INTERVIEW
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ゲイであることも含めて、自分【後編】

ゲイであることも含めて、自分【前編】はこちら

2018/11/11/Sun
Photo : Rina Kawabata Text : Natsumi Hosokawa
澤村 勲李 / Kunri Sawamura

1984年、滋賀県生まれ。専門学校在籍中よりホテルでのアルバイトを始める。その後、運送会社やコンビニなど、様々な仕事を経験。25歳で上京し、新宿二丁目のバーを経て、現在は大手業務用カラオケ・コンテンツ関連の会社で営業として働いている。

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INDEX
01 厳しい教育方針の父
02 目立ちたがり屋な子ども時代
03 「家族にゲイがいたらどうする?」
04 小さな嘘を重ねる罪悪感
05 密度の濃いコミュニティの中で
==================(後編)========================
06 たった一人で東京へ
07 周囲へのカミングアウト
08 LGBTにとらわれず、相手と接する
09 セクシュアリティはアレルギーのようなもの
10 僕自身を見て欲しい

06たった一人で東京へ

初めての新宿二丁目

バッグひとつに、3、4日分の着替えを詰め込んで、わずかな荷物で上京した。

「夜行バスで東京について、その足で新宿二丁目まで行ってみたんです」

初めて訪れた二丁目は、想像していたよりも大きい印象だった。

昼間に訪れたため、ほとんど店は閉まっていたが、そこで男性客を相手に体を売る、ウリ専の店が目に止まる。

「飲み屋だけじゃなくて、こういうお店もあるんだって、その時は思いましたね」

知り合いがいない状況に加え、生活費もほとんどなかったため、東京に出て1ヶ月くらいは、マンガ喫茶で寝泊まりする毎日を過ごしていた。

「ちょっと怖かったんですけど、とにかくお金がなかったんで、背に腹は変えられないかなって、その時は思いました」

二丁目に足を運んだことをきっかけに、ウリ専の面接を受けることに決めた。

騙している後ろめたさ

とにかく生活していかなければならない。

上京してすぐ、最初は仕事として割り切って働いていたが、そのうち相手を騙しているという罪悪感に苛まれる。

「体を売る仕事に対する罪悪感よりも、相手へのサービストークへの後ろめたさがありました」

「自分と同じゲイの人を相手にしているのに、僕は嘘をついてお金をもらっているんだって」

相手客も言われている言葉が真実じゃないと、わかっているだろう。

それでも、どうしても心に引っかかった。

昔、自分を偽って友だちに接していた記憶と重なる部分が多かったからだ。

「滋賀にいた時の、自分は女の子が好きなんです、って嘘をつく罪悪感みたいなものを思い出してました」

結局、ウリ専の仕事は3ヶ月ほどで辞めた。

「二丁目の飲み屋さんでの楽しみ方を覚え始めてたんで、その後は接客業、男性オンリーのバーで働いてみたいなって思ったんです」

もともとお酒が好きだったこともあり、バーの仕事は楽しかった。

「お酒飲んで、楽しく喋って、その上お金をももらえて、なんていい仕事なんだろうって(笑)」

カラオケや接客で声を張ることが多く、1週間連続で勤務した時は、声が出なくなってしまったことも。

プライベートで飲みにいくバーのママに誘われて、いくつかの店舗でシフトを掛け持ちして働いていた時期もある。

