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アライという言葉が不要な世の中に。

「女も男も、自分が食べる分は自分で稼ぐものだ」という考えをもつ、お父さんの影響もあってか、学生時代に家族社会学や女性の労働問題について興味をもったという松信ひろみさん。その後、研究に情熱を傾け、今や家族社会学とジェンダー論の分野において、最前線に立つ研究者のひとりとなった。そんな松信さんが、教育者としてLGBTを取り巻く問題と対峙することとなった背景には、どんな想いがあったのだろう。

2016/07/29/Fri
Photo : Mayumi Suzuki Text : Kei Yoshida
松信 ひろみ / Hiromi Matsunobu

1965年、埼玉県生まれ。東京育ち。上智大学文学部社会学科卒業後、同大学院文学研究科社会学専攻博士課程を取得。立教大学、東京学芸大学、早稲田大学などで非常勤講師、長岡大学産業経営学部専任講師を経て、現在は駒澤大学文学部社会学科の教授として教鞭を執っている。「東京レインボープライド」では2015年より来場者アンケートの実施に協力。主な著書に「近代家族のゆらぎと新しい家族のかたち 第2版」(編著・八千代出版)がある。

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01セクシュアリティと家族

アライという言葉が不要な世の中に,01セクシュアリティと家族,松信ひろみ,ALLY

── 松信さんの専門分野は家族社会学とジェンダー論と伺いましたが、現在はどんなテーマで研究を進めているのでしょうか。

主な研究テーマは夫婦関係です。

特に、例えば共働き家庭における夫婦の役割分担など、夫婦間の平等性に注目していまして、ここ数年は保育園にお子さんを預けて働いていらっしゃるお母さん方を対象とした、仕事と家庭生活の両立に関するアンケート調査、インタビュー調査を行ってきましたし、現在は定年退職期の夫婦を対象とした調査も進めています。

── LGBTのイベントなどに関わることになったきっかけはなんですか?

そもそもは、学生にLGBTの方々についてきちんと理解してもらいたい、また自分も当事者の方を支援したいと思ったことがきっかけです。そして、多くのLGBTの方と出会い、様々なお話をお伺いするなかで、徐々に私の研究テーマへとつながっていきました。

── 具体的に、どのような研究へとつながったのでしょう?

例えば、LGBTのカップルについてです。今までの夫婦関係では、一般的に男性と女性というジェンダーが関わってきて不平等が生じてきました。女性だから家事や育児をする、男性だからしなくていい、といったようなことですね。

でも、女性同士や男性同士のカップルでは、性役割的なものも関わってきません。そうなるとカップル間の平等性はどうなるのか、それを研究することで男女の平等性も見えてくるのではと考えたんです。

欧米ではLGBTのカップルの研究は進んでいますが、日本はまだまだです。家族社会学でも、異性のカップルが前提となっています。その前提を取り払って、もっと広くカップル関係を考え、理論化したいと思っているんです。

── 家族と一口に言っても、いろんな家族のかたちがありますね。

そうですね。今、日本の家族は過渡期にあると思うんです。

LGBTのカップルをはじめ、異性のカップルにも母子家庭や父子家庭、離婚と再婚によって生まれるステップファミリー、事実婚のカップル・・・・・・様々なかたちがあり、それらを受け入れようと社会が変わりつつあります。

多様な家族が存在するということは、もはや当たり前。それらを整理して、それぞれが抱える問題を見極めて、対応を考えていくことが必要です。

── 多様な家族が存在するのは当たり前の社会になりつつあると。

そうです。でも、やはり日本の家族社会学では異性のカップルが前提なんです。

拙著『近代家族のゆらぎと新しい家族のかたち』では、初版からセクシュアリティに関する章を設けましたが、日本の家族社会学においてセクシュアリティと家族について触れたのは、このテキストが初めてです。

LGBTやLGBTのカップルについては、ジェンダー・セクシュアリティ、クィアスタディなどで研究が行われてきましたが、日本の家族社会学者はLGBTのカップルを研究対象とはしてきませんでした。

ようやくここ数年で意識の変化は見られますが、まだ本格的な研究として取り組まれてはいません。

だからこそ私は、LGBTカップルを視野に入れた広い意味での親密な関係・・・・・・つまり家族について考えていきたいんです。

02日本の社会におけるLGBTの現状

── 「東京レインボープライド」の来場者アンケートを作成することになったのには、どんな経緯があったんですか?

