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「ニューハーフ」のプライドとともに生きて【後編】

「ニューハーフ」のプライドとともに生きて【前編】はこちら

2016/09/18/Sun
Photo : Mayumi Suzuki  Text : Momoko Yajima
熟田 桐子 / Kiriko Jukuta

1957年、東京都生まれ。「ニューハーフ」の世界に入り20年以上。新宿の有名なショーパブ『黒鳥の湖』でショーダンサーを務め、舞台『毛皮のマリー』では主役に抜擢された経歴も。現在は、株式会社東京メンタルヘルス所属の心理カウンセラーとしてLGBT当事者に対しるカウンセリングの他、渋谷区のLGBT相談支援業務などを行っている。

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INDEX
01 男性化を受け入れつつも女性に憧れた子ども時代
02 芝居の世界に救われて
03 女性として、美しくなりたい
04 サナギが蝶になり羽ばたくように
05 まだ表立って性別適合手術ができなかった時代に
==================(後編)========================
06 「ニューハーフ」から「トランスジェンダー」へ
07 心理カウンセラーとして
08 逆境にくじけず、強さに変える
09 人並み以上の努力で身に着けた「武器」
10 理想は、美しく品があり、凛とした女性

06「ニューハーフ」から「トランスジェンダー」へ

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「ニューハーフ」という言葉しかなかった時代

一時はテレビ番組に頻繁にニューハーフが登場し、「ニューハーフ」という言葉はお茶の間にすっかり定着した感もある。

しかしニューハーフのイメージも、いまと昔ではだいぶ違う。

「男性に生まれたけれど女性を超える美しさを放つ、美輪明宏さんやカルーセル麻紀さん、ピーターさんなどの先駆者たちがいてくださったからこその、ニューハーフがあるんです」

そもそも、「ニューハーフ」はサザンオールスターズの桑田佳祐の造語というのが有力な説だ。

ベティさんという大阪のニューハーフの草分け的存在の方があまりに美しいので、桑田氏がハーフかと問うたところ、ベティさんが「ハーフはハーフでも男と女のハーフね」と答え、「それじゃ新しいハーフだからニューハーフですね」と桑田氏が言ったのだという。

闇でしか手術ができなかった時代、実は東京にはまだ性別適合手術が終わっているニューハーフは多くなかった。

「大阪は割と本物志向で、海外にツアーを組んで手術に行ったりしていたんだけど、東京はなぜか、睾丸を取ると気が変になるとか、間違った噂や迷信がはびこっていてね。『身体にメスを入れずに美しくいられることこそ素晴らしい』とか、わけの分からないこだわりを持つ人が結構いたのよ」

「性同一性障害」という言葉と概念が作られて

ブルーボーイ事件から長く闇手術の時代が続いたが、埼玉医大ではFTMの性別適合手術を行うにあたり、埼玉医大倫理委員会に申請を出し、1997年に「性同一性障害」に関するガイドラインが策定され、それに則った性別適合手術が1998年に初めて施術された。

「手術するためには疾患名が必要ということで『性同一性障害』という言葉が作られたんですね。新聞記事を読むと、それまであった概念とはまったく違うことが分かりました」

「80年代、90年代あたりは、『ゲイ・ピープル』という大きなグループの中に、男性の同性愛の『ホモセクシュアル』のグループ、女性の同性愛のグループ、自分のように身体は男だけど心は女性で、ストレート男性を好きになるグループが、すべて含まれていたイメージです」

「そこに『性同一性障害』という言葉が現れて、『生まれもった身体の性と心の性が違うことに苦しむ』という概念が生まれて、大きく変わったな、と感じました。その時は、自分も本当はこっちなんだろうと思いました」

男で生まれてきたという事実は覆せない。

だから、自分自身は、「男性から女性に身体を変えた人」という認識でいる。

「『身体が間違えて生まれてきちゃったんだから、だったら正しい方に戻せばいいじゃない?』というのが私の考え方。それはいまのトランスジェンダーの方たちと同じ感覚ですよ」

気持ちは誰よりも女性ということはよくわかっているし、自分自身はまったくぶれずに生きてきたので、自分に対する呼び方が変わったところで、何が変わるわけでもなかった。

07心理カウンセラーとして

ホステスの仕事からカウンセラーに転身

カウンセリングの仕事を始めたきっかけは、銀座のホステスのススメだった。

40代はホステスをしていてナンバーワンにもなったこともある。

しかし徐々にリーズナブルな店に移ることになり、だんだんと夜の仕事が嫌になり始める。でも他に稼げる仕事も知らない。

そんな時、銀座のホステスと喋りながらもう辞めたいと弱音を吐くと、彼女が言った。

「カウンセラーって仕事、桐ちゃん知ってる?」。

「本当は彼女がやりたくて勉強していたみたいなんですけど、彼女は相手と一緒に悩んでしまうタイプなのでできないと。『でもあんたなら人を突き放すタイプだし、絶対できる。カウンセリングを学びながらあんたの顔が思い浮かんだわよ』って(笑)」

