INTERVIEW

「女性なるもの」への強い憧れ【後編】

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2016/09/23/Fri
Photo : Taku Katayama Text : Momoko Yajima
近藤 彩菜 / Ayana Kondo

1980年、愛媛県生まれ。大学を中退し、上京。IT関連の会社でいくつも経験しながら、現在もIT系の企業で女性として勤務する。セクシュアリティは、MTFのレズビアン。だが、本来的にはバイセクシュアル、女装が好きなXジェンダーなど、迷いもある。GID診断済みで、ホルモン治療を続けている。趣味はかわいい服、ロリータ、車、ビートルズバンド。

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INDEX
01 従順な男の子
02 生まれ育った土地と家族
03 東京へ
04 トラウマ体験
05 女装
==================(後編)========================
06 女性としての生活
07 パートナーはどこにいる?
08 社会でのカミングアウト
09 心の内側
10 ビートルズ

06女性としての生活

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性同一性障害の治療

スーツを着るのをやめたのは、27歳の時。

フリーランスの契約で雇ってくれるという話があったのがきっかけだ。

その頃はまだ公には男性の名前だったが、どうしようかと悩んだ。仕事の内容は社員と一緒で、会社にも毎日出社するのだが、雇用形態は、業務請負のような形。

「それなら、本名でなくてもいいのかな? 面接でバレなかったらそのままいこうと思って、やってみたら、とりあえずバレなかったらしくて(笑)。そのやり方で2年ぐらい続けて、2年後に正式に改名しました」

その間に性同一性障害の病院にも通い始める。

最初は埼玉医大で診療を受けるが、性同一性障害の診断が下りるまで2年かかった。その間、仕事もプライベートも女性として生活していく中で、名前も服装も女性で生きていく方が自分に合っていると改めて感じるようになる。

戸籍変更への思い

現在もホルモン治療は続けている。手術も、するつもりはある。

「ただ、手術は、ずっと先延ばしにしていたんです。最近までは、手術したいけど、しなくてもいいか、って思ってました。お金もたくさん使いたくないし、時間もかかるし、痛そうだし、嫌だったんです」

「もっとスマートな方法はないのか? と思うんですけど、手術しないと、戸籍が変わらないんですよね……」

自分がいまの身体のままで女性の戸籍、というのはおかしいと思っている。

しかし、いまの状態で戸籍が男性というのも、実はすごく困る。

「戸籍を変えられる方法が、手術をすること以外に与えられていないけれど、そんなに大変な思いをしなくても、もっとスマートな方法があればいいのにって思うんですよ」

「といっても、『手術しなくても戸籍が変えられる』とかではなくて、『戸籍の性別がなくなる』とかの方が自分としてはいいんですけど・・・・・・。真ん中とか、女、その他、みたいなものじゃないけれど」

そうは言っても、いつでも手術ができる状態にしておこうという意思はあるため、手術の許可を得るための準備は行っている。

07パートナーはどこにいる?

男性として、女性とのお付き合い

25歳の頃、好きになった女性がいて、お付き合いをした。

「それは一応、ふつうの男女、という形での付き合いだったんですが、その時「男役」はできないなと思いました。結局3ヶ月ぐらいお付き合いして別れました」

一緒にいても、いわゆる「男として」というふるまいができない。頼りがいがあるとか、引っ張っていってもらえる、というような男性性を求められても、できない。

「以前の年上男性との件があってから男性不信になってしまって、もう男の人はダメ、信じられないとか、騙されるとか、嫌な思いをするしかない、みたいな感覚ができてしまったので、男性を好きになることは考えられなくなりました」

「でも、もしあの事件がなかったら自分はバイセクシュアルなのかもしれない、とたまに思うことがあります」

最近は、男性だらけの中に行っても、以前ほど恐怖や嫌悪感はなくなった。

しかし、基本的には女性といる方がリラックスできるので、女性のパートナーの方がよいと思っている。

セクシュアルマイノリティ女性との出会いの場

25歳でストレートの女性と付き合ってから、しばらくパートナーはいなかったが、最近になってレズビアンの女性と付き合った。

「レズビアンやセクシュアルマイノリティのコミュニティがあると知ったのは、ここ1年、2年のことです。それまでにも、ストレートの女の子に片思いすることはあったんですけど、当然、全部ダメでした」

「どうやったらセクシュアルマイノリティの女性と出会えるんだろうと悩んでいたんですけど、そういうコミュニティしかないじゃないですか。だからもう、自分がMTFであることを黙っててでも行かなきゃダメかって(笑)。歪んだ発想なんですけど」

レズビアンのコミュニティの中には、トランスジェンダーの参加を不可にしているところもある。

参加者から苦情が出ることを考慮してのことだ。一口にセクシュアルマイノリティと言っても、性自認も性指向も本当に多様。MTFだけれどレズビアン(バイセクシュアル)という人もいるのだ。

08社会でのカミングアウト

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職場での不安

これまでひとつの職場で長続きすることがあまりなく、転職ばかりだった。

「最初の頃はスーツが嫌になってきて辞める、とかありましたね。女性として働くようになってからも、どこかでバレてるんじゃないかと気になり始めて辞めちゃうとか。1年ぐらい経つとすごい気になってきちゃって、逃げたくなっちゃう(笑)」

「いまの職場は3年ほど経ちました。一番長いですね。正社員になれたのが大きいかもしれないです」

入社の際に人事部にはセクシュアリティのことは知らせており、職場では女性として過ごしている。

しかし最近は、気づかれているのではないかと、ずっと不安に感じている。

「気になるのは自分の『声』ですね。電話が難しいんです。いまの職場は、最初は電話を取らなくていい部署だったので、これは極楽だと思って(笑)。だけど最近部署が変わって電話を取る機会も増えて。連絡は社内の人ばかりなんですけど、全員知っているわけじゃないから、『近藤さんでしたっけ?』とか言われると、ああっ! って軽くパニックに(笑)」