2008年に『カミングアウト・レターズ』の著者である砂川秀樹さんをゲストスピーカーとして授業にお招きしたことをきっかけに、ゼミ生がボランティアとして当時の『プライドパレード』をお手伝いすることになったんです。

私としては、当事者の方々と接したり、生の声を聞いたりすることで、生徒が何かを感じてほしいと思っていたんですが、いざボランティアとして動き出すと仕事に追われてしまって、それもなかなか難しくて。

なので、せっかく社会学を専門としているので、LGBTを取り巻く社会の現状調査というかたちで貢献できるなら、と『東京レインボープライド』の代表を務める杉山文野さんに提案させていただいたんです。

調査を通じて現状を把握するのが、社会学の役割ですから。

── その来場者アンケートは、どのように役立てていらっしゃるんですか?

もちろん、イベント自体の今後の改善点などの指標になりますし、私はアンケートの結果から論文を書きました。

2015年のアンケートでは、ちょうど渋谷区や世田谷区で同性パートナーに関わる証明書や宣誓書が発行されるようになったこともあり、タイムリーな質問としてパートナーシップ証明書に関する項目を設け、『結婚の[社会的承認]としての同性パートナーシップ』という論文にまとめました。

渋谷区のパートナーシップ証明書や世田谷区の宣誓書は、海外のような国が認める同性婚ではなく、あくまで自治体から ”同性のパートナーである” と認められるものであり、法的に承認されるものではありません。

では、パートナーシップ証明書にはどんな意義があるんだろうか、それを知りたかったんです。

アンケートでは、公的な機関からパートナーであることを認められ、社会的に婚姻状態であると承認されるということが最も大きな意義であるという結果が出ました。

── 逆にいうと、社会に承認されるという、ささやかで当たり前のことがなされていなかったということですね。

そうですね。日本ではまだ、同性カップルをはじめLGBTへの ”きちんとした理解” が広まっていないと思います。

テレビ番組でもオネエタレントの方の存在が印象としてあまりにも強すぎて、LGBT=オネエタレント、もしくはオネエタレント=ゲイといったような誤った認識をもってしまう人が多いのではないでしょうか。

決してオネエタレントの方々を非難するわけではありません。彼らや彼女らのおかげでLGBTの存在を社会に向けてアピールできていると思っています。でも、偏ったかたちでしか伝わらないのは問題です。

LGBTのなかにも様々なセクシュアリティが存在するのだということを、きちんと伝えなければいけないと思います。

03学生の心に響く当事者の声

アライという言葉が不要な世の中に,03学生の心に響く当事者の声,松信ひろみ,ALLY

── 男性と女性だけでなく様々なセクシュリティが存在することを、きちんと伝える。松信さんがセクシュアリティをテーマとした授業を行うのも、その一環ですね。

私は20年ほど前から教員としてジェンダーやセクシュアリティをテーマに、いくつもの大学で講義をしてきました。

1回の講義で学生は多いときは400人以上、たいていは200人ほど。

すると、講義のあとで自分は同性愛者なんです、または性同一性障害なんです、と私に打ち明けてくれる学生がいるんです。

でも、他の学生からは『同性愛者や性同一性障害の人が周りにいないから、話を聞いてもピンとこない』『あれは、テレビのなかの人でしょ』との声が聞かれるんです。

── 実際は、自分のすぐ隣に当事者がいるのに。

そうなんです。私が講義で話すだけではきちんと伝わらないということを痛感していた頃、ちょうど偶然にもセクシュアリティ研究を専門としている友人に、砂川秀樹さんと世田谷区議会議員の上川あやさんを紹介していただく機会がありました。

今から7、8年ほど前のことだと思います。

そのときに、ふと、おふたりにゲストスピーカーとして授業にお越しいただき、当事者としてのご経験をお話しいただくことができれば、学生の理解が深まるのではないかと考え、ご相談したところ快諾していただけました。

そのあとは、毎年いろいろな当事者の方をお招きしてお話をしていただいています。

── 学生さんの反応はいかがでしたか?

