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自分にかけられた制限を解いていくことで、ずっと男を演じていた舞台を降り、自然体で楽に生きる。【後編】

自分にかけられた制限を解いていくことで、ずっと男を演じていた舞台を降り、自然体で楽に生きる。【前編】はこちら

2017/02/11/Sat
Photo : Taku Katayama  Text : Momoko Yajima
渡辺 光理 / Arimichi Watanabe

1976年、山形県生まれ。日本大学生産工学部卒業。エンジニアとして12年間会社勤めの後、2010年に独立。脳波を整えることで心身の状態を改善する事業を展開している。大学時代に知り合い結婚したパートナーと、2人の子どもがいる。2000年代後半にジェンダークリニックに通い、GIDの診断を受け女性として生活をしている。

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INDEX
01 男の役割って何?
02 団らんのない家族
03 大学進学とパートナーとの出会い
04 馬車馬のように働く
05 クリニックでの診断
==================(後編)========================
06 カムアウト
07 独立
08 家族
09 男女の格差がなくなればいい
10 「家族」への葛藤

06カムアウト

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舞台から降りてようやく自然な自分へ

以前と比べて見た目はずいぶんと変わったかもしれないが、自分自身の中身は何も変わっていないと思う。

むしろ「舞台を降りて楽になった」と思う。

「男性でいると逆に『男性を、演じる』という感じだった。世の中の男性像に合わせて演技するような。それは正直、めんどくさくて嫌でした」

「いまは別に演技をするという感じもないし、 “自分として” 自然に、ありたいままであるという感じです」

いまの方が断然、楽だ。頑張って “女子” をしているつもりもない。

これまで「男性を演じてきた」ということは、自分でも気がつかないぐらいのストレスだっただろう。

「要はずーっとオンステージってことですからね(笑)。オフにならない、切れないという。そりゃ、切りますわ(笑)」

「それで、2010年に、切っちゃえーって言って完全に舞台のスイッチを切ったんですね。心がわけわかんなくなって、もうやってらんねー!、ガチャっと。で、これでいいじゃーんって(笑)」

いままで舞台の上で活動していたところ、いきなりブレーカーを落としたようなものだ。

「疲れたから舞台の照明を切って、どん帳下ろして、そこから観客席に行った感じ。舞台を降りたんです(笑)」

演じなくなったら、舞台は必要ない。

舞台は終わった。

パートナーへのカムアウト

クリニックでは、主治医から次のステップについての話があった。

治療をするならパートナーの了解を得ないと進めない。

パートナーへのカミングアウトという壁が立ちはだかった。

会社勤めを辞め、独立起業のための準備としてアメリカに渡り、戻ってきた2010年。パートナーを連れてクリニックを訪れた。

「パートナーに自分から話すこともつらかったので、もう、クリニックに一緒に行ってもらって、先生から説明をしてもらいました」

それ以前にまったく説明をしなかったため、パートナーからしたら寝耳に水。彼女は激怒した。

いろいろとやり取りをしたが、「もう勝手にして」という感じのまま、いまに至っている。

「理解できない、というのも多少はあったんだろうと思います。やっぱりMTFが女性を好きになるのはおかしいというのも頭にあるんでしょうね」

周りにLGBT当事者がまったくいない状態では、理解できないのも仕方がないと思う。

「自分からも伝えようというのはあんまりしなかったし、いまもしてないですね。なんか、自分の言葉が全部言いわけになっちゃうような気がして・・・・・・。第三者から言ってもらった方が聞いてもらえるのかな、とも」

