INTERVIEW
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将来のパートナーが男性か女性か、今は未だ限定したくない【後編】

将来のパートナーが男性か女性か、今は未だ限定したくない【前編】はこちら

2018/09/01/Sat
Photo : Taku Katayama Text : Shintaro Makino
小林 千賀子 / Chikako Kobayashi

1994年、埼玉県生まれ。周囲から「もっと女の子らしくしたら」「あなたも結婚を考えたら」と言われるたびに違和感を感じてきた。将来は理解し合えるパートナーと一緒に暮らしたいが、相手が男性か女性か、今はまだ決めたくないと言う。それを決めることは、世界を狭めることだから。

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INDEX
01 大切にしていたポケモンの青い筆箱
02 人の群れに入るのが苦手だった
03 自分はバイセクシュアルかもしれない
04 初めてのおつき合いは不発に終わる
05 奮起して大学の編入試験にチャレンジ
==================(後編)========================
06 ファッションに現れる自分の性の居場所
07 今も打ち込める仕事を模索中
08 Xジェンダー。それが一番しっくりくるワード
09 行動力を発揮して新宿二丁目に
10 前向きなカムアウト。そして、その先に待つもの

06ファッションに現れる自分の性の居場所

かわいい系の服はまったくダメ

女子大の学生たちはかわいい系の服を着ている人が多い。

しかし、そういうファッションにはまったく興味がわかない。

「私もチャレンジしてみようと思って、女子っぽい服を見にいったこともあるんですけど、やっぱり無理でしたね」

「それからは、自分の着たいものを着よう、と改めて思い直しました。それでも、あんまり浮かないように男っぽ過ぎるのは避けるようにしていますけど・・・・・・」

一番好きなのはビジュアル系。

「音楽もビジュアル系が好きで、黙って好きなものを選ぶと、割と黒が多い感じになっちゃいます」

「女の人でもこれくらいなら着ている人がいるので、問題はないとは思いますけど」

母親からは、「もっと女の子らしい格好をしたら」と、冗談めいて言われることもあった。

「だから、親に見られたくない服は隠したり、ごまかしたりしながら、なんとかやっています」

母親がかわいらしいアイテムを買ってきてくれることもある。

「かわいいポーチとか買ってきたりするんですよね」

「きっと女の子らしくしてほしいんでしょうね。ああ、いいね、ありがとうって言いますけど、自分の好みじゃないから使わないこともあるんですよね」

アクセサリーは箱に入れて隠している

両親には自分のセクシュアリティに関しては話していない。

「恥ずかしいし、ちょっと怖くて・・・・・・」

受け入れられなかったらどうしよう、という思いがある。

「わざわざ話す必要もないというか」

セクシュアリティに関すること以外は自分の思ったことを主張できる。
しかし、その話題に関してはいつも触れずにやり過ごしてしまう。

「男っぽいアクセサリーも見られたくないから、箱に入れてしまい込んでバレないようにしています」

「お母さんも薄々は気がついているんでしょうけどね・・・・・・。自分が異端児だと思われたくないので、はっきりと言うことはできないままです」

最近、従姉妹のお姉さんが結婚した。

世間では、そろそろ結婚適齢期といわれる年齢。

「お母さんは、あんたも早く結婚したほうがいいわよって言うけど、私としてはうーんって感じです」

「そう言うと、『何でそんなことを言うの』って怒られましたけど」

親元を離れて一人暮らしをすれば、いろいろと家族に気を遣う必要もなくなる。

「親には感謝していますけど、そろそろ一人でやっていきたいなという気持ちもありました」

「大学を卒業したときに自立しようかな、と考えたこともあって」

それは、今も頭の中にある。

07今も打ち込める仕事を模索中

社会保険労務士としてキャリアを積む

大学卒業が間近になり、就職は教育系と決めて会社説明会に参加した。

しかし、気に入った会社は見つからなかった。

「ハローワークにも相談したんですけど、結局、大学4年の夏まで内定を取ることができなくて」

「友だちはどんどん就職が決まって、どうしようって困っているときに、ふと就活で出会ってきた人事の人の仕事に興味が沸いてきたんです」

人事の仕事を調べてみると、採用だけではなく、就業規則の改訂や給与計算、社会保険の手続きなど幅広い業務を担当することを知った。

