INTERVIEW

何回でも人生はやり直せる。安心できる場所を見つけてほしい【後編】

何回でも人生はやり直せる。安心できる場所を見つけてほしい【前編】はこちら

2017/04/15/Sat
Photo : Mayumi Suzuki  Text : Mayuko Sunagawa
安田 葵 / Aoi Yasuda

1987年、静岡県生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業し、今春には、放送大学大学院修士課程人文学プログラムを修了。現在、出版社にて教科書や語学書の制作・編集に従事。2013年よりセクシュアル・マイノリティを題材にした小説について語る読書サロンを主宰している。

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INDEX
01 のびのび育った幼少期
02 興味が持てない男女の恋愛
03 異性愛者になれたら・・・
04 レズビアンで生きていく覚悟
05 一つひとつ向き合って導き出した答え
==================(後編)========================
06 家族との衝突・・・その本質は
07 私と世界をつないでくれた本のこと
08 言葉とコミュニケーション
09 求められる多様性への受容
10 安心できる場所は必ずある

06家族との衝突・・・その本質は

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家族へのカミングアウト

二丁目に通うようになり自己肯定感を持てるようになってから、レズビアンであることを隠すことはやめた。

人に聞かれたら言うようにしているし、知ってほしい人には自分から話すようにしている。

それは家族にも同じで、自分がレズビアンであることを伝えたいと思っていた。

しかし、自分から伝える前に、母にばれてしまった。

母が私の名前をネット検索したところ、マイノリティのポートレート撮影プロジェクト「OUT IN JAPAN」にたどり着いたという。

「突然メールが来て、『OUT IN JAPANのページを見ました。すぐに削除しなさい』って」

「『あなたは東京にいるからいいけど、私はレズビアンの母として田舎で生きなきゃいけないのよ』」

「『住んでいるマンションの人に知られたらどうするの?』」と言われた。

理解してくれなくていい。まずはレズビアンについて知ってほしかった。

「レズビアン関連の本を勧めたり、娘がレズビアンであることを受け入れている親御さんに会ってほしいと伝えたりしたんですが、『そんなものはいらない』と拒否されました」

その後一度、東京で母と兄と会ったが、「削除しろ」の一点張りで話し合いにならなかった。

母も兄も、レズビアンの存在を否定してはいけないという知識はあるから、それ自体を悪く言うことはしなかった。

代わりに、公の場で性に関して顔を出して語ったり、家族で性の問題について語ったりすることはおかしいと、非難した。

「『病院で治すことができると書いてあった』と母は言ってて、それ絶対 “レズ 治す方法” で検索したでしょって。そんな方法あるわけがないのに」

「兄には『お母さんの嫌がることをなんでやるの?』と言われました」

父とは直接会って話はしていないが、母から話は聞いているようだ。

一度電話で話した時には、「レズビアンであることを話題に出さないなら年末帰って来てもいいよ」と言われた。

家族が抱える問題の本質

今は、家族と距離をとることにしている。

家族と衝突したことで、心が壊れてしまいそうなほどどうにもならなくなり、仕事を休んでしまうこともあったからだ。

「私は、自分自身の心の健康のために、今はまだ両親に近づこうとは思えません」

「LGBTを生理的に無理だという人はゼロにはならない。不幸にしてそれ
が親だったら・・・、不運だと思うしかないと思うんです」

5年、10年・・・どのくらいかかるかわからないが、まずはセクシュアリティの話を家族の中で議題に挙げられるようにしたいと思っている。

「今はっきりと言えるのは、これは私の問題ではない。父と母の問題だと思っています」

「とにかくなかったことにされるのは一番嫌なので、セクシュアリティのことについて話さないっていうのは、もうないなって思っています」

また、自分たち家族が抱えている問題の本質は、セクシュアリティではないと思っている。

問題の本質は、自分を、想像できる範疇で理解しようとする親のアプローチではないか。

これは、セクシュアリティの問題でもめる以前から感じていたことだ。

ツイッターで知り合った人と会うとわかれば、「そんな人と会うのは気持ち悪い」と言われる。

キューバの小説を読んでいると言えば「友達ができないよ」と言われる。

レズビアンの問題を直接攻撃できない分、他の部分を攻撃し矯正しようとしているように思えてしまう。

07私と世界をつないでくれた本のこと

のめり込んだロシア文学とポーランド文学

わりと小さい頃から読書は好きだったが、年頃の女の子がよく読むような恋愛小説はほぼ読んだことがない。

