INTERVIEW
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僕は “悩み” を捨てた。その生き方を発信していきたい。【前編】

初めて訪れる横浜の街に「すげぇ」と圧倒される姿は、20代前半の等身大の男の子。最初は少し緊張の色が見えたものの、インタビューを始めると明るくざっくばらんにこれまでの人生を語ってくれた福井颯人さん。彼が大らかな空気をまとっているのは、温かく寛容な人達に囲まれて育ったからといえそうだ。「悩むことは嫌い」というひと言に込められた人生観、これまで歩んできた道を紐解いていこう。

2017/08/10/Thu
Photo : Mayumi Suzuki Text : Ryosuke Aritake
福井 颯人 / Hayato Fukui

1994年、鳥取県生まれ。幼少期に自身の性別に違和感を抱くことは少なかったが、恋愛対象は女の子だった。高校2年の時、FTMの知人ができたことで、自身がFTMであることを伝えたいと思い、家族や友人にカミングアウト。専門学校卒業後は消防士の職に就く。約2年後に辞職し、現在は介護士を目指している。2017年春に性別適合手術を行い、戸籍も女性から男性に変更。

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INDEX
01 親の愛と寂しさを知った幼少期
02 「考えてもわからないなら忘れよう」
03 中学時代に出会った友だちの存在
04 自分の性別を認識し始める時
05 カミングアウトが呼び寄せたもの
==================(後編)========================
06 ホッとした「知っとったで」のひと言
07 消防士という夢の職業
08 “中途半端” を脱するための手術
09 歩み始めたばかりの新たな道
10 LGBTだから悩まなきゃいけないわけではない

