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「ジェンダーノンバイナリー」というラベルを見つけて、自分に自信を持てた。【後編】

「ジェンダーノンバイナリー」というラベルを見つけて、自分に自信を持てた。【前編】はこちら

2019/11/09/Sat
Photo : Tomoki Suzuki Text : Ryosuke Aritake
山口 佳恋 / Karen Yamaguchi

1998年、埼玉県生まれ。父の仕事の都合で、生後すぐにイギリスに移住し、7歳までロンドンで過ごす。帰国後、インターナショナルスクールに通い、中高一貫の私立校のインターナショナルコースに進む。高校を卒業してから、1年間アーティスト活動を行い、現在はアメリカの音楽大学に通う。セクシュアリティは、男性・女性のどちらかに限定しない「ジェンダーノンバイナリー」と自覚。

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INDEX
01 ロンドン帰りのアクティブな子ども
02 幼いなりの自己表現のツール
03 一緒に過ごしたかった人たちと場所
04 ずっと言葉にできなかった気持ち
05 本当の自分を親友に打ち明ける覚悟
==================(後編)========================
06 ジェンダーノンバイナリーという性
07 LGBTの存在を発信するツール
08 自分が世の中に伝えていけること
09 アメリカの地で知った現状と課題
10 多様な文化に触れてきた自分の強み

06ジェンダーノンバイナリーという性

自分の中の “被害者意識”