「この頃は、ぼんやりとですけど、せっかくゲイに生まれたんだから、起業して、自分のお店を持てたら楽しいかなって思ってました」

二丁目のバーでは、28歳ぐらいまで働いていた。

07周囲へのカミングアウト

親と絶縁する覚悟

滋賀を出て上京した直後、両親や兄妹、友だちに聞かれることは、なぜ大阪ではなく東京に行くのかということだった。

「理由を話そうとすると、どうしても自分がゲイだってカミングアウトしなきゃならないんですけど」

「もう自暴自棄なのもあって、この時に本当のことを言ってしまおうと思いました」

親から絶縁されたら、もう滋賀に帰る必要もなくなる。

今思うとすごく勝手な考えではあるが、当時はそのくらいの気持ちでいた。

「いざカミングアウトしてみたら、父以外の家族は、ああそうなの、みたいな反応で(苦笑)」

家族の中で一番最初にゲイであることを伝えたのは、妹だった。

「妹はの反応は『あ、そうなん、二丁目とかあるしな。そっちの方が暮らしやすいんちゃう?』って軽い感じだったんです」

兄にどう思われるかの心配は、妹の反応を見て、少し和らいだ。

続けて兄貴にもカミングアウトした。

「おかんには妹の方から先に話が伝わってたんですけど、諦めもあったのかもしれませんが、『犬とか猫と結婚したいっていうわけじゃないから、いいんじゃないの』って」

「おかんは、妹から初めて僕がゲイだって聞いた時、自分の育て方が悪かったのかなとか、いろいろ悩んでたみたいなんですけどね」

当初、母からは「生物としての生き方ができてないってことだよ」と言われたこともあった。

「通常は異性を好きになって子孫を残して行くはずなのにって。あえて息子は、同性を選んでるんだと思ってたみたいですね」

「戻れるんなら、普通の道に戻ってきなよ。間違った道を選んでるよ、って理解でした」

母はそれでも、時間をかけて話をして行くうちに、仕事の話や、彼氏のことについて、聞いてくれるようになっていった。

案外、みんな受け入れてくれた

家族へのカミングアウトは、自分が予想していたよりも、反応はずっとよかった。

「仲のいい友だちとしゃべってる時、親にも言えたし、こいつらにも言おっかなって感じで、伝えたんです。そしたら、反応は家族と同じ感じで」

「僕っていう人間自身が、何か変わったわけじゃないんでしょって。むしろ逆に、気づいてあげられなくてごめんねって、謝られました」

当時カミングアウトした友人とは、今でも交流がある。

「ゲイの中には、家族や友人に絶縁される人もいるみたいなんで、たまたま自分は運が良かっただけなのかもしれないんですけど」

「受け入れてくれる人は、案外いましたね」

実際に周囲におもいを伝えてみて感じたことは、近しい人たちは、ゲイであることについて、そこまで嫌悪感は持たないということ。

「前から友だちとして仲良い人であれば、めちゃくちゃ身構えられることはないのかなって」

父とはまだ話ができていない。

「父とは不仲なままではあるんですけど・・・・・・。すごく悩んでた時期もあったんで、それを思えば実際にはみんな受け入れてくれて、まずは一安心です」

08 LGBTにとらわれず、相手と接する

視野が広がった、大切な人との出会い

母には、付き合っているパートナーの存在も伝えている。

現在のパートナーは18歳年上。
昨年2月頃からの付き合いだ。

「今のパートナーと出会ったおかげで、心境が大きく変化していきました」

パートナーの交友関係は、これまで自分が経験してきたものとは、いい意味で少し違っていた。

「パートナーの友人には、ゲイだけじゃなくてストレートの方もいて。付き合ってから、紹介したいって言われて色んな人とお会いしたんですけど、みんなまったく偏見もなくて」

