INTERVIEW
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一つずつ変えていけば、働きながら性別を変えていける。【前編】

10年以上ホテルに勤めている村井真理奈さんの身のこなしは、丁寧でつつましやか。女性らしい気遣いを見せてくれる村井さんだが、「動作が大きいから、女子っぽくならないんです(苦笑)」とおちゃめな一面も見せてくれた。自分の性別が判断できなかった学生時代を経て、女性としての日常を手に入れるまでの道のりは、迷いの連続だった。

2019/04/02/Tue
Photo : Taku Katayama Text : Ryosuke Aritake
村井 真理奈 / Marina Murai

1985年、福島県生まれ。両親と弟との4人家族で育つ。小学生の頃から女の子が着ている服に憧れを抱き、高校1年生の終わりに「性同一性障害」を知る。観光系の専門学校を卒業した後、福島県内のリゾートホテルに就職。現在も同ホテルに勤めながら、ホルモン治療を進める。2021年に性別適合手術(SRS)を受ける予定。

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INDEX
01 性別に捉われずに遊んでいた幼少期
02 仲良くなりたかった相手
03 知られてはいけない女の子タイム
04 自分が性同一性障害である証拠
05 MTFの先輩がかけてくれた言葉
==================(後編)========================
06 地元のために働き続けた日々
07 恋愛だと勘違いしていた友愛
08 女性として生きていくための決断
09 当事者だから生み出せる商品
10 “女性の当たり前” であふれる日常

