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FTMの僕とMTFの妻。幸せにも愛にも、いろんな形がある【前編】

今年2月に入籍したばかり、新婚ホヤホヤの菊池さん。一見サービス精神旺盛な明るい性格だが、過去には「フィリピン国籍」「FTMという自身のセクシュアリティ」「MTFである妻のセクシュアリティ」の3点で、周囲から偏見の眼差しを向けられたこともある。それらを乗り越えた菊池さんの “幸せの形” と “愛の形” とは、一体どのようなものなのだろうか。

2017/08/17/Thu
Photo : Mayumi Suzuki Text : Mana Kono
菊池 愛志 / Angie Kikuchi

1991年、愛知県生まれ。高校卒業後、名古屋の飲食店に就職。その後転職を経て、23歳で上京、銀座のミックスバーで働き始める。同じ職場で知り合った女性と交際をスタートさせ、2017年2月に入籍。「いつか自分の店を持ちたい」という夢を叶えるため、現在は再び飲食店で修行中。

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INDEX
01 生まれ育ちは日本、国籍はフィリピン
02 外国人だからいじめられた
03 周囲からナメられないように
04 初めてできた彼女
05 みんなに嘘をつきたくない
==================(後編)========================
06 カミングアウトで知った母の過去
07 結婚を約束していた元彼女
08 大失恋のショック
09 FTMとMTFの夫婦
10 FTMに生まれたギフト

01生まれ育ちは日本、国籍はフィリピン

フィリピン人だけどカルチャーショック!

生まれは日本だが、両親はフィリピン人。

現在も国籍はフィリピンで、8歳下の弟もいる。

幼い頃、外では日本語を話していたが、家での会話はタガログ語。いわゆる、バイリンガルとして育った。

家庭の食卓にフィリピン料理が出されることもしばしば。

「僕の好きなフィリピン料理に『ディヌグアン』というものがあって、見た目が悪いわけでもないから、小さい頃は普通に食べていたんです」

「でも、物心ついてからそれが豚の血を煮込んだ料理だと知って、そこからはもう拒絶反応が出ちゃいましたね。無理ムリ!って(笑)」

当時住んでいた地域は外国人が多く、父も親戚とフィリピン系のコンビニを営んでいた。

だから、そういった特殊な食材も手に入れることができたのだ。

「でも、それである種のカルチャーショックを受けちゃって、フィリピン料理自体が苦手になっちゃいました・・・・・・」

ほかにも、フィリピン料理にはごはんの上にフルーツを乗せるようなものもある。

「お母さんが作るお弁当もそういう感じでまわりとは違っていたから、恥ずかしくてみんなの前ではお弁当箱を出せなかったです」

小さい頃から感じていた「なぜ?」

自分の性に初めて違和を感じたのは、幼稚園の頃。

「僕が通ってた幼稚園には制服があったんです。女の子はスカートで赤いカバン、男の子は半ズボンで青いカバンでした」

なんで自分はズボンじゃなくてスカートを履かないといけないんだろう?

そう不思議に思ったのを覚えている。

ピンクの洋服も嫌だったし、おもちゃも当時流行っていたセーラームーンよりもレンジャーものの方が好みだった。

「うちはお父さんがすごい甘くて、お母さんが厳しめだったんです。だから、いつも『この服着たくない』ってお父さんに甘えてました」

駄々をこねているうちに、いつしか男の子向けの服やおもちゃを買ってもらえるように。

「幼稚園でも男友達が多かったし、結構やんちゃに遊んでましたね」

物心がついた頃には、恋愛対象も女の子。

初恋ももちろん女の子で、男子を好きになる気持ちは全然わからなかった。

「仲のいい男の子たちと、好きな女の子のスカートをめくったりもしてましたね(笑)」

02外国人だからいじめられた

みんなと違う “外国人”