多くの学生は、まず『普通の人』ということを口にします。

『LGBTの方って、普通の人なんですね』『ゲイの人って、テレビに出てくるオネエのような人をイメージしてたけど、普通の方なので驚きました』といったような。

以前はLGBTのイベントのボランティアに参加するにあたって、男子学生ら『ゲイの人から襲われたりしないですか』と失礼な質問があったりしたんですが、最近はないですね。

当事者と接して、きちんと理解することができれば、偏見が生まれることはありません。

ゲストスピーカーの方のお話に感動して、僕もLGBTをサポートしたい!とゼミに入ってきてくれた男子学生もいました。

── 当事者の話を聞くことは、LGBTへの理解を深めるのにとても効果があるんですね。では、ゼミの学生さんはどんなテーマで卒論を書いていらっしゃるんでしょうか。

毎年、ゼミ生の半数近くがLGBTをテーマにした卒論を書きますね。

切り口は様々ですが、すべてに共通しているのは ”なぜ日本ではLGBTについてきちんとした理解がなされていないのか” ”きちんとした理解を広めるにはどうしたらよいのか” ”LGBTの方々が抱える困難な状況を解決するために何ができるのか” という問題意識です。

彼らや彼女らは、授業で当事者の方のお話を聞き、今まで自分がLGBTについて理解していて、偏見はもっていないと思っていたけれど、実は知らないこともあって、無意識の偏見があったことに気づき、どうすれば少しでも多くの人にLGBTのことをきちんと理解してもらえるのだろうかと、卒論で取り組みたいと思って、私のゼミに入ってきてくれているんです。

04正しく知ることの重要性

── 松信さんが初めて当事者の方と知り合ったのは、いつですか? 学生時代?

いえ、実は講義のあとに私にカミングアウトをしてくれた生徒が初めてだったんです。

200人もの学生を相手に講義をしているのですから、当事者の方も数人はいると思っていましたが、あんな風に打ち明けてくれるなんて。

「講義を聞いて、勇気が出ました」と言ってくれました。最近は当事者の方が登壇してくださることもあるので、私よりも彼らに打ち明けることが多いようですね。

── 当事者の方の話が聞ける講義は、LGBTへの理解を広めると同時に、当事者である生徒にとっても大きな意味があることなんですね。

そう思います。私がどれほど多様なセクシュアリティについて説明したとしても、『やっぱり同性愛は理解できない』『少子化の時代にあって、同性愛はよくない』といった言葉が学生から聞かれることもあります。

しかし、当事者の方の話を直接聞いたあとでは、一気に理解が進むんです。当事者の言葉は、ちゃんと届くんです。

だからこそ私は、生徒たちが当事者の方の話を聞くことができる機会を増やしていきたいと思っています。

── テレビのオネエタレントだけがLGBTであるかのような偏った知識に陥らないためにも、学生にとっては貴重な機会だと思います。

やはり、きちんと理解するためには教育が必要です。

今年卒業したゼミ生のひとりが、LGBTフレンドリー企業の実態を調査して卒業論文を書きましたし、ちょうど今、学校や企業でどのような教育が行われているかを調査・分析して論文を書こうとしているゼミ生がいます。

企業でもダイバーシティ教育といいながら、女性や外国人の問題にとどまって、LGBTには目を向けてないことがしばしばあります。多様性のなかにLGBTの視点が欠けているんです。

職場でも大学でも、教育が浸透し、正しい理解が広がれば、当事者の方がカミングアウトしやすい状況がつくれるかもしれない。

そのために、偏りのない正しい情報を伝えることが第一です。

── 教育のなかでも思春期に入る頃の性教育は、とても重要ですね。

その通りです。小学校の保健体育の教科書には未だに『思春期になると異性に関心をもつ』と書かれています。

日本の場合、同性愛について教えること以前に、性教育自体に対して ”寝た子を起こすな” という状態なので、変えていくのは容易ではないと思います。

でも、もしも同性が好きだと自覚している小学生の子どもが、その教科書の一文を読んでしまったら、自分は異常かもしれないと思って、悩み苦しんでしまうかもしれません。

思春期の関心の対象は異性だけでなく同性もありうることを加味した表現にすべきです。

誰かを好きになる、好意を抱くようになる、そのことを伝えるだけでいいと思います。

05つながりが広がる社会

アライという言葉が不要な世の中に,05つながりが広がる社会,松信ひろみ,ALLY

── 松信さんが目指す教育の先にあるのは、どんな社会ですか?

