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周囲の目を気にして生きていた僕。親へのカミングアウトを経て、今あたらしいステージへ【前編】

長らく自分の身体やジェンダーへの嫌悪感を覚えることなく、ボーイッシュな女子として過ごしてきた。だが、自分らしく過ごすために、30代でホルモン治療を開始。その後、10年勤めあげた会社を退職し、心機一転、FTMBar 2'sCABIN に転職する。これからは、新しい出会いを通してさらに人の輪を広めていくつもりだ。

2022/01/01/Sat
Photo : Taku Katayama Text : Hikari Katano
岡部 紘 / Hiro Okabe

1985年、東京都生まれ。中学では男子と付き合い、高校では先輩の女子高生を好きになる。大学留学時にLGBTQの知識に触れる機会を得るが、自分のセクシュアリティにはまだ自覚的ではなかった。フィットネスジムのトレーナーとして働いていた20代後半、FTMをはっきりと自認し、35歳になった2021年7月性別適合手術(SRS)を終えた。

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INDEX
01 ずっと大切にしてきた、人との関わり
02 3人姉妹の1人っ子
03 サッカー、バレーボールとの出会い
04 男子と付き合った中学時代
05 かっこいいと言われるのがうれしい
==================(後編)========================
06 大学進学とアメリカ留学
07 OLからフィットネストレーナーへ
08 将来像とセクシュアリティ
09 一番のハードルは、親へのカミングアウト
10 新天地から恩送りを

01ずっと大切にしてきた、人との関わり

35歳で異業種に挑戦

2021年7月、新宿に2店舗を構えるジェンダーフリーのバー “ FTMBar 2’sCABIN ” のスタッフとして、正式に転職したばかりだ。

「接客業、飲食業界にはずっと興味がありました。学生時代に、チェーン店のバーでアルバイトをしてたこともあります」

前職ではフィットネストレーナーとして、10年間勤務していた。35歳になって、新たな挑戦を迎えようとしている。

「年齢は気にしてないんですけど、自分の齢から考えるとよく思い切ったなと思います。でも、自分で決めたんだから頑張ろうって思えるタイプなので」

「動いて後悔したら、それはそれでいいかなって思って」

人との関わりを大事にしてきた人生

転職を決断した理由は、 “人” だ。オーナーのまさきさんや、スタッフのみんながとても魅力的だったから。

「前職でもいろんな出会いもあったんですけど、久しぶりに職場以外で『この人たちの一緒にいたい!』と思ったのがCABINでした」

「みんなと一緒に、誰もが自分らしくいられる場所を作って、それが広まっていったらいいなと。それが転職を決めた一番の理由でしたね」

これまでも、人との出会いや交流によって心が動き、動かされてきた。これからは、FTM当事者の1人としても、心地いい居場所や人の輪を広げたいと思っている。

02 3人姉妹の1人っ子

ひとり遊びを見つけるのが好き

3人姉妹の末っ子として、東京郊外で生まれ育つ。

自分が物心つく頃、6、7歳年の離れた姉2人は、すでに近所から離れて遊ぶようになっていたため、自然と1人で遊ぶことが多かった。

「家の近くに車通りの少ない坂道があったんですけど、そこを転がったら楽しいだろうなと思って、1人でころころと転がって遊んでた記憶があります」

「そうしたら、『あんた、坂道を転がったんだって? 変な人に見えるからやめなさい』って、あとから親に怒られました(笑)。どうやら、近所の方に見られてたようです」

父親に連れられて、公園に遊びに行くこともよくあった。

「お父さんとも、休みの日はよく『冒険』って言って自転車に乗って、公園や林の中に出かけてました」

近しい人には甘えん坊

小さい頃から、近しい人には甘えることが多かった。

「小さい頃は、みんなの後ろに隠れるタイプでした。幼稚園では、みんなが遊ぼうって言ったあとに、1人で『先生遊ぼう』って言うような子だったみたいです」

明るい性格だが、人見知りでもある。その分、心を開くのも早い。

「初めて会った近所の兄ちゃんや姉ちゃんの家に1人で遊びに行ったりもしてました」

「今でも、『ピュアすぎる』って言われるんです。何でも信じちゃうから(笑)」

性別への違和感はなく過ごした幼少期

子どもの頃には、自分の性別に対する違和感や嫌悪感はまったくなかった。

「小さい頃は女の子の格好をしても気にならなかったし、女の子遊びもしてました」

「スカートも嫌じゃなかったです」

唯一覚えているのは、七五三のときの口紅が嫌だったことくらいだ。

「七五三で使うメイク道具って、ちょっと特殊な臭いがするじゃないですか。それが嫌だった記憶はあります」

03サッカー、バレーボールとの出会い

サッカーを機にショートカット、ボーイッシュに

小学4年生のときに、女子の友だちに誘われて小学校のサッカーチームに入った。

だが、一緒に始めた友だちはすぐに辞めてしまう。もともと男子しかいないチームだったため、女子は自分1人だけに。

それでもサッカーが楽しくて、自分は残って続けることにした。

「コーチに『サッカーのときは女の子扱いしないからな』って言われたんです」

「男女どっちでもいいんだ、頑張ったことをそのまま評価してくれるんだ、って。自分にとってはそれが楽でした」

この頃、サッカーをしやすいように、スポーティな女子になるためにショートカットにした。それ以来、一度もロングヘアにはしていない。

サッカーチームには、小学校を卒業するまでの3年間所属した。

サッカーでの挫折からバレーボールに転身

中学でも、引き続きサッカーを続けようと思っていた。だが、中学生になると地域のチームは男女で分かれることに。

小学校のチームメイトの男子たちと別れ、自分は地域の女子サッカーチームを選んだ。

そこで女子の陰湿ないじめを受ける。

「新しく入ったチームは、小学生の頃からずっと女子チームでプレーしてた人たちばかりなので、そこへ急に僕が『異国民』として加わって・・・・・・。パスをくれなかったりとか」

