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Aセクシュアル、Xジェンダー・・・、セクシュアルマイノリティは「LGBT」だけじゃない【後編】

Aセクシュアル、Xジェンダー…、セクシュアルマイノリティは「LGBT」だけじゃない【前編】はこちら

2017/12/10/Sun
Photo : Taku Katayama Text : Mana Kono
今徳 はる香 / Haruka Imatoku

1995年、愛知県生まれ。ファッション系の専門高校を卒業後、18歳で上京。レインボーカラーのアクセサリーを販売する雑貨店の経営を経て、NPO法人「にじいろ学校」を立ち上げる。現在は、同NPO法人の理事長として、恋愛における自由化の普及活動に取り組んでいる。

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INDEX
01 愛着障害と診断されて
02 家庭環境に問題を抱えた友人たち
03 居場所は外で見つければいい
04 セクシュアルマイノリティとの出会い
05 L・G・B・Tだけがセクシュアルマイノリティじゃない
==================(後編)========================
06 ストレートは、この業界では逆にマイノリティ
07 鬱を乗り越えて
08 もしかしたら自分も当事者かもしれない
09 知らないことは “悪” じゃない
10 誰もが安心できる場所を提供したい

06ストレートは、この業界では逆にマイノリティ

ストレートだからこその強み

周囲はセクマイ当事者ばかりで、少なくとも自分のまわりには、ストレートの活動家はほとんどいない。

「そもそも、ストレートでこういう活動をしている人自体、とても少ないんですよね」

当事者に囲まれて活動していると、ストレートの自分が逆にマイノリティのように感じられる。

「最初に東京レインボープライドに行った時も、『私、ここにいると超マイノリティだな』って思いましたもん(笑)」

周囲からは、「なんでストレートなのにセクマイの活動をしているの?」と聞かれることも多い。

「別に、理由はないんですよ。たまたまです、本当にたまたま(笑)」

「誰かの役に立ちたい」

そう思っていた時に、偶然まわりにセクシュアルマイノリティの友人が多かったから、この世界に飛び込んだだけにすぎない。

「ただ、ストレートだからこそ客観的に見えてくるものもあるし、それは自分でも強みだと思っています」

当事者がNPO団体を運営すれば、どうしても主催者のセクシュアリティに寄った団体になってしまいがちだ。

たとえば、主催者がゲイだと、必然的にゲイばかりが集まる団体になってしまうだろう。

「でも、主催者がストレートだと、LGBTに限らずパンセクシュアルやXジェンダーの人でも集まりやすくなると思うんです」

とはいえ、時には「当事者でもないくせに生意気だ」と、悪意を向けられることもある。

「そういうことを言われない、当事者かどうかで線引きされないような未来を創りたいんです」

「当事者以外が活動しても、別にいいじゃないですか?! 何も悪いことはないと思うんです」

見切り発車の弊害

NPOを立ち上げてからは、雑貨店を手伝うメンバーも増えた。

「NPOを始めるためにはどうしてもメンバーが10人必要だったので、人を集めたんです」

とはいえ、勢いで作った団体だから、運営していく上でメンバーとぶつかることも多かった。

「普通だったら先に活動をともにするメンバーがいて、それからNPOを立ち上げるんですけど、私の場合は『NPOを作るぞ!』ってところから人を集めたので、うまくいかない部分も多かったです」