「それで社会保険労務士の資格を取ろうと思い立ちました。それからはすんなりとやりたい仕事が見つかって就職が決まりました」

しかし、働き始めてみると、考えていたとおりにはいかない。

「当然なんですけど、何をするにしても上司に相談しなければいけないし、集中しているときに別のことを頼まれると、そっちのことも考えなきゃいけない・・・・・・」

納得のいかないことで説教をされることもある。

「自分は会社員に向いていないんじゃないかって、思い始めています」

すべてが会社のせいではないが、自分は別の目標を持って頑張るほうが向いていると思う。

「編入試験や社労士の資格取得に向かって頑張れたのは、はっきりした目標があったからだと思うんです。今はそれがないので、物足りないですね」

何か目標を探さなくてはいけないと模索中だ。

自分だから発信できるメッセージがある

目の前に見えてきた新しいフィールドは、教育関係。

過去にも一度は志した目標だ。

塾のアルバイトで体験した、人が成長する姿を見る喜びが忘れられない。

「小学校や中学校の教員ではなく、もっと違う世界での教育に携わってみたいと感じています」

セミナーや研修など、いろいろな方面に可能性はある。

「30歳代、40歳代でも、いろいろなことに迷ったり悩んだりする人は多いですよね。そういう悩んでいる人の助けになれればいいな、と思っています」

「悩んでいる人」のなかには、セクシュアリティやジェンダーで悩む人も含まれる。

「私も悩んでいる人間の一人ですから、私なりのメッセージを送ることができるんじゃないかな、って思うんです」

とても責任のある仕事。

「やるからには投げ出さないで、きちんとやりたいと思っています」

「昨日、小学校一年生のときに作ったアルバムを引っ張り出して見ていたら、母親から私に宛てたメッセージが出てきたんです」

「そこに、『何事も投げ出さないで頑張って』と書かれていたんです。改めて、母親からのメッセージをしっかりと考え直しました」

ときどき、幼稚園、小学校、中学校のアルバムを開いてみることがある。
友だちからもらった古い手紙も捨てることができないタイプだ。

「昔、悩んだことを読み返すと、原点に帰るというか。自分はどういう風に生きたらいいか、考えがまとまることがあるんです」

過去の自分に勇気づけられているのかもしれない。

08 Xジェンダー。それが一番しっくりくるワード

今はまだ、どっちかに決めてしまいたくない

恋愛の話は家族だけでなく、友だちにも話したくない。

「恥ずかしいというのもあるんですけど、なんか言いたくないんですよね」

将来はどうするんだろう。ずっと一人でいるわけにもいかないか。

「結婚もいいんですけど、それにこだわるつもりはありません。誰か一緒に歩んでくれるパートナーが見つかれば、その人と暮らしたいな、とは思います」

相手は男性かもしれないし、女性かもしれない。

「どっちかに決めてしまうのは嫌だなって。好きになる人が男なのか女なのか、まだ分からないわけですから」

「レズビアンというと、相手は女の人に決まるわけじゃないですか。それも選択肢を狭めるような気がします・・・・・・」

男になりたいと思ったこともない。

「胸がなくてもいいと思ったことはありますけど、髭はいらないし(笑)」

「男子トイレに入りたいとも思わないですね。男子トイレって汚いんですか!?」

「性転換手術も考えたことはないですね。手術を受けて、後遺症とか跡が残ったら、そのほうが嫌です」

中間くらいがちょうど居心地がいいのかもしれない。

ようやく自分の居場所を見つけた

最近、Xジェンダーという言葉を知った。

「最初は他人事みたいに『ふ〜ん』という感じでしたけど、男でも女でもないジェンダーって、私のことじゃないのかなって思うようになって」

それまでは、自分って何者なんだろうと思い悩むこともあった。

それがようやく「Xジェンダー」と知った。

「レズビアンではないし、バイセクシュアル、パンセクシュアル・・・・・・? どっちでもない『X』が、しっくりきています」

「自分の場所が分かることによって自信がついた感じです」

これまで自分のセクシュアリティについては誰にも打ち明けることなかった。
とても慎重に扱ってきた。

でも、LGBTERに応募する気になった。

「ネットを見ていたら、『サイト登場者募集』という文字が、ど〜んと目に入ってきたんです。それで直感的に応募してみようかな、と」

「何ごとにもどちらかと言えば控えめな性格かなと思いますけど、行動に出るときには潔いかもしれません(笑)」

行こうとか、やろうと思うと、すぐに実践する一面を持つ。

「明日死ぬかもしれない、と思ったら、やらないと後悔するって考えるんですよ(笑)」