多様な家族、多様なカップルが当たり前の社会。

ひとり親家庭やステップファミリーと同じように、LGBTの家族が当たり前に存在する社会です。そんな社会の素地をつくるにあたって、それぞれをきちんと理解することが大切だと思っています。

── LGBTをきちんと正しく理解したアライを増やしていくことにもつながりますね。

私、アライという言葉はあまり好きではないんです。

みんなが理解していたら、わざわざアライという言葉を使わなくて済むじゃないですか。

アライがいるということは、アライではない人、つまり理解していない人がいるということ。私は、アライという言葉を使わなくてもよい社会になってほしいと思っています。

私の授業を受けてくれている学生は200人弱。ごくわずかな数かもしれませんが、ここから理解を広げていきたいです。

── そのためにも、当事者の方の声を学生に届けることが大切であると。私たちは当事者の家族の方と話すことも多いのですが、彼らの声もまた、リアルに学生の心に響くと思います。

確かに、そうですね。当事者の最も近くにいる人たちの声を聞くことも、とても大切だと思います。

親御さんは自分の子どもからカミングアウトがあったら、必死になって受け入れようと努力されると思うんです。子どもを傷つけたくない、理解しなきゃ、納得しなきゃと。でも、そこには様々な葛藤もあるはずで、その葛藤を打ち明けられる場所が必要です。

今は『LGBTの家族と友人をつなぐ会』などがあるので、そこで家族同士もつながるといいなと思います。

── 当事者同士も、当事者の家族も、つながっていくことが大切ですね。

ネットワークは誰にとっても大切です。

ソーシャル(社会的)ネットワークという概念は、社会学という学問において重要な概念のひとつですが、いまや家族をとらえるにも欠かすことのできない非常に重要な視点だと思っています。

昔は一度結婚したら滅多なことでは離婚しませんでしたが、今は離婚も珍しくありませんし、独身の方も増えていますよね。あらたな家族のかたちが現れた今、これまでの ”家族” の枠を取り外して考えていかなければと思うんです。

そのキーワードになるのが社会的ネットワークなのです。例えばシェアハウスとか。婚姻関係はなくとも、一つ屋根の下で共同生活を営み、お互いをサポートしていく。

その逆に、日ごろ一緒に暮らしていなくても、お互いにずっと支えあっていく存在という認識があれば、これもひとつの家族ではないでしょうか?

── 今や、いろいろな家族のかたちがあると。

そうですね。かつて、家族は揺るぎない集団と考えられ、目指すべき標準的なモデルがあると考えられてきました。しかし、もはや家族は揺るぎない集団でもなく、目指すべきモデルも存在しなくなりました。

こうした新しい家族のありかたを象徴しているのが社会的なつながり、すなわち、ネットワークという考え方なんです。

自分以外の誰かとつながることは、これからの社会で本当に大切なことです。

家族として、そして家族の枠を超えてつながっていくこと、LGBTの方も当事者同士はもちろんのこと、さらにそのネットワークを広げて、周りにいる私たちとつながって、支えあっていくことができれば、より良い社会になると思います。

あとがき
松信先生が教えることの一つは、「実際を知る」なのかもしれない。理論だけでは、理解が進まない場合も少なくない■人の感覚や常識が変わる瞬間は、インパクトがある。LGBTERと授業で出会えた学生さんたちの変化は、どれほど大きかったか■取材の日、若さの集まったキャンパスは、爆発的なエネルギーが詰まっていた。個人的な特質をもったまま、自分らしく社会に参加できること―― 松信先生からの学びが、エネルギーが希望へ導く。(編集部)

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