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結婚相手はMTF。特別なことじゃなくて、ただその事実があるだけ。【後編】

結婚相手はMTF。特別なことじゃなくて、ただその事実があるだけ。【前編】はこちら

2020/11/17/Tue
Photo : Taku Katayama Text : Ryosuke Aritake
河原 樹里亜 / Juria Kawahara

1988年、神奈川県生まれ。幼い頃から性別に捉われず「僕」「俺」という一人称を使ったり、制服のズボンをはいたりすることがあった。高校中退後、さまざまな仕事を経験しながら、インターネットを通じて男性と知り合い、数人と交際。その中には、FTMもいた。2014年にMTFの人と知り合い、交際をスタート。2017年に結婚し、現在に至る。

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INDEX
01 “1人” が好きな私の現在
02 言葉にできる感情とできない感情
03 “好き” を全力で楽しめた時期
04 なんとなく感じた思春期の揺らぎ
05 つき合う条件、別れる理由
==================(後編)========================
06 苦しめられた人間関係
07 トランスジェンダーMTFとの出会い
08 築いてきた “夫婦” という関係
09 答えの見つからない不安
10 ただ自由に生きていけたらいいのに

06苦しめられた人間関係

休憩時間の世間話

高校を中退してからは、さまざまなアルバイトを経験した。
最初の勤務先は、コンビニでその後は倉庫。

「その職場には、学校みたいにグループがあって、頂点のグループの意にそぐわないといじめられるんですよ」

頂点のグループに気に入られなかったために、別部署に左遷された社員もいた。

「仕事しに来てるはずなのになんでだろう・・・・・・って、人と関わるのがイヤになりました」

自分が人見知りしやすいタイプであることは、自覚していた。

「『これやってください』とか、仕事に関することは話せるんですよ」

「でも、世間話がダメで。休憩時間とかが、本当に苦痛でした」

職場の休憩スペースが狭く、世間話から逃れられない。

「相づちを打たなきゃ、返事をしなきゃ、って考えながら、頑張ってた気がします」

他人への興味

結局、倉庫の仕事は辞め、コールセンターで働き始める。

「お客さんと直に接しないからか、コールセンターの仕事は大丈夫だったんです」

「お客さんに怒鳴られても、なんで怒鳴る必要があるんだろう? みたいに、冷静でしたね(苦笑)」

「ただ、ここでも人間関係が難しかったんです」

休憩時間は、同僚から離れ、1人で過ごすスペースを確保した。

「それでも、わざわざ近寄ってくる人がいるんですよね。そういうことが積み重なると、ますます1人の方がラクだな、って思っちゃいました」

自分は人の話ではなく、人そのものに興味がないことに気づく。

「最近、やっと気づいたんです。興味がない相手だから、話を聞くのが苦痛なんだって」

恋人の話はいくらでも聞けたし、聞きたかった。
自分は、人に対する興味の差が、激しいのだと思う。

ようやく馴染めた職場

20代半ばは、居酒屋で働く。

「居酒屋はキッチン担当だったので、そこまで負担はなかったです。一緒に働いてた子とも仲良くなれたんです」

同僚たちと飲みに行ったり、遊びに行ったり、初めて職場で楽しい時間が過ごせた。

しかし、引っ越したことで、居酒屋は遠くなってしまう。

「近場で新しい仕事を見つけようと思って、ケーキ屋さんに入りました」

形作られたケーキの土台を飾り付ける「デコレーションパティシエ」という仕事。

「デコレーションの作業は、すごく楽しかったし、続けたかったです」

「ただ、ここでも人間関係が・・・・・・。気分屋のお局様的な方がいらして(苦笑)」

仕事自体を楽しめたケーキ屋も、辞めてしまう。

07トランスジェンダーMTFとの出会い

MTFのゲーム友だち

2014年のこと。SNS経由で、同じゲームが好きな人と知り合い、一緒に遊びに行くことになる。

その人はMTFで、「女の子の格好をしていく」と言っていた。

「実際に会ったその人は、骨格は男性寄りではあったけど、男性っぽさは特になかったです」

「女の子の服も着てたし、同性の子と遊ぶような感覚でしたね」

2人でゲームセンターに行き、ごはんを食べる。なんてことのない1日。

別れ際、「また遊びたいね」という話になった。

そして、お互いに「今日を逃したら、もう会えなくなってしまうのではないか」という思いが通じ合う。

「なんとなく、『このままつき合ってしまえばいいんじゃない?』って、流れになったんです」

2人でアクセサリーショップに向かい、お揃いのピンクゴールドの指輪を買った。