カムアウト以降、パートナーはこの件には基本的に触れてこない。

07独立

ありのままの自分で、なおかつ稼ぎを得るには

2010年に独立し、脳波を整えることで心身の不調を改善することを目的とした事業を始める。

「もともと会社員時代から、もっと稼ぎたいな~と思っていました。ほら、お金は大事、なので(笑)」

性別違和も重なった。

もっと給料のよい会社への転職も考えたが、クリニックに通い自分のセクシュアリティを明確に意識するようになってからは、もう男性を演じることはできないと思った。

「こういう状態で雇ってくれるところはないだろうと思って。もちろん、元の男性の状態で、ということであれば雇いたいというところはあると思うんですけど」

本来の女性として自然な姿で働けて、なおかつ稼げる仕事。その両方を成立させるには、「独立」という選択肢しかないと思った。

何をしようか模索する中で、現在の事業と出会った。

もともと弟や父がうつ病を患ったこともあり、従来のカウンセリングや薬物療法ではうつ病は解決しきれないと感じていた。

しかし、初めからメンタルヘルスに関わることがしたかったわけではなく、脳波や脳科学に関心があったのでやってみたところ、「どうやらメンタルヘルスに関連しているということが分かってきた」のだった。

そこでNLP(神経言語プログラム)や心理学などを学び、心理カウンセリング業務にも活かした。

心理学やNLPを勉強して分かったこと

「NLPは、心理学の入門編としてはすごくよかったと思うんです。スポーツの試合を見ていても、どちらが勝つかがおもしろいように分かるんですよ(笑)」

ただ、学んだがゆえに、家族に対して複雑な思いを抱いてしまうこともある。

「言葉についてもっと意識してほしいと思う時はあります。私はいろいろと勉強をしてしまったので、言葉の使い方、選び方ひとつで伝わり方が全然違うということが分かってしまったので・・・・・・」

同じことを伝えるのでも、「○○しなくちゃいけない」と言うより、「○○した方が楽しいよ」「○○してほしいな」という言い方の方が相手に響く場合がある。

それができずに、余計に自分が苦しい思いをしている人を見てきた分、やきもきする気持ちもある。

「でも、私から言っても分からないよなって。それこそ、どうやって伝えたら聞いてくれるかなあと」

また本当は、家族に対して、ひとつの物事を多面的に見る力をつけてほしいと願っている。

「たとえばテレビで言っていることも、そのまま受け取るのではなく、この人はこういう立場から言っているけど、別の見方をすればこうだよね、というところまで考えてほしいんですよね」

他人に対しては客観的にアドバイスできることも、家族となるとまた難しいことを実感している。

「自分はもう無理してないからいいんです。でも、自分の子どものこととなると、やっぱりちょっと気になりますよね。大人で本人が幸せなら、どの選択をしてもいいかなって思うんですけど・・・・・・」

08家族

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子どもたちとの関係

2010年にパートナーへカムアウトして以降も、家族とは一緒に暮らしている。

「家の中にいる時は、ふつうの女子と一緒ですよ。楽なかっこうだし、すっぴんです」

「2人の娘には特にカムアウトはしていなくて、自然と分かってもらったという感じですね。気がついたら私がこんな感じだったので(笑)。こういうもんなんだ、みたいな」

カムアウトの時点で子どもたちは小学生。

子どもたちとの関係はどうなのか。他の家の父親と比較をしたりしなのだろうか。

「下の子は全然。何か聞かれることもあんまりなかったし、これが普通でしょ?って言ったらそれで終わっちゃいました(笑)」

「上の子はね、たぶん頭では理解してるんですけど、学校とか子どもの人間関係の中では、そういったことを理解していない子もいるので……」

子どもたちには「とうさん」と呼ばれる。

「世の中の、いわゆる男性の『お父さん』って感じのニュアンスではなくて、私自身のひとつの呼び名に近い感じで、それは子どもも分かってる。便宜的に、というか」

他の家族ではまた違うようで、MTFの親を持つ家庭の中には「おかあさん」と呼んでもらっているところもあるとクリニックで聞いた。

それもまた、それぞれだ。

「下の子とはよく会話します。結構なんでも言いますね。そのマフラーはダメだとか、そのセンスはダメとか、ファッションチェックし合ったり。下の子は『刀剣乱舞』というオンラインゲームが好きで、本物の刀を見に行くぐらい、日本刀の美しさがちゃんと分かる子なんです」