01親の愛と寂しさを知った幼少期

大好きな母と妹

「おかんは、よく人から『ファンキーだ』って言われてます(笑)」

自由人で懐の深い母は、「勉強せんでもいいから、カラオケ行こう!」と豪快に言い放つ人だった。

母からの教えは一つだけ。

「何をしてもいいけど、人に迷惑だけはかけるな」

「友だちとケンカして相手のリュックを川に投げた時は、めちゃくちゃ怒られました」

「でも、先生の指導に矛盾点があれば、学校側に『おかしいですよね』って言ってくれましたね」

いつでも子どもの味方でいてくれて、心強かった。

年子の妹とは、双子のように育てられた。

「僕が一方的に妹のことを好きすぎて、小さい頃は懐いてくれなかったです(苦笑)」

「今でも妹に彼氏ができたら、絶対に反対すると思います(笑)」

たった1人の妹がかわいくて仕方がない。

つい父親のように振る舞ってしまうのは、父がいなかったからかもしれない。

寂しかった親の離婚

小学3年生の時、両親が離婚した。

母に「遊びに行ってきなさい」と言われ、外で遊んでいる間に父の荷物はすべてなくなっていた。

「おとうはあまり遊んでくれない人だったので、そんなに思い出はないんですよね」

「でも、当時の僕は寂しく感じていたんじゃないかなって思います」

母は当時、葬儀関連の仕事をしていたこともあり、とても忙しくて家に帰ってこられない日もあった。

「大人になってから母にその頃のことを聞いたら、幼い僕は『その日に聞いてほしい話もあるのに、おかんはおらん・・・・・・』って嘆いていたそうです」

「この頃から、徐々に荒れ始めた記憶があります」

02「考えてもわからないなら忘れよう」

「すぐキレる」というレッテル

両親が離婚してすぐ、学校の男子と取っ組み合いのケンカをすることが多くなった。

周囲からは「あいつはすぐキレる」と言われていた。

「ケンカの理由は特になくて、自分のストレス発散のために周りを傷つけていたんだと思います」

ケンカ三昧のやんちゃな時代は、中学を卒業するまで続いた。

「でも、ケンカの対象が女の子になることはなかったです。相手はあくまで男の子」

しかし、孤立することはなかった。

「友だちは多かったかな。男の子も女の子も関係なく、仲良かったです」

唯一の違和感は恋愛対象

自分の性別に違和感を抱いたのも、小学3年生の頃だった。

同級生の女子の間で、恋愛の話が盛り上がり始める時期。

女子達は一様に「○○君が好き」と、男子の名前を挙げた。

「僕は初めて好きになった相手が、同級生の女の子だったんです」

「『誰が好きなん?』って聞かれた時は、周りに合わせなきゃいけないと思って『今はおらんけど』って答えてました」

「だけど、内心は『自分の他に、女の子が好きな人っておらんの?』って感じでしたね」

初めて恋心を抱いた子も、「○○君が好き」と話していた。

「根拠もなく自分を好きになってもらえると思っていたので、『男に行くのか!』ってショックでした」

「告白もしていないのに、1人で勝手に失恋した思い出です(苦笑)」

しかし、違和感を抱いたのは恋愛対象に関してだけだった。

「昔のアルバムを見返すと、服装にはこだわりがなかったみたいです。おかんに出されたものを着ていた感じ」

「妹とは年が近かったから、区別するために妹がピンク系、僕が青系の服を着ることが多かったです」

幼稚園の頃、“欲しいクリスマスプレゼント” というテーマで絵を描くことがあった。

ミニカーの絵を描くと、先生から「周りの女の子はお人形さんとかだよ?」と言われた。

「その時に『ミニカーを欲しがることはおかしいのかな?』って思った記憶があります」

同級生の男子から「男女(おとこおんな)」と呼ばれたこともあったが、「そういうキャラでやっていこう」と開き直っていた。

部活に熱中

性別にほんの少しの違和感を抱いたものの、悩むことはなかった。

「もともと悩むことが嫌いだから、『どうせ考えてもわからないなら忘れよう』って思ってました」

「人に相談できることでもないなって思っていたし、大人になったら誰かが教えてくれるだろう、って楽観的でしたね」

集中できるものが見つかったことも幸いした。

「小学4年でバレーボール部に入ったんです。部活には熱中しました」

03中学時代に出会った友だちの存在

同じ匂いを感じるボーイッシュ女子

中学校に上がってから、運命的な出会いを果たすことになる。

自分と同じように髪が短く、仕草も男っぽい他の中学の女子と知り合ったのだ。

「すごくボーイッシュな子で、ひと目見て『仲良くなりたいな』と思ったんです」

当時は “性同一性障害” も “FTM” も知らなかったが、同じ匂いを感じた。

それまでは女友だちと出かけても、興味のないガーリーな服を見に行くことが多かった。

しかし、同じ雰囲気をまとった彼女とは、一緒にメンズの服を買いに行けた。

仲は良かったがケンカも絶えず、いつしか暇さえあれば一緒にいる間柄になっていった。

「気も合ったし、一緒にいてすごくラクでしたね」

「だけど、性別について話に乗ってもらうことはなかったです」

「まだ『好きな相手が女の子』ということが、おかしいと思っていたんで、僕からは言えなかったです」

徐々に開いていく女友だちとの溝

一方で、他の女友だちとはますます話が合わなくなっていく。

同級生はアイドル雑誌やファッション雑誌に載っている男性芸能人に夢中。しかし、興味を持てないから話にも加わらなかった。

「あまり意味のない努力をすることと悩むことが嫌いだから、女の子と話を合わせる努力もしなかったです」

「『話を合わせても高校が一緒になるわけじゃないし、10年後は絶対に違う話をしてる』って冷めてましたね」

「男の子とゲームをしている方が面白かったです」

女友だちとのおでかけに誘われた時は、いつも「部活がある」と断っていた。

友だちとの違いが生んだ葛藤

自分と似ていると感じていたボーイッシュな友だちは、男女関係なく仲良くできるタイプだった。

「その友だちの周りには、常に人がいたんですよ」

「同じボーイッシュな女子として、マネしないとダメかなって思ったこともありました」

「比べられたくないけど、同じ土俵に立ちたいっていう矛盾した気持ちを抱えていましたね」

「だから、理不尽な理由でケンカをすることも多かったです」