「恋愛小説って男と女が出会って自然にくっつくというストーリーだと思うんですが、その間を行き交う感情が理解できなくて」

「理由もなくくっついたというふうに読めてしまうんです」

その分野を避けていくと、自然とロシア文学やポーランド文学にたどり着いた。

「『罪と罰』を読んだ時には、私が自首しようと思い詰めたくらい(笑)」

「それくらいのめり込んでしまいました」

大学生の時、ロシア文学やポーランド文学にはまり、図書館の棚の端から片っ端に読んでいった。

ポーランド文学のお気に入りは『ポルノグラフィア』と『フェルディドゥルケ』。亡命したユダヤ人作家の作品だ。

「『偉大なる神よ!あなたは完全そのものだ!だが、あれ(不完全)はあなたよりはるかに美しい。私はこの手紙で、あなたを否定します』っていう素敵なセリフがあって」

「カトリック的には全然あり得ない考え方だと思うんですが、この人はこの世界にずっと違和感があったんだな、生きづらさをかかえていたんだなって思って」

世の中の常識についていけないアウトローな主人公たちが抱える不条理に共感できた。

「『私はエロティックでない哲学は信じない』『私は非セックス化された思想を信じない』っていう日記も好きなんです」

「そのフレーズを見て、著者はたぶんゲイだなって思いました」

「それで調べていくと、やっぱり亡命先のアルゼンチンでブイブイいわせていたゲイで(笑)」

小説から自分の人生が広がっていく。

楽しくて仕方がなかった。

読書サロン

まだ自分がレズビアンであることを受け入れられなかった頃。

初めて、レズビアンが書いた自伝小説『オレンジだけが果実じゃない』を読んで、すごく救われた。

その経験から、自分と同じように悩んでいる人たちに本を届けたいと思っている。

この世の中には埋もれてしまっている、素晴らしい本がたくさんある。

多くの人に本との素敵な出会いを経験してほしい。

多くの人が本を手にする機会を増やしたい。

そんな思いから、2013年からセクシュアル・マイノリティを題材にした小説について語る読書サロンを主宰している。

「初めはレズビアンで趣味の合う友達がほしいと思っていたんです」

「でも今は、レズビアンに限らず趣味の合う人が集まればいいじゃんって思い直しています」

08言葉とコミュニケーション

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人と人が通じ合うために

ずっと気になっているのは、人と人との間に行き交う何かについて。

もともと人との交流が苦手。

本の世界ばかりで生きてきたからこそ、興味を持ったのかもしれない。

人とつながるために誰もが使っている「言葉」だが、自分は言葉に対して苦手意識があった。

「人と話して自分の意見がちゃんと伝わっているか、本当に不安なんです」

「人の話がちゃんと理解できているか自信がないんです」

だから、大学では言語学を専攻した。

言語学を学べば、言葉をうまく使えるようになれると思ったからだ。

「実際の言語学では、言葉の使い方を学べるわけではなかったんですが(笑)」

読書サロンをはじめる前までは、本を通してしか人間を感じることができなかった。

でも、読書サロンをやっていくうちにだんだん人間と対峙できるようになっていった。

「読書会を通してだんだん言葉の存在が大きくなっていって」

「それから、リアルなコミュニケーションが気になるようになりました」

本の力を借りながら人と交流し、感情のやりとりをすることに興味を持ち、喜びを感じられるようになれた。

コミュニケーションと教育

今はコミュニケーションと教育に興味がある。

「例えば日本の国語は、『主人公の気持ちを考えてみましょう』という情操教育的な部分が強いんですが、フィンランドでは全然違うんです」

フィンランドの国語で学ぶのは、フィンランド語の使い方。

使い方といっても単語の意味や文法を学ぶのではない。

自分と背景も環境も違う相手にできるだけ正確に自分の意見を伝え、相手の考えをできるだけ正確に受けとめる。

そのために、言葉をどのように選んでどのように表現するか、ということを学ぶのがフィンランドの国語だ。

「これは日本人が習ってきていない分野なので、自分がそれを突き詰めてやっていけたらと思っています」

日本人は英語をしゃべれないとよく言うが、それは日本語の使い方を知らないからだ。

「日ごろから日本語で、誰に何をどのように伝えるかを考えて話していれば、それを英語に置き換えるだけなので、英語を話すのはそれほど難しいことではなくなるはずです」

「より多くの人に、日本語の使い方を考え、相手によりよく伝わる方法を考える時間を持ってほしいと思っています」

09求められる多様性への受容

職場の理解

職場には翻訳者などさまざまな国から人がよく訪れ、彼らと仕事上関わることも多い。

ドイツ語やマレー語など世界各国の辞書を編纂していると、「おかま」や「同性愛」などセクシュアリティ関連のワードは必ず出てくるし、英語の語学書にLGBTの話題が載ることもある。