「なんでそうなったかわかんないんですけど、本当にノリだったんですよね」

「でも、相手はいろんな話をしてくれたし、私の話も聞いてくれたんです。その踏み込み方が、イヤな感じじゃなかったんですよね」

「外見的なことも気にならなかったというか、着たい服を着れば、って思うくらいでした」

正反対な2人

つき合い始めると、性格が真逆なことに気づく。

「私は出かけたら気ままにフラフラしちゃうけど、向こうは目的を決めてから出かけるタイプなんです」

自分はやりたいことをすぐにやってしまうが、相手はテンプレートに沿って進めたい人。

だから、ぶつかることも多い。

「私がワーッて言葉をぶつけると、『ごめんね』って、終わらせようとしてくるんですよ」

「人から意見されると、自分が間違ってて悪いんだ、って思っちゃうみたいで」

「でも、私は責めたいわけじゃなくて、意見のすり合わせがしたいんです」

ケンカがしたいわけではない。お互いの違う部分を理解し、歩み寄りたいだけ。

それでも別れずに、距離を縮めていけたのは、きっと相手が精神的に大人だから。

「私が言ってることをちゃんと聞いて、飲み込もうとしてくれるから、この人で良かった、って思えてます」

「つき合った理由がノリだから、その日限りで終わらせることもできたんですよ」

「そうならずに関係が続いていることが不思議だな、って思います」

08築いてきた “夫婦” という関係

関係が続いている理由

2014年につき合い始めてから約6年、MTFのパートナーとの関係は続いている。

「これまでつき合った人の中で一番長いけど、もうそんなに経った? って感じです(笑)」

「相手が私の話をちゃんと聞こうとしてくれるところが、長く続いている理由なのかな」

「私に子どもっぽいところがあるから、相手の大人なところと合致したんだと思います」

かつての恋人たちは、一方的に気持ちを伝えてくる人ばかりだった。

現在のパートナーは、互いにちゃんと話して、受け止めようとしてくれる人。

だからこそ、思いは言葉で伝えるようにしている。

「イライラしている理由とかは察してもらうにも限度があるから、伝えるしかないかな、と思って」

「ただ、私は1人でいることが好きだから、すべてを侵食されたくない、って気持ちもあります(笑)」

好きなものもキライなものも、自分の中にしまっておきたい部分はある。

結婚という形

2017年に入籍。

パートナーは、性別適合手術(SRS)も戸籍変更もしていない。

「結婚もノリなんですよね(笑)」

「相手はもともと結婚願望が強かったから、『それなら、つき合い始めた日に籍入れる?』って、決めた感じです」

結婚にいいイメージを抱いていなかったが、パートナーが求めていたから応えた。

「当時はもう同棲してたから、結婚して変わるのは名字だけだし、まぁいいかなって」

結婚式は断り、フォトウエディングだけ行った。

「相手は『着物がいい』って言っていたので、私が袴をはこうかな、って思ってたんです」

「でも、『2人とも着物にしよう!』って押されて、打掛を羽織って撮りました」

「結婚は、私にとって特に大きな意味はないし、今も必要だと思ってません」

パートナーがたまに「SRSして、戸籍変更したいな」と、話すことがある。

しかし、戸籍変更するには、離婚という形を取らなければならない。

「向こうは『離婚したくないから、戸籍変更しない』って言うけど、私は必要なら離婚してもいい、と思ってます」

「別に、離婚したからって、2人の関係が変わるわけじゃないですよね」

自分の考えは伝えてある。あとは、パートナーの判断を待つだけ。

セクシュアリティに寛容な母

パートナーとつき合い始めた時、家族にも報告した。

母と妹は「ふ~ん、そうなんだ」と、特に気に留めていない様子だった。

「母親はスナックで働いていたこともあるからか、セクシュアリティに関して寛容だったみたいです」

幼い頃に「男になりたかったら、なってもいいよ」と言われたことも、母の経験からくる言葉だったのかもしれない。

「驚かれることも、質問攻めにあうこともなかったですね」

「ただ、普通に世間話をしてる時に、母親から不意に『あんまり居心地のいい家じゃなくてごめんね』って、言われたことがあります」

「私は学生の頃から出歩くことが多くて、門限を守らなかったりもしたから、母親なりに心配してたのかもしれないです」

母の真意はわからないが、嫁いでいく娘を気遣ってくれたのだろう。

09答えの見つからない不安

理解してあげられない悩み

今抱えている不安は、パートナーの体のこと。

「前までホルモン治療をしていたんですけど、今はストップしてるんです」

ホルモン治療を中断すれば、女性化は止まり、体はシャープになり、ヒゲも生えてくる。

「『男性ホルモンが優位になることで、性欲が強くなるのもイヤだ』って、言ってました」

「より男性であることを意識しちゃうみたいで、辛いんでしょうね」