01性別に捉われずに遊んでいた幼少期

戦隊もの好きな男の子

3歳下の弟がいる。

「割と普通に、男の子同士として遊んでました」

当時の自分は、スーパー戦隊シリーズが好きだった。

「ファイブマン、ジェットマン、ジュウレンジャーの世代です」

「合体ロボットのおもちゃを、親に買ってもらったのを覚えてますね」

駄々をこねてでもおもちゃを買ってもらうほど、戦隊ヒーローが好きだった。

「幼稚園や小学校では、男の子とも女の子とも遊ぶ感じでした」

男の子たちと外に出て、よく虫捕りをしていた。
一方で、女の子たちのままごとにも入れてもらっていた。

「幼い頃は気弱な性格だったんで、ガキ大将みたいな子に標的にされていましたね(苦笑)」

「ひどい時は暴力を振るわれたこともあって、その時は本当に嫌でした・・・・・・」

「子どもって手加減しないし、私も抵抗できなかったんです(苦笑)」

厳しくしつけられた日々

両親は、とにかく厳しかった。

「しつけというか、門限なんかには厳しかったです」

小学生から高校生まで、年齢が上がっても門限は18時。

「少しでも遅れるとすごく怒られたから、キツかったですね」

「中高生の頃は『門限に遅れるなら、部活はやらなくていい』って言われるほどでした」

「福島は、高校生が遊ぶような場所が少ないとはいえ、もう少し遊びたかったな(苦笑)」

お小遣いももらっていなかった。

「周りの友だちがお小遣いをもらっているのは、すごく羨ましかったです」

「欲しいものがあったら、親に買ってもらえるように交渉する形でした」

「勉強しなさい」とも、よく言われていた。
しかし、当時の自分には、勉強する理由が理解できなかった。

「ある程度はちゃんとしていたんですけど、気乗りしなかったですね」

親に縛られているような感覚で過ごす日々。

母のスカート

「今振り返ると、当時から性別違和的なものはあったと思います」

4歳ぐらいから、スカートをはいてみたい、と思っていた記憶がある。

寝室のタンスにかけられていた母のスカートを、こっそりはいた。

「スカートをはいてることが母にバレて、怒られるようなことはなかったんです」

「でも、悪いことをしているような感覚でした」

「満足感はあったけど、幼いなりに男が着ちゃいけないものって気持ちはありましたね」

だからといって、男として育てられることに、抵抗感を抱いたことはない。

弟や男友だちと、戦隊ごっこや虫捕りをすることが苦ではなかった。

「シルバニアファミリーの人形が欲しい、って気持ちは多少ありましたよ。でも、合体ロボットも好きだったから、大きな違和感はなかったんです」

02仲良くなりたかった相手

少しずつ変化する日常

小学3年生までは、親に言われるままに勉強をしていた。
小学4年生になり、その生活は徐々に変わっていく。

「リーダーシップのある目立つ子たちと、たまたま席が近くなったんです」

「話してるうちに『気が合うじゃん』って、仲良くなっていきました」

流れでクラスの中心的なグループに加わり、遊び方が派手になっていった。

「高学年になるにつれて、男子と女子で対立していくのが、すごく複雑でした」

「女子の言い分の方がわかるな、って思いながら、男子側に立つしかなかったから」

対立していた理由は、よく覚えていない。

それでも、女の子に共感したことは、記憶に残っている。

性別という線引き

中学に進んでも、クラスの中心的な子たちと仲良くしていた。

男同士で盛り上がる話題といえば、『ドラゴンクエスト』か下ネタ。

「性的な内容は、理解できないことが多かったかな。でも、とりあえず合わせておくしかない、って感じでした」

周りが言っていることに同調し、馴染むようにしていた。

基本的には男の子と一緒に行動していたが、女の子たちと疎遠だったわけではない。

「それなりに仲良かったと思うし、親しい女子のことを下の名前で呼んでたんですよ」

「でも、『名前で呼ぶのは彼氏みたいで、なれなれしい』って言われたんです」

親しみを込めて呼んでいたつもりが、男というだけで線を引かれたような気がした。

「ささやかなショックでしたね」

「もともと性別に違和感はあったけど、さらに葛藤するようになっちゃいました」

大好きだった女の子

幼い頃から、恋愛対象は女の子だった。

「ずっと女子のことが好きだと思ってました」

「専門学生の頃、本当に好きだった子もいたんですよ」

パンキッシュな装いのボーイッシュな女の子に、魅かれた。
一緒に遊んでいる時間は楽しく、もっと仲良くなりたいと思った。

「告白もしたんですよ。結果はダメだったけど」

03知られてはいけない女の子タイム

憧れの赤いスカート

男の子は同性、女の子は異性という意識があり、男であることに強い抵抗感を抱くことはなかった。

同時に、女の子として学校に行きたい、という気持ちをこっそり抱いていた。

「小学校高学年になると、女子の服や持ち物が急にオシャレになるんですよね」

「ミントグリーンのコートとか赤いチェックのスカートを見て、かわいいなって思いました」

どうしても似たような服が欲しくなり、地元のスーパーの衣料品売り場に向かう。

「じいちゃんがときどきくれるお小遣いを握りしめて、親に内緒で行きました」

「スカートを試着したかったから、ジャージとジーパンで挟んで試着室まで持っていったんです(笑)」

「すごくドキドキしましたね」

サイズの合った赤いスカートを、安物の男の子用の服と一緒に会計した。

「初めて買ったスカートは、机の引き出しの奥に隠しました。友だちから回ってきたエロ本の、さらに下に入れておいたんです(笑)」

夜が更けてから、自分の部屋でこっそり着替え、鏡を見て楽しんだ。

「うれしかったけど、『変態』って言われるのが怖くて、誰にも言えない秘密でした」

「女子の服に憧れる自分って変なのかな、って思ってましたね」

母にバレた丸襟のブラウス

女の子の服への憧れが、薄まることはなかった。

中学校に上がった時は、学ランよりも女の子のブレザーが着たかった。

「少ないお小遣いをやりくりして、年に1~2回ぐらい、女性ものの服を買ってましたね」

「ホワイトデーとかクリスマスとか、買う時期を選んでました」

「店員さんにプレゼントだと思わせるために、わざわざラッピングしてもらったり(笑)」