そのため、職場にいる人たちは人種やセクシュアリティなどあらゆる多様性を認められないとやっていけないし、LGBTに対する理解もあるほうだと思う。

だから職場でカミングアウトをするのは全然怖くなかった。

「初めは職場の人には隠していたんですけど。だんだん誰にどんなウソをついたのか管理できなくなって(笑)」

「だから、最近では『彼氏いるの?』とか聞かれたら、実は・・・って、話すようにしているんです」

直属の上司が最初に気付き、理解してくれたのも大きい。

「私の男性のいなし方が普通じゃなかったみたいで(笑)。カミングアウトしたら『あっ、やっぱり』って」

もちろん、社内でもまだLGBTについて偏見を持っている人はいる。

誰にでもカミングアウトするわけではないが、ウソをついたり変に取り繕ったりすることなく過ごせているのはありがたいことだ。

多様性を認めなければ生きていけない社会へ

「これからはマイノリティよりも、多様性を受け入れられない人、マジョリティであることにしがみついてきた人のほうが心配です」

「なぜなら、マイノリティの人々がどんどん可視化されてきており、多様性を受け入れざるを得ない状況になっているから」

例えば現在、福祉分野では外国の人材をどんどん受け入れており、飲み屋さんには慣れない日本語で話す店員がたくさんいる。

近い将来、日本語ネイティブじゃない人に介護されるという光景も当たり前になるだろう。

「そんな時に多様性を認められず、なおマジョリティを振りかざす人は、孤独になっていくと思うんです。多様性を受容できていない人の未来は明るくないんじゃないかな・・・・・・」

10安心できる場所は必ずある

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私が救われた新宿二丁目

24歳の春、初めて新宿2丁目に訪れ、レズビアンのいるリアルの世界があることを知って、心底安心した。

私を救ってくれた新宿2丁目だが、最近状況が変わってきている。

「みんな言っていることなんですが、2丁目にいるレズビアンが少なくなっているねって」

「レズビアンバーも閉まっていっているし、クラブイベントも減っています」

「5、6年前は朝までみんなクラブイベントにいて、そこで友達になって連絡先を交換してという感じだったのに・・・」

今はもうすでにSNSで友達になった人が、友達と会うために2丁目に来ている印象。

2丁目は出会うための場所ではなくなっているのだ。

確かに2丁目には、お酒が高いお店やチャージを取られるお店もある。若い子たちが気軽に飲める場所ではないとも言える。

「でも、私は2丁目に救われたので、活気がなくなっていくのはさみしい」

「母校がなくなってしまうような思いです」

先輩方が長年守ってきてくれたという思いもある。

だから簡単になくすわけにはいけない。

私がした大切な経験と思い出の場所を忘れたくない。次につないでいけたらと思っている。

ウソをついてもいいから、生き延びてほしい

自分自身、血眼になって「レズビアン」について調べていたし、ずっとモヤモヤしていた。

自分が何者であるか、どう生きていきたいか。

なかなかその答えにたどり着けず、苦しかった。

「今、セクシュアリティに悩みや違和感がある人も、昔の私と同じように必死で情報を集めていると思います」

「調べたことがすべて正しいとは限らないし、自分に当てはまるかどうかはわからない」

「でも、しっくりくる情報はどこかに必ずある。それは病院に行って見つけてもいいし、カウンセリングを受けてみてもいい」

「あなたが安心できる場所は必ずあるので、それを見つけてほしいって思います」

それを見つけられるまではウソをついてもいいし、悩みから目を背けてもいい。

できるだけ安全な場所を見つけて、生き延びていってほしい。

「大人になるまでは、自分の人生なのに自由がきかないことがあります」

「でも、大人になって一人になったら自分がどう生きていきたいかを改めて考えることができます」

一人で生きる覚悟さえできてしまえば、人間はとても強くなれる。

「何か問題を抱えていても、いったん覚悟さえしてしまえば、とっても強くなれるんです。人生は何回でもやり直せる。人生は、あなたが思っているよりずっと長いのだから」

あとがき
LGBT、とかくレズビアンというと、性(行為)的なイメージが強いようだ。肉体的な営みは大切な一つだけど、それが=LGBTではないのに■葵さんは「正しい」の言葉を慎重に扱う人だと思った。私たちもそうしたい。そして反対語が “間違い” ではなく、“正しくはない” だけなのかもしれないとも思った■「気合入れて来ちゃいました(笑)」と、取材場所にご登場。葵さんのスカートが春の風になびいた。安心できる場所が、きっとどこかにあることをやわらかく教えてくれる。(編集部)