トランスジェンダーではない自分は、完璧には理解してあげられない。

「『ホルモン治療を再開すれば』って、言うのは簡単だけど、体に負担がかかることはわかってるから、勧められないですよね」

「MTFの方の情報って、ネット上でもなかなか見つからないんですよ」

「手術をした結果とか、経過はどうなるのかとか、全然見つからなくて、行き詰ってる感じです」

パートナーはよく、「男として働きに出ることもしんどい」と、話している。

自分はただ「そっか」と、聞いてあげることしかできない。

人生の糧になるもの

「私自身の気になるところは、 “生” に頓着がなさすぎるところですね」

「死ねるなら死にたい、って気持ちは、ずっと持ち続けてるかもしれません」

だからといって、自分勝手に死ねるわけではない。
それならば、もうちょっと息がしやすい世界で生きていきたい。

生きづらさの理由は、人と関わること、人に評価されること。

「評価されると、その枠の中にいなきゃいけないんじゃないか、って思っちゃうんです」

「だから、評価されたくないし、カテゴライズされることはすごくイヤです」

「例えば、性別は戸籍上のものに過ぎないから、好きな格好すればいい、って思うんです」

「法律は守らなきゃいけないけど、セクシュアリティは自由でいいんじゃないかな」

好きな服を着ることで、誰かに迷惑がかかるわけではない。自由でいていいはずだ。

そんな世界の中で、楽しく生きていくための糧を見つけたい。

「私は諦めグセが強くて、何をやってもうまくいかないんですよね」

「小説を書くことは好きだけど、世に出せるようなものじゃないから、糧にはならないんです」

「この先に何か見つかるかもしれない、とは思ってるので、それまで探し続けるのかな」

中学時代の演劇部のように、熱中できるものに偶然出会えたら。

10ただ自由に生きていけたらいいのに

自衛のための攻撃

世の中には、自分と違う人に対して、攻撃的になる人がいる。

いつだったか、知らない人から、すれ違いざまに悪口を言われたことがある。

「そういうことをしたり、SNSで中傷したりする人って、ストレスが溜まってるんですかね」

「うっぷん晴らしでやっているなら、本当に良くないと思います」

「『自分と違うものは攻撃してもいい』みたいな感覚は、違う気がするんです」

違う者同士だからといって、必ずしも相手が批判してくるわけではない。
されるかわからない批判を防ぐために、先に攻撃するのは間違っている。

「ただ自分と違うってだけで、相手に迷惑をかけるのは、健全じゃないですよね」

「そういう考え方もあるんだ、って思えばいいだけじゃないのかな」

“違い” を尊重すること

“マイノリティ” とは単に数が少ないということ。

「世の中には固定観念が多くて、それに則らなきゃいけないって風潮も強いから、辛く感じるんだと思います」

「でも、実際は何をやるにしても自己責任じゃないですか」

好きな服を着るのも、したい仕事をするのも、すべては自分自身で責任を取っていくもの。

「それなのに、世の中に認めてもらおうとしてしまうから、悩むんですよね」

世の中の普通は “白” だから、 “白” でなくてはいけない。 “黒” であってはいけない。

少しでも人と違うことをすれば、責められてしまう。

そんな強迫観念が、みんなの中にあるように感じられる。

「決して少数派が悪いわけではないのに、多数派のものとして世界は動いてますよね」

「個々を尊重するってことを、みんなはしないのかな」

「理解はしなくてもいいから、違いを知ることってすごく大事じゃないかな、って思います」

自分はMTFのパートナーに対しても、FTMの元カレに対しても、違和感は抱かなかった。
家族も、MTFのパートナーを受け入れてくれた。

そんな感じでいいはずなのに。

「私はセクシュアリティに関して、悩んだことがないけど、みんなが好きに生きていけたら一番いいよな、とは思います」

「その過程で、悩むことも、辛いと感じることもあっていいと思うんです」

「『ポジティブが大正義』みたいな風潮もあるけど、ネガティブだったとしたって、その人はその人だから」

自分自身のセクシュアリティにも、こだわりはない。
他人の生き方だって、それぞれ自由にすればいいじゃないか。

だって、あなたと私は違う人なんだから。

あとがき
取材中、迷いながらも言葉を見つけようと接してくれた樹里亜さん。こちらの伝え返しは、きっと的を射ない場面もあっただろうと振り返る。そんな私たちにも、そして取材中のどの登場人物に対しても “感じること” の主語述語は[私は・・・思う]。評価はない■何が備われば幸せなのか? どうであると不幸せなのか? 自分が正しいと思うことを主張し始めると、相手のおもいを置き去りにしてしまう。あるべき姿があるとすれば、それが手がかりか??(編集部)

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