ランドセルを選ぶ時も憂鬱だった。

「今はいろんな色のものが売られているけど、当時は赤と黒と紺くらいで、あんまり選択肢がなかったんですよね」

その中でビビっときたのは、黒いランドセル。

「でも、親に『あなたは女の子なんだから、そっちじゃなくて赤でしょ』って言われて、赤いランドセルを買うことになっちゃいました」

洋服もボーイッシュだったが、まだ幼いこともあって、まわりにも兄弟のおさがりで男物の洋服を着ている女の子も多かった。

「だから、見た目で浮いたりはしてなかったです」

しかし、小学校入学時にちょっとしたトラブルが起きる。

手続きが遅れた関係上、4月からではなく1年生の3学期から入学することになってしまった。

「途中から入ったから、勉強に全然追いついていけませんでした」

「公文式に通っていたので算数はできたんです。でも、国語はやっていなかったから漢字が全然わかりませんでした」

もちろんテストはボロボロ。

幼稚園の頃とは学区が違ったから、顔見知りもいなかった。

まさに、右も左もわからない状態。

「大人数の中にひとりポンと入れられてしまって、味方が誰もいなかったんです」

外国人で名前もカタカナだったから、まわりからすれば物珍しかったのだろう。

「だから最初はみんな興味を持ってはくれたんです。でも、なかなか仲のいい友達はできませんでした」

「ようやく仲良くしてくれる子ができたと思ったら、その子たちがいじめてきたんですよ・・・・・・」

外国人の自分はみんなと違う。

それからは、カタカナの名前をからかわれて笑われることもあった。

「ほかのクラスにブラジル人の子がいたんですけど、その子もいじめられてたんです」

外国人だからいじめられる。

自分が外国人だということがすごく嫌だった。

「日本語以外しゃべるのをやめようと思って、それ以降タガログ語は口にしなくなりました」

現在でもある程度ヒアリングはできるものの、幼い頃のようにはタガログ語を話すことはできない。

「両方話せていたら通訳の仕事もできていたので、今となってはもったいないなって思いますけどね」

リーダーポジションならいじめられないかも

小学校2年生にあがり、クラス替えで環境が一度リセットされたことで、いじめからは逃れられた。

まだ幼いこともあって、いじめっ子たちもそれほど粘着気質ではなかったのだろう。

彼らも去年のことは忘れて、新しい環境に順応していったようだった。

そうしてようやく学校に友達ができ、クラスでもどちらかといえばおちゃらけた存在になっていった。

「うちの学校は男女の仲がよかったので、休み時間はみんなでドッジボールとかで遊んでたんです。でも、放課後はよく男子と野球やサッカーをしてました」

また、いじめられないように自分を主張しようと思い、積極的にリーダー的ポジションにつくようにもなった。

「4年生で学級委員になってからは、高校卒業までずっと学級長をやっていました」

「じゃないと、まわりからナメられるって思ってたんです(苦笑)」

03周囲からナメられないように

2度目のいじめ

中学は公立で、小学校からの馴染みの友達も多かった。

もちろん、そこでもリーダーシップを取っていた。

「でも、1年生の時にまたいじめられてしまったんです・・・・・・」

「その時は『外国人だから』ではなく、特に理由のないいじめでした。女の子独特の『なんとなくムカつくから無視しよう』みたいな感じですね」

自分はクラスでも目立つタイプだったから、それが鼻についたのかもしれない。

「あと、中学校の時は身長が低かったんです。今は163センチあるんですけど、当時は136センチしかなかったからナメられてたんだと思います」

1学期の間はいじめられ続けていて、靴や物を隠されることもあった。

しかし、2学期になっていよいよ我慢の限界に。

「まず、ナメられないようにと思って空手を始めたんです」

「それから、担任の先生に『うち、なんもしてないのにシカトされてるんです』って相談もしました」

その後、担任はいじめっ子たちとも話し合いの場を持って諌めてくれた。