中学校の3年間で、自分のセクシュアリティに気づいた。

母の言葉や友だちのジョークから、女の子を好きになることは悪いことなのではないか、という気持ちが強かった。

「自分で自分を、認められていないところがありました」

「でも、高校に進んだ時、被害者意識を持っている自分が、嫌になったんです」

自分はこのまま辛さや苦しさを抱えていかないとダメなんだ、と考えるほどに、悲しくなる。

それならば、その状況を変え、プラスの感情を抱けるようにしていきたい。

「その頃には自分なりにLGBTの知識を得て、自分のせいじゃないんだ、って気持ちが芽生えてました」

「人間として成長して自分を変えながら、社会も変えていきたい、って気持ちが湧きましたね」

「佳恋らしくてかっこいい」

気持ちは固まったが、具体的にできることまでは見えない。

「LGBTのことを変えていきたいけど、どんなステップを踏んだらいいか、わからなかったです」

「だから、まずは今やってることをとことん頑張ろう、と思いました」

ずっと続けてきた音楽に打ち込みつつ、勉強やスポーツにも力を入れる。

「そしたら、いろんなイベントに参加するようになったり、積極的になっていきました」

努力が実り、成績優秀賞を取ることができた。

「表彰されることが多くなって、親友や友だちから『佳恋らしくて、すごくかっこいい』って、言ってもらったんです」

「性別に関係なく、人としてのかっこよさがあることを知りました」

周囲に評価されることで、自分を肯定できるよういなっていく。

「それまでは『できないことばかりだ』って、自分を否定的に見ていたけど、『こんなこともできるんだ』って、ポジティブに見られるようになりました」

ジェンダーノンバイナリー

中学時代から、スカートをはくことや女子トイレに入ることに、違和感を覚えていた。

「自分はトランスジェンダーなのかな、と思って調べても、違う気がしたんです」

「女の子を好きになるけど、自分に女子の自覚がないから、レズビアンとも違うんですよね」

インターネットで情報を集めていると、“ジェンダーノンバイナリー”という言葉を見つける。

自分の性別を、男性・女性のどちらかに限定しないセクシュアリティのこと。

「ジェンダーノンバイナリーを知って、これだな、ってすんなり納得できたんです」

ようやく、自分という存在を表す言葉に出会えた。

より一層、自分自身に対する肯定感が高まっていく。

「高校を卒業する頃には、周りから『自信を感じさせる人になったね』って、言われました」

07 LGBTの存在を発信するツール

かっこいい大人

高校時代は、ビジネスにも興味があった。

「かっこいい大人になりたい、と思った時に最初に浮かんだものが、ビジネスだったんです」

会計事務所を営んでいた父と、経営学を専攻していた姉の影響も大きい。

「ぼんやりとしたイメージですけど、人を手伝いたい、って気持ちがありました」

高校生のうちから、ビジネスコンテストに出場するなど、経験を積んだ。

がむしゃらにビジネスの知識を仕入れたが、なんとなく思い描いた理想は、徐々にブレていく。

「ビジネスをやりたい、って思いの裏にちゃんとした理由がないんじゃないか、と思い始めて・・・・・・」

ずっと好きだった音楽

学外の人も集まるキャンプに参加した時のこと。

「そこで初めて会った人に、セクシュアリティのことをオープンに話したんです」

「自分のことを話すと、相手から『君がいたから、LGBTのことがもっと知れた』って、言ってもらえたんです」

「ちっちゃな自分にも、影響力があるのかもしれない、って思えるようになりました」

経験を話すことにも、やりがいが感じられた。

自分が動くことで、もっと世の中にLGBTのことを知ってもらえるかもしれない。

「そう考えた時に、思い入れのないビジネスよりずっと好きだった音楽の方が、発信するツールに向いてる、って思ったんです」

「姉からも、『経営学を専攻しても、実際にやってみないとわからないことばかり』って、聞いてたんです」

「ビジネスは実践の場で学べるなら、大学生の間は音楽に集中したい、って気持ちが強くなりました」

理想に近づくための道

姉がアメリカの大学に通っていたこともあり、自然とアメリカを視野に入れるようになる。

「友だちから、よく『佳恋はアメリカ人っぽい』って、言われてたんです(笑)」

「だから、1回くらいはアメリカに住んでみたいな、って気持ちもありました」

アメリカの音楽大学で音楽ビジネスを学ぶため、願書を提出した。

「入学試験では、歌う、楽譜を読むといった実技もあったんです」

「中学から高校まで通ったボーカルスクールで学んだことが、ここで生かされました」

無事に合格し、思い描いた道を進むことに。

「入学してから、もっとクリエイティブなことが学びたくなって、今は最先端のアレンジ方法を学んでます」

08自分が世の中に伝えていけること

「佳恋らしく生きればいいんじゃない」

高校卒業後、両親と話す時間を作った。

自分の言葉で、女性が好きなこと、ジェンダーノンバイナリーであることを伝えるため。

「両親はやっぱり気づいていて、『もうわかってるよ』って、言ってました」

「きっとジェンダーノンバイナリーのことは、理解が難しかったと思うけど」

小学生の時のように、「誰にも言わないようにね」と、言われることはなかった。

「お父さんもお母さんも『佳恋らしく生きればいいんじゃない』って、言ってくれたんです」

「良かったな、ってホッとしました」

期間限定のアーティスト活動

高校卒業を控えた頃、もう1つ、両親に打ち明けたことがある。

「『大学進学を1年先延ばしにして、日本で音楽活動をしたい』って、伝えました」

「最初は『それはやめた方がいい』って、言われたんですけど、3カ月くらい説得して、納得してもらいました」

ボーカルスクールで知り合った女性とデュオを組み、ライブ活動や曲作りに励む日々が始まる。

「ライブを開催する方法もわかんなくて、ちょっとずつ手探りでやっていく感じでした」

「週2回くらいライブをやって、合間に曲を作って、ちょっとずつ活動方法を理解していきました」

活動を始めてから1年後、解散ライブを開催。100人もの人が集まってくれた。

「1年間続けてきて、最後に100人集めることができて、確かな自信になりました」

