性別や目的が読み取れると、業務のスピードが上がるんですよね」

「私は占いや心理学の知識や経験があって、文面から見抜くスキルがそれなりにあるので、雇ってもらえているんだと思います」

家事と仕事をしながら、占いも続けている。

「コロナ禍になってから、対面での占いが難しくなって、今はメールオペレーターの比重の方が大きいですね」

受け止めてくれる家族

両親やきょうだいとの生活が再開し、にぎやかな日々が続いている。

「ときどき父が『いつ結婚するんだ』『子どもはいいぞ』って、話を振ってくるんですよ」

「ちっちゃい頃からありのままの私を受け入れてくれてるけど、心のどこかで、男の子として生まれてきたのに、って思いがあるのかもしれませんね」

だからといって、父と衝突するようなことはない。

「むしろ、申し訳ないな、と思ったりします(苦笑)」

二番目の兄は長距離トラックの運転手をしていて、たまに地方のゲイバーに行くことがあるという。

「兄はゲイバーに行くと、『うちの弟も同じで』って、話をしているそうです」

好きなファッションに身を包む私を見て、兄なりに内面の部分を知ろうとしてくれてるのかもしれない。

今も、きょうだいや甥っ子、姪っ子から嫌悪感を向けられることはない。

「姉の子どもが小学生なんですけど、マツコ・デラックスさんがテレビに出てると、『まー(勝)がテレビに出てるよ』って、言うんです(笑)」

「そこにからかいの感情はなくて、単純に私と同じ人だと思ってるみたい(笑)」

姪っ子たちは男女という区別がなく、「まーは、マツコだもんね」と、受け入れてくれている。

「兄の子どもたちはもう大人だけど、ちっちゃい頃から私がいるからか、偏見がないんですよね」

「若い子たちはどんなセクシュアリティにも嫌悪感を抱かない子が多くて、やさしいな、って思います」

09なくしていきたい固定観念

気になるのは “男性性” がある人

パートナーと同棲していた10年間は、新たに交友関係を広げることはしなかった。

「高校を卒業してからちょっとの間は、新宿二丁目に行ったりもしてたんです」

「それから10年以上経って、きっと二丁目も変わってるって思って、LGBTQ当事者の方と触れ合うことがほぼなかったから、最近になってまた行くようになりました」

2022年5月から街に出るようになり、活動範囲を広げているところ。

「最初は、どこに行けばどんな人に出会えるかがわからなくて(苦笑)。そんな時に、Twitterで知り合った方からFTMさん主催の飲み会に誘ってもらったんです」

オールセクシュアルの飲み会だったが、その多くはFTM(トランスジェンダー男性)の人たちだった。

「そこで、FTMさん素敵だな、ってときめいちゃったんです。すごくかっこいい方が多くて、私は男性ではなくて、 “男性性” がある方が好きなことに気づきました」

「FTMで戸籍変更されていない方とだったら、結婚もできますしね(笑)」

参加した飲み会で、FTMがマスターを務めるミックスバーを知り、通うようになる。

「FTMさんと仲良くなりたくって。でも、私から話しかけることはなく、端っこに座って観察してるだけです(笑)」

「恋愛に関しては完全に受け身で、内気なんですよね。相手から来てくれたらウェルカムだけど、自分から行くなんておこがましい、と思っちゃって」

出会いの場に通い始めたばかり。新たな恋愛はきっとこれから。

輪を広げて知ったこと

MTFの人とのつながりも、これから広げていきたい。

「私は手術を受けてないし、きっと人より経験値が低いから、受け入れてもらえるのかな、って思いはあります」

「でも、同じセクシュアリティの方とお話してみたいんですよね」

「もちろんMTFさんに限らず、輪を広げていきたい。その出会いがプラスになるか、マイナスになるかはわからないけど、人生のスパイスになることは間違いないと思うので」

徐々に輪を広げていく中で、改めて感じていることがある。

「LGBTQという組分けはあるけど、重要なのは人間性ですよね」

「いろんな人と話すことで、『ゲイだからこうあるべき』『MTFだからこうあるべき』ということはないんだ、って実感してます」

「その延長線で、『男性・女性はこうあるべき』という固定観念もなくしたいな、って思います」

「固定観念に縛られなくていい、と思ってる人が多いから、セクシュアリティを表す言葉は増えてるんでしょうね」

10私の「生き様」が未来につながる

いろいろな人の生き方

LGBTERへの応募を決意したのは、誰かの役に立ちたかったから。

「目立つのが好きとかではないんですけど、私でも何かの役に立てばいいな、と思って」

「私自身、周りの人に支えられてきたことを実感してるので、その分、誰かに何かしたいんです」

私は、ホルモン注射もSRSもしていないMTF。

私は、家族や友だちとの関係で悩んだことのないセクシュアルマイノリティ。

「そんな私は、もしかしたら異質なのかもしれないけど、誰かの役に立てたらうれしいです」

「人それぞれに歩む道は違って、こういう人もいる、ああいう人もいるっていう中の1人になれたら」

いろいろな人の生き方を知ることで、選択肢は増えていくから。

私は、ありのままで生きていく、という選択をした。

「いつか、体や戸籍を変えなくても女性と認められる社会になったらいいな、って思います」

「その希望のために、体を変えてないのかも。数十年後に、この選択をして良かった、って思いたいですね」

過去の自分と今の自分

「20歳がリミット」と思っていた若き日の自分に、もし会うことができたら・・・・・・。

「言葉はかけないかも。ただ寄り添うだけだと思います」

「『未来は楽しいよ』って言う方法もあるけど、現実にはツラいこともあるから、『楽しい』とは言えないと思うんです」

「それに言葉って、すり抜けちゃうものだから。視覚の方が鮮明に残るから、生き様を見せるしかないですよね」

ダイエットに成功し、好きなファッションに身を包んだ自分の姿を見せれば、きっと20歳以降の人生は開けていると感じてもらえるはず。

「未来を変えちゃうと、今の自分がいなくなっちゃうのもイヤだなって。いろんなことを経験して、ここまでたどり着いてもらえたら十分です」

「20歳がリミット」と思っていた自分も、結果的には人生を終わらせなかった。

だから、過去の自分は何があっても大丈夫。
そして、同じように悩んでいる人がいたら、きっとあなたも大丈夫。

あとがき
「幸せになれないなら20歳で店じまい」にショックを受けた。そんな思い出もやわらかく語る。瓜生さんからあふれる母性は、過剰に励まさず見守ってくれるあったかさ。身振り手振り豊かな話しは包み込まれるようだった■“本当の男・女” とたまに聞くけど、いったいなんだろう。からだの性? こころの性? 手術の有無? パス度? 生活歴・・・? いろんな声。「大人になるっていいよ!」と実感をもって言える社会へ。違いは違いのまま生きられる世界へ。(編集部)

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