丸襟のブラウスを買った日に、家に帰って着替え、そのまま寝てしまったことがある。

その姿を、母に見られた。

「『忘れ物みたいに置いてあったものを、持って帰ってきちゃった』って、苦し紛れの言い訳をしましたね(苦笑)」

「『なんとなく着てみただけなんだ』って言ったら、その場は収まっちゃったんです」

母は女性ものを着ていたことよりも、息子が万引きしたかもしれないことが引っかかったようだ。

「親にガツンと怒られて、そのブラウスは『処分しておく』って持っていかれました」

「もちろん、ちゃんとお金を払って買ってるので、実際には問題にはならないんですけどね(苦笑)」

男子と女子の二重生活

女の子の服を着ている時間は、落ち着いていられた。
本来したい格好ができる時間だったから。

高校は、女子高から共学へと変わったばかりの学校を選んだ。

「3年生は女子しかいなくて、私の学年も男子は2割くらいしかいなかったです」

「女子が多いところの方が楽しいだろうな、って気持ちで決めました」

女の子向けの雑誌『Seventeen』を、こっそり買い始めた。

「この辺りから、男子と女子の二重生活みたいになっていきましたね」

「女子の服を着て出かけることはできなかったんで、相変わらず部屋の中で着るだけでしたけど」

04自分が性同一性障害である証拠

性同一性障害ではない可能性

高校1年生の時、ドラマ『3年B組金八先生』を見て、衝撃的な事実を知る。

劇中では、FTMの鶴本直という役柄を通じて「性同一性障害」が描かれていた。

「そこで初めて性同一性障害を知ったと同時に、自分もそうかもしれない、って思いましたね」

「でも、鶴本直みたいに激しく抵抗できないな、って気持ちもありました・・・・・・」

ドラマの中の直は中学生でありながら、「自分は女性ではなく男性だ!」と強く訴えていた。

自分自身を振り返ると、自分は女性だとは主張できていなかったように思う。

「表現できていなかったことに反省して、女子に憧れていることを余計に外に出せなくなっちゃったんです」

「自分の中の葛藤が、さらに強くなった感じがしましたね」

自分が本当に性同一性障害ならば、直のように抵抗するのではないか。
男として育てられることに違和感がなかったのは、性同一性障害ではないからではないか。

家にパソコンはなく、ガラケーを持ち始めたばかりだったため、情報を得ることもままならなかった。

「自分はただの変態なのかな、って思うようになりました」

「女の子が好きだから、性同一性障害というより女装趣味の方がハマるのかなって・・・・・・」

消えることのない憧れ

高校3年生になると、地元にネットカフェができ始める。

「遊びに行くようになって、インターネットに触れたんです」

「性同一性障害について、ようやく客観的な情報を得られました」

調べていく中で、やはり性同一性障害ではないかと感じたが、確信は持てなかった。

それでも、女性の服装に対する憧れが、消えることはない。

「小さい頃からずっと、髪は坊主に近いくらい短かったんです」

「でも、女の子みたいに出かけたい、と思って19歳の時に初めてウィッグを買ったんです」

「100円ショップで化粧品を集めて、メイクにも挑戦しました」

観光系の専門学校に進むと、泊まり込みでインターンシップに赴く機会があった。

実家を離れ、ホテルで過ごす貴重な時間。

シングルルームの中で、好きな格好を楽しめた。

「でも、女性の服を着ての外出は、まだまだできませんでしたね」

05MTFの先輩がかけてくれた言葉

初めての新宿二丁目

「初めてスカートをはいて外に出たのは、20歳。社会人になってからです」

ホテルに就職し、一人暮らしを始め、通勤用に自分の車を持った。

家族の目を気にせずに、プライベートの時間を思いのままに過ごせるようになる。

「初めて女性の格好をして出かけた日は、準備に5時間ぐらいかかりました(笑)」

自由にお金を使えるようになり、ようやく自分の生き方を考え始めた。

性同一性障害のことを調べ、自分のように激しく抵抗しない人がいることもわかってきた。

「22歳の時に、初めて新宿二丁目に行ったんです」

インターネットで「女装」と検索し、出てきたお店を目指した。

慣れない高速バスに乗り、新宿の高層ビル群に降り立った。

「東京に来るのも初めてだったので、新鮮でしたね」

「セクシュアリティに関係なく、いつかは福島を出たい、って東京に対する憧れはあったんです」

そして、初めての二丁目。

ニューハーフのいるお店だったが、女装はせず、男の格好で向かった。

「初めてお店に入る時は、だいぶドキドキしましたね」

「お店の方に『私は性同一性障害だと思う』って話したことを覚えてます」

二丁目で働くニューハーフの女性は「生きづらさを感じてるんだったら、そうだと思うよ」と言ってくれた。

「その後も、男の格好のまま2~3回は二丁目に行きました」

当事者と語る夜

25歳になった時、出張で大阪に1カ月間滞在することになった。

会社の寮がある箕面市に、住み始める。

「都会でも田舎でもなくて、ほどよく住みやすい街でした」

「飲み屋街もあるし、ドン・キホーテもありましたよ(笑)」

ある夜、ラーメンでも食べようと外に出ると、寮の近くにキャバクラなどが入っているビルがあることを知る。

「その中に、女装クラブの看板があったんです」

女性の格好をして行くしかない、と思った。

現地で調達した女性ものの服を着て、メイクをし、その店を訪ねた。

「関西の方は気軽に話しかけてくれるので、すぐお店の方たちと仲良くなれました」

「そこではMTFだけじゃなくて、いろんなセクシュアリティの人を見ましたね」

「服を買って、お店に行って、すごくお金を使った1カ月だったけど、大きな意味があったと思います」

LGBT当事者と話すことで、自分はMTFなのだと強く思えるようになっていった。
<<<後編 2019/04/04/Thu>>>
INDEX

06 地元のために働き続けた日々
07 恋愛だと勘違いしていた友愛
08 女性として生きていくための決断
09 当事者だから生み出せる商品
10 “女性の当たり前” であふれる日常

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