「大学で心理学科も出てるし、じゃあちょっとやってみようかしら? と思って、心理カウンセラーの養成所に入ったんです。銀座で鍛えた会話術も持っているし、人生を通してこれだけ武器があるのだから落ちるわけがないって確信してました(笑)」

しばらくは夜にホステスをやりながらカウンセリングの仕事をしたが、いまはホステスは辞め、主にLGBT当事者たちに対するカウンセリングや相談事業に専念している。

相談者には統合失調症やうつ病、発達障害を持つ人も多く、簡単にできる仕事ではない。「やっぱり自分の生き様が見える仕事、経験値がものをいう仕事だと思います」

どう生きるかを決めるのは医者じゃない、あなた自身

相談者の年齢は幅広く、下は学生から上は70代までいる。相談内容は「性別違和」がもっとも多い。

「『性同一性障害』よりも広く受け入れられやすいのが、『性別違和』という言葉と概念です。ただ、言葉が生まれ広まることで、勘違いする人や、そこに求めている答えを見出そうとする人も増えている気がします」

たとえば、大黒柱思想や家長制度など、男性が社会から求められるプレッシャーに対して、自分は無理、男として自信がない、そう思ったときに、「性別違和」というちょうどよい言葉を見つける。

「そこで、『自分は女なのかもしれない』と安易に考える人が結構いるんです」

人生がうまくいかないことの原因を、セクシュアリティに求める人も多いが、「それは人間性、コミュニケーションの問題ということも往々にしてある」と熟田さんは言う。

「『女性を好きになったらレズビアンなんでしょうか?』とか、まあ言葉にしたらそういうことになると思うけど。でも、大事なのは、自分がどのセクシュアルかではなくて、『人間として』どうかということでしょう?」

「いまは、自分が少しでもヘテロではないと思うと、セクシュアルマイノリティの中の何かに自分を当てはめて安心しようとしている気がします。もちろん結果的にはそうかもしれないんだけれど、必要なのは、あなたがどう生きるか、あなたが何を目指して生きるのかを、まずは自分自身と折り合いをつけて、決意していくことです」

「だってそれは医者が決めるんじゃない、自分が決めることなんです」

08逆境にくじけず、強さに変える

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両親の介護と借金の返済

「どう生きるかは、自分が決める」。

その強い言葉の裏には、両親の壮絶な介護体験や、実家に発覚した多額の借金など、人生の苦労が垣間見える。

昼は両親の介護をし、夜は月曜から土曜までホステスやスナックをかけもち、朝から晩まで働きづめの日々。

親戚にもお金を借り、罵倒されひどい仕打ちを受けたこともある。

「けっこういいとこの家に生まれて、一生安泰かと思っていたのが、すべて崩れましたね。借金の返済で性格も歪みましたよ(笑)。きれいなまんまじゃいられない、それこそお化粧品のランクも落として服も買わなかったし。もうすべて返して、両親も亡くなったので、親戚とも縁を切らせてもらいましたけどね」

両親には一度もカミングアウトという形で伝えたことはなかったし、両親も聞いてくることはなかった。

ただ、『毛皮のマリー』の舞台が紹介された新聞記事だけは、切り抜かれて取っておかれているのを見つけたことがある。

「いまとなっては、手を合わすほかないですね・・・・・・」

人生に無駄なことなど何もない

最近は、LGBT当事者へのカウンセリングや電話相談などの他に、行政の職員に向けた研修などの講師の仕事も増えている。

行政によって反応は異なるが、前向きにやろうと力を入れてくれるところも出てきて、こちらも新しいことを提案する気力がわく。

研修や講師業は、これからもう少し力を入れて頑張っていきたいところだ。

「そういう面でもっと自分を磨いていきたいですよね。これまでの人生、一滴たりとも無駄にしませんよ!(笑)」

他にも、やりたいことはたくさんある。芝居も、お金と時間が必要で、ひとりでできることではないけれど、もう一度チャレンジしたいことのひとつだ。

09人並み以上の努力で身に着けた「武器」

テレビに出るタレントの芸人魂とプロ根性

最近の若いLGBTERと接していると、テレビ番組でオネエタレントがいじられ、笑われ役になるのを見て、自分も他人から笑われからかわれる存在になるのかと思って嫌だった、という人が多い。