トランスジェンダーの人には、自分の声を気にする人は多い。

見た目は女性らしくなっても、声から男性だとバレるのではないかと思ってしまうのだ。

「電話って姿が見えないから余計に不安になるんですよね」

自分を隠してふつうの世界に溶け込んで生きられれば

職場でバレることを気にする一方で、ウェブやSNSでカミングアウトをしたり、LGBTコミュニティでのボランティアに参加するなど、最近では自分のセクシュアリティを社会に公表し始めている。

それにはどんな変化があってのことだろうか。

「やっぱり、ここ1年ぐらいの変化ですね。それまでは、『ふつうの世界に溶け込んで生きていけばいいか』と思っていました。だけど、ふつうの世界に溶け込んでいるといっても、なんかこう、自分を隠して溶け込んでいるということも感じていて」

「それまでは、セクシュアルマイノリティの知り合いはほとんどいなかったので、レズビアンの人とどうやって出会うのかも分かりませんでした。でもLGBTコミュニティを知ったりしてから、この1年でどんどん知り合いが増えていきました」

「そこで知り合いがみんな顔も名前も出して写真展などに参加しているのを見て、セクシュアルマイノリティであることは、そんなに特別なことじゃないんだなと思うようになって」

「それなら別に、自分も公表してみてもいいかと思って」

自分という、近藤彩菜という人間を、そのままに知ってほしいという気持ちは、心の奥底にずっとあったと思う。

何が正しくて、何が間違っているのかは、分からないけれど。

09心の内側

感情を出すのは得意ではない

LGBT団体が主催するイベントや交流会では自分のことを語っていくワークのようなものがある。

個人が主催するオフ会などではワークなどは全くなく、気軽な食事会のようなものが多い。

しかし、感情を出すのは得意な方ではない。

彩菜さんは、自分を表現するためにもっともしっくりくる言葉を探す。嘘がないように、自分を偽らないように、誠実に答えようとしてくれるのが伝わってくる。

ただ、思いはあるけれど言葉にならないときがあり、それは「すごくもどかしい」と言う。

「これまでたぶん、感情を出す機会があまりなかったんだと思います」

周りから、たとえば「魅力があっていい人だと思う」と言われても、自分ではそれが具体的にどこに魅力があるということなのか、よく分からない。

「ここだ」と言われても、自分では「そうかな」と思ったり。自分のことだけれど、よく分かっていないことも多い。

何かの用語に当てはめられたくない

自分のセクシュアリティの認識も、いまは「MTFのレズビアン」というところで落ち着いているが、以前から「自分は女である」というよりも、「女になりたい」という女装願望が強いことを感じている。

自分がなんであるかを考えていく中で、最初は『自己女性化愛好症(オートガイネフィリア)』と呼ばれる、性自認は男性のまま、女性化した自分に興奮を覚える性的趣向なのではないかと思ったこともある。

しかし結局は、性同一性障害に行き着いたが、最近では「女装するXジェンダー」という表現も思いついたり、もやもやとしたものは残る。

だから、セクシュアリティを「用語に当てはめたくない」とも思っている。

それが戸籍から男女の性別がなくなればいいのに、という思いにもつながっている。

10ビートルズ

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愛を教えてくれた、ビートルズ

自分の思想や考え方に一番影響を及ぼしているのは、中学時代に出会った、ビートルズの存在だ。

「私がビートルズに感じる一番大きなものは、『愛』だと思います」

ビートルズの213曲のうち、半分以上はいわゆるラブソングだ。愛とは何なのか、なぜ愛が必要なのか、などが歌詞に出てくる。

活動末期になると、単純な恋愛から成長して、「貴方が受け取る愛は、貴方が自ら生み出せる愛に等しい」「どれだけの愛がもらえるかは、どれだけの愛を与えられるかで決まる」などとインタビューで語っている。

「あまり恋愛を経験できない私にとっては、今日にいたるまでずっと、自分を救ってくれていると思います」

また、最近のメンバーの発言には、「ビートルズ時代の曲はみんな良心に基づいた歌だった。そのことをいまでも誇りに思っている」とあり、愛と良心によって、世界や歴史を変えたことの偉大さを思い知る。

大切に思っていること

世の中、生きづらいことがたくさんある。

その原因を、自分がLGBTだからだと思ってしまうことが多い。

ただ、誠実なことや、正しいと思うことをひとつひとつやっていけば、どこかで見てくれている人がいたり、共感を得たりして、少しずつ変わっていくと思っている。

「自分自身に誠実であることが何よりも大事だ。夜が昼に続けてやってくるようにそれを守れば、他人にも優しくなれる」と昔の本に書いてあると聞いた。

「私は資産家ではなく、神様でもないので、自分が幸せになることを追求することしかできません。でも、そうすることで周りの人も一緒に幸せになれるのだと信じています」

あとがき
「最後まで読んだら涙が溢れました。ありがとうございます」。文字化された原稿に戸惑いもみせながら、彩菜さんはメッセージをくれた。真摯な彩菜さんのメール、静かではなかった時代の心の内を見つめているのだろうと、ずっと気がかりだった■「未来」は誰にも用意されているはずだけど “どのような” は、本当は生涯をかけて考え、悩むことなのかもしれない。願わくば、それがセクシュアリティの枠のないものであるようにと思う。(編集部)