INTERVIEW

好きな人を想って淹れるコーヒーが好き【後編】

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2016/05/09/Mon
Photo : Mayumi Suzuki  Text : Ray Suzuki
原田 大二郎 / Daijiro Harada

1983年、大阪府生まれ。大阪府立松原高校卒業後、フランスに1年間留学。その後、NGOピースボートで地球一周の船旅へ。愛・地球博のスタッフを経て、2006年から東京・国分寺市にあるオーガニックカフェ「カフェスロー」に勤務。現在はカフェ部門のマネージャー。ゲイとして2015年12月に両親にカミングアウトしたばかり。そこから好循環が始まった。

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INDEX
01 両親へのカミングアウト、晴れやかな気持ちに
02 自由な高校で身に着けた、地球市民・異文化共生の考え方
03 フランスで知った豊かさと、アイデンティティ・クライシス
04 持続可能な、ピースフルな生き方を求めて
05 愛知から東京へ。ひたすら前に進む大ちゃん
==================(後編)========================
06 20代後半におとずれた悩み
07 自分がもっと輝くために
08 これまでにない人生の扉を開ける
09 大晦日のシンクロニシティ
10 好きな人を思って淹れるコーヒーが好き

06 20代後半におとずれた悩み

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人と比べてしまう苦しみ

目の前にいる原田さんの穏やかな表情からは想像もつかないが、20代後半を形容する言葉は「不安、孤独、絶望」だった。

そんな状態にまで追いつめたものは、何だったのだろうか。

「生き方そのものの悩みもありますが、多くは経済的な不安と、そこから来る自分の将来への不安です。実家の家族に何かあったとき、今の僕に支援できるのか。結婚ではなくパートナーという曖昧な関係の中で、僕は生きていけるのか。パートナーができないことも悩みで、自分の将来と老後に絶望していました」

ゲイとして生きることを自覚しているからこそ、苦しかった。

ゲイの友だちもいたが、安定した企業に勤めている彼らが、時に自分の劣等感を刺激する存在になることも辛かった。

「おしゃれな格好をして、マンションを買って・・・・・・。カップルでも男と男なら、かなり安定した生活が送れます。でも僕にはそれも叶わない。人と比べて、自分にないものを探して劣等感を深めていました」

次第に、身近な人々と深く関わることを避けるようになっていた。

「僕の中に、膜が張ってあった。ピースボートや万博で見つけた夢も、ゲイとしてのアイデンティも、揺らいでいく。何も見つからない、みたいな」

とにかく身体がしんどい

カフェスローという場所で、持続可能なライフスタイルを伝えたい。

自分のやりたかったことが、仕事になった。社会を切り拓く先頭を走っている気持ちで働き続けてきた。

カフェの運営だけではなく、イベントやパーティーの企画、スタッフの育成など業務は多岐にわたる。

年を追うごとに責任は重くなり、気が付けば20代後半。

実は、身も心も疲弊しきっていた。

07自分がもっと輝くために

病気を治すことから

カフェのマネージャーになった29歳の頃、日々の業務は多忙を極めたこともあり、病気を患い入院を余儀なくされる。

やがて全快という診断をもらったが、体調は依然として優れないまま。

このことが、さらに原田さんを苦しめた。

本腰を据えて自分の身体に向き合おうと、中医学の食事療法を受ける。

意識して休養をとり、コンビニのお菓子はやめて食べ物を厳選、なりたい自分をイメージした。友だちの言葉も心の支えになった。

「大ちゃん、大丈夫。一滴一滴たまった水がいつかあふれるように、ちゃんと治るときが来るんだよ」と。

この頃から、少しずつ前向きな気持ちになっていく。

「そうしているうちに、自分がもっと輝きたいと思えてきた。それも、心の底からふつふつと。人は幸せになるために生まれてきた、というのはアーユルヴェーダの考え方ですが、その意味がわかってきたんだと思いました」