ただでさえ店舗経営で多忙なのに、そうした組織の歪みにも徐々に悩まされるようになっていった。

さらに、団体の知名度が上がれば上がるほど、賛同だけではなく批判も集まるようになる。

07鬱を乗り越えて

重度の鬱

「雑貨店の経営だけでは全然暮らしていけなかったので、バイトも続けていました」

午前中はバイトをして、昼から夜までは自分の店に立つ。

どう考えても、働きすぎだっただろう。

「2年間くらいそんな生活を送っていたら、鬱みたいな状態になっちゃって・・・・・・」

気づけば、眠れないしご飯も食べられない。

「痩せたり太ったりを繰り返して、ずっと死にたいと思ってました」

あまりに気分が落ち込んで仕事も手につかなくなり、精神科を受診したところ、「発達障害」と診断された。

「でも、処方された薬を飲んでも全然体調が改善されなかったんです」

「それで病院を変えたら、発達障害ではなく鬱だと診断されました」

その時点でかなり重度の鬱状態だったらしく、医者には「仕事は全部やめて今すぐ休みなさい」と言われた。

「入院一歩手前だったみたいです」

医者の言う通り、いったん仕事を休むことにし、雑貨店も閉めた。

「そこから3ヶ月くらいは、生活保護を受けていました」

生活保護を受給することに、特に抵抗はなかった。

「まわりの目を気にする人も多いとは思うんですけど、私はそういうのは全然気にしないタイプだったんです」

心がスッと軽くなった

鬱だけではなく、愛着障害を抱えていることも発覚。

「これまで苦しんできた大元の原因がわかったので、すごく安心しました」

人間関係が苦手だったり、物ごとを先延ばしにしがちで、習慣化することも下手だった。

「なんでこんなこともできないんだろう?」と自分を責めて、思いつめたことも多い。

だが、「悪いのは自分ではなくて、家庭環境だった」とわかって、かなり気持ちも軽くなった。

「そこからは改善も早くて、3ヶ月くらいで鬱も良くなっていきました」

現在でも通院は続けているが、仕事を休んで何もできなかった時期と比べれば、かなり回復しただろう。

「物心ついた頃から、ずっと『死にたい』って思ってたんです」

「死にたい」という感情は当たり前のもので、誰しもが心に抱いていると思っていた。

「でも、ようやくその気持ちがなくなりました。みんなこんなに楽に生きていたんですね(笑)」

「今が、生きてきて一番楽しいし、毎日すごく幸せなんです」

08もしかしたら自分も当事者かもしれない

「家族とは関わらない」という自由

精神科に通いはじめてから、たまたま父と東京で会う機会があった。

「鬱って診断されてしばらく仕事を休んでいると話したら、父にすごく怒られたんです・・・・・・」

「甘えだ」、「気の持ちようだ」と、何時間も罵倒され続けた。

「その時、『父にはもう二度と会うものか』と、心に誓いました(苦笑)」

今まで会話もまともにしてこなかった父親にまさかの説教をされて、思わず面食らってしまったのだ。

「気持ちも参ってしまったから、翌日はバイトを休んで病院に行きました。すごくつらかったです・・・・・・」

これまでは、「家族は大切にしないといけないものだ」と思っていた。

でも、自分は、家族と今後なるべく関わらずに生きていくべきなんだと思った。

「今、やっと自分の力で生きていけるようになってきたんです」

「友だちもいるし、ひとりでも生きていける。だから、必ずしも世間体を気にして家族を大事にしないといけないなんてことはないと思うんですよね」

家族とどう関わるかを決めるのだって、個人の自由だと思うから。

Aセクシュアルを認知してほしい

セクシュアルマイノリティにまつわる活動をしている非当事者の存在を、もっと多くの人に知ってほしい。

「当事者のことは当事者しかわからない、という構図はおかしいと思うんです」

今は、セクシュアルマイノリティの中でもさらにマイノリティである、Aセクシュアルの存在をもっと広めたい。

「LGBT当事者でも、Aセクシュアルに対して否定的な人もたくさんいるんです」

そうして活動していく中で、自分ではなるべく「アライ」と名乗らないようにしている。

「当事者以外の支援者」という意味のアライだが、自分から「支援者」と言うのはどこか違和感があるからだ。

それに、自分が当事者ではないと言い切る自信だってない。

「私自身、もしかしたらAセクシュアルなのかな?とも思っているんです」

上京前には好きな人がいたこともあったが、ここ数年は恋愛感情を抱いてもいないから。

09知らないことは “悪” じゃない

言葉や定義は、あくまでも入り口にすぎない

セクシュアルマイノリティに関する用語はたくさん存在する。

「用語自体は重要ではないという意見もありますが、用語や定義を知って救われる人も多いと思うんです」

「自分だけじゃないんだ」と知ることが、時には安心感につながりもするだろう。

「『Aセクシュアル』という言葉を知って幸せになる人もたくさんいると思います」

「ただ、その言葉の定義にとらわれてしまう人も多いでしょうね」

言葉では一概に定義できない、枠にとらわれないような居場所を作れたら、と思う。

「セクシュアリティに違いはあっても、誰もそれぞれを否定しないような、安全な場所やイベントを作っていきたいです」

許容できない人の気持ちもわかる

セクシュアルマイノリティへの理解を促すには、幼い頃からの教育が要になると考えている。

「Aセクシュアルという概念を知らずに、『人は皆恋愛をするのが当たり前』と思いながら大人になって、急に『恋愛感情を持たない人がいる』と言われても、受け入れられないって気持ちもわかるんです」