09行動力を発揮して新宿二丁目に

迷うことなく開けた重たいドア

新宿二丁目にも行ったことがある。

「セクシュアルマイノリティ専用のツイッターアカウントを持っていて、日ごろからいろいろな情報をフォローしていました」

「そのなかで、レズビアンの人が経営している鉄板焼きのお店『どろぶね』でオフ会があることを知ったんです」

「そういえば一度も行ったことがないな、と思って、一人で出かけました」

ドキドキしながら、迷わずにすぱっとドアを開けた。

「初心者向けのオフ会ということだったので、入りやすかったんでしょうね」

オフ会はリアルな社会見学

ドアを開けてみると、なんと、そこには・・・・・・。

「同じ大学の子が二人いたんです。『何学科だっけ? 私、言語』みたいな会話になって(笑)。 気持ちが楽になりましたね」

三人で、「内緒にしておこうね」と示し合わせた。

その二人とは、何度か遊んだりしたが、今は特別な交流はない。

「周囲を見回すと、男っぽい子がいたり日常でよく見るような女の子らしい子もいたり
、いろいろな人がいるなあ、と。ある意味、別の世界を見た感じになりました」

「思い切って行ってよかったな、というのが実感です」

初めて体験したリアルな現場。
大人の社会見学だったと、今思う。

「その後、オフ会の連絡がきて、もう一度、参加しましたが、それきりですね。何も二丁目に行かなくても、渋谷でも自由が丘でもオフ会はありますし」

今は、気が向くと、そういう場にときどき顔を出したりしている。

10前向きなカムアウト。そして、その先に待つもの

同じ時間を分かち合えるパートナーを探したい

将来はパートナーが必要だと考えている。

「一人だけでは生きていけないのは分かっていますからね。将来はどうなるか分からないですし、誰かと同じ時間を分かち合いたいとは思っています」

その相手を、どうやって探そうか。

「自分のセクシュアリティのことがありますから、日常生活の中で見つけるのは難しいかもしれないなって」

「LGBTに限ったことはではないですけど、どんな話題にも偏見があるのは当然ですし、変な言い方ですけど、それがダメとは言い切れないと考えています」

これまで、気になる人ができたことは何度かある。

「でも、仕事のこととか、自分のことに精一杯で、いつも自分からは言い出すことができないままです」

恋愛に関しては臆病なままだ。自信がないのかな?

「人から嫌われるのが怖いタイプなので・・・・・・(苦笑)。拒否されたらどうしようという気持ちが、どうしても先に立ってしまいます」

LGBTER登場がカムアウトのきっかけになる?

具体的な目標は曖昧だが、自分がどうしたいかは分かっている。

「生き生きとしていたいです。そのためには、目の前のことに精一杯取り組んだり、今を楽しむことが大切だって思ってます」

でも、ときに自分は幸福度が低いとおもうことがある。

「今は、自分で道を切り拓いている実感があまりないんです。学校も会社も規律のコミュニティで、その中にいるとできることが限られてしまう気がして」

仕事についても、「まだ、三年も勤めていないじゃないか」と、誰かに咎められる気がして、なかなか言い出せない。

「周りに何て言われるかって、つい考えちゃうんですよね」

LGBTERに出たら、両親や友人が見るかもしれない。

「みんなびっくりするでしょうね。でも、もういいかなと。このインタビューが何かのきっかけになるかもしれません」

「自分の道は自分で切り拓くんだ! とも思います」

「LGBTERで色々なセクシュアリティの記事を読んだけど、みんな生きよう・伝えようと思えたから、進み続けて来られたんだなって」

「来年には25歳になります」

「両親や会社の人、友人などの価値観で生きていくのはやめて、そろそろ本当の意味での自立を、って思います」

自分のイメージをつかめないことも本当だが、1つの手段として「自分」って人間を伝えられたらいい。

私も誰かを勇気づけられるような存在になれたらいい。

あとがき
「LGBTERを通じてカミングアウトを」と、エントリーしてくれた千賀子さん。カミングアウトは、ある日どこからか降りてくる感じ。自分のペースで、少しずつと思う■千賀子さんは、できるだけ人と波風を立てず、聞き分けのいい子、でもあったと想像した。優しい人だから■近い人、遠い人、よくわからないけど[社会]という距離・・・ いろいろ気になる先はあるけど、誰のためでなくてもいい。たまには、浮かんだ気持ちのまま振る舞って、決めないままスイスイ行こう。(編集部)

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