「上の子はひたすらスポーツ。すごくうまいんですよ。でももっとパフォーマンスを上げられるので、メンタルの部分での言葉がけが重要だと思います」

家族ってなんだろう

「家族」とは何なんだろうか。

「なんでしょうねぇ・・・・・・。『これがこうだ』というのではなくて、いろんな家族がいていいのかなと、いまは思います」

「自分が育った家族がバラバラだったので、だから家族ってどんなもんなのかな? というのが知りたくて結婚したところもあるし」

「でも、結果的に、なんか一緒だな、同じことを繰り返してるなって・・・・・・。まあ、私が子どもの頃そうやって育ってきたので、しょうがないかもしれないんですけど」

下の子は現状を自然に受け止めている感じがするし、彼女にとっての自然体で「家族」であればいいのではないかとも感じる。

「ただ、上の子の能力を制限するようなパートナーの言葉遣いが、少し変わってくれると嬉しいとは思う。結構『こうしなきゃいけない』という言い方を耳にするので」

「ただこっちからその制限を外しにかかるのは、無理やり感があるというか、説得のようになってしまって、ちょっと違うなと」

「家族」に関しては、「いまでもよく分からない」というのが本音だ。

09男女の格差がなくなればいい

MTFにも男女間の賃金格差が当てはまる

これまでの経験を通して、いまは男性がこの世に不要なもの、働いて働いてボロ雑巾のように捨てられる存在とは思っていない。

「あの頃とは違ってちゃんと男性の役割も分かっていると思います(笑)。その上で最近思うのは、LGBTとか関係なく、給与の面で、女性と男性の格差がありすぎるんじゃないか、ということ」

同じ能力があっても、女性の方が相対的に給与が安いと感じることが多々ある。

能力があるのであれば、男性と同じ給料を出してあげた方がいいと思う。逆に言えば、男性でも定時上がりをしたい人は、女性と同じ給与水準でも、させてあげればいい。

「その選択ができるような日本になってくれたらいいなと思います。稼ぎたい女性は、朝から夜まで働いて、男性と同じぐらいの月収100万とかもらって全然いいんじゃないのって。なんかね、女性だから、男性だからという理由で給与に差があるのは、日本はまだまだ遅れていると思う」

男女の不均衡、不平等が少しずつでも是正されればと。

そう思うのには、MTFという立場からの見方も関係している。

「FTMだと、男性になることでもっと稼げる可能性があるから、結構頑張れる。でもMTFって難しいんですよね。正直、男性でいた方が稼げるから」

「MTFは、賃金面の条件が悪くなる可能性も高くて、F(女性)になることを躊躇ってしまう側面もあるんじゃないのかなって。だから隠して生きざるを得ないというか。それは実感としてもあります」

社会へ溶け込みたい

社会自体が男性社会であることも関係していると思う。

「もうちょっとそこが変わってくれると、LGBTの人ももう少し頑張れるのかなって思ったりします」

「私は女性でいられることが楽なので、これでもっと稼いで幸せになりたい(笑)。結局お金のせいで、MTFだと言い出せないような人もいるのかなって」

「同性婚とか、LGBTの権利を訴える活動にも自分が積極的に関わろうとは思っていなかったんです。でも特段、騒ぎ立てたいとも思っていないけど、声を上げなきゃ分からないのも確か」

「当事者にとっての選択肢のひとつとして用意があった方がいいと思っています」

「私自身はあんまりLGBTというレッテルを貼られて生きていたくなくて、社会に溶け込んでいきたいタイプ。だから『こういう人もいる』ということを知ってもらえれば、それでいい」

「もっともっと社会に溶け込んで、これが “当たり前” の状態になってほしいというのが願いです」 

「社会に溶け込むという意味では、もっとMTFさん、女性らしくきれいになろうよ、頑張ろうよと思う。私ももっと磨いてきれいになりたいと思います」

10「家族」への葛藤

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家族へのカムアウトほどハードルは高い

ずっと会わなかった大学時代の友だちや、サラリーマン時代を知っている人たちとも、最近少しずつ交流するようになった。

2年ほど前に一度、大学のスキー部の同窓会に行ったことがあるが、「いくら男装してようが隠せなかった」。

最近では中学と高校の同級生と会ったが、やはりどんなかっこうをしていてもバレてしまう。

「でもみんな、驚きというか、なるほどねえって感じで終わり。思った以上に拒否する人はいなくて、ほっとしましたね。聞いてこないけど、事情があるんだろうと察してくれる(笑)」

