INTERVIEW
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結婚相手はMTF。特別なことじゃなくて、ただその事実があるだけ。【前編】

インタビューの最初に、「人としゃべるのが苦手で、話がまとまらないんです」と、教えてくれた河原樹里亜さん。過去の出来事を1つずつ紐解きながら、少しずつ語ってくれた言葉の中から、いい意味で “こだわらない” 性格が見えてきた。パートナーがトランスジェンダー(MTF)だからといって、特別なことをしているわけではない。そばにいたいから一緒にいる、それだけのこと。

2020/11/13/Fri
Photo : Taku Katayama Text : Ryosuke Aritake
河原 樹里亜 / Juria Kawahara

1988年、神奈川県生まれ。幼い頃から性別に捉われず「僕」「俺」という一人称を使ったり、制服のズボンをはいたりすることがあった。高校中退後、さまざまな仕事を経験しながら、インターネットを通じて男性と知り合い、数人と交際。その中には、FTMもいた。2014年にMTFの人と知り合い、交際をスタート。2017年に結婚し、現在に至る。

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INDEX
01 “1人” が好きな私の現在
02 言葉にできる感情とできない感情
03 “好き” を全力で楽しめた時期
04 なんとなく感じた思春期の揺らぎ
05 つき合う条件、別れる理由
==================(後編)========================
06 苦しめられた人間関係
07 トランスジェンダーMTFとの出会い
08 築いてきた “夫婦” という関係
09 答えの見つからない不安
10 ただ自由に生きていけたらいいのに