たまたまコンビニで同じパンを買っただけで、「マネすんな」と言われることもあった。

彼女は支えになった一方で、妙に意識してしまう相手でもあった。

04自分の性別を認識し始める時

ふと我に返った中2

荒れていた中学時代は、教師からも同級生からも “いじめっ子キャラ” として見られていた。

「当時は、自分のイメージを悪くすることが、かっこいいと思っていました」

「でも中2の時に、『せめて高校は出るべきだな』ってふと思って、『今のままじゃヤバい』って気づいたんです」

イメージを回復するため、生徒会副会長に立候補した。

目立ちたがり屋だったため、選挙でのスピーチはノリノリでこなした。

クラスメートに推薦文も書いてもらい、見事副会長の座を射止めた。

「友だちからは『リーダーシップがある』って評価してもらっていました。実は、その推薦文は僕も一緒に考えたんですけどね(笑)」

「目立つことが好きだったから、まとめ役になることも好きだったんですよね」

“FTM” という言葉との出会い

中学3年生になった頃、好きな人ができた。

相手は女子だった。

「何年経っても女の子が好きなんだな」と思った。

「この時に初めて、女の子を好きになる理由を調べたんですよね」

「インターネットで調べたら “レズビアン” が出てきたけど、『自分はこれじゃない』って思ったんです」

「女として女の子が好きなわけじゃないなって」

「確か『女 男として好き』みたいに調べ直したら、“性同一性障害” が出てきました」

聞いたことのある単語だった。

さらに調べていくと、“FTM” という言葉に辿りついた。

「確証はなかったけど、『多分これなんだろうな』って思いました」

無頓着だった体の変化

もともと胸が小さかったため、ブラジャーをつけるのも同級生より遅かった。

「自分では全然覚えてないんですけど、おかんが言うには『スポーツするからスポーツブラじゃないといけない』って言い張っていたらしいです(笑)」

「パンツで悩んだ記憶はありますね。メンズのものがはきたかったんです」

「おかんと買い物に行った時に、『最近は女の子の間でボクサーパンツが流行してるらしいで』って、ウソをついてました」

「おかんは『じゃあ、それにしなさい』ってすんなり買ってくれましたね」

基本的には周りの目を気にせず、悩みもしないタイプだが、一度だけ苦い思いをしたことがある。

夏用の制服越しに、スポーツブラが透けていた。

それを見た男子から「お前でもブラジャーするんだ」と言われた。

「嫌というよりもすっごく恥ずかしくて、その男の子とはケンカしました」

05カミングアウトが呼び寄せたもの

抑えきれなかった初めての告白

無事に高校に入学し、幼い頃から興味があった女子ソフトボール部に入った。

同級生の部員を好きになった。

すぐに仲良くなり、家に泊まりに行ったり髪を切ってもらったりしていた。

「その子には彼氏がいて、僕は『彼氏とどうなの?』って干渉しすぎちゃったんですよね」

「『彼とケンカした』って話を聞いた時はつい喜んじゃって、逆に彼女を怒らせちゃったり」

近くにいすぎたからか、「彼氏でもないのに干渉しないでよ」と言われたこともあった。

最終的に、彼女に初めて「女の子が好きだから、距離が近かったならごめん」と打ち明けた。

「その子には『そういう目で見られてるのは無理』って拒否されましたね」

「僕の告白がきっかけで彼女は部活を辞めて、それっきり絶縁しました」

FTMとの出会いで気づいたこと

高校2年に上がり、友だちに「紹介したい人がおる」と言われて、友だちの恋人と会った。

その恋人はFTMを自認していた。

「周りにはFTMであることを隠しているって話を聞いて、『もったいないな』って思ったんです」

「FTMって男の人生でもあるし、女の人生でもあるじゃないですか」

「それをずっと隠したまま生きるのはもったいないから、僕は言おうと思いました」

周囲に、自分がFTMであることを打ち明けていった。

「周りの友だちは、『そっちの方がしっくりくるわ』ってすんなり受け入れてくれました」

それ以降も、偏見からくる心ない言葉をかけられたことはなかった。

初めての彼女

部活終わりに部室に行くと、顔見知りだった同級生の女子が待ちぶせていた。

突然「待っといてあげたで」と。

「その子が待っていた理由はいまだにわからないんです。でもその時、本人は『恋愛感情ではない』って言ってました」

その日はメールアドレスを交換して別れた。

交流が始まってから1カ月後、強気でツンデレな彼女が気になり始めた。

そして、彼女にもカミングアウトした。

「『自分は多分これなんだけど』って、ウィキペディアの “FTM” の項目を見せました」

「彼女は『あぁ、そうなん』って感じでしたね」

「でも『つきあおうや』って言ったら、『彼氏がいるから無理』ってシンプルに断られました(苦笑)」

告白してからも距離を置かれることはなく、友だちでいてくれた。

少し経った頃、諦めきれずに再び「やっぱり好きだ」と伝えた。

「その頃には彼氏と別れていて、『隠してつきあうならいいよ』って言われたんです」

「でも、僕は既に友だちにもカミングアウトしていたから、『隠さなきゃいけないならつきあわん』って断りました」

その2カ月後、彼女から「まだ私のこと、好き?」というメールが届いた。

「好きだよ」と返信したら、「私も好き」と返ってきた。

「『友だちとしての好きだろ?』って言ったら、『多分違う』って言われたんです」

「その数日後につきあうことになりました」

初めての彼女だ。

「彼女は『隠さなきゃいけないならつきあわん、って言われてから好きになった』って言っていました」

自分の性を受け入れた上で、好きになってくれた気持ちがうれしかった。

自分の性を周りに打ち明けたことで、得られたものだと思えた。


<<<後編 2017/08/12/Sat>>>
INDEX

06 ホッとした「知っとったで」のひと言
07 消防士という夢の職業
08 “中途半端” を脱するための手術
09 歩み始めたばかりの新たな道
10 LGBTだから悩まなきゃいけないわけではない

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