身構えていたこちらが拍子抜けするほど、友人たちは何事もなく受け入れてくれている。

「家族の方が、距離が近すぎる分、拒否されやすい気がします。やっぱりストレートに感情が出るからね」

現実問題、家族へのカミングアウトが、一番ハードルが高くて難しい。

「恐れなんかもあると思うんですよね。もし言ったら、離婚しなきゃいけないのかなとか」

「特にレズビアンの人だと、結局、別れて経済的に困ることもあるので、言っちゃうと生活できなくなってまずいんじゃないの、みたいなね。言いたいと思っても言えない人もいると思います」

「子どもがいるとなるとさらに難しいですよね。別れるっていっても、子どもとは一緒にいたい、とか」

おそらく、家族はどういう風に接していいのかわからないのだと思う。

自分はいままで通りで、まったく変わってはいないと思っているから、そのまま接してほしいが、家族からすれば突然の告白だ。

もっと早く言ってくれればよかったのにという声もあるだろう。それは分かってはいるのだけれど。

「でも結局、言ったらその日が『ある日突然』になっちゃうんですよ(笑)。カミングアウトした後の家族の反応は、自分がコントロールできる領域を離れているので・・・・・・」

「友だちはもうまったく問題ない。そうなんだと理解してくれてるので」

「やっぱり、私には家族が一番高いハードルかな。離婚したいかと言われると、したくはないんです」

自分にかけている「制限」を外せば

家族に関して、自分の中で完全にすっきりしているかと言えば、そうでもない。

まだ渦中にいるのは否めない。

「そういう世界があるということを知ってほしいし、さっきも言いましたけど、言葉の使い方ひとつで自分に制限をかけて苦しくなっている、ということにも気づいてほしいんですよね」

「『○○しなきゃいけない』とか、『○○をやるには××をやらなきゃだめ』とか」

「ふつうの男女のカップルを見ていても、もっと肩の荷を下ろして楽になればいいのにって思うことはあります。自分の使っている言葉がどれだけ自分の人生を制限しているのかに気づけば、それをやめればいいだけなので、簡単に荷は下せる。そんな難しくないと思うんですよね」

自分の子ども時代を振り返ってみても思う。

もしあの頃に戻れるのなら、両親とどんな関係性を持ちたかっただろう。

「あるとしたらやっぱり、『自分に制限の枷をはめないで』ってことですね。

制限のある言葉で育ったことで、自分自身すべてネガティブな方向に解釈をするようになってしまったし、幼い頃から刷り込まれてきた考え方の枠を外すことは容易ではないからだ。

両親にもカミングアウトをしたが、LGBTという世界があること自体よく分かっていないようだ。

いくら説明しても、遠い国の話のような、全然違う世界の話として感じているのかもしれない。

「世の中にはいろんな人がいることを知ってもらえれば、みんながもっと楽に生きられるのにね」

そう、渡辺さんは笑う。

「自分自身が楽しく生きたいんですよ(笑)」

「もちろん以前に比べたら全然楽しくはなったんですけど、やっぱりまだ、もうちょっとお金を稼いで楽しく過ごしたいな(笑)。お金があれば気持ちにも余裕が生まれて、もっといろんなことができるので」

背負っている荷物を下ろして、楽に生きる。LGBTだけでなく、誰もがそう自然に生きられたら。そのために自分ができることを伝え続けていきたいと思っている。

あとがき
「頑張らないと、演じないと『男性』ではいられなかった」と語るときも、渡辺さんは笑顔をたたえる。曇らない表情は、目の前にある今を、そのまま受け止めているからだと感じた■現実を受け入れる? 自分を拒絶しないことで、恐れも安らぐのかもしれない。人に求め過ぎない? 肯定されていなくても、それが拒絶でないことだと思えば、どうか。受容、折り合い、譲歩・・・・・・ 。意味を調べてみよう、のびのびとした渡辺さんの笑い顔を思い浮かべながら。(編集部)

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