それとちょうど同じタイミングで、空手をやっていることがいじめっ子たちの耳にも入ったようで、それから徐々にいじめはおさまっていった。

「多分、『あいつ、空手やってるしヤバいわ!』みたいな感じになったんだと思います(笑)」

学校独自の謎ルール

「僕の行っていた中学校は、うちの学年だけ男女の仲がめっちゃ悪かったんです」

廊下で男女が話しただけでも噂され、悪口を言われるような特殊な環境。

一部の派手な生徒たちは男女で付き合うこともあったが、その他大勢の生徒は恋愛するのもNGだった。

「自分は一応派手なグループにいたんですけど、それでも、友達の彼氏には自分から話しかけちゃいけないっていうルールもありました」

「今思うと本当にしょうもないですよね(笑)」

あまりに男女の仲が悪いせいで、ホームルームで話し合いが開かれたこともある。

「でも、他学年にいたいとこに話を聞いたら、ほかの学年は男女がめっちゃ仲よかったらしいです(笑)」

04初めてできた彼女

カレカノごっこ

中学生の頃は、まだ自分の性に対して悩みを抱いていた。

女扱いはされたくないけど、自分が女の体に生まれたという事実は変えられない。

完璧な男にはなれないだろうし、一体どうすればいいんだろう。

「そうやってまだ揺らいでいた頃に、仲のいい男の子に告白されたんです」

「僕の中では友達としてのLikeだったんですけど、まあいいやと思って付き合ってみたりもしました」

そんな折に、仲のいい女子グループの間で「カレカノごっこ」が流行りだした。ボーイッシュな子を彼氏役にして、カップルを作る遊びだ。

自分ももちろん彼氏役でカップルを組んだ。

「でも、そんなことしたら本当に好きになっちゃうじゃないですか!?(笑)」

しかも、彼女役は前から「かわいいな」と思っていた子。

最初はあくまで “ごっこ” だったが、手をつないだりデートをしたりするうちに、彼女役の子のことを徐々に意識するようになっていった。

「でも、その子は165センチ以上あって、小さかった僕とは身長差が30センチ以上あったんです(笑)」

だから、手をつなぐのも一苦労。

ただでさえ女子同士で普通の友達以上に距離が近い上、そうした身長差もあって、デートをしていると周囲からおかしな目で見られることも多かった。

正式なカップル

彼女を想う感情はどんどん膨れ上がっていく。

グループ内の友達と恋愛トークをしている時に、「彼女役の子のことを好きになっている」と、流れでつい打ち明けてしまった。

「そうしたら、たまたまその子も僕と同じFTMだったんです」

その友人に背中を押される形で、改めて彼女に想いを告げることにした。

「まあ、その前にある程度まわりからの根回しがあったんですけどね。それで、『もうみんなから聞いてると思うけど・・・・・・』って告白しました」

返事は “OK” 。

カレカノごっこではなく、正式にカップルとして付き合うことになった。

初めてできた彼女だった。

「でも、付き合ったからといって何をすればいいのかわからなくて。結局、手をつないで1度か2度キスをしただけでした(苦笑)」

そんな彼女との関係は、9ヶ月ほどで破局を迎えてしまう。

「向こうは普通の女の子だったし、思春期だったこともあって、男子生徒や周囲から変な目で見られることが耐えられなかったんだと思います」

ほかに好きな男子ができたというわけでもなさそうだったが、「もうこういうのやめよう」と言われてしまった。

「周囲を気にしてしまうのは、仕方がないよなって思いました」

05みんなに嘘をつきたくない

先生にも好かれる、クラスの人気者

彼女と別れた時期は、受験勉強の真っただ中でもあった。

「その子と僕は同じ塾に通っていたんです。それもあって、もう何もかもが嫌になっちゃって・・・・・・」

もともと進学校を目指していたのだが、失恋後自暴自棄になって勉強も放り出してしまった。

「結局、受験するのもやめちゃいました」

「でも、学級長もやっていたし内申点はよかったので、推薦で進学できることになったんです」