常に恋人を切らさないような人からすれば、恋愛をしない人間の価値観は理解できなくて当然だろう。

そこで拒否感を抱いてしまっても、その人個人の責任とは言い切れない。

「セクシュアルマイノリティを受容できない人に対して、批判的な声も多いですけど、それもそれでおかしいと思うし、見ていて複雑な気持ちになります」

ただ、これまでセクシュアルマイノリティに触れずに育ってきてしまったというだけで、なぜ責められないといけないんだろう。

「だから、小さい時からセクシュアルマイノリティについて知識を身につけられるような環境が作れたらいいなと思います」

「幼い頃から常識のひとつとしてセクシュアルマイノリティの存在を教わっていれば、ゆくゆくは相互理解にもつながるんじゃないでしょうか」

これまでのNPO活動ではオフ会開催が中心だったが、今後はそうした子ども向けの教育事業にも取り組んでいきたい。

10誰もが安心できる場所を提供したい

ずっと現場にい続けたい

「今までは、なりゆきで生きてきちゃったなって思います(笑)」

そもそも、ずっと「死にたい」と思っていたから、明日生きていられるかどうかも不確かな状態だった。

「やっと、生きていることが当たり前になってきて、『いつかはこれをやりたいな』って、先のことを考えられるようになってきたんです」

「今はまだ大きな夢や目標があるわけではないけれど、未来の自分ができる範疇で、一番大きな事業に取り組めたらいいなと思っています」

NPOを運営しているうちに、講演会などに誘われる機会もきっとあるだろう。

「でも、私は先生的な立場というか、誰かの上に立つだけの人にはできればなりたくないんです」

どちらかといえば、当事者の隣に寄り添って、同じ目線で話しをしていたい。

「だから、管理職とか偉い立場になるよりは、ずっと現場にいたいなって思っています」

人との出会いが、自己肯定のきっかけになる

オフ会を開いていると、「自分以外のAセクシュアルに会えてよかった」という感想を耳にすることが多い。

「自分だけじゃない、という気づきは、とても大切なものだと思うんです」

人との関わりを通じて、いずれ自分のセクシュアリティを前向きに捉えられるようになってほしい。

「そうはいっても、今の社会において、セクシュアルマイノリティに生まれて何か得をすることがあるかと言われたら、ほとんどないと思うんです」

現状、同性愛者よりも異性愛者の方が、制度的にも生きやすい社会なのは確かだろう。

「ただ、『セクシュアルマイノリティでよかった』と思うことは少なくても、『セクシュアルマイノリティでもいいかな』って許容することはできると思うんです」

セクシュアルマイノリティだからこそ、出会える仲間や恋人だっているはずだ。

「そういう出会いがあると、自分を肯定できるようになるんじゃないでしょうか」

「ネット上で知り合いを作ることも今では簡単にできますけど、やっぱり、実際に会って話すこととは全然違うと思うんです」

だから、悩んでいる人こそ、外に出ていろんな人と関わりを持ってほしい。

そして、誰もが安心して一歩を踏み出せるような場所を提供すること。それが、現時点での自分の目標だ。

あとがき
【アライ】のカテゴリー、LGBTへの理解や支援などを表す言葉。でも、手を挙げて宣言するのは、少し悩ましい。そんな気持ちに共感してくれた人がはる香さんだ■はる香さんの話しから、そもそも【マイノリティ】の括りは固定化されたものではないと気づく。どんな生き様にもマイノリティ性があって、どこかの括りではマジョリティだと言える■アライの表明が特別ではなくなった時、それもまた変化の潮目になりそうだ。(編集部)

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