今まで言えなくて、ごめん

そして、カフェで働く仲間たちにカミングアウトする機会が訪れた。

もちろん、信頼しているオーナーにも、親しいスタッフにもすでに個別に告げていたが、全員に自分のセクシュアリティのことを伝えていたわけではなかった。

あるスタッフの送別会。

そこでカミングアウトできるよう、何人かのスタッフがセッティングしてくれたのだ。

うれしかった。

カミングアウトを経た今、その頃は言えなくて逡巡していた自分を、こう分析する。

「言わないでいた時間が長くなればなるほど言いにくく、言っていないことへの申し訳けなさも、どんどん大きくなります。両親に対してもそうですが『もっと早く言うべきったのに、ごめんね』という思い」

「なぜなら僕は心を開いてなかったし、相手を受け入れていなかった。最初に言っていれば、一緒にもっと、おもしろいことができたかもしれないのに」

08これまでにない人生の扉を開ける

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それは恐怖だったという気づき

夢やアイデンティティが揺らぎ、心身ともに苦しかった時期を、今、乗り越えた。

自分の中の不要なものは、深い呼吸とともに吐き出され、流れていった。

「誰にも会いたくない、すべてがつまらない。例えばちょっとした飲み会でも、きっと彼氏彼女の話になる。そうなるとなんか行きたくない。そんなときの自分を占拠していたのは、恐怖でした。今になってわかります」

恐怖とともに、自分は何者なのかをめぐる果てしない問いもあった。

フランスで暮らした18歳の頃から、その答えを探し続けてきたのだから。

「いろいろな執着や利己心、自我やこだわり、絶対自分はこうだとか、譲れないという思いが、自分を病気にしたんじゃないかと思ったんです」

自分を許して、自由になる

「そのこだわりを手放したら、自分を許せるようになった。自分を許せたら、ほかの人も許せるようになった。そしたら恐怖がなくなり、僕は自由だと思った。自由ってこういうことだと普通に思えた」

「僕は、自由になりたかったんだって」

原田さんの口調が、少し強くなった。自由という言葉が、何度もあふれ出てくる。

「僕は自分について鈍感だったと思う。自分に光を当て、自分を見つめ、自分の声に耳を澄ます。そういうことを続けて、今めっちゃ健康です(笑)」

確かに、穏やかな声は澄んで響くし、きめ細かな肌は輝いている。

「やっと自分の前の大きな扉が開いた。これまでの人生にない扉の前にいる。だから今、希望に満ちています」

09大晦日のシンクロニシティ

大切な記憶に再び出会う

「すごいことが大晦日におきて」と言いながら、原田さんは1枚のポストカードと1冊の小さなノートを取り出した。

それは、輝きを取り戻しつつあった2年前の自分からのメッセージだった。

2015年の大晦日、あるポストカードが目に止まった。

大好きな画家の絵のポストカードだ。そのとき、大切な記憶が甦った。その絵を、2014年の年頭にとあるギャラリーで見ていた。

そして「この絵のように生きたい」と強く願ったのだ。

1本の樹を描いたその絵のことを忘れないようにと、その時の想いをノートにこう記していた。

『無数のきらめきはこの空気中にある素晴らしいエネルギー。オージャス(※)。そしてこの社会のキラキラしたものや人、中心は自分自身。自分が手にした素晴らしいものを世界中の人と分ちあっていく。そう、僕の手から』

『その素晴らしいものは、いつも自分のすぐそばにあるのだ。どこか遠くではなく、このすぐ近くに手を伸ばせば広がっている。ふれて自分の手に吸い付くように。そう、自分の手から幸せの粒子をポトリポトリと落としていきたい』

* アーユルヴェーダでいうキラキラした物質で消えずに増えていくもののこと。

僕はもう、揺るがない

その絵には、上下をひっくり返しても鑑賞できる仕掛けがある。

つまり地上の樹の絵が反転して、地下の根の絵になるわけだ。

想いは続けて、綴られていた。

「素晴らしい粒子が自分の根っこへ降り注ぎ、自分を幸福で満たしていく。栄養を与え、水を与え自分を満たしていく。中心はやっぱり自分自身。根っこがしっかりていれば、枝葉を広げどんどん大きく成長していける」