01 “1人” が好きな私の現在

主婦兼シナリオライター

現在は主婦業のかたわら、趣味の延長線上でシナリオライターをしている。

「PBW(プレイバイウェブ)というジャンルで、たまに執筆してるんです」

プレイヤーと呼ばれる参加者たちから届く設定を、1つのストーリーとしてまとめあげる作業。

「決められた設定をもとに、小説を書いていくようなイメージです。ちょっとだけ報酬をいただいて、やっています」

好きなことができる日々に感謝しながらも、定職につかなければ、という思いもある。

「きっとパートナーに甘えちゃってるから、主婦でいるのかな、って思います」

実家は裕福ではなく、稀にガスや電気、水道が止まることがあった。

「それでも生きていけるって身に染みてわかってるから、あんまり焦らないんですよね。最低限の生活ができればって」

「だから、たまにパートナーから叱られます(苦笑)」

私のパートナーは、トランスジェンダー(MTF)。

趣味は気ままな1人旅

趣味は、1人旅。
国内であれば、1人でふらりと出かけてしまう。

「印象に残っているのは京都ですね。伏見稲荷大社の鳥居は、やっぱりすごかったです」

「島根にも行ったことがあるんですけど、天気が悪かったから、出雲大社には行きませんでした」

1人旅の良さは、その日の天候や気分で、予定を変更できること。

「大雑把に予定を決めつつ、その日になったら、やっぱり今日はこっちに行こうかな、とか。人に気を使わずに自由に動けるのが、ラクでいいところですね」

「あと、見たことがないものが見られて、知らなかったことを知る経験も、楽しいんです」

1人で過ごすことが好き。人に合わせることが苦手。

結婚してから1人旅はしていないものの、1人で出かけることは多い。

「気になる場所があったら、1人で行っちゃいますね(笑)」

私が育った家

横浜で生まれ、川崎で育った。

「樹里亜」という名前は、父、母、姉の名前から一文字ずつもらってつけられたもの。

「母は再婚していて、13歳離れている姉は異父姉妹なんです」

「私が小学生になる頃には、姉はもう1人暮らしをしていたので、一緒にいた記憶がほとんどないんです」

2歳下の妹とは、昔から仲がいい。

「小さい頃はよく一緒に遊んだし、今でもよく連絡を取ります」

両親は両極端。放任気味な母と口うるさい父。

「母親は、『警察沙汰にならなければ、好きにすればいいじゃん』みたいな、自由な人でした」

「父親は『勉強しろ』とか、小言が多くて、うるさかったですね」

02言葉にできる感情とできない感情

理由のない嫌がらせ

子どもの頃から、人との距離を保つスタンスは、変わっていないと思う。

「女子特有のグループがキライで、トイレくらい1人で行きなよ、って思ってました(苦笑)」

「女の子同士でケンカすると、大抵『樹里亜ちゃんはどっちの味方?』とか、聞かれるんですよ」

「『どっちが悪いかわからないから、味方になれない』って言うと、はぶられるようになりました」

靴を隠されたり、陰口を叩かれたり、嫌がらせが続いた。

「いじめというほどひどくはなかったし、あんまり相手にしてなかったですね」

「コソコソ悪口を言われた時に、『直接言ってきなよ』って、言ったこともあります(笑)」

親や教師に「靴を隠されることが多い」と、訴えたこともある。大人たちは、嫌がらせされないように動いてくれた。

「嫌がらせしてきた子たちに理由を聞いたら、『単にふざけてただけ』って、言ってました」

反論できない環境

小学校高学年になると、精神的に追い詰められる出来事が起こる。

「保健室登校をしていた同級生と、よく一緒に遊んだり、話したりしてたんです」

「たまに別の子と遊ぶと、なぜか先生に『なんであの子を1人にするんだ』って、叱られました」

決して仲間外れにしたわけではない。たまたま、その日は別の友だちと遊んだだけ。

同じ時期、委員会で委員長を務め、職務を全うしていた。

「それなのに、また先生から『サボるな。真面目に仕事しろ』って、言われたんです」

どうやら同級生の誰かが、教師に「樹里亜がサボってる」というデマを伝えたらしい。

「先生に言われたら、子どもは勝てないし、何を言っても聞いてもらえないんですよ」

「そういう積み重ねで、だいぶしんどかったです」

行き詰まった先の衝動

教師からの圧力のことは、親にも言えなかった気がする。

「多分言えなかったから、そのはけ口を探して、自傷行為に走ったんですよね」

精神的に弱っている人のブログ本を読んだことがあり、自傷行為の方法は知っていた。

手首を切ったことは、母にすぐ気づかれる。

「『なんでそんなことするの?』って、すごく怒られました」

「理由は言わなかったけど、『学校に行きたくない』とは、さんざん言ったんです」

「でも、父親が厳しくて、むりやり学校に行かされてました」

いつの間にか、自傷行為はクセのようになってしまった。

「傷が残るから良くないだろうな、と思いつつ、気持ちを吐き出せる場所がなくて・・・・・・」

「でも、切ってスッキリするわけでもなくて、虚無なんですよ・・・・・・」

だからといって、別の何かで満たせるものでもなかった。

03 “好き” を全力で楽しめた時期

中学生でのめり込んだこと

中学生になり、水泳部に入る。

「運動はキライじゃないし、走るより泳ぐ方が好きだったので、入ったんです」

「でも、同級生の男の子に体型をからかわれて、ケンカになって、辞めちゃいました」

1年生の夏のこと、退部して間もなく、友だちから演劇部に誘われる。

「その子が演劇部に入っていて、『来れば?』って、言われたんです」

「『じゃあ行くわ』って、ついていって、そのまま卒業まで演劇部に所属しました」

人数の少ない演劇部では、全員が演者も裏方もこなす。

「衣装も小道具も自分たちで作って、セットの配置も芝居しながら変えてましたね」

「脚本は、卒業生が書いたものや名作のパロディ、自分たちのオリジナル作品もありました」

稽古を重ねた演劇は、校内の文化祭や複数の中学校が集まる連合文化祭で発表する。

活動を通じて、演劇部内に仲のいい友だちもできた。

「何より、舞台上で演技をすることが好きでした」

「人と関わるのは苦手だけど、自分じゃない人になれる演劇は、居心地がよかったんです」