練習後、親に迎えに来てもらった車の中で、悔しくて号泣したこともあった。

だが、転機が訪れる。中学の同級生が、バレー部に誘ってくれたのだ。そこでサッカーをやめて、バレーボールを始めた。

「1回好きになったものは長く続ける方なので、サッカーだけは今でも、なんであんな理由でやめたんだろう、負けたんだろうって後悔があります」

「でも今思い返せば、それがサッカーから1回離れるタイミングだったのかなって思います。違うことを始めたら、人間関係や環境も変わるし」

現在は、趣味でフットサルやジムでのトレーニングなど、体を動かすことを楽しんでいる。

04男子と付き合った中学時代

過ごしやすさを選んだ結果、引き続きボーイッシュに

中学でも、相変わらずショートカット。スカートの下に短パンを穿くなど、ボーイッシュなスタイルで過ごしていた。

だが、このときもまだ身体やジェンダーに強い違和感、嫌悪感があるわけではなかった。

「胸がなかったら、もっとスポーツがしやすいとか、ボーイッシュな服をもっとかっこよく着られるのにな、ってたまに思う程度でしたね」

ただ、自分が過ごしやすいようにしたかっただけだ。

「かわいいと言われるより、かっこいいって言われたいとは思ってました。だから、そのスタイルも変えなかったんです」

「髪も一時期伸ばそうとはしたんですけど、伸ばした自分が逆に気持ち悪いと思うようになって。ショートカットの方が似合うなって」

周りに合わせつつ、自分のスタイルを維持

自分は変わらなくても、中学生ともなれば周りは色気づいてくる。

「みんな、だんだん『オトコオンナ』みたいな言葉も覚えるじゃないですか。自分もそう言われないために、周りに合わせて少しは女子らしくしなきゃいけないのかなと思うようになりました」

この頃から、自分の過ごしやすさと、周りから奇異な目で見られないようにする振る舞いのバランスをとって行動するようになった。

「その当時は性自認とか考えてなかったですけど、ちょっとは女の子っぽくしないと、変なふうに見られるのかなとは思ってました」

周りに固めてもらって、初めて付き合った男子

周りの女子に行動を合わせるなかで、中学1年生のとき、野球部の男子と付き合うことになった。

「『○組の○○が、おかべっちのこと好きらしいよ』っていうところから始まる、その年頃によくあるやつでした(笑)」

「『もう付き合うでしょ』『好きって言ってるよ』って周りに固めてもらってから、階段下に呼び出されて、告白されました」

男子と付き合っているということも、家まで送ってもらったり、荷物を持ってもらうことに対しても、心地悪さはなかった。

「その子のこと普通に好きでしたよ。記憶にあるファーストキスの相手も、その人でした」

「今振り返れば、人類みな恋愛対象なんだって思います(笑)」

中学2年生のとき、お付き合いした男子にフラれた。受験勉強への専念などが理由だ。

一方、自分はその男子のことを一途に思い続けていたため、それ以降、中学では誰かと付き合うことはなかった。

05かっこいいと言われるのがうれしい

かっこいい女の子「ぴろこちゃん」

進学した共学の高校では、女子バレーボール部の先輩から「かっこいい」と言われるようになり、連絡先を聞かれたりする日々を過ごす。

「ファンみたいな感じで『かっこいい!』って周りに言ってもらえると、うれしいなって」

さらにかっこよさを磨こうと、当時流行っていたベッカムヘアを自分でセットした。

「元の名前は『ひろこ』なんです。それで当時のあだ名が『ぴろこ』だったので、『ぴろこちゃん、かっこいい!』って言われてました(笑)」

周りに言ってはいけない関係

1つ年上の女子の先輩と接近した。高2のときは、一緒にいることが多くなった。

「それまでも女子をかわいいなと思うことはありましたけど、それは女友だちの感覚に近かったと思います。恋愛として女性を好きになったのは、その先輩が初めてでした」

「お互いに好きだって伝えてたし、デートとかカップルのようなこともしてましたけど、付き合ってはいないって認識でしたね」

2人とも付き合っていることを認めなかった。その理由も、やはり女子同士で付き合っていることを、周囲からどう思われるか気にしたためだった。

「先輩が女の子だから、好きだってことは周りには言えないなって思って、関係を隠しました」

「先輩とのことは誰にもまったく言わないで、恋愛話では男の子が好きな自分をアピールしてました」

周囲に恋愛関係のことを隠すようになったのも、これが初めてだった。

男子として振る舞う

高校生の頃も、周囲に合わせて適度に女子らしくし過ごす。
だが、両想いの先輩と過ごすときだけは、男子らしく振る舞っていた。

「好きな先輩と一緒にいるときは、彼氏みたいな形でいました」

トランスジェンダーの存在を知らなかったわけではない。高校生のときに、上戸彩演じるFTMの学生が登場する金八先生第6シリーズが放送されていた。
ただ、このときに自分がトランスジェンダーだとまでは思わなかった。

「金八先生を見て、『これ、自分だ』とまではいかなかったんですけど、『分かる~』とは思っていました。でも、さらしを巻くまではいいかなって」

好きだった先輩とは付き合っていることを認めないまま、しばらくして関係は終わった。

 

<<<後編 2022/01/08/Sat>>>

INDEX
06 大学進学とアメリカ留学
07 OLからフィットネストレーナーへ
08 将来像とセクシュアリティ
09 一番のハードルは、親へのカミングアウト
10 新天地から恩送りを

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