2年前の自分からメッセージが届いたも同然だ。

生きる意味が鮮明になってくる。

「この2年間、僕を支えていたのはこの絵だったと感じました。この絵のおかげで、僕にはもう揺るがない根っこができた。『素晴らしいものは、すぐそばにある』と書いたけど、それは自分を支えてくれる友人や仲間たちだったんです」

お金もない、恋人もいない、希望も信じられるものもない。
20代の後半は、ないものばかり探して苦しんでいた。

でも今は明らかに違う。

その顔は本当に晴れやかで、堂々とした落ち着きと、曇りのない透明感に満ちている。

10好きな人を想って淹れるコーヒーが好き

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料理を通じて、幸せになる

自分が変ったことで、周りにもうれしい変化が起きている。

「僕はもともと、ストライクゾーンが狭いんです。一般にイイといわれる人がイイとは思えなくて、恋人もなかなかできなかった。でも、去年の秋頃から、素敵だなと思う人が現れ始めています」

憧れているのは、漫画『きのう何食べた?』(よしながふみ著/講談社刊)の世界観。

ゲイのカップルの日常を描きながら、料理のコマもふんだんにある人気漫画だ。

「好きな人のためにコーヒーを淹れて、ごはんを作ることができたらいいなって思います。20歳の頃から、自分が住みたい世界は環境や平和が大事だと思ってきたけど、平凡なことが幸せだと思うし、ささやかな幸せを拾い集めて大事にしていきたいですよね」

自分がなぜ、子どものころからずっと料理をしたかったのかも、今はこんなふうに考えている。

「食べる人のことを思い浮かべて作るごはんが好き。料理を通して人を幸せにしたいし、自分が幸せになりたい。子どものころから料理をしたかったっていうのは、そういうことだったと思うんです」

「料理を通じて、人と人とがつながること。扉を開いて幸せになること。僕は、料理をある種のツールにしていくのだと思っています」

自分を受け入れることの大切さ

「たった一杯のコーヒーかもしれないけど、ここでできる幸せの連鎖を広げていきたい、平和につなげていきたい。それを一生懸命、ここでやってきました。自分の心と身体が平和で穏やかで、自分自身が幸せを感じられることこそが、何より大事なんだと気付いたんです」

自分を受け入れることから始めよう。

そう気付いた時、高校の恩師の言葉を思い出した。

「信頼するとは、受け入れること」。

今年もまた、母校を訪れる。

これまでも、在校生にOBの活躍を伝える講座「ようこそ先輩」に社会人になった卒業生の一人として協力してきたが、今回は少し違う。

2年生の人権学習のなかで、セクシュアルマイノリティとして話しをする。

原田さんの在学中はなかったLGBTの授業も、今では1年生から学べるようになっている。

自分とは何か、本当に大切なことは何か、その答えを求めて生きるあまり、幸せになることや自分のセクシュアリティのことを、置き去りにしていた時期。でもそれは、旅の途中のしかるべき逡巡だった。

「自分が変われば、世界が変わる。いや、変わるのではなく、自分を受け入れればいい」

今、カミングアウトを経て、原田さんを取り巻く世界は大きく動いた。これからも、ずっと軽やかに強く。

あとがき
体験がくれる大二郎さんへの宿題、自分を見つめること。それはいつからか、自由研究に変わったのかもしれない。「自分から変わりたい、自分が変えていきたい」。自由研究は、答えも期限もない■カフェで頂いたコーヒー。広い世界も、身近な大切な人の笑顔も思い浮かぶ、幸せな味わいだった。「一杯のコーヒーでHappy に」大二郎さんの言葉のまま。地球と呼吸を合わせるように生きられたら・・・・・・ そんなことをまた一緒に話したい。(編集部)