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カミングアウトが、相手に秘密を抱えさせてしまう可能性を、考えなきゃいけない。【後編】

カミングアウトが、相手に秘密を抱えさせてしまう可能性を、考えなきゃいけない。【前編】はこちら

2018/06/18/Mon
Photo : Mayumi Suzuki Text : Ryosuke Aritake
関口 千草 / Chigusa Sekiguchi

1987年、神奈川県生まれ。サッカーやテニスが好きな活発な少女は、高校時代に初めて留学を経験。時を同じくして、女性に好意を抱くようになる。短大卒業後は、ハワイに留学し、人類学や女性学を専攻。帰国後、家族にカミングアウト。福祉用具メーカーに専門相談員として勤めた後、現在は地元の地域ケアプラザにてソーシャルワーカーとして奮闘中。

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INDEX
01 困っている人をサポートする仕事
02 海辺の町と解放的な家族
03 好きなことと苦しいことの狭間
04 他者の気持ちを汲めない自分
05 環境を一変させるための “留学”
==================(後編)========================
06 異国で知った “人と打ち解ける方法”
07 「同性愛者」の自分という輪郭
08 見えていなかったカミングアウトの側面
09 大事にせず認めてくれた両親
10 自身のことをマイルドに伝える意味

06異国で知った “人と打ち解ける方法”