しかし熟田さんは断言する。

「オネエと言われる人たちは、プロ根性で仕事をしているんです。笑われてこそ『よし!』と思うのが芸人で、テレビに出ているオネエタレントさんもそれと同じような感覚なんです。だから別に、みなさん芸人やタレントを目指している訳じゃないのなら、そういう方たちと同じだと考える必要はないので、そこは分けて考えてほしい」

「テレビにあそこまで出てくるためには、苦労も競争もあるんです。みんなが何で輝くのかは人それぞれだけれど、やっぱりオリジナリティがないとオファーは来ない。マツコ・デラックスさんにしたって、あれだけの頭のよさと説得力、言葉選びのすばらしさに、絶対的なボリューム(笑)」

「誰にもまねできないものを持っているから、いまやテレビで視聴率を取れる存在になっている」

「せっかくこれほどLGBTという言葉が広まってきているし、もっといろんな感性や才能を持っている人がたくさん出てくれると嬉しいんですけどね」

「私もがんばらないと(笑)」

女より女らしい「ニューハーフ」のプライド

現代は性別違和や性同一性障害など、セクシュアルマイノリティにまつわるいろいろな言葉で守られ、認知も向上してきて、昔より堂々としていられる時代だと思う。

「昔の人は守ってくれるものが何もなかったから、その分、自分の武器をたくさん持っていたんです。それは美しさであるかもしれないし、人に媚びる力かもしれない。人を味方につける力をすごく身に着けていた」

「守られていない分、本当にひとりひとりの個性が立っていて魅力的で、アクも強いので好き嫌いもすごくあったと思うけど、とても輝いて見えました。『薄利多売なニューハーフ』など、見たことがなかったです」

いまは、若いニューハーフを見ても同じに見えてしまう。”女に近づけば成功” という雰囲気も感じる。

「でも、私たちの時代は、女じゃないと分かっていても、それでもきれいとか、思いやりがあるとか、とびきりの接待ができるとか、そちらの方が重要視されていました」

「努力を惜しまず能力を磨いて職人的な力を身に着ける、それこそがニューハーフのプライドだったんです」

10理想は、美しく品があり、凛とした女性

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恋は自分のエネルギー

「私が男性を好きになる時は、まず尊敬から入るので、その人の二歩三歩下がっていたいタイプです。自分のことはさておいても相手のために尽くす、だけど仕事はやっていくという女性が、理想の女性像なんですね」

テレビドラマや映画の影響も大きい。

『砂の器』の島田陽子、『赤い疑惑』の岸恵子、『金曜日の妻たち』のいしだあゆみ演じる翻訳家の役など、思い入れのある役には一筋縄ではいかない恋愛を強く美しく演じ切るものが多い。

「品があって、凛とした女性が、私の理想なんでしょうね」

「どうしてこの人を好きになるのかなんて、考えたところで答えも出ない。好きなものは好きなんだからしょうがないのよ。たとえつらい恋だと言われようと、好きな人がいるだけで幸せ」

「恋は自分のエネルギーなのだと思うわ」

女として、人として、いつも自分を磨く努力を

「年齢は、言わなくていいわよね」と笑うが、ニューハーフの世界に魅了されて20年以上。

男と女、そしてニューハーフの酸いも甘いも見てきてなお、人として新しいことへチャレンジする意欲も、もちろん女として幸せになることも、諦めない。

持参したノートには取材で話すことがきちんとまとめられ、真面目さと誠実さが伝わってくる。

ノートの表には「姿勢」「笑顔」と書かれた付箋が。いつも意識している言葉だ。

「『姿勢』、『笑顔』、あと本当はこれに『マイナス3キロ』っていうのもセットなのよ(笑)」

いい女への道は、一日にして成らず。いつも自分を磨き、高みを目指す。苦難も、パワーに変えていく。それはニューハーフであろうがなかろうが、力強く、自らの人生を歩むための熟田さんの決意でもある。

「そうだわ、”彼氏募集中” って書いておいて!(笑) やっぱり彼氏は作った方がいいもの!」

清々しい熟田さんの笑顔の前に、「やはり女はこうでなくっちゃ」と、思わず口に出さずにはいられない。

あとがき
大きな笑い声が響いた。桐子さんは、しなやかに大きな声で表情豊かに話す。無心に追いかけた夢は、行動の量と質で叶えられたと感じた。それを桐子さんは、「コンプレックスが力を与えてくれたから」という■人生を変化させる要因は様々あるけれど、言い訳はひとつも聞こえない。「『ニューハーフ』が私を育ててくれた・・・・・・」。背筋をしゃんと伸ばし、すべてを「自分ごと」にする。美しい誇りは、ずっと桐子さんの中にある。(編集部)

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