決まった高校はもともと女子校で、自分が入学する数年前から共学になったものの、女子が男子の倍ほどという人数比だった。

「高校ではサッカー部かダンス部に入りたいなと思ってたんです。その高校は推薦校の中では唯一ダンス部があったから決めた感じでした」

入学後は、もちろんダンス部に入部。

「高校でも、それまでの経験を生かしてリーダー格のポジションを陣取っていました」

「っていうか、ただ単に目立ちたがりなんですよね(笑)」

学級長をしていたから先生には気に入られていたが、いわゆる “ヤンキー” と呼ばれるようなやんちゃな生徒たちとも仲が良かった。

自分は、そうした生徒と教師の架け橋的な存在だったと思う。

「学校なんてつまらないのが当たり前なんだから、それをどうやったら少しでも楽しくできるだろうって毎日考えていました」

友人たちへのカミングアウト

ラッキーなことに、中学時代にカミングアウトした友人も自分と同じ高校で、しかも同じクラスだった。

「でも、高校は別の学区から来る子も多いから、いじめられないようにと思ってボーイッシュな部分は、なるべく隠していたんです」

髪はそれほど長くはなかったけれど、女子の輪の中ではだいぶ馴染めるような外見だったと思う。

「それなのに、入学後すぐにひとりの子から『アンジェ(愛志)って絶対女の子のことが好きでしょ?』って言われたんです」

あまりに突然のことで、心臓が止まるかと思うほどびっくりした。

「その時はどう答えるのが正解なのかわからなくて、とにかくいじめられたくない一心で、とっさに『そんなことはない、男が好きだし彼氏がいたことだってある』って嘘をついちゃいました」

なんとか場をしのいだものの、嘘をつき続けるのも骨が折れる。

「田舎のヤンキー女子とかだと、ことに及ぶのが早いんですよ(笑)。でも、自分は経験がないから知識もないし、みんなの下ネタトークについていけなくて大変でした」

どうにか周囲に紛れようと苦戦しつつも、高校1年が終わる頃、空手の道場で知り合った年下の女の子と付き合うことになった。

それでも、学校の友達には恋人が女子だというのは秘密にして、「彼氏ができた」と嘘をついて恋愛トークを乗り切っていた。

「だけど付き合っていく上で彼女を本気で好きになったし、みんなにも本当のことを言いたいな、って思うようになったんです」

自分だってもっと本音でのろけたかったし、何よりもみんなに嘘をついていることが嫌だった。

「それで、仲いい子たちに『実は彼氏じゃなくって彼女だったんだよね』って告白したんです」

「みんなには『やっぱり!?』って言われました(笑)」

自分では努力して隠していたつもりだったけれど、友人たちには筒抜けだったのかもしれない。

カミングアウトしたことで、「私の中学校にもアンジェみたいな子がいたんだよね、紹介してあげるよ」と言ってくれる友達もいた。

「それで紹介してもらった子から、FTMの知識をいっぱい教えてもらいました」

今ではスマホさえあればネットでいくらでも検索できるが、当時はまだガラケーを使っていたし、ネットのインフラもそれほど確立されていなかったのだ。

「当時、僕は自分のことを『うち』って言ってたんです。でも、そのFTMの子は第一人称が『俺』でした」

一緒に遊んでいる時に「うち」と言うと、彼にはいつも怒られていた。

「お前は男だろ、『俺』って言えよ」と。

「その子がいたおかげで、色々吹っ切れたんです」

それまで学校では制服のスカートを履いていたが、ズボンにネクタイ姿で登校するようになった。

「彼のおかげで今の自分があるといってもいいくらい。今でもすごく仲がいいんですよ」


<<<後編 2017/08/19/Sat>>>
INDEX

06 カミングアウトで知った母の過去
07 結婚を約束していた元彼女
08 大失恋のショック
09 FTMとMTFの夫婦
10 FTMに生まれたギフト

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