土壇場で迎えてくれたホストファミリー

アメリカに渡り、1カ月間の英語研修が終わる頃、一緒に行った日本人は全員、留学先の学校が決まっていた。

「私だけ決まっていなくて、コーディネーターのおじいちゃんと一緒に探しました」

「なんとか学校は見つかったんですけど、住むところが決まらなくて(苦笑)」

頼るつてがなく、コーディネーターとともに養子縁組を行う会社を訪れた。

「養子を迎えている家庭なら、引き取ってもらえるんじゃないか、っておじいちゃんの思いつきでした(笑)」

「でも、そこで受け入れてくれる家族が見つかったんです」

中国人の養子がいる家族が、快く迎えてくれた。

「そこのお母さんは料理が苦手だったけど、『好きにやって』ってラフに接してくれました」

「留学先は現地の公立高校で、必修科目は英語とアメリカ史だけ」

「残りの単位は、どの授業を取っても良かったから、1日に2回体育を取っていました」

仲をつないでくれたスポーツ

全校生徒600人のほとんどは、白人だった。

「たった1人の日本人だったけど、いじめとかはまったくなかったです」

「多分、楽しく過ごせたのは、体を動かすことが好きだったから」

同級生たちは、タッチフットボールが好きだった。

男女関係なく遊んでいる中に、入っていった。

「一度見せてもらって、ある程度ルールがわかったら、『やってみよう』って参加しました」

「スポーツって言葉は関係なくて、技術さえあればいいんですよね」

アメリカの学校は、シーズンで部活を変えていく。

冬はインドアサッカー、春はテニスを選んだ。

「春には体も環境に慣れてきて、言葉も話せるようになったから、テニスをやってみようかなって」

日本での経験を生かし、大会では順調に勝ち進んでいった。

「勝てば勝つほど、みんなが『すごいんじゃない?』って注目してくれるんですよ」

「声をかけてくれる子が増えて、ますます打ち解けていけた気がしました」

地区大会では「アスリート・オブ・ザ・イヤー」を受賞し、新聞にも掲載された。

頑張りが認められる環境

現地の授業では、プレゼンを行うことが多かった。

「できるだけ絵を使って説明するとか、言葉が話せない分、工夫していましたね」

「わからない部分は、空いている時間に先生に聞きに行ってました」

母親から「わかんなかったら、すぐ聞きなさい。聞かないのは一生の恥よ」と言われていたからだ。

「確かに聞くのはたった1回だけ、と思って、実践したんです」

「自分なりに頑張っていると、周りも評価してくれるんですよね」

テニスの試合には、友だちが応援しに来てくれた。

現地でできた友だちの母親が「アスリートなんだから、ちゃんと食事しなさい」とご飯を作ってくれた。

「アメリカの生活についていくのに必死だったけど、楽しかったですね」

07「同性愛者」の自分という輪郭

初めて抱いた好意

話は、アメリカに行く前にさかのぼる。

留学に向けて、英会話スクールに通っていた。

その受付のお姉さんに、惚れてしまった。

「すごく好きで、英会話の日じゃないのに、スクールの前を通ったりして」

「ストーカーっぽかったと思います(笑)」

同時に、女性が好きという気持ちに悩み、1人では解決できないと思った。

「自分で抱えきれないと思ったら、すぐ人にしゃべっちゃうんですよね」

同じ英会話スクールに通う4歳上の女友だちに、「あの人が好きなんだと思う」と打ち明けた。

その友だちも、障害のある恋をしていたのかもしれない。

「好きでもいいんじゃないかな。悩みは誰にでもあるし」と言ってくれた。

意識していなかったが、初めてのカミングアウトだった。

「特に根拠はなかったけど、その友だちなら話しても大丈夫、って思えたんですよね」

結局、受付のお姉さんに思いを伝えることはなかったが、一緒に出かける仲にはなれた。

レズビアンと断言できない時期

留学から帰ってきて、初めての彼女ができた。

「その頃は、なんとなく女の子が好きだけど、男の子も好きみたいな微妙な時期でした」

「私は『生まれた時からレズビアンです』って感じではなかったですね」

彼女は年下の子で、自分のことを深く慕ってくれていた。

「彼女から『好き』って言ってくれてたんです」

「でも、当時の私は男性の先輩が気になっていたんです」

彼女は、その状況をわかった上で、アプローチしてくれた。

「『それでもいい』みたいな感じでグイグイ来るから、『そんなに!?』って驚きましたね」

一緒に過ごす時間が増えていく中で、彼女の存在が気になっていった。

「男性の先輩には気持ちを伝えたけど、ダメだったんですよ」

「それもあって、その女の子となんとなくつき合う形になりました」

不安定な遠距離恋愛

つき合い始めてから、彼女も留学することが決まった。

「いざ日本を出ると、彼女はホームシックになってしまったんです」

「しょっちゅう連絡が来ていましたね」

自分もホームシックになったため、気持ちは理解できたが、やさしくしたら彼女のためにならないと思った。

「私も、友だちに『行ったなら、行ったなりにちゃんとやらないと』って言われたんです」

「だから、心配だったけど、彼女に『こっちに依存するのは良くないよ』って言いました」

彼女との関係は、いつの間にか途絶えていた。

08見えていなかったカミングアウトの側面

実った猛アピール

高校卒業後、短大に進み、気になる女性と出会う。

「めっちゃかわいくて、すごく好きだったから、友だちになりたいオーラを出してました」

「でも、軽くあしらわれて、普通に無視とかされていたんですよ(苦笑)」

それでも諦めずに、アピールし続けると、徐々に心を開いてくれた。

「一緒に勉強していた時に、手をつないできたんです」

「これは行ける、と思いましたね」

「つき合おう」とはっきり伝えたわけではなかったが、彼女も好意を持ってくれていることがわかった。

彼女は気分屋なところがあり、考えが読めなかった。

「絶対に不満や悩みがあるのに、『何でもない』って言うんですよ」

「私も、相手がどう思っているか察する力がなかったから、親友に相談したんです」

親友に預けた秘密

同い年の親友に、「実はあの子とつき合ってるんだけど」と話した。

「カミングアウトする時って、アウティングされたくないから『誰にも言わないでね』って予防線を張るんですよね」

「親友は約束通り、誰にも言わないでいてくれました」

「でも、今となっては、申し訳なかったと思います」

何年も経って、親友から「あの時、辛かったんだよね」という本音を聞いた。

親友にも秘密を抱えさせてしまったことに、当時の自分は気づいていなかった。

「周りにウソをつかせてしまう辛さを、与えてしまったんですよね」