パートナーと出会うまで、ゲイでもストレートでも関係なく、みんなで仲良くしているという環境をあまり味わってこなかったため、新鮮だった。

「知らない人と会うっていうのが、昔から楽しかったです。接客の仕事自体がそうなんですけど、どういう人がくるんだろうって」

カミングアウトするまでは、人と接することは好きだったが、本来の自分は隠し続けていた。

今はセクシュアリティに関係なく、人と接することを楽しめる。

「仲良くなれる人っていうのは、これからもいっぱいいるだろうし、そういう人たちと早く会いたいなっていうのは、ありますね」

自分も、ゲイだと会社に打ち明けてみたい

現在の職場にはカミングアウト済みだ。

パートナーと出会ったタイミングが、現在の会社に転職する時期と近かった。

社内の一部の人にカミングアウトをした上で働いているパートナーの姿に、憧れを抱いた。

「『打ち明けても、普通に接してもらってるよ』っていうことをパートナーから聞いていて、そういう世界、働き方ってすごくいいなあと思ったんです」

今度勤める会社では、自分も打ち明けてみたい。

「でも、営業職ということもあったり、体育系なので差別もあるかもしれないなって思ってました」

パートナーのアドバイスを通じて色んなことを考えながら、それでもゲイだと言いたい気持ちは変わらなかった。

自分のセクシュアリティを伝える機会は訪れた。

09セクシュアリティはアレルギーのようなもの

面接でカミングアウト

「当時面接を担当していただいた上司に『あなたは結婚しないの?』って聞かれたんです」

転勤がある職種だったので、それを踏まえて軽く聞かれただけだったが、そのまま流れで面接官に伝えた。

「結婚は、まあしないです。するかもしれないですけど、女性とじゃなくって。自分はゲイなんです、って」

色々と質問されることは覚悟していた。

歌舞伎町などの繁華街も営業で回る仕事だったため、もし偏見を感じたら、逆に言い返してやろう、ぐらいの気持ちを抱いていた。

しかし、面接官の反応は意外なものだった。

「勇気出して言ったら『あ、そうなんだ。それでね』って感じで。そのまま普通に別の話へ進んでいって」

無事に採用された。

働いている現在でも、ゲイだということで偏見を受けたことはない。

社内ではみんな、自分のセクシュアリティについて知ってはいる。
それで働きづらいといったことはない。

「せっかくカミングアウトして入ったんだったら、それをあなたの武器にしなさいよって、多分上司も思ってくれてると思います」

身構える必要はない

「上司と話をしていた時、お前がきて良かったと言ってもらえたこともありました」

当初、採用者した人がゲイだと聞いた時、上司は正直どう接していいかわからなかったという。

腫れ物を扱うような感じがいいのか、まったく何も気にしない方がいいのか。

それはそれでぎこちなくなりそうで、接し方が分からなかったと後から聞いた。

「でも、僕は自分からゲイだって伝えたし、おちゃらけて『課長タイプですよ』って冗談言ったり、そういう明るいキャラクターだったから、周囲も扱い方がわかったって」

偏見がなく、働きやすい職場に出合えたことはとても感謝している。

「会社によっては、偏見とか嫌悪感を持たれる人もいるのかもしれないけど、セクシュアリティに関しても、食べ物の好き嫌いとか、アレルギーと一緒だと思ってもらえればいいですよね」

例えば嫌いな野菜があったとして、それを食べられないからといって、人生損しているかといわれたら、そうではない。

LGBTに関しても、その考え方と一緒。

女性を好きになれないゲイが、人生損しているわけではない。
何か特別に人と違っているわけでもない。

ましてやLGBTだからと構えたり、差別しないように、と特別視するのも違うような気がしていた。

「ゲイなんだって構えるんじゃなくて、『あ、好き嫌いあるだね』とか『嫌いじゃないけどアレルギーで食べられないものがあるんだね』ぐらいの感じでいいんですよ」

10僕自身を見て欲しい

やらないよりは、やって後悔した方がいい

ここ数年の間に、LGBTを取り巻く環境は大きく変わってきていると感じる。

「10年前だったら、ゲイって周りに言わないほうがいいんじゃない? って思ったかもしれないけど、時代の流れで、少しずつだけど偏見がなくなってきてるのは事実だなって思います」

昔だったら、LGBTは受け入れてもらえなかったかもしれない。
とはいえ、カミングアウトが受け入れられるかどうかは、その時の運だとも感じている。

「どうしたら、カミングアウトがうまく行くのかなんて、分からないですよね」

「じゃあ、父と仲直りしたいです、どうしたら上手いこといきますか? って、それも分からないんですけど」

「でも、やらずに後悔するんだったら、やって後悔したら? って思いはあるんです」

今年の夏、長年話すことを避けていた父に会いに行く。

時代の変化だけでなく、パートナーを自分の家族に紹介したいという思いが、父に会うことを後押ししていた。

個性だと思われる時代はくるはず

「正直、今の親父の心境がわからないんで、何かまだ不満を持っているのかもしれないんですけど」

「でも、ゲイを理解して欲しいというよりは、それも含めた僕自身を認識して欲しい。個人として認めて欲しいっていうのはあります」

「接してるうちに親父が、ああ、こいつはこういう奴なのかって、自然と思ってくれるのが、ベストなのかなって」

地元を出るときに迷惑をかけてしまったことを、後悔していないわけではない。

疎遠になった時期もあった。

自分がゲイだということも、言わなければよかったのか、もっと早く言えばよかったのか。

わからない。

「でもまあ、親父の中で自分の息子がちょっと心配だなっていうのがあるんだとしたら、別に何も心配することはないって、伝えたいですね」

ひょっとしたら、これから自分のセクシュアリティについて、さらっと言える時代がくるかもしれない。

確実に世の中は変わって行くものだから、今悲観的に思っていても、それが続くわけじゃないだろう。

「LGBTがその人の個性ぐらいに思われる時代って、絶対くると思ってます」

1年前の自分は、今の生活があるなんて、考えもしなかった。

気張らず、なるようになるさと思っていれば、人生は思いもしない方向に進んで行くことがある。

あとがき
勲李さんもまた、重ねる小さなウソが辛くなった。相手が異性という前提の質問。[彼女は?][どんな男の子がタイプ?][まだ結婚はしないの?]。口を揃えて聞かれる質問。隠したいわけじゃない■事実だけをたどると、辛口になりそうなエピソードでも、勲李さんはずっと誰かの気持ちを汲んで話し続けた。「パートナーが、どんどん自分のことを紹介してくれて、すごいうれしかったです」。勲李さんの穏やかさは、出会えた相方さんも支えている。(編集部)

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