最初に決めていた通り、1年間で活動を終え、アメリカに渡る。

音楽を奏でる意味

現在も大学に通いながら、イベントに出演し、歌を響かせている。

「ビザの関係で、学外のライブには出られないんです」

「その分、学内のチャリティーイベントに関わって、ライブをさせてもらってます」

大学の講義を通じて、“黒人の大量投獄”という、今のアメリカで起きている問題を知る。

黒人というだけで、犯罪者として逮捕されやすい実情。

「その講義の最後に、感じたことや研究したことを、プレゼンすることになったんです」

「自分はリサーチした事実をもとに曲を書いて、歌いました」

その曲が講師に評価され、チャリティーイベントに誘われるようになったのだ。

「音楽を、社会的な課題にも結びつけていけたらいいな、って考えてます」

09アメリカの地で知った現状と課題

なくなっていない差別

初めてのアメリカでの生活が教えてくれたことは、日本の良さ。

「知り合いにミュージシャンが多いからかもしれないけど、アメリカの人って、あんまり時間を守らないんですよ(苦笑)」

「その点、日本人は時間もルールも守って、きっちりしてるところがすごいです」

そして、アメリカという国に対する印象も、ずいぶん変わってきている。

「アメリカに行く前は、差別がなくて、心地よく過ごせる国ってイメージだったんです」

「でも、実際は差別的な感情が残ってるし、陰で話しているところも見るんですよね」

人種でも宗教でもセクシュアリティでも、差別はなくなったように見えて、なくなっていない。

ネット上で、差別的な発言を見かけることもある。

「『差別がある状態を保とう』という声は、意外と大きいように感じます」

「ただ、反対に『差別がない状態に変えよう』という声も、大きいです」

それぞれが抱いている意見を発信し合える環境は、危険性があるが、健康的でもある。

「その状況を見ていると、自分1人で解決できることではないからこそ、まずは自分ができることをやりたい、って気持ちが湧いてきます」

LGBTに関する教育

アメリカの実情を目の当たりにすることで、日本の課題も見えてくる。

「日本の学校教育で、一番変えてほしいところは、保健の授業です」

インターナショナルスクールでは、LGBTに関する授業を、丁寧にしていたように思う。

「小学生の年齢の子に、ちゃんとセクシュアルマイノリティの話をしてくれてました」

「インターナショナルスクールで基礎知識が得られたけど、中高ではほとんどに触れなかったです」

中学生の頃、保健の教師が「LGBTの人はエイズにかかりやすいから、気をつけなさい」と、言っていた。

「今でも覚えているくらい、ショッキングなひと言でした」

高校3年の時、女子の制服をスカートとズボンの選択制にできるよう、署名活動をした。

「集めた署名を提出して、ようやく学校側がセクシュアルマイノリティに向き合い始めた気がしました」

「日本の学校でも、LGBTに関する教育を、もうちょっと取り入れてほしいですね」

学生の間に知識を得ることで、多様性を受け入れることが当たり前になるかもしれない。

セクシュアリティで悩む子どもたちが、救われるかもしれない。

そのために自分ができることは、音楽でメッセージを発信していくこと。

10多様な文化に触れてきた自分の強み

“愛” を綴った曲

学業をこなしながら、課外活動にも力を入れている。

「大学を少し休んで、日本で音楽活動したいと思ってます」

「日本こそ、音楽を通じてLGBTのことを発信する意味があるんじゃないかなって」

活動が、大学の評価につながるわけではないが、必ず将来の役に立つと確信している。

「今は、とにかくSNSを使って、いろんな人に自分の音楽を届けたいです」

ネット上で楽曲を発信する時には、制作の裏側や意図も記すようにしている。

「きっと歌詞の背景とか、できあがるまでの思いを知った上で聞いてもらえた方が、伝わりやすいですよね」

当事者ではない人にも届いてほしい、というおもいも込めている。

「ヘテロセクシュアルでもLGBTでも、共通点は必ずあると思うんです」

「誰しも人を愛する感情を持ってるはずだから、愛を歌った曲なら共感してもらえるんじゃないか、って考えてます」

だから、自分が紡いできた楽曲は “愛” を歌ったものがほとんど。

多くの人に共感してもらえる曲を通して、LGBTが決して変わった存在ではないことを知ってほしい。

日本でもアメリカでも届けたい

ロンドンで育ち、インターナショナルスクールに通い、一般的な日本の学校での生活も送った。

そして、今はアメリカの地で、いままでとは違った慣習を体感している。

さまざまな場所で、さまざまな文化に触れてきたことは、自分の強み。

「いろんな視点から物事を見られるのかな、って思います」

「『日本はここが悪い』って偏見に陥らないというか、『日本もアメリカもここはいいところで、ここは直したいよね』みたいに、考えられる気がします」

「この感覚は、曲や詞を書く上でもすごく大切なことだ、って感じるんですよね」

自分の中にさまざまな引き出しがあれば、多くの人に届く曲を書けるはず。

「そのためにも、もっと日本語力を鍛えたいです」

「今は、英語の方が伝えやすいところがあるけど、日本人に日本語で、おもいを伝えていきたいから」

「バイリンガルという特性を生かして、アメリカでも日本でも伝わる作品を作っていきたいです」

そして、いずれは影響力のある大人になっていきたい。

「理想に近づくためには、自分自身が成長しないといけないと思ってます」

「そして、影響力を高めて、LGBTのことを広めていけたらいいな」

まだ、歩み始めたばかり。

今の一歩が、思い描く未来につながることを信じて、ただ進んでいくだけ。

あとがき
ハスキーボイスで落ち着いた言葉の運び。愛想笑いはしない佳恋さんだから、笑顔はより光る。Hi!と声を掛けた方がしっくりくるラフさも魅力の一つ。「まずは今やってることをとことん頑張ろう、と思いました」は、佳恋さんの輝きをより感じた瞬間だった■国の内側のこと、外側のこと。世の中のいろいろ。ダイバシティは、新しくない。これではないけど、あれではある。それは知らないけど、知りたい・・・。今日も、地球は多様性にあふれている。(編集部)

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