「自分はすっきりできたかもしれないけど、相手のことまで考えられていなかったことに反省しました」

その時の彼女とは、短大卒業を目前に、別れることになった。

恐れていた孤立

10代から20代にかけての時期は、自分のことで精いっぱいだった。

「相手を理解しようとする気持ちが、なかったと思います」

そして、女性とつき合っていることは、親友以外には話せなかった。

「否定されることが、怖かったんだと思います」

「幼い頃から深い人間関係を築くことが得意だったわけじゃないから、孤立するのは嫌だ、って思いもあったのかな」

「意識はしていなかったけど、せっかくできた友だちに嫌われたくない、って気持ちもきっとありました」

今は、セクシュアリティだけで、人間関係が変わることはないと思える。

しかし当時は、1つの秘密を打ち明けることで、人が去ってしまうことを恐れていた。

09大事にせず認めてくれた両親

自分をオープンにする体験

短大卒業後、ハワイに留学する。

自分のセクシュアリティを深く知りたいという気持ちがあり、人類学と女性学を専攻した。

「個人的に興味があるということは表に出せないけど、専攻していれば違和感なく調べられますからね」

女性学の教授が、レズビアンの体験を共有する授業を行うという話を聞いた。

「ハワイにはトランスジェンダーの人も多かったから、多少セクシュアリティをオープンにできたんです」

「教授は私のセクシュアリティのことを知っていたから、『君も話す?』って声をかけられました」

自分自身を振り返るきっかけになると考え、引き受けることにした。

「英語でのプレゼンだし、自分のことを話すわけだから、すごく緊張しましたね」

「でも、現地の友だちが『自分と向き合っていて偉い』って言ってくれたんです」

「カミングアウトした親友も同じ学校に留学していて、発表を見に来てくれました」

親友は一度も自分のことを否定せずに、そばにいてくれた。

今でも「一番仲がいい」と言える存在でいてくれている。

静かに受け止めてくれた父

帰国後、大学院に進み、女性学をより深く学ぶことを決めた。

父親に「なんで大学院に行くんだ?」と聞かれた。

「背景にある自分のセクシュアリティを隠すと、理由が薄っぺらくなっちゃうんですよね」

「私自身のことを話さないと説得力がないと思ったから、父に打ち明けたんです」

父親は「そっか」と、否定することも落ち込むこともなく、受け止めてくれた。

「もしかしたら、薄々気づいていたんじゃないかな」

「父はフラットな考えの人で、物事を強く主張するタイプでもないから、そのリアクションも意外ではなかったです」

「何をしても否定されたことがなかったから、セクシュアリティのことも否定はされないかな、って感じていました」

勢い任せのカミングアウト

母親にカミングアウトしたのは、父親に告げて2~3年経ってから。

「母に否定されることが一番怖かったから、なかなか言い出せなかったんですよね」

働き始めて1~2年経った頃だった。

仕事は好きだったが、ハードな日々に体が追いつかなかった。

職場まで母親に車で送ってもらった時、話の流れで「あんたもいつか結婚して、子どもを生むかもしれない」と言われた。

反射的に「子どもは生めないんだよ」と、返していた。

「コンビニの駐車場に入ってもらって、『女の子とつき合ってるから、子どもは生めないと思う』って話したんです」

「母は『そうなの。彼女って○○ちゃん?』って、親友とつき合ってると勘違いしていました(笑)」

「そのリアクションで、母も勘づいていたのかもしれないな、って感じましたね」

母親からは「パートナーは誰でもいいけど、子どもを持ってほしい」と言われている。

「『腹を痛めろ』とか『孫の顔が見たい』ってことではないみたいです」

「養子であっても、人を育てることで自分が成長できる、って考えているんですよ」

「母は協力的で、私の保険の受取人になって、『私からパートナーにあげればいいでしょ』って言ってくれています」

10自身のことをマイルドに伝える意味

相手に負担をかける可能性

「カミングアウトって、自分勝手になりやすいですよね」

「自分を知ってほしい、認めてほしいって気持ちばかりが、前に出やすいと思うんです」

「でも、一方的に『わかって』って訴えるのは、傲慢な話じゃないですか」

自分自身も、親友に秘密を抱えさせてしまった過去がある。

「相手に負担をかけてしまう可能性も、考えておかなきゃいけない」

「当事者は100%準備してから伝えるけど、相手にとっては突然のことですよね」

「それでもわかってもらえる関係性を、築いていくことの方が大事かなって思います」

できるだけマイルドに伝えることも、重要だと思う。

強い言葉を使えば、その分、強い反発が返ってくるから。

「言い方に気をつければ、相手も理解しようとしてくれると思うんです」

「その上で質問を投げかけられたら、答えていけばいいんじゃないかな」

「嫌な感じで話さなければ、嫌な感じには受け取られないから、あとは伝え方次第ですよね」

一緒に逃げ道を探せる存在

現在は、女性のパートナーがいる。

彼女は、周囲にセクシュアリティのことを打ち明けていない。

「年を取って病気になることを考えると、やっぱりちょっと不安ですよね」

「もし同性婚やパートナーシップ制度ができたら、使いたい気持ちはあります」

「でも、そのためにはカミングアウトしなきゃいけないんですよね」

制度を使うためにカミングアウトが必須という状況は、何かが違う気がしている。

だからこそ、現在の状況の中でできることを、一緒に考えられるソーシャルワーカーの仕事に誇りを持っている。

「助けたいなんておこがましいけど、困っている人の逃げ道を探せる存在であれたらいいかな」

「その中にセクシュアルマイノリティもいるだろうし、他の困り事もあるかもしれない」

「他人と同じ経験をできるわけではないけど、共感的理解を持って接することができる人でいたいです」

さまざまな理由で生活しづらさを感じている人に、寄り添える人でありたい。

あとがき
駆け引きもない、相手とのバランスも意識しない、子ども時代によくある[◯◯し過ぎた件]について、千草さんは「反省してます」と、何度も苦笑い。その姿は、とても人間味があった。格好がよかった■出会った人のことを振り返って語るときほど、千草さんの目には薄っすらと光るものが見えた。細かな場面から人のこころを知ろうとできる【千草の素】があるとしたら、その原料はどんな時も味方でいてくれた、家族や友だちの愛情だ。(編集部)

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