偶然出会った演劇部が、中学生活を楽しいものに変えてくれた。

偶然知った面白いモノ

脚をケガして、入院していた時期がある。

お見舞いに来てくれた友だちが「ヒマでしょ」と、1冊の本を貸してくれた。

「それまで、本を読むのはキライでした」

「でも、せっかく友だちが持ってきてくれたから読んでみよう、って思ったんです。

その本は、甲田学人氏が手掛けたライトノベル『Missing 神隠しの物語』。

「主人公たちが七不思議にまつわる事件を解決する物語なんですが、すごく面白くて、そこから本を読むようになりました」

いつか自分も小説を書いてみたい、という思いが込み上げ、高校では文芸部に入る。

「それから徐々に、自分でも書くようになりました」

「ファンタジーが好きで、そういうテイストの物語をよく書きましたね」

かつては、新人賞などに作品を送ったこともある。

「賞とかは全然取れなかったし、書いてるだけで満足だって気づいたんです」

今もたまに執筆するが、世に出すために書こう、とは考えていない。
たまにシナリオライターの仕事ができれば、それだけで十分。

04なんとなく感じた思春期の揺らぎ

制服のズボン

幼い頃は意識していなかったものが、小学生の頃から気になり始める。

「スカートをあんまりはかなくなりました。ズボンの方がしっくりきたんです」

「中学の制服のスカートは、キライでしたね。ダサいし、動きづらいし」

イヤだな、という思いはあったが、絶対にはきたくない、と思うほどではなかった。

「学校ではジャージをはけばいいし、帰ったら私服に着替えられるから、いいかなって」

高校は、服装の規則がない学校を選んだ。

「制服もあったんですけど、スカートとズボンから選べたんですよ。まっさきにズボンを選びました」

しかし、女の子の中で、制服のズボンをはいているのは自分だけ。

「みんながなんで選ばないのか、不思議でしたね。両方買って、どっちもはけばいいのにって」

一時期、自分のことを「僕」「俺」と呼んでみたこともある。

「その時に母親から『男になりたかったら、なってもいいよ』って、言われたんです」

「男の子になりたいわけではなかったから、『へぇ、そうなんだ』って、聞き流した気がします」

1年間の頑張り

高校は、望んで進学したわけではない。

「その頃は声優になりたくて、専門学校に行きたかったんです。でも、親が『うちにはそんな余裕はない』って許してくれなくて、断念しました」

高校に行く気はなかったが、父に説得され、定時制への進学を決める。

しかし、1年通い、なけなしのやる気が途絶えてしまう。

「選択科目が多い学校で、真面目に通ってたら、3年分の単位の半分が取れてたんです」

「だから、先生に『辞めるのはもったいない』って言われたんですけど、なんだか疲れちゃって」

「1年通ったから、辞めます」と話すと、父は何も言わなかった。

「高校は出ておいた方がいいって頭ではわかってたんですけど、辞めちゃいました」

興味を抱く相手

高校を中退してから、初めて男性とつき合った。

「相手は同じ中学校だった子で、お互いに17歳でした」

「私は恋愛をすると尽くすタイプみたいで、相手に寄せていっちゃうんですよね」

恋人の好きなものに興味が湧き、同じものを好きになっていく。
その反面、一度興味を失うと、あっさりと別れられる。

「未練とかはまったくなくて、『別れたいから終わりね』って、関係を切っちゃいます(苦笑)」

「最初の人には大事な友だちを傷つけられて、頭に来て別れました」

それからは、オンラインゲームやSNSを通じて知り合った人と、つき合うことが多かった。

つき合った人はすべて男性だったが、女性にほのかな好意を抱いたこともある。

「いいな、って思った子はいます。でも、告白してつき合うようなことはなかったです」

同性に恋心を抱いたことに、特別な意味は感じなかった。

05つき合う条件、別れる理由

FTMの恋人

18歳の時、大分に住む男性と、インターネットを通じて知り合う。

「意気投合して、大分まで会いに行ったんです」

自然な形でつき合い始め、遠距離恋愛が始まる。

「その人から『実は(トランスジェンダー)FTMなんだ』って、言われました」

当時はLGBTに関する知識はなく、FTMの意味もわからなかった。相手から言葉の意味を説明され、ようやく理解する。

「全部聞いても、『へぇ、そうなんだ』くらいの感覚だったんです」

相手がFTMであることが、別れる理由にはならなかった。

「性別にこだわらなかったし、性的な行為もイヤじゃなかったから、そういう人もいるんだ、って感じでしたね」

「もともと結婚願望がないというか、結婚という形が好きじゃなかったんです」

父と母が仲良くしている姿を、見たことがなかったからかもしれない。
結婚という選択に、明るい未来を見出せなかった。

「誰とつき合う時も、結婚がゴールだとは考えていなかったんですよね」

だから、恋人がFTMであっても、将来に対する不安や迷いはなかった。

生じていくズレ

「遠距離恋愛だから、電話やメールは頻繁にしてましたね。ただ、その人はだいぶ変わった人だったんです(苦笑)」

一緒にいる時、彼は口グセのように「幼なじみが好きで、つき合いたかったんだ」と、言っていた。

「なぜか、その幼なじみを紹介されたこともありました」

「何度も幼なじみの話をされたら、なんで私とつき合ったの? って、思いますよね」

性格が合わなかったこともあり、徐々にズレが生じていく。

「私から『別れよう』って切り出したら、『別れるなら死ぬから』って、言われたんです」

「勝手にしてよ、とは思ったけど、ちゃんと説得してなんとか別れました(苦笑)」

「多分、1年もつき合ってなかったかな。当時の記憶は曖昧なんですけど」

彼との別れに、セクシュアリティは関係ない。ただ相性が悪かっただけ。

 

<<<後編 2020/11/17/Tue>>>
INDEX

06 苦しめられた人間関係
07 トランスジェンダーMTFとの出会い
08 築いてきた “夫婦” という関係
09 答えの見つからない不安
10 ただ自由に生きていけたらいいのに

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